傍から見ると、いじめっ子は格好悪い
「それでその……田宮さんの机や黒板に……そ、その何て言うか田宮さんは凄くエ、エッチが好きとかそんなような事が書かれててその……」
「エッチ好き? ヤリマンってやつか?」
「こ、言葉にしないで~」
宮川は、真っ赤になった顔を隠す様に両手で塞いだ。
「ヤリマンねぇ」
んな事、どうでもいいじゃねーか。
「それより悪かったな。ずっと待ってたんだろ?」
今は放課後。下校時のチャイムの音で、ようやく目を覚ました俺を、誰も居なくなった教室で宮川は一人待っていた。
「うん……。話しの途中になっちゃってたから」
「律儀だな」
「律儀……違うと思う。私が勝手に話してる事だし……」
「そういう所、やっぱ律儀だと思うぞ。とにかく話の内容は分かった」
「……うん。田宮さんを助けてあげて」
「ん? 助けろって言われても困るが……分かったよ」
今にも泣きそうな宮川の顔を見て、俺は頷く。
「うん……。私、そろそろ帰るね」
「ああ……ありがとな」
「…………うんっ!」
俺の言い慣れない礼に、宮川はニッコリ笑い、教室を出て行った。
「助けてくれ……か」
どうすれば良い?
書いた奴を探してシメれば良いのか、それとも気にするなと慰めれば良いのか……
「……分からねぇよ」
アンタなら分かるんだろうけどな、綾さん。
ま、取り敢えず帰って飯でも食って寝るか。考えんのはそれからだ。
その後は、アパートに帰って飯食って寝た。正直田宮の事なんざ、余り考えて無かった。そして次の日。田宮に対しての嫌がらせは露骨なものになっていた。
牝豚。死ね。公衆便所。思い付く限りの中傷が、油性のマジックで田宮の机や椅子にビッシリと書き込まれている。
「ひでーなこれ」
「流石にヤバくない?」
クラスの連中は田宮に同情的だったが、進んで関わろうとはせず、遠巻きに眺めているだけだ。
まぁ、俺も似たようなものだが、当の田宮は何事も無いかの様に一時間目の授業の予習を黙々としている。だが、そこに強さは無い。むしろ今にも折れちまいそうな弱さを感じた。
「……田宮」
「…………」
「俺の椅子と机やるよ。あんま使ってねーから、綺麗だぜ」
「…………」
「お前の机、耳無しの坊さん? あれみてーで渋いから交換しろ」
「…………といてよ」
「あ?」
「ほっといてよ!」
田宮は両手で机を強く叩いて立ち上がり、その勢いのまま、教室を出て行った。
「…………」
良く分から無いが、多分俺はまた失敗したんだろう。その失敗がなんなのか思い付く事すら出来ない俺に、田宮を追う事は出来ない。
俺はクラスを包む思い沈黙の中で、田宮の机と俺の机を交換し、教室を出た。