26話 紫音、イケメンを勧誘してみる・・・。
「つかえねぇぇぇーーーーーー!」
紫音の叫びは小さな部屋で反響する。
そして「はぁ~~~~~~」と、ため息をつく。
(速見さんが、後始末をしないなら
誰がするんだっちゅうねん!・・・・ん?
いるじゃないか、こっそり覗いてる奴が!)
「おい『マリア!』いるんだろ?」
・・・・・・・・
「返事無しか、なら温泉の話も無しな。」
「ちょ!!ひどいっす!
そうやって、毎回毎回脅迫するのは、ひきょうっすよ!」
言葉と共現れた女性。
胸の半分から上から肩を出した、露出度高めの黒のロングドレス
左の足元から太ももの上、腰まであるスリットから覗く
白い肌の太ももに目が行くの気のせいにして欲しい訳だが。
いかんせん、完璧なプロポーション
それに、エロいドレス(俺が作ったわけだが)
それに似合わない
【撲殺少女いのりちゃん】の仮面を被る
残念な女、それこそが【マリア】であった。
「さっさと出てこないからだ
それに、ズット覗いてただろう
俺が死にそうになっても出てこないってどういう事だよ!」
「え~~~~~
メガネっちが
「こっちの段取りがありますから
ひょっとこが死んでも放置でお願いします」
って言ったっすから、笑いながら見てたっすよ。
ついでに言うとっすね
12時(深夜0時)にお嬢の謹慎が解けるっす
そしたら、この場所に来て
死んだひょっとこの兄貴や
無残に切り刻まれた、あの洋服を見て
キレて、世界を滅ぼすかもしれないっすから
11時50分まで姿を隠して待機して
時間が来たら、即効で証拠隠滅
兄貴を含め全て消しされって話だったすけど
予定より早く、お嬢が来てるみたいっすね」
「俺も消しされってか?
7:3メガネの野郎、後で・・・
いや、お前に、アレの後始末をさせようと思ってたんだが
こうなったら、7:3メガネにアレの後始末をさせたる。」
「さすがに、アレの後始末は、あたいも嫌っす
あの白い液体が、ひょっとこの兄貴のだったら
あたいも、お嬢も喜んでするっすけど・・・・
あ、やっぱ、兄貴のでも無理っすね!
あたいは、こう見えて綺麗好きなんすから
あんな汚いの無理っす。」
とても、とても、とっても嫌そうに答える、マリアである
「そういう事で、7:3メガネ連れてこい」
「おっけっす!」
マリアはシオンに投げキッスを飛ばすと、その場から消えた。
コハクに潰されている速見は、紫音達の会話について行けい。
それは、現状と全く関係ない言葉が飛び交っていたからである
(【温泉】?【謹慎】?なんの事だ?
いやまて、そんな事より、ひょっとこ仮面の死?
それは紫音君の死と言う事じゃないのか?
紫音君は自分の死すら計画に入れていたのか?
なぜ?彼はそこまでするんだ?
今回の事に首を突っ込んで、彼の利になる事が有るのか?
それとも、実験といっていたが?そのために?
有り得ない、それは現状での事であって
それを予想することは無理だ。
くそ、いったい何がどうなって、こんな事になっているんだ
俺は小宮に捕まって、拷問を受けていた途中からの記憶が曖昧だ
精神系の魔法と、自白剤か何かを射たれた所までは記憶があるが
今の状況が、何一つ理解できないぞ・・・・。)
さすがに「世界を滅ぼす」はスルーする速見。
だが、現状が理解できないのは確かであり
状況を確認し少しでも情報を得ようと
子猫に潰されたまま周囲を確認するのだった。
そして速見の前に新しく現れた人物が表れる。
それは、マリアが転移で連れてきた背広姿の男だが・・・・・。
その姿を目にした紫音は。
「ぷ、ハッハッハハハハ!!
何てカッコしてんだよ。」
「なんてカッコって・・・・
貴方に言われたくないですね
まったく裸に、ひょっとこ、赤いフンドシ
どこの宴会会場から抜け出してきたんですか
だいたい、私はいきなり、来いって連れてこられたんですよ
用意も何もしてないっていうのに・・・」
「俺か?カッコイイだろ!
メガネも、さほどかわらねぇじゃねえかよ!!」
新しく現れた男は両手で頭に有った物を
カサカサと動かす。
「変態と一緒にしないでほしいものです
私の姿は、仕方なしです
さっきも言いましたが
いきなり現れて
腕を掴まれて「いくっすよ」ですよ
だいたい私は貴方達みたいに
自分用の仮面を持っていませんので
手元にあった、紙袋をかぶったんですよ
おかげで、茶色い紙袋に眼鏡と言う
シュールな見た目になってしまいましたがね」
黒の革靴
濃紺の背広の上下に
白色のシャツ
ネクタイは、水色ストライプ
首から下は【ザ!サラリーマン】であるが
首から上はと言うと
俗に言う茶封筒色の紙袋を被り
目の部分に穴を開け、メガネを紙袋に差し込んだ変人である
そして、紙袋に穴を開けて眼鏡を差し込んだ為
位置が微妙にずれて、気になるのか
会話中も何度も眼鏡の位置を直す
そう、この男は、7:3メガネ・・・
いや、紙袋メガネこと、井門圭人であり
紫音の唯一と言ってもいい、たった1人の部下である。
「いや、俺的には10回くらい「イイネ!」を押したい気分だ!」
(てか、メガネをして紙袋被ればいいのに
わざわざ紙袋の上からメガネをする意味は?
面白いからいいけどね。)
「で、私の上司であり、雇い主の変態さんが
か弱い私に何の用ですか?」
井門は半分諦め声で、皮肉をもじって会話を続けるのだが。
「ふふん!わかってるじゃないか!
俺、上司で雇い主、その上、変態だ!!
だから、俺は、とてつもなく偉そうに
おとうちゃんに命令するのさ」
「また、どんな無理難題を・・・
とりあえず貴方の、おとうちゃんでは無いですが
私で出来る事ならしますよ」
紫音は、ある場所を両手で指差し、首を45度ほど倒し、嬉しそうな声で告げる。
「アレを綺麗にする、簡単な、お仕事です」
井門は、それが、すでに確認していた女性達の事だと
視線を向けるまでもなく理解し。
「そんな事で・・・」
「あぁ、あんな汚いの俺は触りたくない
そして、速見さんにお願いしようと思ったんだけど
断られたんだよ。」
「そちらで、彼 (コハクさん)の下敷きになっているのは
速見幸一さんですか、なぜ?そんな格好に?
あぁ、聞くだけ無駄ですかね。」
速見の上に、コハクが居ることから犯人は紫音しかおらず
聞くだけ無駄だと判断する。
「ググググッググガガガガァァガガ。」
「すいませんね、速見さんの拘束を緩めてもらえますか?」
「にゃぁ~。」
コハクは、速見の拘束を緩めると
床に倒れたままだが、口がきけるくらいは拘束が緩む。
「ぐは!!」
「こんばんわ、初めまして速見幸一さん。」
井門は軽く挨拶をして
どうせ変態が何かやらかしたのだろうから
謝って、解放しようかと声をかけたのだが。
「誰か知らんが!そいつを止めろ!
彼女達を使って実験をするとかいうんだ
そんな事は、絶対させてはいけない。」
いきなり捲し立てる速見
そして、実験という変態が大好きな【ワード】が出るのだった。
「実験ですか?」
井門の視線は、紫音に向くが
その実験の内容は井門には分からないが
どうせ、バカな事を考えているに違いないのだろうが
最終的な結果は、井門にも想像は付く。
「ん?するだろ実験?
でも
汚くて触る気がしない
速見さんに頼んだ
断られた!
ビッチにさせようと思った
呼んだら
メガネが俺を殺す算段してたって聞いた
腹いせにメガネさせる!」
紫音は、偉そうに変な言い回しをしながら、これまでの経緯を話す。
「もしかして、腹いせに私を呼んだんですか?」
「そんな事はどうでもいい!!
彼を止めてくれ、彼女達にこれ以上辱めを与えないでくれ
たのむ・・・。」
井門は、速見と紫音の顔を交互に見るわたすと
一度息を吐き、額に手を当てると、紙袋が、ガサガサと潰れる
そして、それを直しながら。
「どうして、この人は・・・
まぁ、何をするのか知りませんが
私も実験には賛成ですので
速見幸一さんには賛同しかねます
すいませんね、また潰れてください。」
井門は、コハクに向けて手を向け、すこし下ろす
それを理解した、コハクは速見の拘束を強める。
速見は再び声も出せない状況に陥るが
その視線は紫音とメガネの男に固定された。
「あたいも、賛成に一票っすね
失敗したら、アレを両方とも貰うっすよん!」
「ちょ・・・俺が失敗するとでも?」
「面白いこと言うっすね
成功する方が珍しいと言うのにっすか?」
「おいおい!面白いことを言うな
失敗してこその実験だろ?
だから、失敗は失敗とは言わないんだよ
あれは実験の過程で起きる・・・・・
そう!ミスだ・・・だから断じて失敗ではない
1000回ミスしても、最後に成功すれば
成功率100%な訳だ!」
紫音は腰に手を当て大いに笑う。
「なら、ミスったら、アレ貰うっすよ」
「ミスだと!
俺がミスをすると思っているのか!」
「するっすね
成功するために、1000回はミスをするっすね
そのまえに一度でも成功をした事が有るのか聞きたいっすね。」
「失敗こそ、成功の母である
失敗における副産物こそ、俺の想像を超える成功となるのだ!」
紫音とマリアが、言い合う中
その内容を聞く速見は、コハクのしたで藻掻く。
(成功しないだと!
失敗にミス・・・・冗談じゃないぞ!
紫音君の実験とやらが成功する試しもなく
彼女達を、その実験とやらに使うというのか!)
だが、速見は身動きもできず
意味不明の力に、自身の無力さを感じるのだった。
井門にしてみれば
実験が成功しても、失敗しても、ミスしても
最後の結果は想像できるのだから
それまでの過程など、どうでもイイ事であり
自分に与えられた仕事をするだけである。
(さて、キレイにするにも
ここでは、何もないから移動するしか・・・
事務所に行っても風呂もないし
やはり、私の部屋になるのか・・・・。)
「楽しそうに遊んでいる所申し訳ありませんが
ここから移動しても?
キレイにするにも、この建物には水が通じてませんので
場所を変えたいのですが?」
「あぁ、場所は何処でもいいが
ギンが戻ってくるまで、ん?帰ってきたな」
「コン!」
「それでは場所は、私の部屋に
彼女達2人は、そのまま風呂場に
私達は玄関にでも
ちなみに先ほどの彼女も居ますよ。」
「ほう、ちょうどいいな
なら、行く前に最後の仕事をするか。」
紫音は、移動する事を念話でリルに伝え
今後の行動を伝える、と言っても
リルからのラブコール(念話)は常に届いていた
その中には、造船ドックでの出来事も1%ほど含まれていた
そして、その都度紫音は大雑把出会ったが支持をしていた。
その中には、鉄雄がやらかした、シスターの対応や
アリスに対する、武器の貸出や、意思加速の覚醒など
その都度会話をしていたのだった。
そして、最後の仕事をする為に動き出す。
紫音は速見が倒れる場所まで来ると腰を下げ。
「さて、速見さん、聞きたいことがあるんだが。」
コハクに潰されたまま、速見は紫音を睨む。
そんな事気にもせず、すこし楽しそうな声で
あるフレーズを口にする。
「俺に雇われないか?」
「ガァァァァァーーーーー」
「コハク」
その声で、速見の拘束が緩む
「君は・・・・この後に及んで・・・・」
「ん?
今だからだろ?
実験をした後だと、答えが変わるかもだからな
実験をする前だからこそ
今、聞くんだ!
そして、これが最後の勧誘かな
返事はどっちでもいい、断ってもどうするつもりもないし
ただ!
首を縦に振ったなら、こき使う!」
紫音は嬉しそうに、声のトーンを上げる
それに入ってくるのは、井門である。
「私からの助言としては、断ったほうがいいですよ
まるで生き地獄ですよ、朝から晩までこき使われて
その上、こっちの言うことは聞かないし。」
「オイ、メガネなんてことを言うんだ
俺は優しいぞ。」
「事実を言ったまでですよ
本音を言えば、私もすぐさま部下を辞めたいものです。」
「前にも言ったと思うけど
辞めたいなら何時でも辞めていいぞ。」
「貴方が変態を辞めたら、辞めますよ。」
「無理だな。」
「なら、辞めませんよ。」
井門は辞める気など有りはしないし
紫音にしてみれば、井門が辞める訳が無いのは分かってる。
だが、井門に居なくなられて一番困るのは
紫音自身でもある事は、紫音が一番分かってもいた。
「ならメガネも速見さんを説得しろよ
とりえず、メガネの下に付いてもらうつもりだし。」
井門はその言葉で一気に態度を変える
それは、自分と関係無い所で速見が動く物だと思っていたのに
まさかの自分の部下である。
それは、あの地獄の苦しみから抜け出せると言うものである
ならば、ここはどうにでも首を縦に振らせたい井門である。
「速見さん、首を縦に振ってください
仕事は簡単、給金は望むまま
危険な仕事なんてありません
彼に雇われたなら
遊んで暮らせる天国の様な暮らしができますよ。」
「流石だなメガネ・・・・。」
「なかなかの変わり身っすね、メガネっち。」
「それを今更聞いて、俺が頷くとでも思ってるのか!」
井門は、最後の手段にでる。
「これは、もしもの話ですけど
あの変態に実験を辞めさせて
速見幸一さんに彼女達を任せても?」
「人間を物の用に扱う、彼には付いていけない!」
「まぁ、それで仲間に入るって言われても
俺は、実験を辞める気はないけどね」
井門は、深くため息をすると。
「なんでそう、この変態は、今を取るんでしょうかね
和解して、仲間に入れてから、楽しめばいいものを」
「紙袋メガネ、お前はバカか?
俺の時間は有限だ、今が楽しければいいのさ
後の事なんか知ったこっちゃねぇよ」
紫音にとって、どっちに転ぼうがイイ事である。
速見が仲間になれば、それはそれで面白そうであり
仲間にならなければ、それはそれで、この紙袋メガネの事だ
すでに何かしら手を打っているだろうと判断する。
そして井門は、紫音の言葉に
何が真実の言葉であるのか判断し
そして照れ隠しの為、嘯 (うそぶ)いてまで
暴言を吐く紫音の性格を理解していた
「そういう事にしておきますよ
では、速見幸一さん
あなたは私達に組さないと言うことでよろしいですか?」
「あぁ、君達が何者かは知らないが
君達の仲間になんかなる気はない!
それに彼女達には、手を出すな!」
それを聞いた紫音は立ち上がり。
「やっぱ、カッコイイな速見さん。」
「イケメンっすね」
「さすがカッコイイですね、羨ましい限りです
だからこそ残念ですね。
では、最後に一言だけ。
力無き者は、ヒーローを夢見る事はできても
ヒーローにはなれませんよ。
仕事は、どこまでいっても仕事ですよ
そこに貴方の目指す物は無い事はすでに理解しているのでしょう?
ヒーローになりたいのなら別の道で力を蓄える事をおすすめします
では、最後は変態に締めてもらいましょうか。」
速見はコハクに抑えられた状態で藻掻いていたが
井門の言葉は速見の心の大事な場所に突き刺さる。
それは、速見が心の奥底に隠してきた迷いや不安や焦り
その全てを見透かされた様な一言だったからだ。
「俺か?
ん~~・・・・
俺は自分の言った事を変える気はないし
約束したことは無理を通してもヤルさ
その為に世界の理を捻じ曲げてもね。」
紫音は、速見を見下ろし、楽しそうに口にするのだった。
ただ、紫音の後ろで、マリアと井門が・・・。
「うわぁ・・
嘘っすね、約束なんて、3秒で忘れるっすからね。」
「まったくです、言う事も、コロコロ変えますし
こっちの身にもなってほしいですよ。」
「ホントっすよね
おかげで、お嬢の居ない間に温泉に行く約束が
こんな【ドッキリ】の為に、ドタキャンされたんすよ。」
マリアは、床に突き立てられていた、プラカードをクルリと回し、井門に見せる。
「また、この人は、しょうもない事を・・・・・。」
マリアは隠れて見ていた為
この【ドッキリ】のプラカードの、いきさつを知っているが
井門は知らない、だが、紫音の性格を熟知している井門
どうせ、ふざけて何かをやらかした事だけは理解した。
ただ・・・・・・・・・。
速見にとって、それは大事件である。
マリアが、見せたプラカード
そこには【ドッキリ!大成功!】の文字が
そして会話から、それは紫音が画策した事だと判断したのだ。
だが、現状の状況も何もかも判断がつかない速見にとって
どこから、どこまでが、嘘に紛れた出来事だったのか?
何が本当で、何が嘘だったのかさえ解らない。
ただ、紫音が誰かを騙し罠にハメ、ドッキリを仕掛けたとしか・・・
それの犠牲が、彼女達であったのだと・・・・
そして、そんなドッキリの為に
彼女達を悲惨な目に合わした紫音に怒りを燃やすのだった。
だが、そんなこと知る由もない紫音は、笑いながら。
「しょうもないから面白いんだ!
でもそのお陰で、赤頭の駄魔王の怒った姿が見れたしな!
よっしゃぁぁぁーーーー帰るぞーーーーー
てっしゅーーーーーーーーーーー!!!!!」
速見の目の前で、紫音が消えた。
黒のドレスを着る、いのりちゃんの仮面の女性も消えた。
背広姿の、紙袋を被る男も消えた。
そして、いつの間にか、拉致された、矢吹の妹とその友人も消えていた。
背中にいる、【こはく】と呼ばれた、ネコは・・・・消えない。
速見は拘束されたまま、声にでない声で叫ぶ。
(なんでだぁぁーーーーーーーーーーーー)




