20話 もっとも理不尽な存在
造船ドックに居た、全員が空中に映し出されたモニターに視線を送っていた
それは、「てってけてーーーーーー」とな抜けな声と共に画面に映った男
その男が担いでいた、プラカードを見てしまったからだ
そこには大きく
【ドッキリ!大成功!】
と書かれていた
それこそ、今の今まで命のやり取りをしていた者にとっては
寝耳に水であろう、その驚きは余りにも大きく
ソレが指している意味が理解できず、ポカンと口を開けていた
だが、リル・鈴・胡桃の3人は・・・
リルは(コハク、ギンに続き、鉄雄さんまで抜けがけを・・・)
鈴は(また2人でバカやって、絶対に蘭さんに言いつけてやる!)
胡桃は(楽しそう)
と、それぞれだが、3人にとって
何時もの悪ノリ、さほど気にする事でもない
3人以外で一番早く我に帰ったのは、アリスであった
それは今日一日で、いや、この数時間でどれだけ驚いたか解らないアリス
耐性が付いたのかもしれないし
鉄雄との付き合いも長いのだ
鉄雄達の多少の無茶は織り込み済みだったのは確かである
「貴方・・・・それって、どういう意味よ!
全部嘘だったの!!」
だが怒るのは極めて正常な行動であるだろう
そして、アリスの叫びで我に返る蓮
「そうだ!どういう事だ!説明しろ!」
そんな2人の姿を、モニターに写る鉄雄は確認しするも
完全無視し、話を進めていく
「さて、皆さん、ご紹介しましょう
今回の仕掛け人である【ひょっとこ君】です
拍手~~~~~」
鉄雄は体を斜めにし斜め上に両手を突き出し拍手する
その腕を向けた方向であるモニター横から出てきたのは
先ほどまで、なかったはずの右手を振りながら出てくる
赤いフンドシとヒョットコの仮面だけの、裸に近い男の姿
出てきた男は、左手で頭を掻きながら照れくさそうに
「いやーーー、まさかここまで全員引っ掛かるとは思いませんでしたよ
みんな、単純で騙しがいが無いですよーー
とくにアノ、赤頭は単細胞の脳筋だから考える事しませんからねーー
何の疑問もなく、ここまで来たって感じですねーーー」
バチン!!と
蓮の周りの電気が大きく弾け
「俺様を騙していたのかぁぁぁぁ!!!!!」
そして無視して鉄雄はしゃべりだす
「それは、やはり役者が良かったからでは?
何人か出演されてましたが、やっぱり彼ですか!」
「そう、彼の活躍が大きいですね、迫真の演技
まるで本物の復讐者 (アベンジャー)と言っていい程の、あの殺気!
その辺の役者では無理でしたねーー」
「そう、今回の立役者!MVPの発表です」
「さぁ誰でしょうか!」
「MVPはこの人!小宮さんです」
鉄雄と紫音は、拍手で男を迎えると
大きな軍事用の義手を装備した小宮は満面の笑顔で現れた
「俺がMVPって本当かい」
紫音は肘で、小宮をツツキながら
「そりゃぁもう
俺の右腕を吹き飛ばした演技なんてすごかったですよ
あの鬼気迫る表情なんて
俺もマジで腕が吹き飛んだかと思いましたもん
さすがっすよ、小宮先生!」
「おぉ・・そうか
まぁな、こう見えても、学生時代は俳優を目指したこともあってな」
嬉しそうな小宮
「それで、あの演技!さっすがーーー」
「カンヌ行けますよ」
「助演男優賞もんですね」
「今からでも、俳優で第二の人生に!」
と、おだてる紫音と鉄雄
悪ノリさせれば、最強の2人である
乗せられて上機嫌な小宮
だが、小宮が仮面の男達と繋がっていた事など有り得ないと
鷲尾が叫ぶ
「小宮!正気を取り戻せ!
右腕を見ろ、その腕を吹き飛ばしたのは誰だ!
思い出せ、そこに居る、ひょっとこ男にやられたんだろうが!」
「鷲尾か?腕?・・・この腕は・・・なんだったか?
誰かに吹き飛ばされて」
小宮は、右腕を見て何かを思い出そうとする
腕を吹き飛ばし、かわいい部下達を殺した
憎っくき男を思い出そうとするが
目の前の、かわいい部下と被るのだ
記憶が曖昧であり、混沌とする記憶に頭を抱えだした
ヤバイ!ギンの魅力と記憶操作で
俺と、てつは小宮の部下で後輩って事で記憶にすり込んでいるが
ギンが知るわけがない、小宮の腕を吹き飛ばした記憶まで書き換えてなかった
「小宮先輩!それは、アレですよ
あの赤頭の仮面の男がやったんですよ!
あの赤頭に復讐するために、今回の事を仕組んだんですから!
ほら、あの赤頭の仮面の男
よく見てください、あの仮面の男を」
それに便乗する鉄雄
「あれですよ
わがままで、自分勝手で
自分が世界最強だと思ってる黒い仮面の男ですよ
口より手がでるタイプの人間なんですよ
それも加減をしらねぇ、あの男の突っ込みは凶器で殴られたのと同じ
よけなければ大怪我!全治一ヶ月、大概にしてくれって話でさぁ
まぁ、筋肉バカ?と言うか、バトル・ホリック?戦闘狂?
バカに付ける薬は無いっていうか
何でもかんでも、最後は力に物を言わせて自分の思い通りにする奴なんすよ
そして、みてください、あの憎たらしい仮面を
小宮先輩の復讐も兼ねて、ヤッちゃいましょうよ」
小宮は混乱のなか、虚ろな目で、蓮達を写すモニターに目をやると
「そ・・・・そうか・・・そうだったか?
そうだな、かわいいお前達が言うなら間違いは無いのだろう
復讐だ・・・あの仮面の男に復讐をしなければ・・・・」
そんな小宮を黙って見ている鷲尾でもなかった
「まて、小宮!
お前は操られているんだ!
正気を取り戻せ!
それでも【クレイジー・ベア】と呼ばれ
裏世界で恐れられた漢 (おとこ)か!
お前の意志の強さを見せろ
お前自身が復讐したい相手に操られてどうする」
小宮の一声【正気を取り戻せ】
その言葉に一番反応したのは蓮である
混乱している?あの様子だと催眠術か?
魔法の使えないシオンだが
なにせ変態だ!催眠術に近い物を使ってもおかしくは無いとは思うが
あの【ドッキリ】の意味はやはり。。
騙していた?俺をか?
ずっと騙されていた?いつからだ?
シオンの腕がある事から、あの映像も仕込みか?
映像処理やその加工・・・シオンの得意分野だな
それを分かっていたから、宮守は笑ったのか?
なら、この場所・・・
いや、あのメガネに唆され、ここに来たんだ
全てが仕込まれていた?
宮守もあちら側に居るし
あいつは初めから色々と知っていた風な態度だったな
初めから一枚咬んでいたと言う訳か
徐々に、シオンと鉄雄と井門の3人に怒りが湧いてくる蓮
その溜まっていく蓮の怒りは限界を迎えようとしていた
ソレを爆発させたのは鉄雄の言葉だった・・・
小宮が腕を無くしたシオンとの戦に関して、蓮は知りもしない
会話の内容から、腕を無くした原因はシオンだろうと予想はできる
それを自分に、なしりつけるシオンに対しても怒りが膨れ上がる・・・・が
それに便乗するように
鉄雄の蓮に対しての悪口が耳に入り
「そうか・・・・
よくわかったぞ、そんな風に俺を見ていたんだな
この前は、勝ちを譲ったが
アレが俺の本気だとは思っていないんだろうな
決着をつけてやる!
お前が言った通り、この力に物を言わせて、お前を叩き潰してやる!」
蓮の限界が爆発し
魔王であるオーラがにじみ出てくるのだった
「あれ?」
不思議がる鉄雄
何故?あのティオーノ先輩は怒ってるんだと紫音の顔を見ると
紫音は呆れた様に
「知らなかったのか?アレはお前が思っている以上に短気だぞ」
「いや、知ってるけど、なんで怒ってんだ?」
「お前が、単細胞とか、脳筋とか
雷魔法しか取り柄のない無駄魔王とか言うから・・・」
「ちょっとまて、それはお前が言った事だし
駄魔王って、それは思ってたが、まだ言ってない
俺がさっき言ったのは事実であって、怒らす様な事は言ってないぞ!」
「そりゃぁ、アレだ、自分の事をバカと言うけど
他人に馬鹿と言われると、理不尽に怒り出す自分勝手な奴
それの最たる存在が、アレだ
まぁ、昔と比べたら丸くはなったが、怒ると面倒だぞ
昔なら怒らすと都市1つ破壊すほどだったが
今なら町1つって所だろうな」
「割に合わねーーーー
よし小宮先輩、あいつ殺っちゃってください」
全てを小宮になしりつけようとする鉄雄だったが
「あ・・・あぁ・・・復讐を・・・
だがアレは・・鷲尾の相手であったはず・・・俺は・・・」
記憶の混乱が続く小宮
ギンの記憶操作をもう一度行えば済む事ではあるが
今から使えば、蓮に気づかれる恐れもあるし
その事や【ドッキリ】に蓮が突っ込まない事から
紫音は蓮が勝手に、見当違いな事を考え、勝手に理解したと踏んで
ほっとくのが一番だと考え
これ以上、下手に動く事をしない方が良いと判断する
「小宮はもう無理っぽいな」
「こいつ使えねぇーーーー」
「そうなると、使えそうなのは・・・お!ボール使えば?」
そう、ホワイト・ヘアが、黒い仮面用に用意した【魔物ボール】
それは今、鉄雄の手の中にあった
それは、楽しそうだと、半ギレの蓮など気にせず笑う
その頃、造船ドックでは、怒りに燃える蓮に
これはマジで、ヤバイ?かも?と
蓮から徐々に距離を開ける、鈴・胡桃・アリス
そして姿を隠したミカまでもが、逃げていく
そして、鷲尾達や【シスター】と呼ばれた女性は
雰囲気が一変し、まるで悪魔の様な禍々しいオーラを背負う黒仮面の男に
本能的に恐怖を感じ、全身に変な汗をかき
もう、モニターの小宮の事など、そっちのけで退避していく
そんな状況、場所が違う鉄雄には分かる訳がなく
「俺を叩き潰す?
前回俺に負けた無様な先輩がか?
俺だってアレが全力じゃぁねえよ
半分も力を出しちゃぁいねえさ
そんな先輩が、俺に再戦?ありえねぇぇぇーー」
「つべこべ言わず!ここへ、出てこい!」
「俺とやりたかったら
こいつを倒してからだ!」
鉄雄は左手に握っていた黒い【魔物ボール】をカメラに向けた
それを見た蓮は理解する
色は多少違うが、鷲尾達が持っていた
ワイバーンを召喚した、アイテムと同じ物だと
そして、それを持っていた宮守
肝心な時に、逃げ隠れして真面に戦っていない宮守と
たぶん俺の行動をモニターでチェクして笑っていただろうシオン
今回仕組まれた戦いにおいて、シオンと鉄雄が裏で動き
自分を騙していたと言う事実に確証を得るのだった
鉄雄は【魔物ボール】の上のボタンを押し込ねじる
そして、もう一度ボタンを押し込むと
小声で「ギン、コレを向こうに飛ばしてくれ!」と
それを聞き届けたギンは
空間転移を使い【ソレ】ごと転移させた
鉄雄の耳に残るのは、紫音の「あ!」と言う言葉
そして鉄雄の目の前に居る人物は
赤い髪を怒りと共に燃え上がらせる黒い仮面を被る漢の姿
足元には、鷲尾が使った魔物ボールが10個転がっていた
鉄雄は、ギンによって
鷲尾が魔物ボールを使った場所に、ボールと一緒に転移してきたのだ
「ちょっとマテ!話が違う!
なんで俺まで転移させるんだよ!」
モニターの紫音と姿の見えないギンに激を飛ばすが
すでに、紫音は逃げたらしく、画面には写っておらず
写っていたのは、頭を抱える小宮の姿だけであった
そして、目の前に現れたリーゼントの男に喰ってかかる蓮
「リーゼント、色々言ってくれたな!
本気で叩き潰してやる!!」
「チッ・・まぁいいや」
鉄雄は、小さく悪態を付き、左手の黒いボールを蓮に向けると
「君に決めた、出てこい・・・・・?」名前なんて知らねえや
それは有名なアニメのセリフであったが
セリフに続くモンスターの名前を叫ぼうにも
何が封印されているのかも知らない鉄雄
そのセリフは中途半端に終わったが
それに気づいたのは、ミカと紫音、そして胡桃だけだった
名前を叫ばなくても、モンスターは出現する
ボールは蓋が開きスライドし、大きな魔法陣が浮かび上がる
ワイバーンを召喚した魔法陣の倍はある大きさである
そして、大きな物体が蓮と鉄雄の間に出現した
小さく縮こまった、その体をほぐす様に立ち上がったのだった
それはどうにか人型の形を保ってはいたが
10メートル程の石の体を持つゴーレム
2階建ての建物ほどの高さがあり
大きな石が組み合わさって作られる屈強な体は
この世界の人間が、どうこうできる次元を超えていた
いや異世界の人間ですら単身で戦うのはむりであろう
経験豊富な冒険者PTでないと対峙することすら無謀と言える
異世界の魔物であった
ゴーレムに目や鼻、口と言う顔は無いが
頭らしき物を左右に振り周りを確認する素振りをすると
禍々しいオーラと魔力を放出する存在を見つけ敵と認識する
これが、ワイバーンの様に自我を持つ低級な魔物だったなら
蓮のオーラを見た瞬間逃げ出しただろう
だが、ゴーレムは自動人形のような物で
基本行動に基づき、命令された様に行動する
そこに自我も意思も心もない
ソレ故に、ゴーレムは、恐怖など知らない
ソレ故に、ゴーレムは、手加減を知らない
ソレ故に、ゴーレムは、相手を選ばない
ソレ故に、ゴーレムは、動く限り敵を粉砕するのみである
そして、ゴーレムの右腕が持ち上げられ
勢い良く蓮に振り下ろされるのだった




