15話 貴方達、何者よ・・・・・・
わっはっはっはっはっはは!!
一人の男の笑い声が
大きな空間に響いていく
ひとしきり笑い終えた鉄雄は
床に腰を下ろし両足を前に投げ出し
左手を身体の後ろで床に突き身体を支え
右手でマスクを押さえ呼吸を整える
そして鉄雄は気が付くのだ
その場に居る全員の視線が自分に集中している事に
そして、モニター向こうの男ですら
モニター向こうの自分達を移しているモニターだろう場所に
信じられないと言う顔で視線を落としていた事に
そして、周りを見渡した鉄雄は
そんな全員に声を掛ける
「ん?
どうしたんだ?
俺なんて見て何が面白い
俺よりあの変態を見ろよ
どう見ても俺より面白いだろ
もう、笑わずにはいられないだろう」
鉄雄はモニターに写る紫音を指差し笑いを堪えながら
テンポよく口ずさみ
無言の連中を見て
「まぁいいや
俺の事なんざ無視して
好き勝手始めてくれ
俺はもう1週間分は笑ったから疲れたし
なんかやりきった感がハンパねぇ
いやぁここ1年で一番面白かった!!
ありがとうよ小宮さんよ
じゃぁ俺は、これで帰るわ
いやぁいいもんが見れた
うん笑った笑った!ハッハッハ!」
言いたい事だけ話すと
ゆっくりと立ち上がり
お尻に付いたホコリを両手で払うと
両手を上にあげ、大きく身体を伸ばすと
誰も動こうとはせず
誰も口を開かない
そんな状況を不思議に思い
「あれ?
どうしたんだ?
俺の事は忘れて、話を進めていいぜ!」
鷲尾や小宮達は、あっけにとられていた
仲間をいたぶられ、笑い転げるとか
どんな精神をしているのかと
蓮はそんな鉄雄を見て
心底この男の感情が読めないと
自分ですら、シオンのあの姿を目の辺りにして
怒りが沸いてきたと言うのに
この男は笑ったのだ
そしてシオンを残して帰ろうとするとは
それでもこの世界の人間なのかと
義理人情は有るのかと
人間の血が流れているのかと
昔の自分の事を棚に上げ
目を細め鉄雄の在り方を見つめる
アリスは、見た事の無い鉄雄の姿に動揺していた
学園の小等部1学年から長い間、鉄雄の事を見てきたアリスは
鉄雄の性格をよく理解していた
鉄雄は物事を善悪の基準で判断しない
自身の中にある明確なルールに従うように行動する
それは相手が誰であろうとその信念は変らない
そう、相手が先輩であろうと
先生であろうと
警察であろうと
ヤクザであろうと
自身の信じる信念や友人の為なら
何にでも喧嘩を売る
ある意味、不器用な生き方をする人物だが
友人のあの姿を見て笑うような人間ではなかったはずであり
そして、全てを投げ出し放棄して
逃げ出すような真似をする人間ではなかった・・・
そして、目の前の彼は
演技をしているわけでもない
口から出る言葉も嘘偽りはない
長年、鉄雄だけを見続けてきたアリスだからこそ
その事を理解する
そして義理も人情も無い非道い態度をとる鉄雄が
自分の愛する人間だったのかと・・・・・・
フルフェイスの兜の中で涙し
鉄雄の背中を
バチーーーーーーーーーーーン
と、平手打ちし、鳴り響くその音に
我に帰った小宮は
こいつらの事など関係ないと動き出す
目的は復讐であり
ひょっとこ男の目の前で、この男の仲間を殺し
その絶望の中で、この男を殺す事だ
俺自身が味わった、苦痛と地獄を
この男に味あわせる事なのだと
そして、その衝撃で前に打ち出された鉄雄は
マスクの下で顔を苦痛に歪めながら背中に手をやる
「(テツ)あの変態も助けなさい
お願いではないわよ
命令よ!絶対に救い出しなさい!
今すぐに!!」
そのアリスの声は涙声ではあったが
強く厳しく大きな信念のある声であった
そして、そんな声を初めて聞いた鉄雄だった
そして、そんな声に蓮が反応する
「あぁそうだ!
あんな変態でもな
俺様の数少ない悪友だ
さっさと助け出さんとな
あの状態では、さすがの変態でも死ぬかもしれん
あの場所が分からん以上
あの鷲尾を捕まえて場所を吐かさないと
助け出せないからな
(ミーティアかミカが転移して助けにいけない)
『ティア、緊急事態だ、リルにすぐ来るように伝えろ』
(宮守)お前にも働いてもらうぞ」
そお言って、蓮も鉄雄の背中を叩こうとするのだったが
死角から来た、アリスより数倍速いその平手打ちを
鉄雄はひらりと躱す
「いやぁ、変態なんて助けるだけ無駄だと思おうんだがな・・」
「いったでしょ、命令よ
助けなさい!
どうせ貴方の事だから
あの場所も検討が付いてるのでしょ」
鉄雄は首だけを後ろに傾けると
リーゼントは力なく垂れ下がり
いやそうな顔で、アリスの言葉に答える
「ん?あぁ、だいたいはな
そもそも助ける必要なんて・・・」
小宮が、そんな会話に割って入る
「いい加減にしろ
これ以上、お前達に付き合うツモリは無い
鷲尾、さっさとそいつらを殺せ!
いや、さっさと【アレ】を使え!
その為のこの場所だろうが!」
そして、少し年老いた声が続く
ホワイト・ヘアと名乗った人物である
「ホワイト・イーグル
【ボール】の使用を許可する
そうすれば、奴等は自分達の無力さを痛感するだろう」
鷲尾の顔が歪む
(くそ・・・簡単にいいやがる
お前達は安全な場所から命令するだけでいいが
こちとら【アレ】を起動さすだけでも
命懸けなんだぞ・・・)
一度大きく息をはき覚悟を決め
鷲尾は後ろで並んで居た部下にアゴで命令する
それを感じ取った部下の1人が持っていた小さめのアタッシュケースを
鷲尾の前に持っていくと
その部下は無造作にソレを開ける
そこに有ったのは、直径5cmほどの10個のボール
クッション材に埋め込まれたそれは丁寧に並べられていた
鷲尾は一度、仮面の男達に視線を送り
「3人か・・・・・なら3個で・・・・」
そう小さく呟くと、左手で1個、右手に2個
計3個のボールを、ケースから取り出すと
動きを止め、視線をボールに落とす
上半分が青色下の色は黒
真上に白いボタンがあり
そこからボールの前面を示すように
白い矢印が描かれている
ボールを見つめる鷲尾の額に汗が流れる
鷲尾は思い出していたのだ
あの恐ろしい化け物の事を・・・・
あの時は、水晶だった
あの倉庫での作戦を統括していた高津
奴の不注意から、3個の水晶は大きな衝撃を受け
3匹の巨大な猿の化け物が現れ暴れだした
その時は、水晶を持参した、テンガロハットの侍が取り押さえ
(姿を消した、ユーリが魔物を操作したのは高峰しか知らない)
おとなしくなった魔物をトレーラーに押し込んだが
暴れだした魔物の異様は雰囲気と威圧感
見る者を恐怖に陥れる、その恐ろしさは、別次元のモノだった
そう、水晶に魔物を封じ込める?
最初は、そんな話は誰も信じていなかった
もとより、異世界の魔物、その存在はこの世界では常識である
だが、今現在確認されている異世界の魔物は
この世界の人間でも対応できる、いわば低級の魔物であった
小型動物系が主であり
強くても熊系等の魔物
大きくても3メートルも無かったのだ
だが、水晶から現れた化け物は
地面に拳を付いた状態で3メートルを越す
猿の化け物だったのだ
そんな魔物見たことも聞いたこともない
ましてや、それが3匹
水晶に封じ込めるとか常識的に有り得ない事実であった
今度は、前回の水晶と違い
あの化け物以上の魔物が
鷲尾の手にした【魔物ボール】に封じ込められていと言うのだ
これは小宮が、今回の件で、元アメリカ軍人の傭兵を通して
ユーリ達が所属する、アメリカの闇組織と取引をし
1個10万ドル、約1000万円、10個約1億で借り受けた
もし、2人の仮面の男(ひょっとこの仮面、黒の仮面)を殺せば
代金は無しでも良いと契約を交わした代物である
そして、前回と同じ間違いをしないように
和訳されたテキストを何度も読み返した鷲尾達
彼等が注目し、肝を冷やした一文がある
【魔物は操る事は出来ないので
魔物ボールのボタンを押した後
5秒以内に、隠れてください
見つかると襲われる可能性があります】
そう、見つかると無差別に攻撃を開始すると言うのだ
諸刃の剣どころではない
扱い方を間違えれば、自分が死ぬ
そんな【魔物ボール】を持つ鷲尾の両手が
緊張で汗をかき震えるのは仕方のない事でる
そして、部下達も、やはり、アノ魔物を封印したボールを使うのかと
緊張で汗を流し、ゆっくりと鷲尾の背後に集まりだすのだった
「いくぞ、準備はいいか?」
鷲尾は装着している、イヤホンマイクに小声で声を掛けると
鷲尾の背後にいた1人が緊張した声で
「準備おkです」と返事を返す
そして、返事がない相手に再度声を掛ける
「シスター!準備は?」
「OKダ!
デモ、ココ、広イ、スキル使イニクイ
頑張ルガ、タクサン、期待スルナ」
それは、女性独自の少し高く若い声であり
片言の日本語で発せられた言葉であった
「わかってる、こっちはこっちで動くが
もし出来ればいいという保険のようなもんだ
それより、シスターは最後の最後の切り札なんだ
自身の安全を最優先してくれ」
「ワカッタ」
鷲尾は【魔物ボール】を床に設置する
ボールに描かれている矢印の向きは
もちろん仮面の男達に向けてである
真上に設置された白いボタンを押し込み
そのまま右に捩りボタンを離すと
ボタンは青く光りだした
ここでもう一度ボタンを押して左に捩じれば
機動停止するが鷲尾は力強くボタンを押すと手を離す
ボタンは赤く光り、ゆっくりと点滅する
それは起動を確認した合図でもあった
ボールの上半分が微かに持ち上がり
口を開けるようにサイドに設けられた回転軸で前面部分が60度ほど開き
魔法陣が展開された
鷲尾は3個のボールが起動したことを確認すると
後ろに下がり部下と合流すると
事前に用意してあった、大きな布を被る
人の目から見れば、見え見えの、ただの目くらましだが
それで十分であった
起動した魔法陣からイナズマのような光が走り
空中でその大きな翼を広げ
大きな雄叫びを上げ
その赤い巨体を表したのだ
そう、猿の魔物どころではない
空を滑空する魔物が3匹現れたのだった
「ドラゴン・・・・」
「飛龍・・・・」
「ありえない・・・」
声を上げたり、震えて動けなくなったり
腰を抜かす鷲尾の部下達や、モニター向こうの小宮達
これには元アメリカ軍、軍事顧問までなった
【ホワイト・ヘア】であれ言葉を失ったが
その思考回路は休みなく働く
空を飛ぶドラゴン、過去の記述を思い出し興奮する
速度では戦闘機に敵 (かな)わないものの
機動力では戦闘機圧倒しうる存在
もしもドラゴン固有のブレスでも吐こうものなら
あのドラゴン1匹で一個師団・・・いやそれ以上
対空装備のない地上部隊相手では無敵ではないかと
空での戦いなら高速移動できる戦闘機に軍配が上がるだろう
だが市街戦での戦いなら、機動力の勝るドラゴンが有利
それに対抗できる存在は自分の知る限り無い
アレを1匹倒すのにどれだけの戦力が必要になるのかと
想像するだけで口元が緩む
そんな存在が10匹そして、それ以上の奥の手が1匹
向かう所敵なしだと確信するが
ただ、それが制御不能という致命的な欠点がある
【魔物ボール】を操作すれば再び、ボールの中に戻るのだが
制御不能で敵味方関係なしで攻撃するのなら
それこそ使用場所は限られてくる
今回の様に
味方が全員姿を隠せる状況
敵が圧倒的に強い状況だったり
小規模でありながら、完全不利の状況
死を覚悟した玉砕覚悟の状況
そして、もっとも効果的な使用方法は
味方が居ない状況での
敵本拠地の奇襲
都市殲滅、無差別の殺害、テロ・・・
と、考えは尽きはしないのだが
これを所有する
アメリカ本国の裏組織と手を結ぶ得体の知れない組織
アメリカは・・・・世界は理解してしているのか?
こんな魔物を所有し
1匹10万ドルという破格の値段で貸し付けれる組織の存在を
どう考えても、所有する魔物の数は100を超えるだろう
もしも、あのドラゴンを1000匹所有し
それを意のままに操れるのなら、世界を変えれると
国の1つなら軽く落とす事は可能であり
今はまだ、アメリカの裏組織と手を結んでいるが
今後、世界最大国家アメリカにとって
最悪の相手になる可能性を想像する
だがそんな想像を繰り広げる、ホワイトヘヤや
鷲尾・小宮達の驚きの時間は
更なる驚きで上書きされることとなる
空中に現れた3匹の魔物
いきなり現れた為か、狭苦しい室内の為か
動きにキレはなく、何か戸惑っているように感じられるが
それでも、圧倒的存在感は変わる事はない
大きな叫びをあげる光景は
それは仲間の存在を確認しあっているかのようだった
だが
そんな3匹に落雷が直撃し
地上に落ちていく光景は誰が想像できただろうか・・
*********
鉄雄達の目の前に突然現れた3匹の魔物
アリスは言葉を失い
無意識に一歩二歩と後ずさりするのだった
鉄雄は腕を組み
何かに感心したように首を小さく何度も縦に振りながら
「へぇ~
ドラドン?
色からして、ファイヤードラゴンか、レッドドラゴンってトコか?」
「この世界のドラゴンがどの定義なのかは知らんが
あれはただの【ワイバーン】だぞ
それにしても、鷲尾だったか、奴はイイな
どこまでも俺を楽しませてくれる」
嬉しそうに語る蓮
「あぁ、あそこに隠れてる奴な
隠れるって事は、魔物を操れないのか?
まぁいいや、ワイバーンだっけか?
アレは、こないだ戦ったとか言う
猿のバケモンと、どっちが強いんだ?」
「猿か・・・
単純なパワーなら、猿だろうが・・
空を飛べると言うことは、それだけで戦闘力は跳ね上がるぞ
それに、あの赤い体は炎の属性を持ってるな
属性を持つワイバーンは、属性に沿った【ブレス】を吐く
飛行しそこからの、遠隔攻撃ができるんだ
この世界の人間では、普通に考えれば対処出来んだろうな」
「そうだな、ナイト様も空を飛べないとかほざきやがった」
アリスの首が、グリンと回り鉄雄をその視界にいれる
ありえないでしょ空を飛ぶなんて・・・
「鎧女の癖に空も飛べんのか
まぁ、俺も飛べんから、それは良いとしよう」
どんな目で見てたのよ
騎士が空を飛べる訳がないでしょ
先輩も飛べないんだったら文句を言わないでよ・・
まぁ、飛べたら飛べたらで、驚くけどね
「先輩も飛べないのかよ
なら、あれどうすんだ?」
そうよ、あんな物に襲われたらどうするのよ
ま・・・守ってあげるけど・・・
本物の魔物とか、戦ったことにゃいわよ私・・・
かんじゃった・・・
「そうだな、セオリーなら
遠距離攻撃で翼を攻撃し地上に落とすんだが
奴らが持ってる豆粒の銃では傷も付けれんぞ
そうといってもこの世界の科学魔法がどこまで効果あるかも分からんが
まぁ、2人がやってみろ」
やってみろって?何をいってるの?
「先輩よ、自慢するようで悪いが
俺は攻撃系の魔法を持ってないぞ
このナイトも放出系の攻撃魔法は持ってないぞ」
鉄雄は攻撃魔法が使えないことを誇るように
鼻で笑いながら告げる
その事実を知った蓮は驚きを隠そうともせず
「なんだと!
今までどうやって戦ってきたんだ!」
「どうって?蹴るだけだろ
所詮魔法は魔法だ、蹴った方が速えぇ」
「仕方がない
とりあえず俺が落としてやる
おあえつらえ向きに、3匹だ
1人1匹でいいな
それに、コレの試し打ちに丁度いい」
そういって右手に持つ【七星】を体の前で横に向けると
その剣先に左手を添えると
刀身を徐々に動かし、刀身に刻まれた穴が光だし
3つの穴が光ったところで左手を放すと
右手で高々と七星を掲げると
「さて行くぞ、穿てイカズチ、アレを叩き落せ!」
七星を一気に振り下ろすと
七星からこぼれ落ちた光は
3匹のワイバーンに向かって飛び散りってい行く
さすがの魔力に、ワイバーンも気が付く
その攻撃を避けようと動き出すが時は既に遅く
2匹は雷の魔法の直撃をくらい
雄叫びを上げることなく力無く地上に落ちていく
1匹は辛うじて直撃は避けるが
その左の翼にイカズチをくらい方翼だけでは体制を整えられなく
錐揉み状に成りながら、蓮や鉄雄達の頭の上を通り越し
地上に落ちていく
「久しぶりで、調整をしくったか」
それは、あの世界で手足の様に使っていた七星だったが
この世界で、この世界の肉体で初めて使った為
思いの他、出力が出過ぎた事と着弾点の誤差の事であった
込めたのは異世界の魔法サンダー
込めた魔力はそこそこの魔力
さすがに、あの世界の、中級クラスの大きさの魔物相手に
しみったれた魔法では撃ち落とせないだろうと
単体攻撃魔法だが、それなりに魔力を込めたのだが
雷系の魔法を使ったことで、蓮大好き雷妖精
彼等は喜び勇んで力を貸し、その威力に手を加える
七星の効果で、魔力増幅された魔法は3倍となり
上級以上の威力の単体雷攻撃3発となってワイバーンを襲い
2匹を撃ち落とし、1匹に大きな傷跡を負わせたのだった
残った1匹は
蓮達から見て、鷲尾達が居た場所とは真逆の場所に落ちていく
もがき苦しみ地上でのたうち回るワイバーン
その視界に入った蓮達3人を敵と認めるには
十分な攻撃であり
蓮に打ち抜かれ、動かなくなった左翼を床に引こずり立ち上がり
蓮達に向け、大きく吠えた
「予想外に威力が出たな
俺が2匹潰してしまったからな
仕方ない残ったアレはお前達にくれてやる」
「いらねぇ!」
「いらないわよ!」
「そういうな、向こうはやる気だ
そら、首を後ろに引いて魔力を貯めてるだろ
ファイヤーブレスを吐く前兆だ!」
「マジか!」
「え?」
2人の視線の先には、まるで頬を膨らまし
大きく息を吹きかける仕草をするワイバーンが存在した
アリスは、素早く鉄雄の前に出ると
両手で盾を構えると足を踏ん張り
【エンチャント・ラージシールド】魔力で作った盾を追加し防御範囲を拡大させ
【フォースシールド】盾の防御力を上げ
【エレメントプロテクト】6属性にたいする耐性をあげる
魔物と戦った事もない、相手の強さ何て解らない
自身の魔法が通じるかどうかも解らない、だけど
開けたこの場所では、逃げ場はない
鉄雄が防御魔法何て持っているわけがない
ティオーノ先輩なら、何か有るのかも知れないが
無ければ、アウトである
いや、2人を守るのが騎士として自分の行動・・・・
とか、そんな事は関係ない
ただただ、アリスの想いはテツを守る
ただそれだけであり無意識の行動であった
ワイバーンは、前に出てきた盾を持つ存在に標準を合わせ
そのファイヤーブレスの撒き散らす
大きく拡大された魔法の盾の残像が、ブレスを遮り
アリスの後ろにいる2人の男は無事であるが
蓮は理解している
ブレスの怖い所はその攻撃が瞬間的な攻撃でないことを
魔力や息の続く限り、ブレスの攻撃は続くのだ
そう、ワイバーンはブレスの攻撃を止めず吐き続ける
アリスは、持続するブレスに対し
盾を強化したデバイスに魔力を注ぎ続ける
ワイバーンとアリス、先に力尽きた方が負ける
そんな綱渡りの攻防だったが
一番最初に限界を超えたのは、アリスの盾であった
炎属性に対する耐性を上げたなら、持ったかもしれないが
6属性攻撃に対する耐性を上げた為
炎特化の耐性ではなくな
長時間の熱に耐えれなかったのだ
徐々にアリスの盾の端が赤くなっていく
そして盾から伝わる熱はアリスの顔を歪めていく
アリスが限界と感じ取った鉄雄は念話で
『ミカさん!』
その瞬間
アリスの盾が姿を消した【ミカ】によって弾かれた
真っ赤になった盾は、アリスの手から離れ数メートル先に転がり
そして、同時に放たれた【ミカ】の魔力弾は
ワイバーンのブレスの中を進み、ワイバーンの口の中で小さく炸裂した
驚きと痛みで、首を振り回すワイバーン
大きく口を開き、かすれた声で吠える
今の一撃で喉をやられ、ブレスが吐けなくなった事は
アリスには分からなかった
いや、鉄雄や蓮、ティア、ミカ以外何が起こったかかすら理解出来ていないだろう
盾を落としたが、どうにか立っていたアリス
その両腕は、熱で軽い火傷をし、力無くダラリと下がっていた
魔力はまだ半分は残っているが、この状況では剣すら握れない
怒り狂ったワインバーン
ドタドタと、アリスめがけて走り出し
たった数歩、走りきると体を回転させ
動けないアリスに向かって、その長いシッポを振るう
動けないアリス
迫り来るワイバーンに奥歯を噛み締め
もうダメ・・・動けない・・・腕が上がらない
テツ・・・助けて・・・・
その想いに答えたのかどうか分からないが
アリスの視界に現れたのは
ポマードで固められた黒いダックテール
そう、リーゼントをキメた時に後頭部に出来上がる髪型が
アヒルのシッポに似ていることから付いた名称である
それを見ただけで、アリスの心は暖かくなり勇気が湧いてくるのだった
それが如何なる状況でも彼と一緒なら世界はピンク色で染まるとまで
次の瞬間、大きな音と共に衝撃が走る
それは、鉄雄がポケットに手を突っ込んだまま
片足で、ワイバーンのシッポによる攻撃を止めたからだ
蓮はその目を細め鋭く宮守を睨む
自分でも、あの軽く1トンを超える攻撃を
微動だにせずに止めることは覇気を使わないと無理だろうと
どうやって、あの攻撃を止めたと
鉄雄に、蓮は眉を潜める
振り向き直すワイバーン
シッポで吹き飛ばしたはずの人間達が目の前に居ることに
驚きはするのだったが、今度は咬み殺す為に口を開け威嚇する
「お前はやりすぎだ、死んどけ」
初めて聞いた鉄雄の口から出た【死】を連想させる言葉にアリスは驚く
喧嘩であっても相手を殺すと言った事も
死ねと言った事も聞いたことがない、その鉄雄の口から
【死】の言葉が出た、それは目の前の魔物が死ぬと言う事を
アリスに強く印象づけ、鉄雄の勝利を確信する
言葉を残し鉄雄は大きくジャンプする
魔法で強化された肉体は、ワイバーンの顔の位置まで上がると
ワイバーンの頬を蹴り飛ばす
その反動で、体を回転させ、ワイバーンの眉間に縦回転の蹴り喰らわす
その威力は、ワイバーンの顔を床まで吹き飛ばす
そこに落ちてきた鉄雄は空中で前転をキメ
トドメの踵落としを再び眉間に落とすのだった
【ベキ】っと鈍い骨が割れる音と共に
ワイバーンは一度体を震わせ、その生命を停止した
「色々聞きたいことはあるが
あのクラスのワイバーンを蹴り殺すとは
流石俺に勝っただけあるな」
「ん?先輩達の魔法で、すでに瀕死だったし
運良く攻撃が決まって、ごっちゃんゴールもいいトコだろ
俺の手柄じゃないぜ
それより、あのブレスを防いだ、ナイト様を褒めてやってくれ
あれが無ければ、死んでたよ」
「あぁ鎧女、お前も良くやった
この世界の装備であのブレスを防ぐとは
正直無理だと思ったが、よくやったぞ」
(プチン)
「よ・・・よくやったですって!!
私の苦労もしらず、今日一日で何度死ぬかと思ったと思ってんのよ
生きてたのは良いけど
もう腕も体も心も、ボロボロよ
魔法で、あの魔物を撃ち落とすは
魔物を蹴り殺すは
貴方達、何者よ!!」
魔物が全て居なくなり
これで全てが終わると、思ってしまったボロボロのアリスは
とうとう、目の前の2人にキレた
いや、ある意味これこそが、アリスの本性でもあった
蓮はそんなアリスに、今更何を聞くんだ?と笑い
「俺か?俺は、ただの魔王だ!」
鉄雄は、昔から何度も言ってるだろと
「俺は、大工だ!」
蓮と鉄雄は、未だにモニターに写る紫音の姿を指差し
「そして「アレが変態だ!」」
アリスは唖然とする、そんな事は聞いてないのよ・・・と
そして、アリスの背後から、新しい声が聞こえる
「私は、あの方に仕えるメイドでございます」
驚き首だけで振り向くと
そこには、おかしな仮面をしたメイド姿の女性が立っていた
そして、その横には、手を繋ぐ2人の存在
背の低い、水色のパーカーの人物と
水色のパーカーより少し背の高い、お揃いのピンク色のパーカーの人物
どう見ても、小学生位の身長
繋ぐ手の大きさから少女である事が見て取れたが
2人共、深々とパーカーのフードを被り
その下には真っ白な仮面、目の部分に真横に線を引いたような穴が空いていた
そして、薄い水色のパーカーを着る人物が
「私達は、通りすがりの美少女ですので、気にしないでね」
ピンクのパーカーを着る人物は、小さく頷く
仮面の存在が増えた
きっとテツの仲間だろうと無理やり納得するアリス
そして、どうにか絞り出した言葉は
「貴方達、何者よ・・・・・・」




