表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/166

6話 スイッチ

 



「こっちこっち、うごきトロイぞ、おっさん」


「バーカ バーカ、お前の、かーちゃん、デベソ」


紫音は、大人2人を、からかいながら、鬼ごっこをしていた。


 蘭に、鈴を連れて逃げろと言われ、首を縦に振った紫音だが

逃げる気など、微塵もなかった


それもそのはず、連れて逃げろと言われた鈴

その鈴が、蘭(母親)を置いて逃げるなど、死んでも有り得ないのだ


そんな事は、鈴に確認を取るまでもなく、紫音には分かっていた

そして、そんな鈴も、何も言わなくても

紫音が逃げると言う選択をする事など、頭の片隅にも有りはしなかった。


 そして、蘭が戦いを始めた事を確認し

紫音は、鈴を車に残し

蘭が居る運転席と反対側の助手席から外に出る。


 そして、そこに現れたのは

紫音と鈴を捕まえるために来た2人の男性である。


 とりあえず紫音は、男の脛を蹴り上げ、挑発すると

道路脇の、ガードレールや、蘭の愛車を盾に

大人2人と、鬼ごっこを始めたのだった。


 男達も、9歳の子供に挑発されバカにされ

真っ赤な顔で紫音を追いかけていた

たまに、車の中で、心配そうに蘭を見ている鈴に向かうと

紫音は近くに落ちている石を拾って

投げつけると言う、オマケ付きである。


 紫音は、顔には出さないが

つくづく自分に魔力量(MP)が少ないことに、苛立っていた

魔法を使えれば、こんな、おっさん2人くらい、すぐに動けなく出来るのにと

いや、使えない訳ではない、少ない魔力量では、乱発できないのだ

だからこそ、ここぞという時の為に、とっているのだ。


 そして、鈴も、違う意味で苛立っていた

紫音と違って、鈴の、その魔力量は、膨大であった・・・・が

いかんせん戦闘に関する魔法知識が乏しかった

その為、今目の前で戦っている、蘭に何の支援もできずにいたのだ。





 紫音と鈴は、言うならば、普通の小学校に通っていた

それでも、普通に魔法の授業はあるが

科学魔法の基礎の授業である

基本、普通の小学校で教える魔法には

戦いで使うような、攻撃系の魔法は教えることはない

これは、日本に数箇所存在する

魔法専門の特別学園、関東でいうのであれば


小中高大、一環校、国立関東天童魔法学園


この学園でも、小学5年からでないと、戦闘で使う攻撃系の魔法は教えないのだ


学校の授業で勉強する魔法であるなら、使える鈴である

それでも、デバイスに登録してある魔法であるが

争いごとに巻き込まれるなど、考えた事もなく

戦闘で、いやその支援魔法すら、知りえない鈴

何も出来ない自分に苛立ち、鈴は悔し涙を我慢していた。


 鈴はその知識としての興味は、料理に向いていた

その為、魔法と言うものは、学校の授業で良いと思っていたのだ

いや、普通に暮らしていれば、小学生が戦いに巻き込まれることなど無いのだ

そんな事があるのは、十士族くらいだけであるだろう

普通の一般市民の小学生が、戦うことを考えることがおかしいのだ。



 いや・・・ここに1人いた、紫音である。



 もともと、人一倍知識に飢えていた紫音は

あらゆる知識を、もさぼっていたが

小学生になった頃から、科学魔法に興味を持ち、その知識は

科学魔法の科学者である、蘭も驚く程であった

だが、紫音はその知識の半分以上、自分が使うことが出来ずにいる


紫音は、大人2人【無傷】で捉える方法など

軽く10数通り頭に浮かぶが

それは悲しいことに、デバイスに登録していない魔法なのだ

もし登録してあったとしても、使いどころは今ではない

この男達が、道路封鎖をしてからの時間経過、蘭の状況、色々踏まえるなら

今は、この男達を引き付け、時間を稼ぐことが最善策であると判断している

自分の魔力量に苛立ちながら、そしてその少ない魔力を使うタイミングを

蘭の戦いの流れを読みながら模索する。



 この時の、2人の葛藤が

のちに国立関東天童魔法学園の中等部に編入するきっかけになったことは確かだろう。



 そんな想いを胸に、車の中の鈴は母親の戦いを全身に力を込め見ている。


 紫音も鈴と、蘭を、その視野に入れながら、鬼ごっこをしていたが

時間が経つにつれ、紫音を追い回す男達も少しずつ冷静さを取り戻していっていた・・・。




 そんな時、蘭の戦っている方向から、男の声が聞こえ

3つの火の玉が、蘭を襲ったのだったが

蘭の後方から見ていた、鈴は、一瞬身体が硬ったが、すぐに冷静さを取り戻した


それと言うのも、見えていたのだ、火の玉が当たる前には

蘭の前方に、縦長の四角い魔法盾が出現し、火の玉がそれに当たると

一回大きな炎が上がった後、無傷な蘭の姿がそこにあったのだから


紫音も冷静であった、冷静であったがために・・・・・



そして、その魔法は、状況を一転させることになる



紫音を追いかけていた2人の男は、完全に冷静さを取り戻したのだ

車から数メートル離れていた紫音と男2人


一人の男が、もう一人の男に指示を出す


「こっちはいい、お前は車の中に居るガキを捕まえろ」と・・・


命令された男は、返事をし、鈴の乗る車に足を向けた

男達は、冷静さを取り戻し、本気になったのだ


そして、もう1人、本気のスイッチが入った少年・・・・・

いや、そうではない、その少年の、あるスイッチがOFFになった。



 今まで、お遊び半分で、鬼ごっこをしていた3人

蘭を襲った魔法で、流れは変わったのだ

そう、男達は、それを感じ、本気を出すが、気づいてない事があった

それは、先ほどまでの、お遊びモードから、雰囲気が変わった少年に。


 紫音は、炎に包まれた蘭の姿を目に焼き付けた、魔法盾で炎を遮り

蘭が無事であることは、分かっていたが

その火の魔法が直撃すれば、蘭は無事では済まなかっただろう

その事が、紫音の感に触ったのだ。


 今まで、男達を【無傷】で行動不能にすることを考えていた紫音だったが

その考えが変わったのだ、【死なない程度】に動けなくするに

そうなれば、話は早い、魔法を使わなくても、紫音には、それが出来るのだから


先ほどまで2人を、声を張り上げ、からかいながら逃げていた紫音その口を閉じる

そして、その視線は、自分を追いかけてくる男ではなく

車の中の鈴を捕まえるため、此方に背を向けた男に向けられた


大人相手に力では、負ける9歳の紫音

勝てるのは、低い身長を使った機動力と速さであるだろう

だからこそ、今まで逃げてこれたのだから

だが、それで大人に勝てる事はまずありえないが

そんな事はどうでもいい今は早くこの2人を倒し

蘭の援護に行くことを考えていた紫音は、すぐに行動に移す。


 自分に向かってくる男を、素早いステップでかわし

車に近づく男に向かって加速し、気づかれないように背後から男を襲う。


 紫音は右肘を曲げ、男性の背中に

すこし斜め上から打ち下ろす

男性の背中、背骨の少し左、肩甲骨のすこし下に

ピンポイントで攻撃する。


その男は、悲鳴も無くその場にうつぶせで崩れ落ち悶絶するのだった・・・

それを確認すると、紫音は、その男に話しかけた


「アバラ骨の11・・・アバラ骨を2本折ったから、無理に動けば

 折れたアバラ骨が内蔵に刺さって死ぬよ

 僕なら、動かないことをおすすめするね」


 そう紫音は、男の左アバラ骨の第11助骨と第12助骨を折ったのだ

アバラ骨は、人間の骨の中でも、比較的折れやすい骨でもある

そして、この2本のアバラ骨は、片側に12本ある、下側の2本である

上から7本の助骨は、背骨と胸骨に繋がっており

一箇所折れたところで、どうにかなる物でもないが

この11・12助骨は一度折れると

支えが無くなり、その骨は内蔵に刺さる恐れがあるのだ

そして、折れた骨は、周りの筋肉が動くごとに、体内を傷つけ激痛を引き起こす

それは、息をするだけで激痛を引き起こすのだ

言葉を発することもできず、動くことも出来ない

そう、死なない程度に動けなくしたのだ。




 それは紫音が、もさぼって手に入れた知識の一つでもある

どの角度で、どう力を加えれば、このアバラ骨が折れることは知っていたのだ

知っていれば、出来るものでもないが・・・

今まで実行したこともないが・・・

普通であるなら

良心があるなら

慈悲があるなら

その攻撃に

ブレーキがかかるだろう

が、スイッチがOFFになった今の紫音にそんなものはなかった



そして、その牙は、もう一人の男に向けられた

そして、その男は、現状が把握できずにいた


そのはずである

9歳の子供が、大人の背中に肘打ちをしただけなのだ

それなのに、その大人は崩れ落ち、悶絶するという

信じられない光景を目にしたのだ

そう魔法を使った形跡は感じ取れない

ただの肘打ちに・・・・・


男は頭から血の気が引いてゆく

それは、得体のしれない物に対峙した感覚である

気づくと、ただの9歳の男の子相手に、無意識に一歩後退していた

男は自分にムチを打つように歯を噛み締める

そして、さほど得意ではない強化魔法を使う

物理防御魔法、そして、速度強化魔法の2つだ

傍から見れば大人げないと言われるだろうが、そんな物は関係ない

すでに、仲間が一人再起不能にされているのだ

仲間が食らったのは、物理的な攻撃である

それはこの子供が魔法を使った形跡が無いので、そうなのだろう

なら物理防御をあげればいい


そして


先程まで子供のすばしっこさに負けていたが

速度強化により、子供のそれを軽く超えたのだ

これで、負けることはないと確信するが

男は、紫音と対峙したまま、その動けずにいた

得体のしれない子供相手だが、強化した自分であるなら

自分の方が強いと頭では分かっていても

それを身体が拒否していた

そのため、踏み出す最初の一歩が出ずにいた。



 紫音の目の前の男は、自身に強化魔法をかけた

速度強化の魔法もだ、それは速さ有利の状態だった紫音にとって

嬉しくない魔法であるに違いなかった

数分前の紫音であったなら、かなり追い詰められた状態だっただろう

それは、紫音にとって最後の手段となる魔法を使わざる得ない状態だったろ


 だが、今の紫音にとって、そんな事はどうでも良かった

やることは決まっている、この男を戦闘不能にするだけである。


 先ほどの男は、背中から不意打ちを食らわした紫音

それは、不意打ちだからこそ、ピンポイントで当てれた攻撃でもある

今は相手の正面に立ち、速度強化までして、此方に全意識を向けている

そんな相手に、急所に攻撃を当てることすら難しいであろう


そう、そんな事は、今の紫音にとって些細な事であった


紫音は全身の力を抜き、男に向け歩きだした

自然体とは言い難い動き

ゆっくりと歩くそのリズムで、ゆっくりと上半身を左右に揺らす

無駄な体重移動そこには、体の中心線など存在しない


男は紫音のその行動に息を呑むが

半身に構えを取り、迎え撃つ

男の間合いに紫音が入るまで、8メートル弱

その数秒が、男には倍以上にも感じられ

とてつもない緊張の中、額には汗が吹き出る。


 紫音は、男の間合いに入る寸前

握手をするかのように無造作に右手を男に差し出す。


 男は攻撃のタイミングをずらされ

前のめりだった、その重心が後ろ足に乗る

それと同時に、車の向こう側、蘭の居た場所に大きな爆発音が轟いた

それに反応し男は視線を紫音から外した

その時間 0、3秒も無かっただろう。



 男の視線が泳いだのを、紫音は見逃さなかった

男に差し出した右手を、そのまま男の腹に当てる

男は、膝を地面に落とし、嘔吐する

突然の吐き気に男は何が起こったのかも分からない

そして紫音の目線の位置まで落ちてきた男の頭を手の甲で軽く叩いた

そして男は、自分に何が起こったかもの分からず意識を失った・・・。



 紫音の生まれ持ったスキル、触れたものを揺らすスキル

 それは、実用性に欠けたスキルであった

 物心付いた時から考えているが、その使い方は皆無であった

 その為、このスキルを知っているのは、鈴だけであるし

 使えないスキルは、名前すら付けられずにいた

 

 だが生物を殺す事に関しては

 これほど適したスキルは数える程しか無いのでは無いだろうか?

 相手の頭に触り脳を揺らせばいいのだ

 本気で揺らせば、液状化するまで、脳みそを破壊できるのだから


 そう紫音は男の腹を触ることで内蔵を少し揺らし、動きを制限させた

 それによって嘔吐したことと、膝を落とした事は想定外であったが

 男の頭が手の届く位置に来たのは、喜ばしい事であった

 そして軽く頭を叩き脳を揺らし男は動きを止めた

 人間相手に使うのは初めてであったが

 犬相手に数度試した事のある、軽い脳震盪を起こす技であった


 なぜ最初の男に、このスキルを使わなかったのか?

 理由は数個あるが、最大の理由は、人間相手に使ったことが無いからである

 脳を揺らすのだ、その為、最悪死なないまでも

 今後何らかの後遺症が出る事を視野に入れていたからだ

 そう考えると、この技より、アバラ骨を折った方が

 比較的、軽傷であると判断したのだ


膝を地に付けた男は意識の無いまま、一度横に倒れると仰向けに転がった

決着の時、倒れた男の姿を後に紫音は、鈴の居る車に体を向けた


「ゲホッ・・・ゴホ・・・・・」


意識の無い男の苦しそうな咳・・・・そして紫音は足を止めた


少し頭を右に傾け、右手で頭を2度3度かき、男に振り向く


「しくった・・・加減みすったかな・・・・」


紫音は男に近寄り、男の体を、少しうつ伏せ気味に、横に向け

背中を軽くたたく


男は少し、嘔吐すると、先程よりは楽そうに息をしだした


「息道(きどう)確保・・・と・・・」


 そう、意識が無い仰向け状態では

嘔吐物が喉に貯まると呼吸困難で死ぬおそれがあったのだ

死なない程度に行動不能にするつもりの紫音

相手を殺すわけにはいかない

それは、幼き時に蘭(母親)に言われた大切な約束事・・・・




 紫音は・・・生き物や・人間を、殺したら、いけないという事が理解できない

人間は生きるために、動物を殺しているではないか?

食卓にあがる、多くの肉や、魚、これは動物や生物にほかならない

生きるため、食べるために、何処かで誰かが殺しているのだ

食べる為なら、殺しは許されるのか?

食欲と言う快楽の為なら許される殺しなら

殺人という快楽の殺しも許されるべきだ


戦争と言う大量殺人も法によって許されている

そして、ある種の正当防衛によっての殺人も

3000年も昔には、刀を持つ侍と言う権力を持つ人種は

権力を持たない人間を、無意味に無差別に殺すことを許されていた時代もある


時代によって代わる殺人の正当化、法律の改正


歴史を紐解けば、歴史上最大の大量殺人を起こした人物

過去日本広島における原爆の死者数、約14万人

この原爆を投下した人物は、法の元その罪は無いのだ


それを、今更、人殺しはダメ・動物を殺してはダメ

だと言われても、紫音は、納得いかないのである


いや紫音も、親しい人物の死は、悲しい

両親や鈴・友達が、死んだなら、涙を流して悲しむかもしれない

そして、それが事故や、病気ではなく、意図的な殺害ならば

紫音は必ず、その報復をするだろう


だが、その事と、人間や生き物を殺してはいけない事が

紫音の中で結びつくことはない


普段入っている、スイッチは、そんな紫音の感情を押さえ込む

蘭(母親)が植え付けた

【良心】と言うスイッチに他ならなかった・・・

だが元々【良心】など持ち合わさない蘭では

紫音に対し本物の【良心】など植え付けれはしない・・・

上辺だけの仮初の【良心】などでは

紫音と言う【変態】を檻に閉じ込める事など出来はしなかった

そう、紫音は全てを理解した上で

自分にスイッチを設けていた

だが、家族に危機が及ぶなら

躊躇なく【良心】と呼ばれるスイッチを切ったのだった

それでも、殺さない配慮だけは忘れずに・・・。




 紫音は鈴の待つ、車に近づき軽く助手席の窓を、ノックした

車の中から蘭を見守っていた鈴は、それに気づき振り向くと

そこにいた紫音の姿を確認し

外に居た男達を紫音が、処理した事を理解する

まるで、それが当たり前かのように、再び蘭に視線を移した


そして紫音も、視線に蘭の姿をいれると

蘭に向けて、その足を進めるのであった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ