異世界・2話 リーゼントの前には言葉の壁も種族の壁も存在しない!
アリスは、鉄雄の後を付いて
ある屋敷の階段を下り玄関へと向かっていた。
その短い道中ですら
アリスの心拍数は常に200を超えていただろう。
アリスは映画好きであった
それも、中世ヨーロッパ時代や、アーサー王の伝記など
剣や魔法で戦う世界や、騎士などが出る洋画や
ファンタジー系統の、剣と魔法の世界の物語も好きであった
ただ、それはアニメでは無く
実写やハイレベルの実写に近いCGなどを駆使した物であった。
その中には、獣人や亜人もいる
CGや、特殊メイクの映像ではあったが・・・・。
だが、そんな物は作り物でしかなかった
目の前に存在する・・・・・本物・・・
いや、本人の前には
あんな映像で喜んでいた自分が情けなくなる
それほどまでに、その存在の存在感はアリスの常識を打ち砕いていた。
そもそも、アリスの常識を大きく打ち破ったのは
魔王としての【蓮】と悪魔だった【ミカ】の常識を越えた【力】だったが
2人の姿は、人間である
そこに、それ以上の驚きは無かったはずであったのだが
アリスの目の前の存在は
アリスの中の当たり前の世界と言う常識を覆していく。
人間?も多くいたが、屋敷を出るまで
10人を超えるだろう、人間では無い存在に出会い
そして、日本語を口にして挨拶をするのだ
そう、異世界の人間が・・・
獣の姿をした人種が日本語を口にするのだ・・・
もう、何が常識かなど・・・分かるはずもなかった。
鉄雄達の後を追うように屋敷を後にするアリス
屋敷から外に出ると
それこそ、異世界と言う存在を本当の意味で目にするはずだった・・・。
アリスは、違和感に襲われる
目の前に広がる町並みと思われる物は
それこそ、異世界・・・そのものも有った・・・・が
一部では、日本における数世代前の木造建築(簡単な平屋)もあり
屋敷から少し離れた所には
日本でも見かける、屋敷より大きい6・7階建てのビルまで存在したのだ
ちぐはぐ?・・・それも、時代、年代、国を混ぜ込んだ
統一性のない町並みと言え
それこそ、映画の世界で作られた町並みなど
あれは、所詮作り物の町並みですよと
映画の最後に訂正文すら入りそうな
本物の異世界の町並みに、驚くのだった。
実際は、この街が異常なだけであり
他の街や都市に行けば、アリスの想像に近い世界なのだが
そんな事を、アリスが知る由もなかった。
ちなみに、鉄雄は、木造建築を見れば
それが日本で作られる建物に近い構造で
その知識は、鉄雄から紫音やリルに渡ったもので
建物自体が最近作られた事も理解するし
ビルにしてみても
最近見たビルであり
リルが建物ごと、転移させた事は見た瞬間に理解できた。
胡桃にしてみても、ほぼ理解していた。
茜も、不自然なまでの建物の在り方に違和感を覚え
建物の事なら鉄雄殿が詳しいだろうから
後で聞いてみようと思う程度の事である。
鉄雄と胡桃達は
リルの案内で、街中を見学しながら
4人はドンガの、家兼、工房兼、店に案内された。
道すがら、リルは何人もの街の住人に声を掛けられ
受任は鉄雄の姿に驚き、リルと会話をするも
その異世界語の節々に《リーゼント》の発音を聞き
不思議に思った鉄雄がリルに聞くと
「変わった姿だと聞かれましたので
【リーゼント】と言う髪型だと答えたまでです。」と
絶対嘘だと思いながら、鉄雄の頭の中は、木工職人の事でいっぱいであった。
店と工房を兼ね揃えた場所に到着する
店の入口は大きな2枚の引き戸で
全開にして横幅8メートルはあり
高さも2メートルは超えていた
元来、木製の家具や寝具と言った大きな物を取り扱う以上
その荷物の出入り口である場所は大きく
商品を並べる店内もかなり広い作りとなっていた。
鉄雄と胡桃は、その瞳を輝かせながら
店内にならぶ、芸術品まで昇華された家具を見て回る
そして気が付くのだ、木工職人と聞いていたが
家具の節々には、金属の細工もあり
正確には細工職人だと分かる
ただ、需要の関係で、生活必需品として家具屋なのだと理解したのだ。
2人の姿は、まるでおもちゃ屋で新しいおもちゃを選ぶ子供の様に
全て展示品を見て回るのだった
実際、中学2年と小学6年の子供である。
リルは店の奥に足を進め
奥にある工房にいる人物を呼ぶのであった。
そして出てきたのは、小柄で太った、顔の大半をヒゲで埋め尽くす男
ドワーフと呼ばれる種族であり
その大半が、この男と同様な姿をしている。
《リルのお嬢が、朝から出張って来るとは
どういう風のふきまわしだ?》
《私の知り合いが【ドンガ】に逢いたいとの事で連れてきました。》
《ワシにか?》
《はい、メガネと同じ日本の方で
ドンガと同じく、木を加工する職業の人物です。》
《メガネの国にも、そんなヤツが居るのか?》
《はい、以前頂いた私のベットの彫り物に感動し
是非逢いたいとの事でお連れいたしました。》
ドンガと呼ばれた男は
リルに・・・・いや、以前この街を支配していた存在に
ベットを献上した昔の事を思い出すも
そのベットは、ドンガも納得できる出来であった
経緯はどうであれ
それを褒められたとなれば、悪い気がしない
そして、アレを理解できる、メガネの国の人物に興味が沸いてくるのだった。
リルは、店内を物色する2人を呼び、ドンガに会わせる。
リ「こちらが、ドンガです。《こちらが、鉄雄さんと、胡桃さんです。》」
鉄「よう、この店の作品は全部すごいな
アレだけの細工はもはや芸術品だよ。」
胡桃「小物凄い綺麗だった!」
と・・・・リルがドンガに通訳する
ドンガ《その年で、理解出来るとは、なかなか見所があるボウズ共だな。》
と・・・・・リルが・・・・。
鉄「あぁ、何個か気に入ったのがあったんで買って帰りたいが
その前に、作業場を見てもいいか?」
ド《ガッガッガ!!おうともさ!!》と・・・・
ドンガは、気持ちよく笑うと自分の腕を認めてくれた、少年と少女を
自分の工房へと連れて行くのだった。
そこには、鉄雄も胡桃も見たことのない工具が並ぶ
形こそ違えど、その切っ先を見れば
鉄雄と胡桃は、それこそが異世界の大工道具と理解するのだった。
そして、ドンガは先程まで作っていた
横幅30cmほどの長方形の箱を2人に見せると
異世界語と、手振り身振りで、説明しだしたのだ
そう、飾り箱であり、その横面と蓋に飾り細工が施されていた
とは言っても製作途中なので、半分も出来てはいなかったが。
それを見て、鉄雄は手振りと日本語で話し出す。
胡桃は、指差しと、その指を動かし、ほぼ「ん」だけで会話をする。
そこに、3人だけに通じる何かが有るのか
リルの通訳なしで、通じないであるはずの会話が続いていくのだった。
こうなれば、言葉が理解できても
大工仕事や木工細工の事が理解出来ない
リルや、アリスも、茜も・・・蚊帳の外となった。
長くなりそうな予感に、リルが
「アカネさん、どこか行きたい所はありますか?」
「拙者・・・・ネタ探しに少し街を見てみたいでござるな。」
そこに、鉄雄の楽しそうな顔を堪能していたアリスが
「腐れメイド、この街に武器屋?とか防具屋?とかあるのか?」
「はぁ・・・・、クズ鎧には聞いて無いのですが
いちよ・・・・・・
それなりに有りますよ。」
「そこに連れて行ってほしい。」
「・・・・アカネさんも、それで宜しいでしょうか?」
「か・・構わんでござるが
ずっと気になってた訳で・・・
・・・
2人は仲が悪いのでござるか?」
「いえ、クズにはクズ相応の対応を・・・・・。」
「このメイドは正念が腐ってるから・・・・・。」
二人同時に答え、睨み合うように言葉を止めた・・。
理由はどうであれ
リルの案内で、茜とアリスは防具屋に立ち寄ることとなった。
少しの間、3人で移動する事となったが
アリスは黒い全身鎧の為、この世界感との違和感が少ないが
ほぼジャージに近い服に、三つ編みおさげに丸メガネの茜はと言うと・・・・・。
人種は別として、何故か、おばちゃんだろう人物に無駄に声をかけられた
異世界語なので、意味は分からないが・・・・
《メガネ》《日本》だけは・・・理解できた。
そう、この街では、メガネと日本人は同意語に近い
そして、メガネが普及していないこの街では
なぜか、メガネを掛けている人族=日本人であり
日本人は皆、メガネを掛けていると
そして、メガネの男はこの街では良い意味で有名な存在である。
おばちゃんが噂好きで会話好きなのは、どこの世界でも同じであり
日本人・メガネに対し、すごく好意的であった。
だが茜と言えば声を掛けられる度に怯える始末
この世界の亜人や獣人が怖いのではなく
ただ単に、知らない人物に声を掛けられる事が苦手なだけである。
防具屋に付くと・・・
異世界の防具と言う、本物の実戦で使われる存在に感動するアリス
この店で売り子のバイトをしていたのが
リルの屋敷の女の子の1人であり
日本語が話せるため、日本語で説明を受けながら
店内を物色していく。
茜は、全ての防具をスケッチするには、時間がないと諦め
デバイスで写真を撮りまくるのだった。
そんな中、売り子の案内で
店の奥にある一角にアリスは案内された
そこには、丁寧に展示された、1体のフルプレートアーマー
アリスは、フルプレートの装備の前で足を止めた
それは、店内に、1セットしか存在しない全身鎧
その全体に散りばめられた金の装飾は見た目にも美しく
鎧と言う装備に気品と言う性能を上乗せさせていた。
アリスの普段使っているのは、全身を金属で覆う、フルプレートなのだが
目の前にあるものは、黒くツヤのある金属を使うも
ところどころ関節部の裏や動きを阻害するであろう場所には
厚手の黒い皮を使っており
自分の鎧とは運動性能の違いがハッキリと分かった。
それよりも、女性らしさを彷彿させる
胸の・・・大きく膨らんだ胸部アーマーに目を惹かれるが
何よりも、腰に据えるアーマーから
足を隠すように広がる
スカートを彷彿させる外装
そのデザインと、運動性能を高めた作りに感動を覚え
一目惚れと言ってもいいほどの感情が沸き上がってくるのだった。
だが、売り子は申し訳なさそうに
鎧の前にある異世界語で書かれた【売約済】札を指さすと・・・。
「ごめんなさい・・・これは受注品の1点物なんです
親方がメガネから注文を受けて、先日出来上がったばっかりの物で
取りに来るまで、展示してあるだけなんです。」
いや、欲しいと思っても、アリスに買える訳もなく
元々異世界のお金など持っていない。
ただ、鎧に関してコレほどまでに心を奪われたのは初めての経験であった。
「試着してみてはどうです?」
と背後からのリルの声に、驚く様に振り返る。
売り子も
「リルお姉ちゃんが言うなら
親方もメガネも誰も文句は言いませんので
試着されても構いませんよ。」
その言葉の誘惑に、アリスが勝てるハズもなく・・・
大きめの試着室に向かう
売り子の「着替えを手伝いましょうか」の申し出を
「一人で大丈夫です。」と、断るも
本心は自分の体を見せたくない・・・と。
ただ・・・驚いた事に
この鎧の装着感は信じられないほど良いのだ
まるで、自分の為に誂 (あつら)えた様に・・・
それは、オーダーメイドで作った自分の鎧さえ粗末にさえ感じられるほどだった・・。
試着を終わらせ、試着室から出ると
私の姿を写真に取る茜と・・・
私を見て、笑うヒゲがいた
テツと話していた、ドワーフだと一瞬おもったが
服装が違がった、厚手のエプロンの様な物をしていた事もあり
違う人物だと理解できたが・・・・。
リル《ヘンズ、それでは、あの鎧はこのまま頂いていきます。》
ヘンズと呼ばれた、ドワーフは自身の仕事に胸を張って
《あぁ、持っていけ
嬢から貰った、黒魔鉱と、黒龍のなめし皮を使ったワシ達の自信作だ
その辺の魔獣では傷一つ付かない、レア装備以上となってるだろう
ワシが言うものアレだが、いい出来だ!
調整は何時でもしてやる。
何かあればいつでも持って来い!》
「え?、あの鎧って、お姉ちゃんが注文したの?
プレートには[売約済・メガネ]って書いてあったよ?」
「えぇ、メガネからの依頼で
あのクズ(鎧)に合う鎧をと言う事で
ヘンズに依頼してたんです。」
リルの言葉に驚いたアリス
「ちょっとまて、そんな話聞いてないぞ?」
「はい、私も先ほど
(メガネからの念話で、街に行くならならヘンズの所によってくれと
たぶん、アリスの鎧が出来上がってるだろう)
知ったばかりで、クズ(鎧)には言っていませんので。」
それは、少し前の事
ある戦いが有り、その報酬であろう、1000万の大金を
アリスは断ったのだ
だからと言って、それを良しとする、メガネでもなく
これから無駄に巻き込まれるだろう、アリスを心配して
魔獣 (ワイバーン)とも戦える様に装備一式を頼んでいたのだった。
ちなみに、デザインは紫音である
アリスが、宮守家で意思加速の訓練をしているとき
紫音は、スケッチブックに
アリスの新しい鎧のデザインを描いていた・・・
そして、ご丁寧に
アリスの体の3サイズ・・・
それも、ヒップや、腰骨の高さなどは当たり前
ウエストから、トップとアンダーの差がほぼない
アリスのバストサイズまで
紫音のスキルで事細かく採寸された寸法が書かれており
アリスの動きの詳細も、それとなく添えられ
リルから、ヘンズの手に渡っていた。
そして、鎧と同じく、盾もセットである。
アリスは、リルに対して色々言いたい事は有るのだが・・・・。
鎧を受け取った以上、何も言えなくなっていた。
そこに
「別に気に入らないなら貰って頂かなくても結構ですが?」
のリルの一言が有ったのは、言うまでもないだろう。
リル達は、ヘンズも伴い鉄雄の所に戻ってくる。
そこには、ドンガ、鉄雄、胡桃が・・・・
台に向かい、小物作りに熱中している姿があった
それは、言葉は通じないが、トンガが鉄雄の腕が見たいと
何か彫ってみろと、木材と小刀の様な物を渡すと
鉄雄も日本特有の細かな細工彫りを作ってみせた
初めて見る細工に、トンガも負けじと、掘り出す
胡桃も掘り出した・・・・・。
そして・・・いつしか・・・。
《コレでどうだ!!》
「できたぞ!」
「ん!」
出来上がったのは、3つの、花の形の彫り物
それを見て悔しがる、ドンガと鉄雄・・・。
出来が良かったのは胡桃だったらしい。
悔しがる、ドンガ・・・
ドンガは、机に鳥の絵を書く
そして再び、3人は木材を持ち
高速で鳥の彫り物を制作するのだった。
《ふん!!》ドヤ顔
「く・・・」
「んんんん。。。」
今度は、ドンガの勝ちとなった・・・。
いつしか腕を見せ合い、その技術を高め合うように
綺麗な細工を施した彫り物を大量生産していた3人だった。
その光景に終止符を打ったのは、ヘンズだった。
《ズァズァズァ、ドンガ
子供相手に、何を遊んでるんだ!》
《ヘンズか、いやいやこの2人なかなかやるぞ
人間にしとくのが勿体無い
いやいや、前世は絶対ドワーフなはずだ!》
ヘンズは、机に近づき
そこにある、彫り物を手に取り
《これは、誰が?》
そんな仕草に、小さく手を挙げたのが胡桃だった。
《なんと・・・・
こりゃぁ、すごいな》
《まてまて、こっちを見ろ、これはワシの方がうまいぞ!》
必死で言い訳をするドンガ
だが、付き合いの長いヘンズには
同じ趣味を持つ友人を得て、子供の様に楽しんでいる様に見えるのだった。
ヘンズは笑うように、ドンガをからかうのだった。
鉄雄も手が止まり
振り向くと、そこには鎧が変わったアリスの姿があった。
鎧に驚くと言うより
その・・・・鎧に使われている素材に鉄雄と胡桃は驚くのだった
そして、鉄雄は、アリスを・・・いや、鎧を褒める。
アリスは兜の中で真っ赤だが
気にもせず鉄雄は褒める。
そう、丁寧に作られた鎧
各部に見え隠れする精巧なギミック
そして随所に施された綺麗な細工を
一目見て分かった、トンガの繊細な細工仕事を。
胡桃も胡桃で、指で差しその凄さを鉄雄に伝える。
トンガとヘンズ、その道では街一番の職人である
2人は日本語を理解していなかったが
アノ変わった髪型の少年やその妹が
2人で制作した鎧を、褒めている事は理解できていた。
そして、それは、ヘンズが拘り抜いて作った場所だったりギミックである
普通に見ただけでは、絶対分からない、特殊な加工をしてあるのだが
そのほぼ全てを、2人で見つけていき
その仕事に、大絶賛するのだった。
ヘンズも、これには驚いた・・・
そして、ヘンズも、ドンガと同じように
同類を見つけた子供の様に笑いだした。
そんなヘンズの気持ちを理解したドンガ
酒樽を机の上に乗せ
大きなジョッキに波々と酒を注ぐと
無言で、ヘンズに差し出した。
ヘンズはジョッキを受け取ると
《新しく出来た素晴らしき2人の友に!》
ドンガは、それに応える様に
《あぁ、素晴らしい出会いと、2人の友の行くすえに!》
2人は、酒が溢れる事も気にせず豪快に乾杯し
一気に飲み干すのだった。
この時すでに、この世界に来て3時間が経とうとしていた。
鉄雄達は、2人にお礼を言い
近いうちに土産(日本の細工に関する物)と
うまい酒を持参し遊びに来ることを約束し
店を後にする。
ちなみに、鉄雄は
ドンガ作の、テーブルを2卓、椅子を8脚を買い揃えた
胡桃は、綺麗な小物を数点買う
もちろん支払いは、リルである。
そのあとは、街の見学がてら
少し遠回りをしながら屋敷に戻ることにしたのだが・・・。
街道を歩く、リルの姿に気づいた1人の獣人が
一直線に歩いてき、リルの前で足を止めた。
最近の地獄とも思われる修行で体は一回り大きくなり
身長で言えば、2メートル近い大男となった
ただ、綺麗だった毛並みは、多少の剣撃すら弾くほど剛毛となっていた
人型ではなく、獣の姿に近い獣人である豹族の男【ティアンガ】
この街の獣人・亜人を纏める【長老】と呼ばれる【ツァンガ】の息子である。
《ぬぉい、お嬢!
【ステイロン】の奴が訓練中に居なくなったやが
どういうことや?
今日こそ、あの憎ったらしい顔を潰せると思ったやが。》
【ステイロン】アロンテックと同じ【魔王レイ】の配下の悪魔である
街の戦士である存在を鍛えるため、住み込みで街に滞在する存在
その性格は、アロンテックと違い、ねちっこいドSであり
日がな一日、ティアンガを、イジメ抜いていた
御蔭でここ1月ほどで、ティアンガは一気に成長したほどだ。
《ステイロンは、ミカと、例の【赤頭】と共に
雷帝・レイの城にもどりましたよ。》
《なん・・・・・やと?
あの赤頭、また騒ぎを起こすきかや?》
ティアンガは以前、蓮がこの街に来たときの騒ぎを思い出し険しい顔をする。
《いえ、今回は他に目的があるようで
気にしないで良いと思いますよ。》
《ならいいやが・・・》
ティアンガは、リルと一緒にいる人物を見下ろすと
《見かけん顔やな
お嬢、また何処かで奴隷でも連れてきたがや?》
《いえ、この方々は、あの御方の友人の方々です。》
ティアンガの顔が徐々に引きつっていく
人間なら血の気が引いて真っ青だろうが
ほぼ豹の顔に近い、その顔色はうかがえないが
その目は何かに怯えるように大きく開かれた・・・。
ティアンガは、その場を飛びのき
見知らぬ顔の3人(アリス以外)に向けて構えを取る。
《お嬢・・・・なんて物や、連れてくる
あのアホは、何を企んでいるやが!》
それは完全に鉄雄たち3人に敵意を向けた行動だったが
これが蓮だったなら、その怒りを買い
ティアンガは、ステイロンの手によって殺されていただろうが
なにせ、相手は、鉄雄に胡桃、それと茜なのだ
敵意を向けられようと、それに対抗しようと言う気もない
鉄「おい、リル、アレは何を怒ってるんだ?」
リ「鉄雄さんたちが、あの御方の友人だと伝えると
何を思ったのか、怖くて怯えているんですよ
大きな体になって、もう50歳を超えたと言うのに
昔から変わらず臆病者なんですから。」
鉄雄やアリスは
あの変態、この世界で何をしでかしたんだ?と・・・思うのだが
胡桃は小さな声で
「とっても優しいのに。」と
その隣で茜は
「あれほど懐の広い人間は居ないでござるのに。」
そしてリルと言えば
「当たり前です
あの御方は、全ての世界で、もっともお優しい御方なのですから。」
なぜか、紫音を無駄なほどに過大評価する3人であった。
《ですが、ティアンガ
この3人の方々は私のお客人でもあるのです
失礼は許しませんよ。》
渋々構えを解く、ティアンガ
だが、一切の警戒を解かない・・・・
のそりのそりと、近づくと
《へんてこなや、髪型しやって
この街で暴れる気ならや、ワシが止めるやで。》
とリルに向かって言い放つ。
・・・が
「あ?今なんつった?」
異世界語であるが、自分の髪型に、いちゃもん付けられたと受け取った鉄雄
ティアンガを下から睨みつける。
《この、へんてこ頭は、なんて言ってやがる?》
豹族の獣の顔で、鉄雄を睨みつける様に見下ろす
鉄雄は静かにティアンガに一歩踏み込んだ瞬間
その攻撃より早く。リルが仲裁にはいる
《この方は【竹の子族】の【リーゼント種】と言う、絶滅危惧種で
この種族の特徴とも言える髪型 (プライド)を
バカにされることを異常な程に嫌う種族です
本気で怒らすと、ティアンガでも死にますよ?》
ちなみに、道すがらリルは住民に鉄雄の姿を聞かれ
鉄雄の髪型を同じような表現で広めていた。
《そ・・・そうなのやが?
とても弱そうやが・・・?》
《えぇ、私がティアンガを殺しますから。》
それは、ティアンガが鉄雄の髪型をバカにして
鉄雄が怒りティアンガに喧嘩を売っても
鉄雄が勝てるハズもないと、リルは判断しているが
(髪型に関して)本気で怒った鉄雄が走り出せば止まることをしないだろう
胡桃が悲しまない為、止めれるのは、リル自身であるとリルも理解している。
紫音・鈴・リルに関して、胡桃の言葉や静止なら意味を成すが
兄妹である、鉄雄には、胡桃の静止は意味を成さない・・・。
だからこそ、リルが手を出すと言う意味で、殺すとは言い過ぎだが
リルの優先順位で、1番が胡桃で、次に鉄雄、最後にティアンガなのだ
胡桃を守り悲しまさない為に、ティアンガを排除する事に躊躇は無い
そして、それに近い事をする意味でリルは《殺します》と口にした。
ティアンガにとって、今の姿のリルは絶対者である
勝ち負けと言う戦う行為以前に
敵対した時点で殺される事は理解しているのだ
命が惜しいティアンガ
《やぁ・・・すまなかったやでと
伝えてもらえるがや・・・。》
ティアンガは小さく頭を下げ
リルは鉄雄に
「異世界の言葉であったが、ティアンガが「てんてこな髪型」と言った事を謝ってる」
と伝えるのだったが
鉄雄の視線はリルに向き
「コイツより、リルのほうが
俺をバカにしている様に聞こえるんだけどな・・・。」
「気のせいです。」
少しの沈黙がながれ・・・。
まぁいいやと鉄雄
ティアンガの腕を叩くと
「でっかい体して、しょうもない事で頭を下げるなよ
漢 (おとこ)なら、胸をはれ胸を。」
通訳・・・・するリル
《すまなかったがや、それで【リーゼント】は何をし来たや?》
通訳・・・・・
「そうだ、おっさん強いんだろ?
この後で、ベビーモスの肉取りに行くんだけど
一緒に行かないか?」
つうや・・・
一瞬止まるティアンガ
【ベビーモス】それは、あのベヒモスの赤ちゃんである
ベヒモスは巨大な魔物であり
魔人1人では勝てないほどの大きさと強さである
それを目の前の竹の子族?のチビが倒しに行く?
ティアンガすら、死地に向かうような事を
まるで、山に山菜でも取りに行く様に言う漢の姿に
一瞬躊躇するも、竹の子族のチビが行って
自分が断るなど、リルの前で出来る訳もなく
《ぬぉい・・・・特訓がなくなったやで、構わんやで!》
つう・・・
「おう、期待してるぜ!」
鉄雄は気持ちよく、ティアンガを叩くのだった。
リルから、その言葉を聞くと
ティアンガは、笑いが込み上げててくる
目の前の気持ちがいいほど、清々しい漢の姿に
ティアンガは大いに笑った
最近、魔王との戦いに備えると言う事態に、ピリピリし
ステイロンのシゴキに、イラついていた
その全てが、目の前の男によって吹き飛んだ
体は小柄だが、その気風 (きっぷ)の良さと、その人格に
ティアンガは、久しぶりに大いに笑ったのだった。
リルは、ティアンガが笑い
吊られるように、鉄雄が笑いだした意味など理解出来なかった。
だが、胡桃、アリス、茜は、理解する
あれが【宮守鉄雄】なのだと。
ティアンガを仲間に加えた、リル達は屋敷に戻ってきた。
そこで、リル達を迎えたのは
リルに対しての敵意を隠すことなく丸出しにする存在だった。




