4話 鷲尾再び
元造船所の建物正面入り口があり
それは大きく口を開けて待ち受ける
絶対的に罠だろう存在感が漂う
蓮は黒い仮面の下で、とても悪い顔をし足を進める
ハッハッハハ、そこに罠があるなら、飛び込む事が我が生き方
全て物を破壊し、潰し、握り潰してやる
なんぞある?少しは楽しませてくれよ
無造作に開けられた入口を抜け建物に入る
そこは、1階2階吹き抜けの大きなフロア
元は造船の技術や、その資料や歴史
今までどんな船を作ってきたかとか
ショールームとしてや、社会見学の場として
幅広く使われてきた場所である
中央は大きく開けた場所があり
少しであるが吹き抜けであるが2階部分には
商談用に作られた、スペースも作られていた
もう夜8時を越す時間だが
中域工業地帯であるが為か、この地域一帯は24時間変わらず明るく
ショールームとして作られた、1・2階部分はガラス部分も多く
室内は裸眼でも十分に見渡せるほど、光が差し込んでいた
蓮はエントランスに足を踏み入れ
1階全体を大きく見渡す
あちこちに気配は有るが・・・攻撃を仕掛ける気配が無いのはなぜだ?
スキルで範囲スキャンしてもいいが
スキャンして、罠を見破ったら
わざわざ罠にハマった意味が無いしな
ちまちま考えるのは俺の役割じゃねぇし
とりあえず、あそこに居る人間達に聞いてみるかな
そう、エントランスの奥に居る一人の男
体格のいい男は体の前で腕を組み仁王立ちで、仮面の男を待ち受ける
そして、その後ろに何処からか持ち出したパイプ椅子にすわる2人の人物の姿があった
そんな3人の前まで近づくと
「俺は偉大だからな
お前達の企みを聞いてやろう
そして、その全てを踏みにじってやる」
「相変わらずだなと言っておこうか
数日ぶりだが俺の事を覚えているか?」
「数日ぶりだと?」
こいつら?いや、こいつは俺の事を知っている?
だいたい、こいつら元アメリカ軍の人間だろ?
そんな奴らに知り合いは、居ない・・・・事もないか
ジジィの道場には色々居たからな
でもここ最近じじぃの所に行ったのは3月末の春休みだ
5月の連休は、桜が用事があって俺も行って無いから、ジジィ関連ではない
それに、こいつは日本人くさいが、最近といったら・・・
あぁそうだった、連休に港の倉庫で暴れたのを忘れていた
あの時の、あいつだ!
ナイフを2本使っていた奴で中々楽しませてくれた
・・・・・たしか動物の・・・名前が入っていた・・
酉雄 (とりを)?・・もっと強そうな名前だった記憶が・・・
鼠?丑?虎?卯?辰?巳?午?未?申?・・・熊男 (くまお)だったか?
ん?でもなぜ井門がその事を、言わなかった?
あの時の組織だと?分かって・・・?
いや?あの時居た組織は頭を失って消滅したと聞いたが?
いや、知ってて黙っていたのか?
井門との付き合いは1年も無いし顔を合わせたのも十数回
初めて会った時から、俺を恐れないし
ミカの威圧を喰らっても、涼しい顔で笑ってたし
今ひとつ考えが読めんな、さすがはシオンの仲間だけあるか
だが、この熊男は、誰かを・・・ん?・・いや俺か?
そうだ、なぜ俺を待ち受けるように此処にいる?
俺達は誘い出されたのか?何の為に?井門やシオンは知ってるのか?
それに、後ろのメガネとマスクをした長い赤毛の女
どこかで見覚えが・・・・・・あるが
それよりも、もう一人オッサン?もっと年くってんなジジィか?
ん?あのフサフサ頭ってカツラか?
俺を威嚇してるのか、ガンつけてやがるが
雰囲気があるな、それなりの実力者か
「覚えているさ、たしか戌男 (いぬお)だったな!」
「鷲尾だ!・・・・
まぁいい、先日の報復も兼ねてお前達を殺しに来た」
ぬ?鷲尾?熊男じゃなかったのか?これなら酉雄って言ったほうがボケれたか?
それは、シオンの役だが、まあいいそれよりも
「鷲尾だったか、その言い分だと、復讐以外にも理由があるのか?」
「ふん、知らないのか?いや、知るはずもないな
この月曜に褒賞金が出たんだよ
お前と、ひょっとこ男にな
聞いて驚け、アメリカドルで1000万ドル
日本円で約10億、2人分で20億だ
これには俺も驚いたぞ!お前達何をやったんだ?」
「何を?覚えはないな
俺がたったの10億か・・・
それに、あいつと同額とは・・・安いな
だが、大体の流れは理解した!
それで、俺に勝てない、鷲尾は助っ人を呼んだと言う事か?」
「彼等はもしもの時の為の保険だ
それに、すでにこの場所は仲間が取り囲んでいる
逃げれると思うなよ、確実にお前を殺す」
蓮は一度鼻で笑い
両手を広け、このフロア全体に行き渡るように
大声で叫ぶ
「あぁお前ら全力でかかってこい
汚くても卑怯でも醜悪でも何でもいい、俺を楽しませろ!
楽しませるなら命だけは助けてやる
そして、三度俺を楽しませる為に、また俺を狙え
10億の首がここに有るぞ!」
鷲尾も強く言い返す
「それは無い!
お前はここで死ぬ!
俺にできなくても、俺の師と姉弟子がいる限り
お前の勝ちはありえないんだよ!」
それは、楽しめそうだ・・・
「最後に1つ質問だ」
「死ぬゆく手土産に、答えれる事なら教えてやろう」
「俺達の事は、情報操作もしてある、隠蔽もしてあるが
それが完全ではないのも分かってはいる
どうやって、俺をここに呼び寄せれた?
多少は頭のいい人間が後ろに居ると言う事か?」
「あぁ、作戦参謀的な人がいるが
お前達を、ここにおびき寄せたのは
日本の情報屋だ、名前は極秘らしいがな
お前達2人をおびき寄せるだけで3億とふっかけられたそうだが
なかなか良い仕事をする、この場所も情報屋が用意した場所の1つであるし
お前が来る事も、それが今日の夜だと言うことも2日前には分かっていた
あの情報屋は、今後俺達の組織に欲しいほどだ」
くそ・・・井門の奴がその情報屋に踊らされたと言う事か・・・・
鷲尾が言う作戦参謀的な人物なら
情報屋の情報を知ってると見て間違いはないな
なら、後で捕まえて履かせればいいな
『ティア、今の話を聞いていたな
作戦参謀的な人物を見つけて監視しろ』
『聞いてはいましたが、この建物には、それらしき人物の気配はない模様です』
『ん?・・・・・と言うことは、近くの建物か、他の場所か』
『そうと思われます
ですが隣接する建物は一般人も多く
特定するのは困難だと思われます』
『わかった、こいつらの誰かが、その作戦参謀の場所を知ってるだろう
潰してから、ゆっくり聞き出すか』
『分かりました、では私は引き続き周囲を警戒しながら
宮守鉄雄の出したゴミを処分していきます』
『そうだった、宮守達は生きてるのか?』
『はい先程、宮守鉄雄は、手甲でライフル弾を弾きましたから
狙撃や銃に対し、適応出来ているものと思われます
彼等2人が銃弾で死ぬことは無いと思われます』
『ライフルを弾いただと?
シオンの話しだと、宮守や桜の10倍程度の加速では
音速を超えるライフルの弾を弾くのは無理だろうといってたが
出来るものなのか?帰ったら実験だな
だが、それだと反応速度や意思加速の速度は桜より上か?
今度、桜と組手でもさせてみるか?』
「その作戦参謀と情報屋は後で探すとしよう
今はお前の後ろの2人と手合わせをお願いする」
「俺が倒せたらな」
鷲尾は前回、仲間に強化魔法を掛けてもらっていたが
今回は、自身で身体強化系魔法を幾つか使い自信を強化しながら
蓮と殺し合うため前に進み出る
蓮と言えば
先読みの練習の為にと・・・
たしか高峰が言っていたな、力をセーブしろと
なら意思加速を2倍で、魔法での肉体速度強化2倍
意思と肉体の速度をリンクさせて
意思加速のアドバンテージを失くして
練習がてら格下と手合わせして動きを読むと
まぁ、意思加速2倍でも、かなりのチートだと思うがな
後は鷲尾を、とっとと潰して後ろの2人だな
蓮は軽く手首を動かし、久々の肉体強化魔法の感覚を思い出す
意思加速の速度を、2倍に固定する事によって
その副産物である、肉体加速は、最大でも1、2倍速が良い所だろう
そして、その加速の反応速度も、意思加速の速度が落ちることによって遅くなる
デメリットが多いい分、今の強すぎる自分には丁度いい
そして実践こそが、経験値を積むのに一番適していると
仮面の下で笑みを溢す
「ん?ナイフは持たないのか?
たしか2刀使いだったはずだが?」
「この間は、殺す事が目的だったから、ナイフを持ったが
今回は、どんな形であれ、お前を屈服させることが俺個人の目的だ
それだけは譲れねぇ、だからこそ、こうやって戦える場を作ったんだ!
それが、この俺が今回の作戦に参加する、絶対条件でもある
金なんかは要らねえ
お前みたいな、訳の分からん若造に負けた事は、俺自身が俺を許さん
今度は正々堂々と、ひねり潰す!
それに俺の得意とするのは格闘術だ
この肉体こそ俺の最大の武器だと思え!」
「その精神!嫌いではないぞ!
乗ってやる、力の差を見せつけてやる」
蓮は持っていた、シオンの魔術刻印付き木刀を床に突き刺す
床といっても大理石を敷き詰めた床である
その大理石の下は、コンクリートなのだが
綺麗に突き刺さる木刀に、驚くのは
ライフルのスコープで蓮を狙い続けていた人間達である
そして、蓮は鷲尾に向けて一歩踏み出すのだった
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彼等の参謀である、ホワイト・ヘアは、ここまでの流れは読んでいた
色々な情報を集め、話を聞き
この【ブラック・マスク】の性格を多少なり理解する
無謀・負けず嫌い・タンジュン・単細胞
属に言う【脳筋】部類でいえば【戦闘狂】だと
ここへ、侵入してくるなら、正面からだろうと
正面入口に罠らしき素振りを見せれば、堂々と入ってくるだろうと
そして、一番厄介だと思われるのが、武器【木刀】と【魔法デバイス】だ
これは信じられない事だが、この木刀、木なのに銃弾を粉砕すると情報にある
何かしらの、魔法が掛かっていることに間違いはないが
その木刀の攻撃は、防御不能?
いやナイフでの攻撃は木刀で防御されても破壊されなかった事もあったと
だが、危険度は大きく最大警戒する内容でもある
そこまで、最大警戒をする理由の1つとして
ブラック・マスクが装備しているだろう
魔法デバイスの性能と相性が良すぎるからだ
狙撃に対して反応し防御できる
【対狙撃自動防御デバイス連動身体操作魔法】
これに似た魔法との相性である
人体を動かして、何かしらの道具で狙撃を防御するのだが
その道具が曲者である
盾の用に重ければ、動きがに鈍くなり、防御に間に合わない
逆に軽い鉄や素材などでは、強度に問題が出てきて、防御回数に制限がついてしまう
そこに、この木刀である
弾丸を粉砕することにより、多少なりダメージは受ける模様ではあるが
その防御回数は、軽く100を超える計算であり
何より軽い、それは速度を失いわい事でもあり
木刀と言う、固有の長さにより、より小さな動きで広範囲をカバーできるのである
相性で考えるなら、これほど相性の良い組み合わせは
ホワイト・ヘアには思いつかないほどである
そして、この【木刀】も手に入れたい、ホワイト・ヘア
出来るだけ、ダメージの少ない状態で手に入れたい
そこで、鷲尾こと、ホワイト・イーグルの申し出を受けたのだ
済んでしまえば簡単な事である
情報屋の言うとおり
ブラック・マスクが侵入してきた時間も予想範囲内であり
屋上での戦闘は意外だったが、予測の1つでもあり、その後
正面入口から、堂々と入ってきたのも、予定通り
ホワイト・イーグルと対峙させ
無手での格闘戦に持ち込めば
ブラック・マスクは、武器を外し戦いに挑む
まったく脳筋というバカ共は扱いやすいと
一人笑う、ホワイト・ヘアである
そして、情報屋の言う通り、ブラック・マスク以外の侵入者
1人だろうと聞いてたが、2人だったのは驚いたが
予想範囲内でもある
彼等の仲間は
ヒョットコ面の男
オカメ面の女
カミカゼ・リーゼント
ブラック・マスク
そして、倉庫で初めて現れたと言う、泣いていただけの
狐面の黒人女
最大で5人のはず
ジャージのフードで顔が、分からないが
これらのどれかか、新しい人物とも予想する
それだけだ、今更1人増えた所で戦況が変わる程のことはない
そして、カミカゼ・リーゼンとも
あの対狙撃デバイス魔法を装備していると考え、狙撃を中止させる
カミカゼ・リーゼントの情報も多少は有った
戦闘スタイルが格闘で蹴りが多いい事くらいで
ブラック・マスクと同じく【脳筋】部類としては【格闘バカ】である
ジャージの男は、盾と西洋の片手剣を持っていることから
前衛盾職【タンク】と呼ばれる部類の位置づけだと判断する
そして、この前衛盾職を好む人間は、目の前の戦闘に対しては頭が回るが
全体の戦略、策略に対しては、後衛任せという
【脳筋】と近い、部類でいえば【戦闘バカ】そして【ドM】
幾つか、作戦を思いつくが
外階段で上の階を目指し上がっていくと聞いて
その思想を読み取り
やはり、バカが2人か
取り込んで、囲って、潰せばいいと
単純だが確実な方法を、建物の上の階に居る4チームに通達する
それは、建物内に侵入させ、階段を使った上下の階から追い込み囲み
逃げ場のない状況に持っていく作戦【鳥籠】
そこから、上下からの4チームからなる交代制の2チーム同時連続攻撃【クロスファイア】
指示を幾つかだした後、ホワイト・ヘアは
送られてくる、ホワイト・イーグルと、ブラック・マスクの映像に注目する
彼は思う、どちらが勝とうと関係ないと
ホワイト・イーグルが連れてきた2人も関係ないと
あの木刀を手放した事が、ブラック・マスクの最大の失態であり
すでに、奴らの勝敗は関係なく、俺の勝利は確実であると
全ては作戦通りであり、報奨金は全て我が手の中にあると
ブラック・マスク達の敗因は、知将が居なかった事だと
もし居ても、アメリカ軍の軍事顧問にまで上り詰めた俺と
戦略的攻防を争える人間など、こんな辺境の島国に居るはずもないがなと
すでに勝利に酔いしれ一人大きく笑うのだった




