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10話 予選・開始直前 彼女の戦いは既に始まっていた。

 



学園ネットに挙げられた

生徒会からの模擬戦発表は至って簡素であった。


その中に有った、1文がこれである



※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 天堂学園中等部模擬戦


中等部2学年、模擬戦内容


各クラス代表9人による

8クラス対抗トーナメント戦


勝敗条件


相手シンボルの破壊

又は、対戦相手全員の戦闘不能。


※※※※※※※※※※※※※※※※



数十年に渡って、変わることのない内容である

そして、毎年大々的に行われる行事の為

その模擬戦の内容は、まず知らない生徒は居ない。


だが、科学の進歩と同じく

その使い回された内容も、細かく言えば変化していた


細かなルールは

天堂学園の中等部ホームページから

学園行事⇒模擬戦⇒ルール説明

をタップすれば表示される。


・・・・が


(そんなホムペ存在しないので)

誰も、見ないと思われるので

ここで、簡単な説明を入れる!




2学年と3学年

学年別、クラス対抗トーナメント戦。


2学年は、9人vs9人

3学年は、15人vs15人の団体戦。



 勝敗条件


相手シンボルの破壊

又は

対戦相手全員の戦闘不能


 シンボルとは


 直径40cm長さ150cm重さ45kgの円柱状の物質である

一定以上の衝撃(魔法)を3回加える事によって破壊出来る。

しかし、連続で衝撃を加えれないように

1度衝撃を与えると、6秒間の攻撃無効時間が有り

最速でも、初撃から破壊まで、12秒以上の時間が必要とされる。

また、初撃を与えると、シンボルは、直径35cm長さ130cm、35kgに

2度目の衝撃で、直径30cm長さ100cm、20kgとなる

もちろん、移動させることは可能なので

軽くなるにつれ、持って逃げる事は簡易となる。


 戦闘不能とは


 あらかじめ、選手には、HPヒットポイントが設定される

一律5000ポイント、HP5000である

模擬戦の戦闘内容は、選手のデバイスを通して

学園のスパコン(スーパーコンピューター)で集計、計算され

ダメージを受ければ、HPから引かれ、HPが0になれば戦闘不能となる


 模擬戦に出る選手は、多少の怪我をすることがある

骨が折れる事も良くある話でもある

学園に居る以上、それは当たり前なのだが


 それでも勝つためなら

骨が折れても体が動く限り戦おうとする選手が居る為

強制的に戦闘不能になる様に設けられた処置である


 選手の拘束も一時戦闘離脱となり、戦闘不能扱いだが

仲間選手の拘束解除で、対戦に戻れる事ができる。



制限時間内に勝敗が決まらなかった場



 シンボルを多く攻撃し、減らせたクラスの勝ちである

シンボルが同じ場合

残った人数の多いいクラスが勝ち

同数の場合は、生き残った選手の合計HPが多いい方が勝ちである


 他にも細かなルールはあるが

大前提に、これは模擬戦である

生死を掛けた戦いではない

対戦相手は学園で肩を並べ共に歩んでいく仲間である。


 だからこそ対戦相手選手への必要以上の攻撃、オーバーキルや

戦闘不能の相手選手への追い打ちと言う

非人道的な行為、又はルール違反には、ペナルティーが課せられる

選手のHPが減らされたり、退場である

又は、シンボル1段階破壊などがある

今まで執行された事はないが

最悪、危険行為にてクラス失格もありえる。


 最後にもう一度、強く説明しておく。


 模擬戦とは、各自の実力を示す場所ではあるが

友と仲間と、その力を競い合い

己の力を高める場所であり

その絆を強め確かめる場所である。




*******************




 トーナメント本選の出場権を掛けた予選

それは、土曜の午前中授業が終わり

昼食休みを挟んだのち・・・・。


 それは、静かに開催された・・・・。

そう、下位クラスの対戦が行われる予選の為

時間とお金は掛けられない

いや、掛ける気など、生徒会も学園側も有りはしなかった。


本来なら、3年が行う、15vs15の対戦フィールドは

高等部の演習場を借りて行うのだが

今回は、中等部の(400mトラック程の)運動場である

そして、中等部の運動場で

3年の予選を2戦と

2年の予選を2戦する予定でもある

時間も無いので、本来の制限時間の約半分

3年は30分、2年は20分であるが

実際狭いフィールドで対戦をすれば

そんなに時間は掛からない。


対戦の順番は

予選1試合目、3-F(クジで選出)vs 3-H

予選2試合目、3-I vs 3-J

予選3試合目、2-E(クジで選出)vs 2-I

予選4試合目、2-H vs 2-J

である


午後1時から行われた予選も順調に進む


 予選1試合目は、どちらのクラスも

クルージングに行きたいが為固い試合内容で

制限時間ギリギリまで、守りを固めシンボルを守りきり

勝敗は、残り人数の多いい、3-Fの勝ちとなった。


 予選2試合目

1時40分に開始され、1試合目と打って変わり

守りに徹する、3-Iに対し、3-Jが攻撃に打って出た

作戦内容は【ガンガン行こうぜ!】と思わせるほどに

3-Jは、出会う敵を瞬殺しながら

3-Iのシンボルを試合開始5分を切る速さで撃破した。


 予選3試合目

2時に開始され

2-Iは、相手が悪かったと言うべきか

2-Iに強い選手が居なかったと言うべきか

序盤から劣勢であり、そのままズルズルと

2-Eに押され、シンボルを破壊された

終始盛り上がりに欠けた試合内容であった。


 この時、午後2時18分

中等部の校内放送で結果が告げられ

予選最終試合が、2時25分から開始される事も告げられるのだった。



******



 2年Jクラス・・・。


彼等の戦いは・・・・

いや【呂 愁 (りょ しゅう)】彼女の戦いは

予選開始の午後1時には始まっていた・・・。


前の試合が終われば、次の試合が数分後に始まる

その為1試合目以外の開始時間は不明であり

1試合目以外の選手は、午後1時から更衣室等

クラス別で決められた場所で、試合まで待機となる。


 そう、午後1時・・・・

2-Jクラスの待機場所である、運動場横の器具置き場

そこに居たのは、仁王立ちした愁、1人である。


 試合が最終戦の為、開始まで時間があるとは言え

愁以外誰もいない、授業が終わりを告げた時

出場選手には念入りに、場所と時間を伝え

1時には来るようにと伝えたにも関わらずだ!


 電話を片手に、叫ぶ!


「おい、カレラ今ドコ?」

 「え?なに?」

「1時には、集まるヨウに伝えたはずだけど?」

 「そうだった?

  ニニスが、ダチ(レン)の試合を見たいと言い出してね

  ニニスと会場にいるの

  このまま、試合まで居るから

  私達はここから、試合に向かうわ。」

「なら・・・いいけど・・・

 2人以外誰かいるの?」

 「?選手登録してるのは2人だけだけど?」



 愁はその凛々しい顔を歪めるが

カレラとニニスの所在は掴めた

カレラの事だ、試合をボイコットする事はないだろうし

ニニスも試合を楽しみにしている

2人は大丈夫だろうと・・・・。


 今度は、テツオに電話を掛ける

「テツオ、今どこ?」

 「あ?」

「1時には、集マる様に言っタよね?」

 「アレもう1時か?

  悪いな今食堂だ

  太志達と飯を食ってる。」

「まだ、時間が有るかラいいけど

 そこ太志以外選手は誰がいるンだ?」

 「俺と太志とカン坊だけど?」

「3人カ・・・マあいいか

 直ぐに食べ終わッて早くきナ。」


次は・・・・エロトか・・・

携帯番号しらないし・・・・。

ならと・・・・ある人物に電話を掛ける。


「キイ?今イイカ?」

 「しゅ・・・愁さん?ど・・どうしたの?」

「悪いな、エロトの居場所が知りタいんだ

 キイは、エロトが何処に居るか知らないか?」

 「あ・・・うん、目の前にいるけど・・・。」

「ドコダ!!!」

 「まだ、(中等部)校内にいる

  情報収集とか言って

  ほかのクラスの子ナンパしてるけど・・・・」

「今すぐ連れてこい!!!」

 「え・・・・うん・・・わかった・・・・。」


あの・・・ドエロ・・・・

久しぶりに登校してきたと思ったら

女のケツばかり、追いかけて・・・。


とりあえず、あと2人・・・・。


 次は・・・・。


 そんな時

器具置き場に近づいてくる話し声があった

独特の話し方で、1人は分かる、DDだ

そのDDと話しているのは、たぶんキジだろう・・。


器具置き場の入口のドアをスライドさせ

DDの第一声が

「ハッハーー・・・待たせたな・・・って?

 シュウ? You only?」


「ああ、2人とも待ってたよ!!

 丁度今、キジに電話を掛けるトコだった。」


「わるいね、食堂で太志達と遊んでたら遅れたよ。」


「ナゼ?フトシ達を連れてコナかった?」


「あぁ、太志が燃料補給とか言って追加で食べだしたんで

 置いてきたんだわ。」


「あのデブ、どれだけ太レバ気が済むんだ・・・。」


「太志が・・・太る・・・フフ

 アメーーーーーージーーーン。」

タップを踏み両手を広げ1人騒ぐDD


「DD・・・。」


呆れかえる、愁

クズクラスに置いて、真面目な部類の愁には

調子に乗ってバカをするDD達を、冷めた目で見つめるでけであった。


「それで、愁だけ?

 他の、みんなは?」


「キジとDDが来たから、揃った

 ニニスと、カレラは模擬戦を観戦シテル

 そのまま試合に参加スるって。

 後は今電話で呼び出シタ!!」


眉間にシワをよせた愁

キジはそれに触れないように

たわいもない会話を振り時間を潰していく。


 次に現れたのは

少しウエーブの掛かった髪を揺らす可愛い女の子・・・

に、腕を掴まれた、キラキラ光るオーラを垂れ流す男である。


「ヤァ愁、待たせたね

 僕に逢えなくて、希唯に電話をかけるなんて

 てれやさんだなぁぁ~~~~。」


 愁に対して、ボディータッチをしようとした栄斗に向けられたのは【戟】

槍の様な中国で伝わる長物の武器である。


 愁は、ゆっくりと戟を栄斗の首元に向け


「エロト、それ以上近づくなら

 その首、ここで落とすよ。」


 栄斗の手の届く範囲は彼のスキル【ラッキースケベ】の範囲内である

その範囲に無傷で居られる女性は、希唯だけであり

愁は絶対に入りたく無いのである。


だが栄斗は、首元にある刃など気にもしない

首を振り、サラサラの髪をなびかせ

「僕の首を持ち帰りたいのは分かるけどね

 僕は世界の可愛い子の物だからね

 愁だけにって・・・・イタイ・・・ホントに痛い。

 ごめんって、希唯

 おとなしくするから・・・。」


 栄斗を襲ったそれは・・・

魔法では無い

磨き続けた技でも無く

鍛え抜かれた攻撃でも無かった・・・。


 そう、そんな力は希唯には無い

だが、長年栄斗と一緒にいる希唯だけの

嫉妬と言う最強の攻撃。


 そこには、栄斗の腕を抓る希唯が居た

そう、この皮膚1枚を的確に抓る希唯の攻撃は地味に痛いのだ。


 そして、ひ弱な希唯にすら、たじろぐ栄斗

そのスキルを使わなければ、女性にすら負けるのだった。


 長年連れ添った夫婦を眺めながら時間を潰す面々。


 第2試合が始まった頃、顔を出したのが

鉄雄・太志・冠 (かんむり)の3人であった。


 遅れてきた3人に静かに激怒する愁

それを宥めるのは希唯である


鉄雄が気づく

「愁、あと3人は?」


「あぁ。ニニスとカレラは、レン先輩の試合ヲ見るとかで

 スデに運動場にイルぞ・・・ン?

 あと3人?」


「あぁ、あと紫音は?」


「あ!!!」


 愁は、6人の居場所を確認して

あと2人だと思った時、キジとDDが来たものだから

自分を入れて9人の所在が揃ったと思ったのだ

そう、あの変人もDDもエロトも同じく使えない存在であり

愁にとって、変人でもDDでも変わりないのだが

登録したのは、変人の方である

それは今から変えられない事実だった。


「クソぅ・・・勘違いしてた

 テツオ、あのバカはドコ?」


「?まだ教室で寝てんじゃないのか?」


「電話シテ。」


 ブツブツいいながら、鉄雄は紫音に電話をするが出ない。

太志や、DDも電話を掛けるが出ない。


 愁は、まだ教室で遊んでいるだろう友人に電話を掛けるが

教室に変人の姿は無いらしい。


「あの、役立タズ!!!

 逃げたゾ!」


愁の怒りも頂点に達する

鉄雄は腹を抱えて笑う

DDは笑いながら踊るのだった・・・。



*******



 その頃

試合会場では

他を寄せ付けない強さを誇る存在達が暴れまわり

その迫力に、相手クラスは、自陣のシンボルを明け渡すと言う珍事があり

予選の為、非公式ながら

中等部3年の15vs15での最速タイムを叩き出したのだった。


 本来、予選に観客など居ない

居ても、選手の仲の良い友人位だが

だが、今年は選手の実力把握の為

おおくの偵察の人間が居た。


 そして観客席とは、言えないだろう

運動場に向かう階段の一角で

蓮の勝利を騒ぐ華やかな人間達がいた。


 天堂学園でも指折りの有名人【四条優美】を始め

中等部2年上位クラスのマスコット【三千風鈴】

中等部最強少女と呼ばれる【桜・ティオーノ】

陰で紅の銃姫 (クリムゾン・ガンプリンセス)と呼ばれる【カレラ・エルノーラ・クレミシ】

姫騎士 (ナイト・オブ・プリンセス)とも、黒騎士 (ダークプリンス)とも呼ばれる【アリス・Q・イングラム】

中等部2年の中でも有名人な5人

その5人には劣るが

学園のある一部では、5人に引けを取らない有名人の2人がいた

科学部や、デバイス部等、一部の部活で気狂 (キチガイ)呼ばれる【山代かんな】

また、学園の闇で語り継がれる合言葉がある【小早川夏目】に絶対に逆らうな

そんな2人を加えた、6人の綺麗処と1人の鎧の中心に居るのは

6本の赤い腕をうねうねと動かす、タコの着ぐるみを来た少女であった。


「すごいなの!

 強いなのよ!

 レンは強いなのよ!!」


 蓮の強さに喜ぶニニス

また3-Jの強者が使う、見知らぬ魔法に興味津津でもあった。


 そんな喜ぶニニスを見て、機嫌がいいカレラ。


「つぅぅ~~~よぉぉ~~~いぃぃ~~~のぉ~~!」

横では、兄の勝利を両手を揚げて喜ぶ桜。


 そんな横で・・小声で

「まければいいのに・・・・。」と

いつまでも根に持つ鈴。


 鈴と蓮の間に何が有ったのかと興味津津の、かんな。


 人知れず、意思加速を持続させ

蓮の戦いを観察し、その次元の違う動きに改めて驚くアリス。


 そんな全員を視界に入れ観察する、夏目。


 そして、第3試合が始まるが

鈴達は、誰1人興味を表さず

いつの間にか第3試合が終わり

その結果が中等部の校内放送で告げられ

予選最終試合が、2時25分から開始される事も告げられるのだった。


 第3試合をおこなった

2-Eは喜び、試合を観戦していたクラスメイトと合流し喜び合い

2-Iは、沈黙し静かにその場を後にした・・。


試合場所から、人が居なくなりアナウンスで

2-Hと2-Jの選手は速やかに移動するように伝えられた。



 それを聞いて、立ち上がるカレラ

「ニニス、そろそろ出番みたいよ。」


「いくなのよ!!

 クラーケンの強さを、見せつけるなのよ!!」


茹で上がった真っ赤なタコは意気揚々と出陣するのだった。


 そんなニニスを応援するのは優美達である

その光景に各クラスの戦力偵察に来ていた生徒達は

小学生程の身長のキグルミの女の子が

コレから模擬戦にでるのかと、信じられない光景に・・・

いや、三千風鈴とそれほど身長が変わらない生徒

もしかしたら、あれも本当に中等部2年の生徒なのかと・・・。

手に持つデバイスで隠し取りを行うのだった。


そして、徐々に集まってくる、2-Hと、Jクラスの面々だが

Hクラスの選手は、Jクラスの選手を見て驚くのだった・・・。


 Hクラスもある程度の情報は持っていた

Jクラス最強と言われる【大工・宮守】や

【銃姫・カレラ】や【英傑・呂愁】

そして、最悪のスキル持ち【エロト】

この4人は、想定内であった。


 そうHクラスは、多少戦力を抑えても

エロト対策の為、選手全員を男にしていた

いや、クラスの女性陣が参加を拒否したので

仕方なしでもあったが・・・。


戦闘フィールドに現れた9人の中に

どう見ても不釣合いな存在を見つけてしまったのだ。


 1人は、身長の低い、まるで小学生の様な子供

それも、お遊戯会と間違えているのか、タコのキグルミを着ているのだ


 そして、もう1人

呂愁の戟に吊るされた死人。


 すでに誰かと戦ってきたかの様にボロボロの姿

生気を感じさせず、まるでゾンビの様な気持ち悪さを吐き出し続ける

気持ち悪い男の存在・・・・。



 Hクラスは、笑う・・・「勝った!」と・・・。





*********





 それは・・・数分前



Jクラスの待機場所の用具室では。

鉄雄は、激怒した愁に詰め寄られていた。


愁「テツオ!

  ドオいう事?あの変人、来ナイ気?」


鉄「ハハハ、かなり嫌がっていたんで

  本気で逃げたかもな。」


愁の右手が鉄雄の胸ぐらを掴み

そのまま、鉄雄を持ち上げる

魔法など使っていない、素の力だけである

見た目は細身の腕だが、受け継いだ豪傑の血が成す技か

素の腕力なら、鉄雄を軽く凌ぎ

人1人持ち上げることなど、平気で行う愁。


 そんな2人を前にして

瞳に涙をうけべて、オロオロする希唯と・・

盛大に盛り上がる面々。


愁「笑ってないで、どうにかシロ!

  テツオが無理ヤリ、参加させタンだろ!!

  殺してデモ、連れてコイ!!!」


持ち上げられても、クスクスと笑う鉄雄だが


鉄「まぁ、あの変態を入れたのは俺だからな

  それを言われたら、しょうがない

  連れてくるか・・・。」


 鉄雄は愁の手首を、ちょこっと捻ると

自分の首を閉める拘束を外し

ヒョイっと地面に着地した。


 愁の怒った顔が、一層激しくなる

全力で握っていた拳を、いとも簡単に無力化した

その技に「すごい・・・。」と尊敬してしまった

そんな自分自身の感情に、怒りを燃やす・・・。


 鉄雄は、笑いながら用具室を出ていき・・・。


 鉄雄の姿が見えなくなった時、愁はポツリと怒りを溢す・・・。


愁「アレダケノ、力ヲ持ッテイテ、ナンデ、大工ナンダ!!」


D「nothing!大工だから、あの技なんだよ。」


愁「意味が、分からナイ。」


D「moment・・・って知ってるか?

  瞬間って意味も有るけど

  作用点に置ける力の物理量って意味の方だよ

  テツが言うには、モーメント、力の方向角度を読めば

  それを操作するのは簡単だと

  architecture・・・建築学

  それに携わっている人間なら

  誰でもできるってさ!!

  大工バンザイ!!

  Congratulatiooooooooooooooons!」


愁「誰ニでも出来てたまルカ!!!」


大声で叫ぶ、愁の拳は、力の限り握られていた。




******




 器具置き場を出た鉄雄は

周りを見渡し、人気のない場所を確認すると

そこに向けて歩き出した。


『紫音今どこだ?』


『答えるとおもってかかぁぁっぁぁ!!』


ハイテンションの紫音が返事をするのだった。


『俺の念話が届くなら

 愁が怒っているのを近くから見学してんだろ?』


『まぁね!』


・・・近くに居るのか

それなら話が早い、リルは紫音優先だから・・・。


『マリアさんいる?』


『ん?なにっすか?テツっち』


『わるいがそのバカ、ここに連れてきてくれないか。』


『いいっすよ。』


『ちょ・・まて、マリア!!』


『マリア、お待ちなさい

 シオン様は、行きたくないと言ってるのですよ!』


『お嬢、うるさいっす

 連れて行ったほうが

 絶対におもしろいっすよ。』


『・・・・・・』


『・・・・・・』


『・・・・・・』




念話の向こうで、何か・・・争ってるが・・・。




『リル』


『なんですか?シオン様は忙しいのです

 そんな子供の遊びに付き合う謂れはございません!!』


『へ~~~なら、リルは晩飯抜きな。』


『な!!!

 そんな事、鉄雄さんが、どうこう出来るはずがありません!!』


『だってよ鈴

 紫音の晴れ舞台を邪魔したリルは飯抜きでいいよな。』


運動場で試合を見学していた鈴にも念話は届いていた。


『てっちゃん、どういうこと?』


『あぁ、俺の一存で

 紫音を模擬戦に参加させたんだが

 あいつ逃げやがって、連れ戻そうにも

 リルが邪魔ばっかりするんだ。』


『ふぅぅ~~~~~ん・・・リル。』


『なんでしょうか?鈴さん。』


『ご飯3日抜きね。』


『シオン様、模擬戦頑張ってくださいませ!』


『リィィィルゥゥゥゥゥーーーーー

 うらぎったなぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ』


 人気のない場所に

ポツリと姿を現し、そのまま地面に転がされた紫音の姿がそこにあった・・・。


 顔を歪め、絶望を表現した男に、鉄雄はニヤリと笑い


「よ!」


と声を掛ける。


「くそ!鈴のやつ、飯でリルを買収するとは!!」


「まぁ、いつもの事だけどな。」


紫音は立ち上がり、お尻についたホコリを叩き


「だな・・・・

 でも、3日抜きとくるか・・

 なかなかの長さだな

 そんなに、俺を戦わせたいのかよ・・。」


紫音のグチを聞きながら、鉄雄達は愁達の待つ控え室に戻るが・・・。


 紫音が、用具室のドアを勢いよく開け

部屋に入った瞬間、叫ぶ!

「だいたい、なんで俺が・・・・」

そんな言葉など、聞く耳を持たない存在

怒りを溜めた、愁の拳が紫音の腹部を襲う!!


 人一人持ち上げる豪力の愁の手加減一切なしの拳

本来なら、引き飛ぶはずの紫音の体だが

紫音の背中は鉄雄の左足1本で支えられ

愁の拳の威力を匠に受け流したが


吹き飛ばない紫音に

愁は追撃を加える

2擊3擊と10回ほど殴ると

愁も落ち着き、深く息を吐く・・・。


鉄「愁、気が済んだか?」


愁「あぁ・・・・試合もあるしな

  これくらいで許してやる。」


 愁の1擊目でほぼ失神状態の紫音

鉄雄の支えが失くなった今

死んだように床に転がっていた。


栄「許してやるって・・これ、死んでるだろ?」


希「紫音君・・・・・・・・。」


 希唯は、すでに何度も見た光景で慣れてはいたが・・・

毎回の様に、その有り得ない事に

身震いをするのだった・・・。


 希唯の見た光景、イジメを受ける紫音の光景ではない・・・

攻撃を受ける紫音が、笑う姿だった。


 あの時もそうだった・・・。

どんな状況でも、紫音君が怯えた姿など見たことない

今日に至っては、微妙に体を動かし致命傷を避けてる・・。

 信じられない・・・どうやったらあんな芸当が。

それも、相手はあの愁さんだ

あの連撃を見極めダメージを最小限に抑えるなんて・・・

それに、後ろで支える、鉄雄君も片足1本で

全ての衝撃を受け流すなんて・・・

2人共、人間業ではないよ。

 それに、その事に愁や皆は全く気がついて無いほどの凄さ

本当に、紫音君は弱いの?

もしかしたら、愁さんより・・いえ

あの時・・・のアレ

もしかしたら、蓮さんと同等の強さなんじゃぁ・・・・。



 紫音の姿に、大丈夫なのかと・・・

いや、これは演技?と悩む希唯を他所に。


 床に転ぶ死んだ紫音に

追い打ちするように

その腹部にケリを入れる男がいた。


 黒いツバ付きのシルクハットを深くかぶり

右目だけを開き、紫音を睨む【帽屋 冠 (ぼうや かんむり)】

仲間内からは、その名前、冠帽からとって、かん坊と呼ばれる男

ただ、愁と同じく、紫音の模擬戦の参加を否定した存在の1人でもあった。


冠「こいつが、今怪我でドクターストップかかったら

  選手交代できるんじゃないか?」


鉄「無理だな

  規定で、登録選手のみだ

  そして、今登録してるのが、9人のみだからな

  新しく登録はできんし、もう時間もない・・・。」


そう、この時、第3試合の終了が、告げられたのだった。


 第4試合、それはクズクラスの試合が約10分後には始まる

もう、どうしようもなかった・・・。

いや、相手は所詮、下位クラス楽勝でもある(最下位が何を言う)

それに冠も愁も、元々紫音に期待はしていない。


 諦めがついた愁達は

試合に向けて素早く準備を終わらす。



 鉄雄は、紫音が武器にするだろう、リルから預かった木刀を手にし部屋をでる。


 栄斗は、Hクラスの女子に会える喜びで、スッキップしながら鉄雄に続く、元々栄斗に戦闘能力など皆無であり、戦闘準備などする訳がない。


 冠は、腰にある黒く長い棒を確認すると、紫音を踏みつけ、部屋を出て行く。


 太志は、腕に下げた購買で買ってきた食べ物が入った袋からサンドイッチを・・・取り出し見つめると一度動きを止め、それを、キジに渡すと、袋から新しい、おにぎりを取り出し包んだ袋をあけ口に運び会場に向かう。


 キジは、サンドイッチを受け取り・・「納豆味噌トロロサンド?コレくえんの?」と、袋を開け、DDと分け合い、相手が逃げれないように肩を組みながら、互の口にサンドイッチを詰め込むと・・・「アメージン!!!!」「マジィ~~」と叫び、前を行く太志のケツにケリを入れる。


 愁は、手に持つその武器の柄で紫音の服を引っ掛け、紫音を持ち上げると、そのまま部屋を後にした。


 希唯は、死に体になった紫音を心配そうにしながら、最後に部屋を出ると、丁寧に扉をしめるのだった。




 こうして、2-J、クズクラスの模擬戦、予選が開始されようとしていた。




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