28話 それからの三千風家・ステーキ争奪戦
三千風家の玄関前に転移してくる人間が居た。
1人は、態度のデカイ男・蓮。
1人は、無邪気に笑う女・ミカ。
1人は、リーゼントを携える男・鉄雄。
1人は、全身鎧で鉄雄に担がれる女・アリス。
1人は、美少女を名乗って恥ずかしい少女・鈴。
1人は、作者のマスコット・胡桃。
1人は、冷静に装うが、いきなりの転移で真っ青な女・シスター。
一風変わった7人だが、誰にも気づかれず転移を終えた。
そして、鈴の指示で
玄関先で軽く服の汚れを落とす面々
適当に服を叩いたり、汚れた上着を脱いだりと。
だがミカに至っては、その場で革のライダースーツの
前面にあるチャックを、おヘソの下までさげ
ノーブラのまま、ライダースーツを脱ごうとしたものだから
鈴は大いに慌て、ミカの生乳を両手で掴んだ事は
蓮と鉄雄を大いに笑わかせた。
そんな事もあり
鈴は、疲れた顔で玄関を開けて
お客を招き入れるのだった。
「鈴、アリス寝かすのに、ソファー借りるぞ。」
「うん、それで・・・」
鉄雄に返事をしたものの
鈴の視線は、リビングで立ったまま動かない
紺色の修道服を着るシスターに向けられ
一瞬考え込む。
(てっちゃんが連れてきたんだから
信用しても良いって事だよね?
判んないけど、皆仮面脱いで、素顔見せてるし
ま・・・・・いっか。)
「私は、鈴、あなたの名前を教えてもらえますか?」
「オーガスト・・・・
エクレーシア(教会)・・・・
エクレーシア、ハ、教会、皆ワタシ、呼ブ、オーガスト・・」
その言葉に、反応を示したのは鉄雄だった。
「ん?それは本当の名前か?
女性の名前じゃないだろ?
なんか違和感が・・?
ん?違和感?
なんで?・・・
あ、違和感ってわかるか?」
鉄雄は、どこかで聞いた事のある単語に
ふと頭をねじる。
違和感と言われ、ただ1人それに気づく鈴。
「あ・・・8月?」
鈴以外誰も、オーガストが8月だと気づかない
それでも中学生かと言いたい鈴である・・・・。
「イワカン?ソレ、ワカラナイ・・・
教会、連レテ行カレタ、8月
ワタシ、ズット、ソレカラ、オーガスト」
「ん~~~(連れて行かれた?
詳しい話は、まぁいいや)
本当の名前聞いていい?」
シスターは、その碧い瞳をつぶり
少し考え、口にする。
「サ・・・【サラ】・・・・」
「サラさん?うん、すてきな名前ですね
サラさんよろしくね」
鈴は、サラにニッコリと微笑む。
「サラさんか、いい名前じゃないか
俺は、鉄雄、こっちのは妹の胡桃だ!」
鉄雄の陰に隠れる、胡桃は顔を半分覗かせて、小さく頭を下げる。
「ミカだよ~~~~~」
ミカは、サラに両手を振り笑いながら声を掛ける。
そして、蓮が動く。
「俺は、蓮だ、確か二つ名は【エア・マスター】だったか
その足が治ったのなら、さっきの続き・・・・・・」
蓮は言葉を止め、サラを睨む。
その圧力に、冷静を装うサラだが
鉄雄は、青い顔で、やせ我慢をする、サラをみて無言で笑う。
そんな鉄雄の視線も感じながら、蓮は
「は・・・今度だ
宮守にも言いたい事があるが
今は、腹が減った、鈴!肉だ!」
そこには、音を殺して、静かに息を吐くサラの姿があった。
そして、台所で冷蔵庫の中身を確認する鈴は。
「う~ん・・・・焼肉用の肉は、カルビが2キロだけしか・・・。」
(焼肉をするにしても、カルビが2キロしかない・・・
サーロインも2キロ有るけど
あれは、焼肉をするには勿体無い気がするし
リルが居れば、虚数空間にストックがいっぱい有るんだけど
紫音の所行ったから、いつ戻って来るか分かんないか・・・
後は、アレの練習用の特売品の肉しか・・・。)
鉄雄は、リビング中央テーブルの椅子に座ると
悩む鈴に声を掛ける。
「鈴、肉が無いなら、こないだのステーキは?」
「あれは、まだ試作段階中で
てっちゃんや、くーちゃんに試食をしてもらうのはいいけど
お客さんに出せるレベルの料理でないのよ。」
「ティオーノ先輩、鈴はああ言ってるが
ステーキでいいだろ?」
「あぁ、いきなり来たんだ、ステーキでいいぞ
肉なら文句は言わんが、食える程度には美味いのを頼むぞ。」
この時、蓮はさほど考えて答えなかった。
(試作中のステーキ?肉を焼くだけではないのか?)くらいである。
そして
(宮守はああいっているし、鈴の料理なら、そんなに不味くは無いだろう)
程度であった。
「え・・・・・と
サラさんは、牛肉食べれる?」
宗教上の理由で肉が食べれないとか?あるのかと
とりあえず聞いてみる。
未だに、リビングで一人で立つサラは
呼ばれ慣れていないのか、少し驚くが、静かに頷く。
「ミカさんも、ステーキで・・・いいよね?」
そこには、すでに、小さく
「ステーキ!ステーキ!ステーキ!」と嬉しそうに口ずさみ
体を揺らす、ミカの姿があるのだ、聞くだけ野暮である。
「私とくーちゃんは要らないから
ステーキ4人前ね、すぐできるけど
小腹すいたなら、テーブルの上の夜食でも食べてて。」
そこには、簡単なサンドイッチが用意してあり
鉄雄に至っては、すでに口に運んでいた
そして、何かに気づいたように。
「そうだ、ミカさんお願いが」
「ん~~~?なにかな~?テツっち」
体を揺らしながら、頭の上に【?】を浮かべるミカ。
「この家、飲みもんが無いだけど
いや、有るけど、ジュースが無いだよ。」
「ん?」
「なんで、ミカさんの家 (トコ)から
コーラを持ってきてもらえる?」
ミカは、蓮に視線を送ると。
「俺の分も含め、10本ほど持ってきとけ。」
「いってくる~~。」
「ジュースが無くて、悪かったね!」
「いやいや、俺はお茶でいいが
ティオーノ先輩は、お茶や紅茶って感じじゃないだろ?
こないだ、あそこの冷蔵庫覗いたら、ジュースだらけで
全部炭酸だったし。」
「・・・・うん、私も見た、あれには、さすがにびっくりした。」
「サラさんは・・・・飲み物何がいいですか?」
鈴達の会話を聞いていたのか、サラは「紅茶」と答えた。
鈴は、胡桃に紅茶を入れるようにお願いすると
台所の奥に入っていく。
そこは、パントリーではあるが
紫音の手が加えられた、鈴のテリトリーでもある。
そこで、巨大冷蔵庫からある物を取り出し台所に戻る。
台所に戻ってき、シンクの上に置いたのは
【本日の特売品】のシールが貼られた、お肉の塊が2つ
それも【30%OFF】のシールも貼り付けてあると言う
鈴が隠し持っていた秘蔵の一品でもあった。
それを目にし、眉を上げる蓮。
(安物の肉だと・・・・・。)
その一方、鉄雄は気にもしない。
「とりあえず、試作中だから
あまり期待しないでくださいね。
すぐ焼けるから、てっちゃんはテーブルの移動
くーちゃんは、お茶の準備と
ステーキ用お皿とナイフとフォークお願い」
鉄雄は、すでに戻ってきていた、ミカと一緒に
リビングのテーブルを、台所のカウンターに引っ付ける。
蓮は無言で椅子をテーブルまで移動させ、それに座る。
ミカは、蓮の隣を確保し座る。
鉄雄は、椅子を2個移動させ
一人立っている、サラを台所に近い方の椅子に座らせ
その隣に鉄雄が座る。
その間に、胡桃は、サラにハーブティーを差し出すと
台所でステーキ用のお皿や、ナイフやフォークを準備する。
その間に鈴は、軽くお肉の下ごしらえ終え
付け合せの、ポテトサラダと人参、ブロッコリーの準備を終える。
そして、鉄板を2枚重ねた
不思議な形をしたフライパンを取り出すと
すでに下準備を終えた
厚み3cmに切り分けた肉を2枚の鉄板に挟む。
鈴は、フライパンを包む球体結界を作ると
それに魔力を込めていく。
それを見た蓮。
「なに?魔力で焼くのか?」
「う~ん・・・説明は難しんだけど
魔力で熱したフライパンで焼くって感じですね。」
「そんな話、初めて聞くぞ。」
「うん、多分私にしかできないと思いますよ。」
すでにその存在や焼き方を知る鉄雄は
「あぁ、あの焼き方は変態が思い付いて
鈴と2人で、あのフライパン作ったらしいぞ
ある意味、革命的なフライパンだが
扱えるのは鈴だけだろうな。」
「なぜだ?」
「私の場合だけなんだけど
魔力調整で、フライパンの温度を一定に出来るんです
それに、この厚みの肉だと表面を焼いて
その後で、中に火を通す為に、少し寝かさないと、なんだけど
それだと、ステーキの表面温度が下がってしまうの・・です
だから、表面を焼きながら
肉の内部に温度調節点を200個ほど作って温度をコントロールしながら
ミディアムレアに焼くんです
口に含んだ時に、肉汁が湧き出るようにね
その為に微妙な温度変化を感知する為の結界なのです」
妙な話し方に蓮は。
「鈴、いつも言ってるが、普通に話せばいいぞ。」
「でも、、やっぱり、緊張します。」
「まぁ好きにすればいいが
ほぼ意味がわからんな
だいたい俺は料理をするきもないしな。」
「説明はしましたけど、ほぼ紫音の受け売りだし
このフライパンも試作段階で
料理方法もこれから、試行錯誤しないとなんですよね。」
3人のやり取りを聞いて
鈴をガン見したのは、サラであり
鈴の言った意味を理解し、その有り得ない事実に驚いたのだった。
鈴が肉を焼き出して1分ほど
会話をしているうちに1枚のステーキが焼きあがる。
そして、それを胡桃が用意していた
ステーキ用の鉄板の皿に乗せると
付け合せのサラダを合わせ
胡桃に声を掛け、運んでもらう。
そして、鈴は2枚めの肉を焼き始める。
胡桃が、1枚めのステーキを運んだ場所は【サラ】の前である。
「オイ!」
蓮の声で、胡桃は驚き、鉄雄の背に隠れる。
どうかしたのと鈴
「はい?」
蓮は少し怒った様に。
「なんで、そいつが先なんだ!
まずは俺に出すべきだろうが!!」
「なんでって?
蓮さんも、お客さんだけど
サラさんは、初めて会った【友達】だし
サラさんが、一番年上なんだから
一番初めに料理を出すのが当たり前でしょ?」
そう、見た目には、20前後に見えるサラ
色は白く、碧い瞳が印象的だが外人特有の大人っぽさを差し引いても
鈴や、蓮より年上なのは、だれがどう見ても分かることである。
そして鈴は何か間違ってるの?と言わんばかりに答えるが。
蓮にとってみれば
自分がこの場に居る誰よりも立場が上であり
もっとも、もてなしを受けるべき人物だと疑わない。
そして、何よりも
ゴーレム戦で多少なり、鬱憤は発散したが
戦えど、戦えど、戦うことすらできず
貯めた苛立ちは大きく
ゴーレムすら圧倒した剣技、そして倒した功績も
ミカのド派手な魔法によって、陰に霞んだ。
そして、自分にたいして
安物の肉を使う鈴に対しても苛立ちを感じていたからこそ。
蓮は機嫌が悪い!
そこに、どうでいいような、役にも立たない女に
自分より先に、食事を出されたものだから
蓮が、キレそうになるのは、必然であり
紫音流に言うならば
「もっとも自己中で頭が固くて理不尽な存在」である。
「鈴!俺が誰だか分かって言ってるのか?」
「蓮さんは、桜のお兄さんで、紫音の友人
それ以上でも、それ以下でもありませんよ?」
「鈴!お前は知ってるだろ
俺が、誰かなのを!
そして、俺が生きてきた年月もな!」
そう、転生してきたとは言え
前世の記憶を持ってこの世界に生まれ落ちた魔王であり
あの世界では、圧倒的な支配者である、8人の魔王の1人である。
そしてその魂は、あの世界で1000年を超え生きた男でもある。
鈴は、それを知る数少ない人間の1人でもあるが
鈴にとって、前世で魔王であろうが
魂に記憶された年月が1000年を越えようとも・・・。
「知ってますが、私には関係ありません。」
「知ってて、関係ないとは、どういうことだ!
俺様を、なめているのか!
鈴!あやまるのなら今だぞ!
俺を本気で怒らすつもりか!」
「おこらす・・・・?」
(怒ってるのは私
誰が偉かろうと、私には関係ないし
もてなす順番や、優先する人物は私が決める
それは、年長者だったり、年端もいかない子供だったりするけど
蘭さんや、紫音、(鈴蘭の料理の)師匠から教わった大事な事
きっとここに、あそこ(造船ドック)に居た鷲尾さんがいても
私は絶対、蓮さんより先に彼に料理を運ぶし
皆に楽しい時間をすごして欲しいのに
サラさんが、青い顔して怯えてる・・・・
蓮さんが怖くて、料理が食べれないじゃない!)
鈴は手元のフライパンの結界を固定する
それは、時間固定でもあり、結界内の時間を止めたのだ
その事に気づいたのは鉄雄。
(おい・・・鈴が、料理を・・調理中に手を止めたぞ
マジで、怒ってないかこれ・・・
ティオーノ先輩、さっさと謝らないと・・・
本気で後悔するぞ・・・。)
そして胡桃は、静かに鉄雄の陰に隠れる。
蓮と鈴の間に火花が散り
静けさと共に緊張が高鳴り
まるで一触即発の間。
鈴は静かに息を吸う。
鉄雄は、次に鈴が口にするだろう言葉を想像し
その天変地異を超える、恐ろしさに
頭の上のリーゼントが震え縮こまる。
そして、鈴は宣言する。
「蓮さん、ご飯抜きです!」
プチン!!
「あ!
だれが!いるか!
お願いされても、食べてやるものか!!
気分が悪い!
ミカ!!帰るぞ!」
(あぁ~~~あ・・・・・・。)と鉄雄。
(れんさん・・・・かわいそう
もう二度と、りんちゃんに、ご飯作ってもらえない・・・。)と胡桃。
「・・・・・・・・・」
鈴が焼く、自分のステーキを待ちわび
テーブルの上に、立てる様にフォークとナイフを握り込む
ウキウキでヨダレを垂らすミカは
静かに蓮から視線を逸らすのだった




