5話 1つ分かった事がある
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」
鷲尾は空を飛んだ
気持ち良さそうな声を上げてかは、どうかは知らないが
鷲尾は空を飛んだ
殴られた腹を抱え、至福の笑顔なのか悲痛に歪む顔かは、知らないが
鷲尾は空を飛んだ
撒き散らされた液体が、胃の内容物か至福のヨダレなのかは知らないが
鷲尾は、受け止められた
それは、ガチムキの胸筋の硬さを誇る壁なのか
柔らかさと最高の弾力を誇る豊満な胸なのかは見たら分かっただろう
鷲尾は、床に抱かれた
それが、氷のように冷えた大理石のベットか
地下墓地に向かう黒く閉ざされた棺桶かなのかは、きっと誰も興味はない
そして広いフロアの中心に残ったのは
黒い仮面をした、攻撃的な赤髪の青年だけである
その男は、とある2人の人物を指差し
低い声でドスを効かす
「お前ら、あの亥男 (いのししおとこ)よりは強いんだろ!
まぁアレの師なら、たかが知れているが【アレ】の練習相手に丁度いいだろう
二人同時にかかって来い!」
2人の人物の1人である女性が動いた
椅子から立ち上がると
もう一人に軽く耳打ちをし
コツコツと、ハイヒールの音を立て蓮の前に進み出た
背の高さは、ヒールを入れて175程度であり
服装は、ノースリーブのロング為の真っ赤なチャイナドレス
大きな蝶の刺繍入りであり
着飾っている、ネックレスや貴金属の装飾品はデバイスであろう
そして目線を引く、太ももまパックリと開いたスリットからは黒い編みタイツが見られた
肌に絡みつく様なチャイナドレスは、彼女のスタイルを浮かび上がらす
そのシルエットは、一見スタイルの良い美女だったが
実は、それは美女の【パーフェクトプロポーション】の、それではなかった
蓮は知っていた、そのシルエットが強く主張する肉の付き方を
そう、それが鍛えられた筋肉の付き方だと言う事を
そして、屋外からの光で映し出された顔は
赤毛のセミロングに、丸眼鏡と顔半分を覆い隠すような大きなマスであった
どう見ても、ヘタな変装である
チャイナ女は、蓮の前まで進んでくると
静かに構えをとる
肩幅より少し大きめに足を前後に開き
後ろ足に体重を掛けるように少し腰を落とし
両手の手の平を床に向け横に開く
「ん?一人でいいのか?
・・・・・・・・・・
まぁいいか、お前も吹っ飛ばして、その後にジジィを殴るか」
蓮の発したその言葉に
チャイナ女は、少し肩をすくめ、丸眼鏡の奥でニコリと笑い、クスリと軽く笑う
その吐息のイタズラか、チャイナ女のマスクが、少し膨らむのだった
そして、そのマスクの膨らみが絞み切る前に、チャイナ女は動く
後ろ足を蹴り、沈めていた上半身を一気に加速させる
2倍近い速度強化の魔法を使い、蓮に低空から近づき
一気に左手を叩き上げる
***
チャイナ服の女性
彼女は【美帆 (メイファン)】と呼ばれている、又はメイ先生である
そう、彼女の職業は、蓮の通う天童学園の高等部の教師である
専門は、体育授業全般
魔法戦闘および、デバイス無しの非魔法戦闘に及ぶまで様々である
当たり前であるが、中等部に通う蓮の事を知っている
知ってて当たり前である
彼女の師である人物は【拳聖】である【鼓仁】を良く知っていた
その子である【鼓信次】の事も
その子供である【蓮・ティオーノ】の事もだ
そして、メイファンも知っていた
2年前学園に赴任してきてから
蓮と桜、2人の事に目をつけていた
そう、いくら仮面をしていようが
普段からその姿を目にしてきた人間をそう黙せるものではない
一目見た時から、メイファンは彼が【蓮・ティオーノ】だと分かっていたのだ
そして、それは、蓮の視界に何度も映り込むことになる
知らず知らず、蓮はメイファンの姿を見ていた
だからこそ、その存在は知らずとも、蓮の意識に存在し
その姿を目の当たりにした時、見覚えが在ると思い込んだのだ
そして今、メイファンは、弟弟子 (バカ)の頼みにより
復讐劇という茶番に付き合っている
そこに【蓮・ティオーノ】が居るとは
メイファンも、その師匠の男も頭の片隅にもなかった
そして、この蓮・ティオーノは、弟弟子 (バカ)より強い!
バカだが、あの弟弟子 (バカ)はそれなりに強い
伊達に、元軍人、それも長が着く地位まで登り詰めていない
そして、メイファンは追い込まれる
普通に考えて、バカは負けたが自分は、あのバカより数段強い
【拳聖】の孫だろうと、中3のガキである、彼の成績も知っている
どう見積もっても自分が負けるわけがない
それに、弟弟子を無下にもできない、勝てるのは勝てるが
勝ってしまうと、それはそれで大変なのだ
先程の話しによると、彼の首に10億の懸賞金が掛かっているのだ
彼に勝ってしまえば、動けなくなった彼は確実に殺されるだろう
一教師として、いや、人間としてそれはできない
だからと言って負ける訳にはいかない
自分が負けても、その後には師匠が居るし
すでに、この場は数十人の傭兵によって囲まれている
号令一つで、その銃口は、彼に向かってしまう
そうなれば、抵抗のしようがない
残る彼の姿は、銃撃で蜂の巣になった死体だけだ
彼を倒す事も、蓮に負ける事も、出来ない
ならば・・・・
逃がしてしまおう
傷を・・・・怪我を・・・・与えて自分から逃げるように仕向けよう
逃げやすいように、足を狙わない
戦えないなるように、上半身より、腕に攻撃を与える
または、デバイスを壊す方向にと・・・
いや、デバイスを壊すと、速度強化や肉体強化が使えなくなる
逃げるのにも、追っ手を処理するのにもデバイスは必要だ
彼の肉体に傷を付ける、皮を数ミリ傷つけ血を流させる
または、肉をエグル、筋肉の動きに支障のないように最低限の傷を
体育教師であり、肉体の、いや筋肉の構造を理解している
私だからこそ出来るはずだ
彼を逃がす、逃げるように差し向ける
それが、この場を収める唯一の方法
メイファンは、自らの考えを師匠に伝え
蓮の前に立ちふさがるのだった
だが、彼女もその師匠の男も肝心な事を知らない
なぜ、彼と、弟弟子が戦うことになったかを
なぜ、彼に、10億という懸賞金がかかったかを
なぜ、彼が、この組織的傭兵団に狙われる事になったかを
なぜ、彼が、この場所に現れたかを
なぜ、彼が、戦うのかを
なぜ、彼が・・・・・・・・・・
*****
チャイナ女は、低空からブラックマスクに近づき
その左手を大きく振り上げる
その手の平に有るのは、エアカッターに似た魔法
手の平、数センチ離れた場所に有るのは、直径17cm円盤状の風の渦
厚さ2ミリまで圧縮された超高速の風の刃は、鋭利な刃物程ではないが
厚手のデニム生地であろうと、軽く引き裂けるほどの威力があった
だが、その魔法は、ブラックマスクの右腕で防御される
防御だけではなかった
あろう事かチャイナ女の左手に存在した魔法をその核から粉砕した
チャンマ? (なぜ?)
防御された事も有る、躱された事も有る
だが、この魔法が無効化された事は無い
なぜ?と驚くが、左手を振り上げた事によって
ブラックマスクから死角となった握手で、腰の闇器を握り
続けざまに攻撃に移る
スカジャンの腕の表面部分は闇器によって切り裂かれるが
ブラックマスクの左腕で防御される
まるで、そのスカジャンの下に硬い防具を忍ばせるように
今度は左手をブラックマスクに突き出し小さく叫ぶ
「リアンシャオ」
その言葉と同時に
魔力が凝縮され熱を持ち炎が立ち上がる
蓮は大きく腕を動かし炎を払う
しかし、そこにはチャイナ女の姿はなく
彼女はすでに5m程後ろに引いていた
自分を睨みつける、女性を見て蓮は笑う
「ほう、魔術剣闘技士か
それはいい最近は肉弾戦オンリーだったからな
たまには、魔闘戦もいいかもしれんな
少しは楽しませろよ」
両の腕を大きく左右に開き、その両手の親指と中指を、パチンと鳴らす
その音と共に指先が一瞬青白く光ると
静電気がパチパチと弾けるように辺りを照らしだし
伸ばした人差し指と中指に、静電気が弾けたような青白い光がまとわり付く
それを見た、メイファンは伊達めがねの奥で目を丸くする
な・・・・なにあれ?
あんな魔法聞いたことも見たこともない
指に電気を・・いや、あれは雷属性の何か?
大体【火】【氷】【雷】属性は、存在するだけで
周囲に影響を与える魔法なのよ、身に纏える魔法ではないわ
武器、おもに刀身に属性を持たせ、魔法剣として仕様する人間もいるけど
それですら、数百度程度の【火】と【氷】
【雷】なら、単発的な、スタンガンに似た一瞬だけの魔法であるけど
1000度を超える炎や、持続する【雷】の電圧に耐えれる武器が存在するわけがない
そう、持続する電圧、それに耐えれる肉体が有るはずがない
強化魔法・・・あり得るの?あれに対応できる魔法なんて
いや、なくても、何かの手段で補っている・・・・と?
事実目の前で存在する、無駄な思考は切り捨てなければ
今は、あれに勝つための対策
どう見ても、スタンガンのスパークくらいは有るね
かるく数万ボルト、電圧を上げれると考えると
数十万か、かるく一撃で肉体が麻痺するレベル
手持ちのデバイスに、雷耐性系の魔法は入れてないけど
手段は有る、魔法戦をこなす体育教師を舐めるんじゃないわよ
後は攻撃手段は・・・・
あの服の下には何かしらの装備が有る物と考えたほうが良さそうね
予想としては衝撃に強く、柔軟性の有る、薄い鎖帷子のような物か魔法防具
あの弟弟子 (バカ)なら、手も足も出ないだろうけど
私はその手の装備の弱点も知ってる
冷静になれば、負ける相手ではない
大体、うちの学園の生徒に、それも中等部の生徒に負けるわけにはいかないのよ
思考を巡らし動きが止まる、チャイナ女
普段から出たとこ勝負の、何も考えない蓮にとって
その数秒すら待てなく
「ん?どうした、来ないのか?」
「・・・・・・・」
「やっぱり無口なのは、俺に正体を悟らされないためか?
どこかで見た覚えは有るんだが
今ひとつ思い出せないな、その変装を解いてくれるか
声を聞かしてくれれば、思い出せそうなんだが」
「・・・・・・」
「教える気は無いようだな
なら、さっさと戦いを楽しもうか!」
蓮は軽く右腕を振る
それは戦闘の合図であって、蓮の攻撃でもあった
蓮の指先にあった光る電気が、メイファンに向かって飛んでいく
転がるように横に避けるメイファン
よもや身に纏っている電気が飛んでくるとは想像もしていなかったのだ
多少は驚くが冷静になったメイファンは、情報としてソレを頭の中に組み込み
蓮と少し距離を開けながら、蓮の周囲を走り出した
左手を軽く振り魔法を飛ばす【風燕 (フェオヤン)】
その風の刃は大きく弧を描き、蓮を左右から襲う
右手は蓮に向け魔法を打ち出す
それは、小さな火の玉である【火矢 (フォジアン)】
蓮は指に纏った電撃を飛ばし、炎を相殺しながら
動き回るメイファンに対しても、電撃を飛ばすが
メイファンもメイファンで、それを【火矢 (フォジアン)】で相殺する
そんな時、いきなり蓮のそばで、火の玉が爆発する
それは、見た目は【火矢 (フォジアン)】だが
【火焰 (フオヤン)】と言う炎系範囲の魔法である
メイファンは【火矢 (フォジアン)】に【火焰 (フオヤン)】を混ぜながら
次の準備に掛かる
いきなり爆発した魔法に手を焼く蓮である
魔法感知が出来ない今
見た目が同じである、メイファンの炎系魔法の区別は出来ず
全てにおいて、後手となる
そして匠に襲ってくる魔法を相殺しながら、徐々に押されていくが
それはそれで楽しんでいた
それなりに、面白いシューティングゲームみたいな物だな
左右から来る、風の魔法は、機動予測の練習になるし
火の魔法は、あの女の思考の先読みの練習になる
たぶん、コッチのが小さい火で、あっちがデカイ炎だ
2人の魔法での攻防は、勢いをましていく
それを監視す多くの傭兵も
その息をもつかせない攻防に引き込まれていくが・・
終わりは突然やってくる
それは、蓮が勝手に、デカイ炎が当たりと位置づけ
もし予想が当たったならボーナスで100点だなと
ゲーム感覚で遊んでいたにも関わらず
一度も予想が当たらないという奇跡を引き起こしたからである
先読み・・・行動予測・・・・か・・
宮守の奴なら、この女の魔法を区別できるのか?
いや、魔法発動前にわかるのか?
俺には、全くわからんぞ!!
だが・・・だ・・・・
一つだけ分かったことがあるな
何も考えないで殴ったほうが早い!
蓮は両腕を体の全面で交差させると
電撃を纏わせ、力強く左右に振り抜く
電撃は渦を巻き、メイファンの繰り出した魔法の塊を一掃する
そして、蓮の苛立ちとも思える電撃の渦は、メイファンをも襲う
避けきれないと判断したメイファン、勢いよく横に飛び
両手両足をたたみ体を小さくし、衝撃を最小限にするが
飛んできたのは電撃である、防御できる代物ではない
歯を食いしばり筋肉を硬直させ耐えるが
時間にして約1秒、メイファンは体の自由を奪われ
体を縮めたまま床に倒れた
「ふん、これまでだな
多少は楽しめるかと思ったが
まったくの期待はずれだな
アレの訓練にもならんとは
これなら、さっきの熊男の相手でもしていた方が
いくらかましだ」
「フ・・・」
変装用のダテ眼鏡の奥で「準備は終わった」と笑うメイファン
まだ、多少なり痺れて動きの悪い右手で連を指差す
蓮は指差された事の意味を理解できず
目を細め、床に倒れた、メイファンを睨みつける
メイファンは右手を開き床に叩きつけ
小さくつぶやき
「【獄炎七首龍 (エレンスゲ)】」
蓮の周りで赤い宝石が光りだす
等間隔に置かれた六つの宝石
メイファンが蓮の周りを走り回りながら設置していった
デバイスに組み込まれた宝石
それはメイファンのデバイスと連動し
蓮を中心に直径5メートルはあろう六芒星の魔法陣を作り上げ
そして、宝石を核とする六つの頂点は、それぞれが小さな魔法陣を作り
そこから、赤く燃え上がる龍が立ち登る
蓮は6方向を炎の龍の柱で塞がれ、魔法陣から逃げることすら許されなかった
そんな蓮を嘲笑うかのように、6匹の炎の龍は
魔法陣の中心、蓮の真上で絡みつき、巨大な7匹目の爆炎龍となりて
大きな顎を開き、遥か頭上から、蓮の首を噛み砕こうと襲いかかるのだった
メイファンの持つ最大火力の魔法
宝石に込めた魔力と、自身の魔力の半分以上の魔力を使う
ある意味捨て身の魔法であるが、その魔法陣に閉じ込めてしまえば
確実に致死量のダメージを与えれる魔法である
彼女もまた、闘士である
戦いながら、蓮の学園での成績は手抜きと理解した
それほどまでに桁が違ったのだ
中級魔法に匹敵する、自慢の【火焰 (フオヤン)】を
小さな電撃で相殺するのだ
その電撃の魔法に込められた魔力と練度は、想像すら及ばない
そんな好敵手を前に、心躍らない訳が無いのだ
そして、さほど立ち位置を動かさない彼相手なら
自分の持つ最大火力の設置型魔法が使えると勝負にでる
そして、炎の柱に閉じ込められた蓮の姿を目に入れ
メイファンは勝利を確信した
やりすぎた事に関して後悔はない
こうなっては彼はどの道、死ぬか殺されるだろう
ならば、それが多少早いか遅いかであると
蓮の頭上から襲い来る、獄炎の龍
蓮自身この世界の人間である
スキルである雷を纏うことは出来ても
数千度は有るだろう炎の攻撃を受けると
それなりにダメージは食らう
シオンが手を加えた、スカジャンには物理防御は高い
ある程度の衝撃にも超振動と言う防御魔法が発動する
メイファンの初手の風魔法、高速回転をした事によって
一定速度をこえた攻撃に反応して風魔法ごと粉砕したのもこの防御魔法である
だが、このスカジャン魔法防御耐性は無いのだ
何かしら防御をと考えた瞬間
ある魔法を思い出すのだった
蓮は頭上を睨み、襲い来る獄炎の龍に向け右手を突き上げるのだった
その姿を目にするメイファンは、呼吸が止まり瞬きすらする事を諦めた
それほどまでに、目の前で起きた現実を理解できなかった
そう、全ては消えた・・・・・
全てを焼き尽くす【獄炎七首龍 (エレンスゲ)】
その獄炎の爆炎龍
爆炎と轟音を撒き散らし
大きな叫びを上げ
暴れだした
それは
悶え
苦しみ
大きな力に抗うように
蓮の手の平に吸い込まれるように、消えた
そして魔力切れか、絶望か、動かない体とともに
メイファンは、己の負けを理解したのだった
蓮の手の平の上にあるのは、直径3cmほどの円盤状の黒い渦
全ての炎を吸い尽くすと、その黒い渦も徐々に小さくなり消えていった
そして、蓮は大いに笑うのだった
上級魔法であろう魔法を消し去る力、いや、これの本質はソコではない
対象もさることながら、無差別に吸い込むんだ
この世界には無い空間魔法に、似て非なる魔法なのだが
この魔法が使えると使えないでは、天と地との違いがある
そして、この魔法に使用する魔力
シオンに言わせれば、この世界の高位の魔道士でも
触媒を使わなければ、小さなブラックホールを作り出す事が限界であり
持続時間も5秒ももたないと言っていたが
雷属性を得意とし、雷系スキルを所有し、雷精霊に愛される俺様にとって
雷属性で作り上げられた【ブラックホール】という魔法は相性が良すぎる
魔王としての力を開放しなくても
雷精霊の力を借りることで、少量の魔力量で発動できる
この魔法があるなら
相手の攻撃魔法を防御するのが、バカらしくなるほどだ!
魔法の威力に、そしてその魔法に使った魔力の消費量に大いに笑う
「小童 (こわっぱ)よ、なんともエゲツナイ魔法を使うものよな
さすがのワシも、小童が負けたと思ったぞい」
その声の主は、鷲尾が師匠と読んでいた人物である
メイファンを蓮から庇うように間に立っていた
「やっと、じぃさんのお出ましか
この女の用に期待はずれで無い事を願うだけだな」
「まだ若いぞ!みよこの、ふさふさの髪を!」
「・・・・じぃさん、ずれてんぞ」
「なんと、こりゃいかん」
蓮の前に立つ男は
鼻の下にある、チョビヒゲを押さえ整えだした
「じぃさん・・・こっちだこっち」
蓮は何か指摘するように、自身の頭を、、その髪の毛を指差す
「な・・・・・なんの、事かぃのぉぉ・・・・・」
ビクっと固まる男は、頭を揺らさないように振り返り
ゆっくりとした、歩調で歩きながら
メイファンの元に近寄り、しゃがむと2人で小声で会話をし出す
「メイ、ズレとるかいの?」
「すこし・・・右です」
「こうか?」
「逆です・・・・・・すこし行き過ぎました」
「ぬぬぬ・・・」
「少し前に・・・・大丈夫です」
「これでよしと、それでな?あの小童を逃せば良いのだろ?」
「はい」
「ひと踏ん張りするかのぉ、悪いがそのままもう少し待っておれよのう」
「謝謝」
振り返ると再び蓮の前に立ちふさがり
「みよ、このふさふさの髪を」
「わかったよ、じぃさんでなしに、おっさん・・・それでいいか」
「下の毛がやっと生えてきたような小童じゃてに
おっさんでも良しとするかいのう、本当は「お兄さん」がよいのだけどのう」
「俺に勝てたなら、どうとでも呼んでやるぞ」
「さすがに、それは無理だのう
ワシは、そうだのう、小童に解りやすく言うならば
あの【拳聖】堤仁と肩を並べる強さを誇るぞ
のう・・・こわっぱ!」
ニヤっと笑う、不敵な笑みに、連は眉をひそめニラミを効かす
知ってやがる、俺が誰かと言う事を
鷲尾は、分かっていなかった事から
あの女と、このじじぃは、知っていると言う事か?
なら、なんでこんな回りくどい事を?
そうか、この2人は鷲尾の個人的な繋がりだったか・・・
それより、家 (うち)のじぃさんと肩を並べる?
嘘か本当か・・・あんな化物がそうそういてたまるか
連は、右足を引き半身に構え、少しだけ前傾姿勢をとるの
その仮面の奥では、知らず知らず広角が上がっていくのだった




