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33話 それからの三千風蘭・妖怪に会う

 



 【三千風蘭 (みちかぜらん)】は

十士族、八知家当主の娘【八知百希 (やちゆき)】の申し出により

中国地方最大の山であった、大山の調査に岡山県に足を運んだ。


 なぜ岡山県かと言うと

大山頂上は鳥取県ではあるが

交通の便から、岡山県に調査本部を置くことになったからだ。


 だが、その調査も、ほぼ何も情報もつかめず

時間だけが過ぎていくだけだった。


 これは、後に紫音が蘭に漏らす情報だが

大山の頂上を消失させたのは【ギン】であり

その魔法は【無】であり、そこにあるのは、全ての消失であり無

だから、どう調べても、無であるかぎり

何も出てくることは無いと。


 蘭も、色々と調査を行うが

身新しいものは何も出て来なかった。


 そして、同じく調査を行っていた、十士族の研究チームに対しても

出張の研究チームのなのか、蘭の興味を引くような物も無く

次の日の夜には、調査を切り上げて帰る事を、百希に伝える。


 百希も、研究チームを率いて来たものの

何も発見できないとなると、蘭を引き止めておく事も出来なかったが。

 世界的魔法化学者である蘭を、研究所から引っ張り出したのだ

このまま返す事なぞ出来るはずもない。

 そして、ある計画を前倒しで進める事となった。


 百希は、蘭に対し殺し文句を口にしたのだ。


「蘭、明日時間があるなら

 私の・・・いえ、十士族の3士族が合同研究している

 研究所に来てみる気はない?」


 そんな事を言われれば

蘭が、縦に首を振るのはわかりきった事で

次の日の朝一で、蘭と百希は研究所へと移動するのだった。


 着いた場所は、驚くことに

名古屋、それも街中のビルに囲まれた研究所である

蘭のイメージでは、研究所=人里離れた山の中である

蘭のいる研究所も、青々とした木々に囲まれた場所であるのだ。


 そしてそこは、表向きには、【最新科学魔術研究所】

十士族の【八知】の管理下にあるのは知ってはいたが

それが在る場所が都会の中で

3士族の合同研究が成されていた事は知らなかった。


 昼を過ぎていた為、軽く食堂で昼食を取り

蘭は、百希の案内で、研究所を見て回っていく。


 最新の科学魔術研究ではあるが

それが魔術である限り、異世界の技術なのだ。


 魔法であれば、この世界の科学で作られる現象の一部ではあるが

魔術となると、その根本は異世界の魔術である

いくつかの魔術は、現代科学で解明され

この世界の魔術として試行されてはいるが

未だに解明されていない異世界の魔術が多くあり

その研究こそが、この研究所の仕事でもあるのだ。


 蘭にとって知らない知識は未知の事柄であり

蘭にとって何よりも優先されるのが知識欲である。


 だが、研究所を見て回る蘭にとって

それほど、心惹かれる研究はそこには無かった。


 実際、ここの魔術研究は、世界的に見ても進んでいる方なのだろう

そして、見学という以上、誰にでも見せてもいい情報でしかない

蘭の専攻は魔術ではないが、自身の研究とは別に

紫音や、鈴から異世界の魔法や魔術を教わっていたのだ

その知識は膨大であり

魔術式の本来の基礎を知らない、この世界の人間と

基礎を知る蘭を比べるならば

算数しか出来ない小学生

多くの方程式が溶ける高校生ほどの開きがあった。


 そんな事を知る由もない、百希は

研究所を案内しながら、あれやこれやと説明(自慢)してくのだが

それは、長くは続かなかった。


 それは、ある魔術の術式を蘭に説明してた時

ある矛盾を、蘭に指摘される。


 その矛盾に答えれない百希に

蘭が術式を紐解いて、百希に説明するのだ

それは、百希が知り得なかった回答であり

蘭の専門外である異世界の術式だが、その知識は自分達に匹敵すると息を呑む。


 百希も若き天才と称され、世界でも有名な科学魔術研究者であるが

その百希ですら【三千風蘭】の知識は、次元の違う場所にあると感じるのだった。


 だからこそ、自分達のチームに引き入れたいと強く願い

覚悟を決めたのだった。


 そして蘭の案内を部下に任すと

百希は、少し席を外しある場所に向かう。



 それは本来なら、絶対厳守である

国から十士族に命じられた極秘の研究ではあるが

ここ数年、その研究は停滞している

その解決には、蘭の知識が必要と、共同研究をしている

十士族の【三成 (みつなり)】と【六道 (ろくどう)】の説得に向かのだった。


 初めは三成も六道も、首を縦には振らない。

それもそのはず、ここ半年ほど前に外国の組織のスパイに潜入され

極秘資料が盗まれた可能性があるのだ。

 スパイは1人で、十士族の戦闘部隊の、数人いる部隊長の1人が

ビルの屋上まで追い詰め

撃退し重傷をあたえた所でビルの屋上から落ちたらしい

ただ、そのスパイの死体は未だに見つかっていない。


 そんな事もあり、部外者を自分達の研究に入れる気はなかった

先ほど蘭が、長年研究してきた、魔術理論を看破した事と

八知が連れてきたのが、三千風蘭だと言うことを聞き

三成は納得したが、六道は渋々だが、研究の一部だけを公開し

極秘である部分は見せないと言う事で

三千風蘭の助力を得る事を了解した。


 蘭の連れてこられた場所は

建物の地下に続く、完全隔離されたドア。


 そして、そこから奥が、極秘の研究施設となるのだった。


 そこから入り、通路を少し歩くと

これぞ科学の最先端と言わないばかりの研究施設が広がる

1フロア全部使ったかと思われる程の広さに

最先端機材、壁には全員が確認できる

100インチは有るだろう、メインモニターが20は並ぶ。


 蘭は感動する、これほどの最先端技術

さすがは十士族が運営する研究施設。


 こんな施設で研究できるなら・・・

研究所を移っても・・・と、すこし心を揺さぶられる・・・。


 周りを羨ましそうに、観察していく蘭に声を掛ける人物がいた。


「これはこれは、三千風博士、自身の研究がお忙しい中

 こんな研究所にようこそお越しくださいました。」


 皮肉たっぷりに蘭を迎えたのは

齢70を越える、スキンヘッドの爺さん

やせ細った身体ながら、体から異様な妖気を放つ

そして蘭を睨む、その眼光だけは、蘭と並ぶ力を秘めていた。


「これはこれは、六道のじじぃ

 貴公が、此処に居るとなると、さしずめ此処は妖怪屋敷か?」


「ほっほっほ、妖怪になるには、あと200年はかかるわ

 ヌシこそ、研究なぞやめて、さっさと山に帰ればどうだ?」


「ぬらりひょんが、まだ、人間のつもりでいるのか?」


「知恵を付けた山猿が!

 人里に降りてきて何をするきぞ

 此処はワシらがテリトリー

 チンケな力なぞ、意味はないぞ。」


 火花を散らす2人。


「ご老人、お戯れはそこまでで、紹介してもらえないだろうか?」


 歳は40代の、渋みの効いた男性が声を掛ける。


「大河か、まぁよい、コヤツが【三千風蘭】よ

 頭より筋肉で物事を考える、筋肉脳の野蛮人よ

 そして、こっちが【三成】の次男坊で【大河 (たいが)】よ。」


「お噂はかねがね、聞いていたより、いい男だね

 あぁ、醜いじじぃが横に居るから、よけいそう感じるのかしら。」


「三千風博士こそ、ゆき(百希)から聞いてたより美人で驚きましたよ。

 それより、2人はお知り合いで?」


「知らんな、こんなじゃじゃ馬猿。」


「ご冗談を、妖怪に知り合いなんて居ませんよ。」


「はいはい、そこまで、先生も蘭も

 数年ぶりにあったんだから喧嘩しない

 大河さん、私と蘭は

 大学時代に1年だけ、六道先生の授業を取ってたのよ

 その頃から、2人はこんな感じ

 ほっとくと、すぐ喧嘩するのよ

 そして、止めるのが私の役目ってね。」


「この、じゃじゃ馬猿は、人の言う事も聞かず、すぐ文句を言うからの。」


「妖怪じじぃこそ、考えが古すぎる、それにもう引退したんじゃ無いのか?」


 蘭と六道の言い合いはしばし続いたが

三成大河と八知百希に、無理やり剥がされ、止められた。


 2人が落ち着いたところで

百希は、説明していく。


 百希たち、【三成】【六道】【八知】

十士族の内、3士族の合同の研究

それは、異世界に通じるゲートの研究である。


 これは全世界において、研究されている事柄でもある

地球の資源は限りある物であり

新しい資源を得るために

先人は、宇宙に目を向けた

そこには、先人の考える用に、多くの資源が見つかる

だが、その資源の運搬を考えるとき

予想以上の金額がかかることに後に気づく

いや、金額というより、その運搬にかかる資源である。


 地球から一番近い惑星、いや恒星、この場合【月】と言い変えよう

月を往復する資源、ただ往復するのではない

大量の物資を運搬するのだ、それに見合うだけ船を用意し

それを動かす燃料を算出すれば

どう考えても、一回の往復だけで

信じられない程の資源を失うことになる。


 そして、次に向けられたのは異世界である。


 すでに召喚魔法の存在で

異世界の存在は当たり前の事でもあった

そう、世界は異世界に資源を求めるようになった。


 人類は、手の届かない宇宙に行けたのだ

異世界にいけないはずがないと。


 だが今現在異世界との、つながりは召喚魔法しかなく

異世界に通じるゲートの研究の為

百希たちは、過去に使われてきた、召喚魔法を研究していた。



 一通り説明を効いた蘭

だが蘭の頭の中には

異世界の知識を持つシオンから聞いた召喚魔法の事と

シオンより召喚魔法に詳しい、鈴から聞いた事と

数年前の事件の当日、紫音から聞いた言葉が頭に浮かぶ。


 召喚魔法、それは、異世界から持ち込まれた、魔術であり

用途は多々あるが、その基本となる初期の概念は

【特定の何かを魔法陣に転移させる魔法】の術式である

そう、これは一方通行の転移魔法であり

逆方向に移動や転移できる魔法ではないのだ。


 だが、異世界、現代関わらず、今存在する召喚魔法は

初期の魔術が進化し、それが幾つも分岐し

その術式を独占するため幾つもの隠し術式を組み複雑化した物が

数千年、同じ様な事を繰り返し、原型が分からなくなった物である。


 そして、現代に伝わる【召喚魔法】と言われる物は

その分岐に幾つか存在した

【異世界から生物を魔法陣に転移させる魔法】の事である。


 そして、紫音は3年前、9歳にして、召喚魔法に置ける

異世界と言う、異次元に干渉する術式を

原型が分からないほど複雑化した召喚魔法から見つけ出し

召喚魔法の根本を見極めた話の事を思い出す。




 そして、【六道源山 (ろくどうげんざん)】の抗議が始まる。


 メインモニターに映し出される

過去数千年に渡り伝わってきた、召喚魔法

それの用途、召喚できた魔物や、禁忌といわれる、人型の亜人

だが、どれも彼らが納得する成果は得られない。


 もともと、数千とある、召喚魔法陣があり

一回に行われる召喚に使われる魔力は大きく

そう連続で行える実験でもないのだ。


 その為、研究を重ね

例外を除き、多くの魔法陣は、8種類に分類できる事が判った

そして、その種類別で術式を紐解くことで

召喚魔法の核となる物を見つけ

異世界とこの世界を結ぶ、魔法を作り出すのだと。


 今まで研究し、試行錯誤し積み重ねてきた

召喚魔法陣を4つ、メインモニターに移すのだった。


 それを見た蘭

静かに眉をひそめた。


(あの日、事件の起こる前

 紫音に車の中で見せてもらった召喚魔法とは・・かなり違う

 紫音のは、もっと・・・シンプルだった気がする

 運転中でノートPCのモニターに映った

 魔法陣や術式をちらっと見ただけだからな

 細かいところまでは覚えてない

 だが、百希には悪いが、じじぃの理論より

 私は息子をとるよ

 それが異世界の知識がなかったあの子が

 あの子自身で見つけた理論をね。)


「一ついいか?」


「なんだね、三千風君。」


「教授気取りか・・・まぁいい

 その魔法陣、実はあまり機能してないだろ?

 欠陥品とは言わないが

 大部分を8種に分け

 多分、その種類ごとの平均値をとっただろう魔法陣

 手を入れすぎて・・・いや、書き換えを恐れてか?

 いくつか制約が残ったような

 そうだな・・・・

 異世界の生き物を召喚できても

 その種別に限度が出てきたか?

 それとも、大きさ・・・いや知能に関してか?

 もしかして・・・魔界にでも繋がって、悪魔でも召喚したか?」


 教授気取りのじじぃは、その眼を見開く。


 三成大河も、蘭を凝視し、驚きの顔を隠せない。


 何よりも、この場にいる化学者全員が蘭に視線を向けた。


「ん?なんだ、本当に悪魔を呼び出したのか?。」


 笑うように口にした蘭に、百希が。


「まぁ悪魔は違うけどね

 幾つかの魔法陣は、調べたり、使用する事で

 制約がかかってくるものが有るの

 それに、封印術式も組み込まれたり

 まるで術式を隠しているみたいにね

 でも、何故それがわかったの?」


 へぇ・・そんな、封印があったのか

紫音の奴、そんな事一言も言わなかったが

それを、全て解いたのか?さすが私の息子だ。


「私は、専門じゃないからな、詳しくは知らんが

 3年ほど前に、これより完璧な

 召喚魔法陣を見た事があるだけだ。」


 紫音が言うのには、召喚魔法の中に存在する

次元に干渉できる魔法、その術式だがな。


「これより完璧だと!

 嘘を付くで無い、この研究所は、世界最先端じゃぞ。」


 じじぃの眼光に鋭さと怒りがにじみ出る。


「信じる信じないは、好きにしろ

 どうせ、お固い時代錯誤の頭じゃ理解できないだろ。」


「まって・・蘭、その召喚魔法はどこで見たの?」


「言えないね

 アレは奴の研究の成果だしな・・・

 ただ、言えるのは、あれは3年前だが

 奴は今のお前らの数歩先を進んでたな。」


「進んでたって?・・・今は?

 もしかして・・・召喚魔法の原理を解明したの?」


「さぁな、今の奴は音楽や道具、物造りを楽しんでいるから

 魔法の研究は最近してないな。」


「だれ・・・それは誰、お願い教えて、蘭

 これは、私達にとって、十士族にとって、重要なことなのよ!」


「無理だ!

 教える気はない。」


 蘭に縋るように、泣きつく百希だが

蘭の答えを聞いて、その人間の知識を奪いたいと、じじぃが動く。


「バカ娘が、そこまで言っておいて

 すんなり帰れるとでも思ったか。」


「私をどうにかする気か?

 じじぃも知ってるだろ、十士族でも私には手を出せない事を。」


「知ってはいるさ、だが、ヌシが襲われて

 ワレらが、匿っていると言えば

 上の阿呆どもは、どうにでもごまかせるわ

 こう見えて、長年六道の長 (おさ)をやっておらんからのぉ

 それに、ここは外と完全隔離してある研究室だ

 簡単に出れると思うなよ。」



 三千風蘭は、かつて【記憶の移植】と言う研究をしていた。

今では禁忌とされ研究することを禁止され

その資料の全てを破棄、処分されたが

それは、世界の権力者が喉から手が出るほどの研究であり

その、全ての研究に置ける情報を知る、三千風蘭は

あらゆる組織から、狙われる存在となった。


 そして、その知識を悪用されない為

三千風蘭は、最重要危険人物として

十士族の名で守られていた。


 だからこそ、十士族の内の、3士族が

大山の調査

(これは、八知の名から、正式に依頼しているもので

 十士族にも書類が送られ、受理されている。)

から帰る途中

何者かに三千風蘭が襲われて、助けるために

もっとも安全な自分達(3士族)のところで

匿っていると言えば、理屈は通るのだ。


 それなら、安全確保の為と言って

1ヶ月くらいなら、この場に監禁できると踏む。


 そして、この六道源山は

三千風蘭と八知百希の、性格や関係をよく知っていた。


 アレ(蘭)は決して、公の場で3士族が、自分を監禁したとは言わない

ワシが独断でやったとしても

口に出してしまえば責任は3士族に掛かってくる

この場には八知を名乗る百希がいるのだ

アレ(蘭)は、友人(百希)を悪人にして

自分が助かりたいと思うような人間ではない。


 どうせ、ふてぶてしい態度で

何も語りはしないのだろう。

 そう3年ほど前のあの時と同様に。


 だからこそ、ワシには都合が良いと言うものよ

じゃじゃ馬猿よ、知ってることを全て吐いてもらうぞ!



 六道源山は、その眼光を輝かせながら

口角を上げ嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 六道源山の言葉で、緊張が走る。



 この施設の研究者にとって

新しい情報を知る、蘭は逃したくない存在なのだ。

 だからこそ誰も蘭を助けようとはしない

人知れず、一つしかない出入り口は完全に電子ロックされ

研究員達は、蘭が暴れた時の為に、息をのみ身構えていく。


 百希は、緊張でつばを飲んだ。


 六道先生は、本当の蘭を知らないから

そんな馬鹿げた事を言えるのよ。


 多少喧嘩の強い、じゃじゃ馬娘だと思っているだろうけど

達人とは言わないけど、タイマン(1対1)勝負なら

十士族の戦闘部隊の部隊長クラスの力があるのよ。


 それに、科学魔法の天才科学者(本物のキチガイ)よ

戦えば全員ボコボコにされて

笑いながら外にでていくわよ、その女は・・・。


 だが、百希の目には、全く動じない蘭の姿が写る。



「ふ~ん、そう?

 だから頭が固いって言うのよ。」


「蘭、驚かないのね・・・・。」


「ん?何?

 どこに驚く事があるの?

 でも、そうね、じじぃは死ねばいいけど

 このままでは、百希がかわいそうね。」


「?」


 蘭は無造作に、ポケットから携帯電話を取り出す。


 仕事用ではない、家族や友人専用に使っている

プライベート用の携帯電話である

それで、メインモニターに映し出された、魔法陣をカメラに収める。


「蘭・・何をする気?」


「あぁ、そこに写っている魔法陣を奴に見せようと思ってね。」


「これは、士族の極秘の研究なのよ?」


「だけど、このまま研究が進まなければ、困るのはそっちだろ?」


 その返答は、誰も出来なかった

首を縦に振れば、自分達の無能を認め

首を横に振れば、貴重な情報を断ることになるのだ。


 蘭は撮った画像を、携帯で送ろうとするが

 「ん?電波が通じないのか?」


「ここは、完全隔離してある地下施設よ、電話の類はつかえないわ。」


「そう、まぁ、私には関係ないな。」


 蘭は、少し携帯を操作し、電話を掛け、携帯電話を耳に当てる。


誰しもが、無駄な行為と感じ取っただろう。



********



 その頃、三千風家では

鈴が、蘭に電話をし、電波が通じない事で驚き

もしかしたら、蘭の身に何か起こったんじゃないかと

紫音に告げていた。


 紫音も、多少気になり

リルに、自分の携帯を出してもらい

蘭に連絡を取ろうとした時

紫音の携帯が鳴るのだった。


 「タッタカター」と陽気に鳴る音楽。


 携帯の画面に映るのは

電話を掛けてきた場所の上空からの地図と

その緯度経度だけであった。


 誰からか分からない電話ではあるが

これは、紫音が作り上げた

地脈を通して通話ができる様にした伝達方式

地脈を介して、その位置情報はデータとして送られ

携帯に入っている、紫音が作ったアプリによって

計算され緯度経度が算出され

リルが転移しやすいように

その位置の上空映像と緯度経度が

モニターに映し出される。


 今現在これを搭載している、改造携帯電話は

紫音の携帯と蘭の携帯のみであり

紫音の携帯に、繋がってきたと言うことは

発信者は蘭のみである。


 紫音は、画面表示をリルに見せる

その横で、画面を覗き込んだ、7:3メガネ。


「リル、この場所に蘭さんがいるから行ってみてくれ。」

「待ってください

 少し拡大しますね

 やっぱりここは、十士族の八知が管理する研究施設ですね

 この遅い時間ですし、何かのトラブルかもしれませんね?

 多分、いる場所は地下10メートル近くに有る極秘の研究施設

 ある程度警戒したほうが良さそうです。」


 リルは「わかりました」と頷くと、姿を消した。

 そして心配そうな鈴に紫音は。


「まぁ心配するな

 あの携帯で地脈を使った連絡方法を使ってきたんだ

 アレは蘭さんしか扱えないからな、まだ無事だ

 それにリルが向かったんだ

 世界が滅びたって、蘭さんは帰ってくるさ。」


 小さく頷く鈴。


「電話でるから、皆は音たてるなよー。」


 紫音は携帯を操作し電話にでる。


「モシモーーーーシ、ワタシ、リカチャン

 トモダチニ、ナッテネ」



********



 蘭は、地脈を使った電話を掛けるが

実際、名古屋から自宅に居るだろう紫音までの距離はかなりな物で

静岡のマンションに、中継基地兼、地脈伝達用のブースターを咬ませているが

本当に届くか不安な反面、あのバカ紫音の事だ

大丈夫だろうと、うすら笑いでしばし待つ。


 飛び出し音が止まり、聞こえてきたのは

ボイスチャンジャーを使ったような、高い声で。


「モシモーーーーシ、ワタシ、リカチャン

 トモダチニ、ナッテネ」


「バカか!お前は!」


「バッカデーーーース」


 その時、蘭に念話が届く。


『蘭さん、紫音様のご命令で、こちらに参りました

 お側に待機していますので

 何かありましたら、お呼びください。』


『リルか、早かったな。』


『あと、紫音様が後で蘭さんに用事があるそうです。』


『わかった。』


「まって蘭、なんで電話ができるの?」と百希。


「ん?まぁ、このバカが作った【アプリ】を使えば

 どこであろうと、電話できるからな。」


「いったい、どんな・・・蘭それを」

              「無理だ!」


 悔しそうな百希。


「おい、バカ」


「バッカデーーーーーース」


「それは、もういい

 お前まだ、召喚魔法の術式とか覚えているか?」


「ショウカンマホウ?」


「そうだな、コレを見て、意見が聞きたい。」


 蘭は携帯をスピーカーにし、カメラを起動させると

大きなモニターに映った、召喚魔法陣を写す。



********



 紫音の携帯に撮された魔法陣

小さいので、映像データをリビングのテレビに飛ばす。


 マイクの音声をカットし

その上で、スキルで音を遮断する。


「こりゃひどいな、ぐじゃぐじゃじゃねぇか

 鈴、お前の方が詳しいだろ?どう思う?」


「う~~ん・・学校の資料には無かった魔法陣だね

 私の知らない刻印とかもあるし

 結構新しい時代の魔法陣かな?

 これって、どの術式の研究なんだろ?

 術式を解析しようとしてるのは分かるけど

 どれも結構破損してるよね。」


「まぁ

 元々の術式が完全な形で残ってる方が珍しいしな

 それに召喚魔法陣の提供者が

 あのギャル子(元魔王【サモンマスター・ギャルコレル】)

 でない限り、まともな魔法陣はないだろうし

 俺ですら、召喚魔法の分析には苦労したんだ

 十士族の無能どもに解るはずがないだろ

 で、そのへんどうなんだ?

 7:3メガネ?」


「そうですね、召喚魔法と八知で思い浮かぶのは

 十士族の【三成】【六道】【八知】

 国から出ている3士族の極秘研究でしょうかね?

 以前、お伝えした通り

 研究課題は、異世界に通じるゲート

 異世界の物資、魔法魔術等の知識の収集目的ですね。」


「ん?」

 首をかしげ、考える紫音に

その答えを、おしえるのは鈴だった。


「うん、無理だね、

 使用目的の根本が違うから

 召喚魔法を、どう書き換えようが

 異世界に出入りできる門を作ることは出来ないし

 それ以前に異世界に行くことは出来ないよ。」


「ダヨネェーーー。」


「リルなら、出入りできるけど・・・。」


「ダヨナァ~~~。」


つくづく、リルのチート性能を感じる2人だった。


 7:3メガネにしてみれば、紫音も鈴も十分チートなどだ

いまさら、リルのチートを、どうこう言うつもりはない。


 マリアにしてみれば、どうでもいい事だ。


 ただ、アリスにしてみれば

普通に十士族の名前が出るし

それも、3士族の極秘研究?

召喚魔法?術式?

本気でヤバめな事を、聞いてしまったと

そして、この人間達は何者なのだと

何時もの用に、紫音にツッコミを入れたいが

変人紫音が、何時もの変人じゃない為

つっこみも入れれず、冷静を装って無言で息をする。



********



「で、どうなんだ?」


「ソウダネー

 ソノ、マホウジン、ジュツシキノ、ハソンガ、オオイイネ

 マホウジント、シテノ、キノウハ、スルダロウケド

 ホンライノ、セイノウハ、デナイネ」


「軽く見ただけでだと!」


じじぃの眉が釣り上がる。


「ソンナ、デキソコナイノ、マホウジンヲ、ケンキュウ、スルナンテ

 ソコニハ、ムノウ、バッカリダネ

 ソレデ、ミチカゼランハカセ

 コノ、バカデーーースニ、ナニヲ、キキタインダイ?」


「そうだな、こいつらは、召喚魔法を研究しているんだ

 お前の知識を教えろとは、言わんが

 何か、ヒントの様な物はないか?」


「ヒント?・・・・・・

 ソウダネ、ソコニアル、4ツノ、マホウジンニ、イエル、コトハ

 アタラシイ、ジダイノ、マホウジンガ、タダシイトハ、イエナイ

 ダケド、フルキ、マホウジンガ、タダシイトモ、イワナイ」


新しい召喚魔法ほど、手が加えられて違う形に成っているし

だが、古き魔法は、召喚魔法の用な次元に干渉する魔法すら存在しない

その元となった、魔術形式を知れば、自ずと答えは出るものでるが

そこに辿り着く事は、無能には出来ないと確信している紫音

そして、そこに辿り着いた時には、分かるだろう

この魔法式では、異世界にいけない事を

もしも、召喚魔法で異世界に行けるのなら

ギャルコレルは、初めから異世界転移を成功させていると。

 そして、とても小さな、無意味なヒントを教えるのだった。


「なんだと、新しい魔法陣は、改良されより良くなっているのではないのか?」

「古い術式に何かあるのか?」

「いや、古い魔法陣が、正しいとも言わないとも言ってるぞ?」

「どういうことだ?」


 研究員達は、小さな声でコソコソと話し出した。

 そして笑うように蘭は

「まぁ、自分で考えろって事だな。」と言い放つと


「ソウ、ジブンデ、カンガエロ

 ソノ、マホウジンハ、ケンキュウノ、シッパイサク

 ホンライノ、ケンキュウセイカ、デナイモノヲ、ダサレテモ

 コタエヨウモナイ。」


「ほう、そういう事か

 研究成果の失敗作を見せられていたって事か

 私は専門ではないが

 舐められたもんだな。」


「蘭、これは(六道)先生が・・。」


「だが、ここまでだ」


「まて!」


 六道源山は、蘭を呼び止め

キーボードを叩くと、ある1つの魔法陣と2つの魔術式をモニターに移す。


「その電波の向こうにおる、ヌシよ

 コレを見て、何を思う!」


「ヘェ、イジゲンカンショウノ、マジュツシキカ」


 一気に、ざわつく研究室。


「イジゲンショウカンマホウノ、ケンキュウ、シテルナラ

 ソレガ、モクテキ、ダロウガ、60テン、アカテンダナ」


 六道源山の両目が見開く。


「知っていおるのか?

 完全な次元干渉魔術式を!!」


「ムノウナリ!ミツナリ!

 ムノウナリ!ロクドウ!

 ムノウナリ!ヤチ!

 ムノウナリ!ミチカゼラン!」


「オイ!私もか!」


「蘭・・・私達の事を教えたの?

 それに、その人は、本当に知ってるの?

 完全な異次元に干渉できる魔法式を?」


 電話が通じてから、蘭の名前以外一切人物名を言わず

自分達の正体を隠してきた研究所の人間達

それを言い当てた、電話の相手に意識を向ける。


「ふん、あのバカなら

 それくらいの情報は、知ってて当たり前だろ?

 驚くほどじゃない

 お前らが、驚くとすれば、このバカはな

 独学で、3年以上前には

 すでに召喚魔法から次元干渉魔術式を

 導き出していた事だろな。」


「独学だと嘘をいうな!!」

「ありえない!」

「独学で?バカな・・・」

「なぜ、それを発表しない!」


「あのバカは、表の世界に興味は無いらしいからな

 そうだろバカ!」


「バッカデーーーース

 キョウミ、ナイ、デーーーース」


「と、いう事だ、ありがとうよ、バカ、もういいぞ」


「ソレデ、ミチカゼラン、コレカラ

 アル、ジッケンヲスルンダガ、クルカ?」


「実験?」


「ニューロンネットワークニ、オケル、キオク

 イチド、キロクサレタ、リョウイキノ、キオクダガ

 ソノ、ニンゲンノ、ジカンヲ、マキモドスト?

 ソノ、キロクハ?」


「なるほど、前に言っていたアレか

 面白そうな、実験体 (モルモット)が手に入ったのか

 百希達には悪いが

 私はこれで、帰る事にするよ。」


 蘭は、通話を切ると

体を出口に向けると、歩き出した。


「またんか!

 三千風!

 帰れると思ってか

 アレは誰だ!

 全て吐いてもらうぞ!!

 それに、時間を巻き戻すとは、何の事だ!!」


 六道源山は、その右手を蘭に伸ばし

それ以上進むなら、魔法を使うぞと

その行動で、蘭を脅迫するも

その、静止も聞かず

歩みを止めない蘭は


「じじぃか、古き師に質問だ

 【魔法】とはなんだ?」


「きまっておろう

 簡単に言えば、科学がもたらす現象、それは」


 蘭は長くなりそうな、じじぃの言葉を遮り。


「無能なり!ってな

 太古の時代から今のコノ時まで【魔法】って奴は

 なに1つ変わっていないさ

 それは、【未知の科学】【洗練された技術】

 そして【おちゃめな手品】だろ。」


 そして、固く閉ざされたドアの前に立つ。

じじぃや百希に背を向け、両腕を開きその手を広げる。



 これこそが【おちゃめな手品】と言わんばかりに

そこに現れた、2本のトンファーを握る。


 くるくると、軽く回転させると

そのまま、両腕を振りながらトンファーを回転させ

笑うように扉に攻撃していく。


 流れる様にトンファーを振り回す姿は

まるで洗礼された舞を踊る様に、見るもの視線を釘付けにしていく。


 厚さ15cmはある、強化プラッチックの扉

大型魔法の衝撃にも耐えれる代物である

それが、まるで発泡スチロールの様に無残に削られていく

直径1メートル程の大穴を開けると

蘭は、百希達に背を向けたまま動きを止めた。


 静かに再び両腕を広げ

手に持っていたトンファーを手放す

トンファーは蘭の手から離れると

少し落ちた所で、その存在を消した


 誰しもが音を立てる事なく

その芸術に息を呑む。


 蘭は首だけを回し、八知百希と視線を合わすと。


「百希、またな!」


そして膝下まである、白衣を揺らし穴の奥へと消えてく。


 警報は、その気高き姿に心を奪われていたのか

今まさに、正気を取り戻したかのように、その雄叫びをあげた。


 蘭の姿、その行動は、研究者達にとって

まさに【魔法】そのものだった。


物質を出現させた【手品】の様な現実

卓越された攻撃は【洗練された技術】

扉を破壊した、その魔法はまさに【未知の科学】


 それを、その目で見てしまった、六道源山と三成大河


「探せ!あのバカ猿を、絶対逃がすな!」と六道。


「絶対捕まえてください、研究所から出られると

 十士族協定で守られた、三千風博士に

 二度と魔法の事を聞けないかもしれません。」


 警報も鳴り、警備の人間や

3士族に使える護衛の人間が動き出す。


 その人間達は十秒ほどで、地下の研究施設に到着するが

だれも、三千風蘭の姿を目撃したもの居ない。


 警備室から送られた声は

「3階のロビーに、博士だと思われる人影を確認」

それによって、動き出す警備

 驚く百希は

「どうやって?

 まだ1分も経ってないのに・・・

 3階のロビーまで

 そうか、あそこには応接室が、蘭の荷物がそこにあるから

 取りに行ったのね・・・。」


 慌ただしくなる、研究所全体

それこそ半年前に侵入者が入ったことで

気合を入れ直した、警備体制は冷静で

尚且つ動きが早かった。


 モニターに映し出された、応接室

そこに入ってくる、三千風蘭

荷物を確認すると、テーブルの上にあったガラスの灰皿を手に取り

カメラに視線を送り、軽く手を振ると

カメラに灰皿を投げつけ、カメラを壊す

そこで、映像は絶たれた。


 その直後であろう、応接室に突入した警備員が言った言葉は。

「誰も・・・居ません」

そして、その後どのカメラにも蘭の姿は映らず

研究所では全ての出入り口を封鎖し

数時間にも及ぶ、捜索をしたにも関わらず

その後の蘭の形跡は一切発見できなかった。


 まさに、手品、イリュージョン

研究所員の1人が口にした

有りもしない魔法・・・・

【転移魔法】

その、バカげた言葉に、六道源山は、鼻で笑う。



 

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