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ありがとう(日本語)は意外と世界で通じるらしい

「よう、田宮。一緒に行こうぜ」


「…………」


改造宣言をした次の日の朝。


いつもと同じ様にチャイムの十五分前に登校して来た田宮を学校近くの公園で捕まえて、共に学校へと向かう。


「…………」


「…………」


捕まえたのは良いが、基本俺は余り喋らない。


今まで読んでいたマニュアルは捨てた。だから何を話せば良いのかさっぱり分からん。


「…………」


「…………」


「………………」


「………………」


「……………………」


「……………………な、何か喋れよ!」


いつまでも続く無言の状態に田宮は息が詰まったのか、珍しく話し掛けてきた。


「なんかっつっても……もうすぐ中間テストあるが勉強してるか?」


「……少し」


「カンニングさせてくれないか?」


「だ、駄目に決まってるだろ!」


「そうか、駄目か……」


「な、なんでそんなに残念そうなんだよ。……テメェ、テストとか気にしてるのか?」


「いや。どうせ卒業後は就職だしテストなんかどうでもいいんだが、余り悪いと妹がな」


「妹、いるのか?」


「ああ……いたよ」


今は別々に暮らしているけどな。


「あ、ご、ごめん」


「何がだ?」


「え? い、いや……軽率だった。ごめん」


「ああ」


よく分からないが、とりあえず頷いておくか。


「……私も兄がいたよ」


「そうか」


「……うん」


「…………」


何かを言いたそうにしている。それは分かるが、何と声を掛ければ良いのかが分からない。


……ほんと分からない事だらけだ。


「と、着いたな」


ウダウダ考えていると、いつしか学校へと着いていた。


「……教室じゃ話し掛けてくるなよ」


「隣の席だし話すぐらい良いじゃねーか」


「良くないっ!」


「ケチだな」


「うるさい!!」


田宮は俺を振り切る様に小走りで校舎へ向かって行った。


「……朝から元気な奴」


低血圧の俺には真似出来そうに無い。


「ふぅ」


ため息を一つし、俺も田宮の後を追って校舎へと向かう事にした。



田宮より数分は遅れて入った教室内は、異様な雰囲気に包まれていた。


クラスの連中は俺と田宮を交互にのぞき見ては直ぐに逸らす。


田宮はと言うと黒板を睨み見つけ、身動き一つとらず毅然と席に座っている。


「どうしたんだ?」


「…………」


横に座り尋ねるが、田宮はこちらを見もしない。


「何かあったのか?」


クラスの連中に話掛けてみたが、まるで無反応。


「田宮?」


「…………」


田宮もまた無反応だ。


「…………そうかよ」


今まで俺がしてきた事を考えれば、この反応はむしろ正常だろう。


俺は席に座り、いつもの様に机へ顔を伏せ……


「てもいられねーか」


人を改造するってんなら俺自身も変わらないといけない……気がする。マニュアルにも、んな事が書いてあったっぽい。


「頼む。何があったのだけ教えてくれ」


立ち上がり、記憶にある限り生涯三回目の頼み事を田宮やクラスの奴らにする。


だが返事など、どこからも無かった。


「…………」


頭下げて無視されて。その屈辱に体は震え、怒りが沸く。だが、この状況を作って来たのは俺だ。全く……情けねぇな。


「……何があったのかだけで良いんだ、誰か教えてくれ。……頼む」


「…………つ、机」


「え?」


窓際に居たクラスの……名前なんつったか、女が恐る恐ると言った風に俺へ声を掛けた。


まさか本当に返事が返って来るとは思わなかったので、反応に戸惑う。


「田宮さんの机に……」


「い、言うな!!」


今まで無視をしていた田宮が弾かれた様に立ち上がり、女を睨み付けた。


「ご、ごめっ」


「俺が聞いたんだ、お前は気にしなくて良い。それより……あ、あ…………あ~、ありがとな」


な、何を礼なんか言ってんだ俺は。 綾さんにだって言った事ねーってんのに。


「へ? …………あっ! は、はひ!! どういたまえました!!」


女もテンパっちまって、あわてふためいちまったよ。


「……は……ははっ」


ざわっ


俺の笑いにクラス内がざわめく。


「……名前、何て言うんだ?」


ざわめきを無視し、俺は女に問いた。


「み、宮川……です」


「宮川、な。覚えた。今度何か困った事があれば言え、一度だけ助けてやる」


何言ってんの? クラス中、そんな空気だ。


だが気にしねぇ。


「返事、嬉しかった。ありがとう」


次の礼は、自分でも笑っちまうぐらい素直に言えた。


どうやら俺は返事が返って来た事に対して浮かれているらしい。田宮の事なんざ忘れちまうぐらいに……


「と、それじゃ意味がねぇだろ。……机がどうじたんだ田宮?」


「…………え?」


田宮は最初、俺達を呆気にとられた顔で見ていたが、我に返ったのか急いでしかめっ面を作り、怒鳴る。


「テ、テメェには関係無いだろ!」


「あるぞ。良いから話せや」


「ば、馬鹿! こんなに注目浴びてんのに話せるか!!」


「なら屋上行くか?」


「そういう問題じゃねぇよ!」


「……やっぱ女は分からねぇな」


綾さんといい、こいつといい。


「女とか関係なくテメェが一番分からねぇ事に気付け馬鹿!」


んな捨て台詞を吐き、教室を出て行こうとした田宮の肩を捕まえる。


「っ!? は、離せ!」


「もうすぐ授業が始まるぞ。俺が出てくからお前は勉強してろ」

屋上でも行ってみるか。


「…………ほんと何なんだよあいつ」


廊下に出た俺の耳に、田宮のそんな独り言が聞こえた気がした。

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