25話 イケメン、回復する
鉄雄が【魔物ボール】から【ストーンゴーレム】を呼び出し
そのゴーレムと、蓮が戦いを開始した頃
紫音はと言うと・・・・・・・。
結構、暇を持て余していた。
「テツが・・・逝ったもうた・・・・
って、ギン!なんでテツまで飛ばすんだよ。」
紫音の視線の高さに合わせ空中に浮かぶ
子猫サイズの、コハクの背に乗る、10cmサイズノギンは
まるで(なに?私が悪いことでもしたの?)と言わんばかりに
「コン!」と返事をする。
「いや、そんなこと言ったってな。」
「コン!コココン!」
「いや、わかるんだよ、ギンさん
その方が、面白そうってのはさ。」
「コン!」と、ドヤ顔のギン。
ちなみに、紫音はギンが何を言っているのか理解していない。
そして、すでにこの部屋に設置してあった
中継用カメラは停止してあり、造船ドック側で
映し出されていた映像は消えていた
だが、造船ドックで戦っている、蓮やミカの映像は
紫音がいる部屋のモニターに今もまだ映し出されている。
「まぁいいや、あっちには
鈴に、くるみ、アリスも居るし・・・
あぁ・・・レンの奴、怒ってるなぁ・・・
あの調子だと、俺も後で、ブツブツ言われそうだし・・・
よし!、テツには人身御供になってもらおう
うん、それがいい!そうしよう!」
「コン!」
「にゃぁ!」
「そうか、お前達もそう思うか
ギン!さっきは悪かったな
よくやった!ハッハッハ!褒めてつかわす。」
ギンは、ぬいぐるみの大きさのまま
小さな鼻先を、ツンと持ち上げ、嬉しそうに
「コン!」と鳴いた。
造船ドックの戦いとは違い、緊張感も何も無い紫音
それもそのはず、この部屋には
すでに警戒するべき事は何もないのだ。
この部屋に居るのは
紫音と、コハク、ギン、それ以外は
混乱し頭を抱え、訳の分からない事を呟く小宮
気絶している、カメラを操作していた、小宮の部下
薬物を投与され、すでに再起不能となった、速見
拉致されたあげく、集団レイプされた、2人の女性
1人はすでに息はない
もう一人の女性も、すでに死ぬ寸前であった。
そんな状況化で、何に警戒しろと言う話なのだが
常識では有り得ないだろう状況で
平然と、使い魔とじゃれあっている
裸に赤フンドシの男が異常であるのだ。
紫音は、周りを見渡すと
おもちゃを発見する
いや、オモチャと言う【イケメン】ある。
「ギン、あれを回復してくれ。」
ギンは速見の前に、ピョコンと飛んでいくと
何かしらの魔法を使う、それは紫音の知らない魔法である
紫音も薬物に関して、かなりの知識はあるが
ギンはその上を行く。
ギンの使った魔法は、イケメンを回復する
速見の体から完全に薬物を取り除き
その上、薬物で破壊された体を、脳神経までも回復させる。
その間に、コハクは子猫の状態のまま
速見にトコトコと近づき
その前足の肉球で、速見を拘束していた、ロープを破壊する。
紫音はギンが速見を回復したのを確認すると
即座に身構えるが・・・・・数秒。
だが、すぐには速見の精神は回復しなかった
何かの反動か分からないが
不自然に、頭を前後に、カクン・カクンと揺らす。
紫音は緊張し、変な動きを繰り返す速見の動きを見いる
イケメンの反応に驚いた訳でもなく、見とれている訳ではない
ただ単に、すぐ起きると思ったのに起きなかった為
速見の寝起きにぶつける、渾身の一発ギャグを準備したまま
待ち続けていただけである。
渾身の一発ギャグ
それを口にする前から、半笑いの紫音だが
どんだけ、待とうが速見は起きない・・・・。
「ちょ・・・起きろよ
めちゃウケのギャグが・・・・・」
そんな言葉を溢していると、鉄雄からの念話で
『ギンを少し貸してくれ』と
ギンに、その旨を伝えると、ギンは転移していく。
そして紫音は造船ドックの映像に目をやり
状況を確認していくが
そのタイミングで、速見が覚醒する。
「ここは・・?」
「マジか?」
(タイミングを外した・・・・
寝起き一発目でないと、笑いが・・・・)
「し(おん君)・・・・・いや、君 (きみ)は、ここで・・・
いや、俺は、小宮に、いや、なんで此処に小宮が!」
まだ、少し混乱気味の速見
現状が理解出来ないのは当たり前であり
この状況を想像できる人間などいないが
目の前に、相変わらずの姿の変態と
気が狂ったように、うめき声を上げる小宮が居たのなら
驚くなと言うのが無理である。
「小宮?あぁ・・・・」
紫音の視線が小宮に向く。
(あぁ、頭抱えて、白目むいて
なんだこいつ、思いのほか楽しそうだな
ん?こいつ
このまま、奴らの組織に返したほうが面白いかも?)
「まぁ、きにするな
奴を見ろよ、とっても楽しそうじゃないか!」
「あ・・・あれを、楽しそうだと言うつもりか!!」
速見は、睨むように紫音を見るが
他人の視線を気にする紫音ではない。
「あ、そうだ、速見さん。」
「・・・俺の方が、聞きたいことが有るんだが。」
「まぁ、それは後で聞くよ
なぁ速見さん、とりあえず、俺の仲間にならないか?」
「は?」キョトンした声をだす、速見。
「ん?」その反応に、すこし驚く紫音。
「え?」聴き直したいが、聴き直していいものかと、速見。
「お?」面白そうなので、「お?」で反応する、紫音。
「・・・・・・・・・。」なんか、バカにされていそうで無言になる、速見。
「・・・・・・・・。」無言の反応に、どうしようか悩む、紫音。
「・・・・・・・。」紫音の反応に、どうしようか悩む、速見。
「・・・・・・。」どうしようか悩む、紫音。
「・・・・・。」どうしようか悩む、速見。
「・・・・。」どうしようか悩む、紫音。
「・・・。」どうしようか悩む、速見。
「・・。」どうしようか悩む、紫音。
「・。」どうしようか悩む、速見。
先に「・」がなくなったのが・・・・・・
いや折れたのは紫音だった・・・。
「前にも言ったろ?
俺に雇われてみないかって?」
拉致が明かないので、仕方なく話を進めるハメになる紫音だった。
「そ・・・それは、聞いたが
今、それを話すことなのか?」
速見の表情は、困惑と迷いを繰り返し
その心境は「意味が解らない」であった。
「・・・いやぁ、身内じゃない奴に
あの後始末を頼むのは、気が引けて・・・・。」
紫音は左手で、速見の右手を指差すのだった。
そこには、ベットに横たわる、裸の女性の死体
床には、申し訳なさそうに息をしている、死体寸前の裸の女性。
そんな2人の姿を目の辺りにした速見は・・・・。
「か・・・・彼女達は
な・・・・・・・・・・ぜ・・・・・。」
速見は、驚きと共に
その2人の女性が、拉致された矢吹の妹と、その友人だと気がついたのだ
そして、ベットの上で息をしていない女性こそが
【矢吹美織 (やぶきみおり)】だと・・・・。
本人は気が付いていないだろうが
速見の頬に涙が流れだす
ただ、守れなかったと
それも、男達のオモチャとなって
無念の、・・・・・・。
いや、言葉では言い表せないほどの苦しみの中で
死んでいったに違いないと
そして、もう1人の彼女も
もう息を止めるだろうと・・・。
両膝を付き
胸の前に出した両手を震わせ
一人静かに、涙を流す・・・・・・・。
******
速見、その幼少期は悲惨であった。
思い悩んだあげく、3回行った自殺、その全ては、奇跡と言う神のイタズラで生還する。
そんな速見に、ある転機が有った。
いつしか、弱い存在を守る為に、その人生を使うのは必然であったに違いない。
だが、若き日の速見は、その力も、その方法も、知る手段はない。
そして、【SSS】に拾われ数年、速見は自分と言う物を作り上げる。
過去の自分の様な【弱き存在の味方になると】。
守るのではない、味方になると。
救うのではない、味方になると。
それは、幼き頃もっとも自分が望んだ存在でもあった。
簡単に思える信念だが経験と言うものは残酷であり、それを行う事の難しさを速見は知る。
今ではさらに【SSS】での立場や、更なる大いなる権力に逆らえず、小さな世界に閉じ込められていた。
だが、幼少期の苦しみに比べれば、そんなことは些細な事だと、速見は自身の信念を今もなお持ち続ける。
*******
震える指の隙間から、こぼれ落ちる信念、そして守るべき存在。
速見の信念は、今回も貫けなかった。
「いやぁ、さすがの俺も、アレの後始末は躊躇う。
だけど、あのままでは、何も出来んし
けど、触りたくない!」
紫音の言葉は耳に入るが
視線を向けようともせず、歯を食いしばる速見。
「俺はしたくない事は
人にやらす!
だけど、ここには、俺以外で動けるのは速見さんしかいない
で、速見さんにしてもらおうと思ってね。
だけど、速見さんも、アレの後始末するの嫌だろ?
だから、俺に雇われれば、俺が命令できる
そしたら、無理やりやらす!
速見さん雇える。
そして、後始末もできる。
俺頭いい!!」
「にゃぁ~~。」
腕組して、一人で「うんうん」と頷く紫音に
コハクは、鉄雄が床に突き立てた、プラカードの上で
紫音を褒めるように賛同するのだった。
「後始末・・・
彼女達をどうするつもりだ。
俺には死体であろうと、彼女を矢吹に届ける義務がる。」
「ん?
するだろ?
実験?
するにしても、汚いままでは、やる気起きないし
まずは、綺麗にしないと」
その言葉に速見は激怒する。
いきなり立ち上がり、紫音につめより
大きく手を振り、大声で怒鳴る。
「実験だと!!
何をするのかは知らないが
これ以上、彼女たちに恥ずかしめを受けろというのか!!」
「ん?
そんな事、俺の知ったことじゃねえし」
(速見の奴、意味の分からないことを言いやがる
死体であれ、使える物は使うだろ
いや、そうじゃないな
死体を使うなら
リルの虚数空間に、ストックはいっぱいある
ただ、全部むさい男なんだよな
どうせ実験するなら、美人の女がいい!
ちょうど、比較ように、まだ生きてる女も居るし
先延ばしにしていた実験をするのにちょうどいいだろ
うん、するだろ実験。
それにしても、辱めって?なんだ?
何か恥ずかしいことでも有るのか?)
紫音の疑問は尽きないが、
実験はする、そうきめたのだ
速見が何を言おうと、紫音は決行するだけである。
だが、速見はそれを許さない。
「やめろ!、彼女達は俺が連れて帰る!」
そう、言い切ると、速見は足を彼女達に向ける
「アホか!
邪魔すんな!
それじゃぁ実験できないだろ
めんどくせえな!
言う事聞かないなら、こっちにも考えがあんだよ
コハク!そいつを押さえとけ!」
【コハク】その名前らしき言葉を聞くと速見も反応する。
この部屋に居る人間は、2人だけであり
そこに、コハクと言う存在は居ない。
だが、速見はバカではない
紫音の傍には、説明できないだろう存在がいる。
それは、小さな妖精。
そして、仮面を被る女性。
そんな速見の常識を超える存在が居る事を知っていた。
だからこそ、紫音に向き直り、素手であったが
構えを取り、いきなり姿を現すだろう【コハク】と言う存在に対し
周囲全体を警戒する。
だが、その存在はすでに速見の目の前に、いや足元にいた。
「にゃぁ~~」の一声で
速見は、初めて子猫の存在に気づくのだった。
子猫は、その跳躍力で速見の腹部に飛び込んでくる。
速見は驚くが、反射神経なのか
飛び込んでくる子猫を両手で包み込むように腕をだすのだ。
差し出された両手の掌に、ちょこんと乗るコハク
そして、手招きするように、速見の腹部に
【むにゅ】っと、肉球を添えた。
その瞬間、速見の腹部が吹き飛ぶ
その威力は速見の体を半分に折り
勢いに耐えれない下半身も吹き飛び
後ろに吹き飛びながら、うつ伏せに倒れた。
「ぐぐぐぐ・・・・
なんだ、この猫は・・・。」
速見の体が吹き飛んだことで
支えを失い、音もなく綺麗に床に着地した、コハク。
そして、両手で腹を押さえたまま、うつ伏せ状態で倒れる速見は
顔だけを上げて、コハクを視界にいれた。
その子猫の向こうで、偉そうにふんぞり返る紫音は自慢げに。
「ふん!俺の子供の【コハク】君だ!」
「こ・・・こはくって・・・ネコ?だったのか・・・。
いや、この、パワー・・・・
猫じゃないだろう・・・
バケモノか・・・・。」
「コハクついでに、そいつ押さえとけ。」
コハクは、うつ伏せの速見の背中に、飛び乗ると
速見は、潰されたカエルのような、うめき声をあげる。
(体の自由が効かない
まるで、とてつもない力で、地面に押し付けられているような・・
くそ、なんだ、この子猫は)
紫音は、地面に這いつくばる速見を見て。
「つかえねぇぇーーーーーーーー!」
と叫ぶのだった。




