プロローグ
田宮 雪が転校して来て半月が過ぎた。
そろそろクラスにも打ち解けて来たかと言うと、全く逆。相変わらず友達の一人も居ない。
たまに世話好きな奴が話し掛けても田宮は無視か睨みを効かす。
それに加え、赤く染めた長髪とケバい化粧をしているとなれば友達なんか出来る訳が無い。
そして友達が出来ないと変わりに出来るのが悪い噂だ。
なんでも田宮 雪は族の頭の女らしく、誰とでもヤるような素敵な女らしい。
その他にも、父親が麻薬中毒者でヤクザだとか母親は鬱で自殺したとかしないとか。
まともに田宮と話した奴は居ないってのに。何で分かるんですかエスパーですか、そうですかって感じで田宮の噂はあっという間に広がった。
そんな噂に田宮は弁明する訳でも無く、庇う者もいない。
そうなると現われてくるのが馬鹿だ。
「な、今日帰りメシ行かね?」
「…………」
別のクラスの馬鹿がわざわざ昼休みにやって来て田宮へ声を掛けている。
誰とでもヤる。噂が広まって五日目。声を掛けた男は、これで三人目だ。
「ちょっとうめーもん出す店あんだ」
「…………」
「…………なんか喋ろーよ。つまんねーし」
「死ねば」
くくっ。相変わらず愛想の欠片もねー。
「な!? ふざけてんなよお前!」
馬鹿はプチキレして田宮にいきり立った。
「あっははは! 死ねはねーよな死ねは」
「そ、蒼司……さん」
「話し聞いちまった。席が隣りだから仕方ねーよな?」
「は、はい」
「で、俺の安眠を妨げたお前は、まだ此所に居るつもりか?」
「す、すみませんでした!!」
馬鹿は顔を真っ青にして教室を飛び出していく。
この一連のやり取りを見ていたクラスの奴らは、俺がチラッと見ると一斉に目を逸す。何もしてないってのにだ。
「…………ち」
田宮と俺の共通点。それは、友達が一人もいねー事。
「くだらね」
俺は再び机に顔を伏せ、眠りの国へと向かう事にした。
『蒼司君は優しい子だよ』
一年前、世話になってる先輩に挨拶へ行こうとした時、たまたま先輩の聞こえた教室内の会話。
『でも先週だって駅裏で新高のやつら相手に暴れたじゃん? しかも理由が犬が棒に当たったからムカついたとか意味わかんない事言ってたらしいし、やっぱり変だってあれは』
『確かに蒼司君は少し変わってるけど、それはマイナスじゃない。私は知ってるもの、蒼司君が優しい良い子だって事』
くだらない会話だ。
その会話は前に数回話した程度の女とそのダチがする暇つぶし程度の話。
俺が優しい? 何を勘違いしてるんだあの女は。
アンタが俺の何を知っている? 俺がアンタを犯した後でも同じ事言えるのかよ?
『……くだらねぇ』
優しい良い子だ?
ふざけやがって……
「…………お前って本当は優しい奴だろ?」
夢から覚めた俺の口は、勝手に動き、横の女にそう声を掛けた。
「…………はぁ?」
横の女、田宮はキョトンとした顔をした後、俺を睨み付ける。
俺は目を逸らさずに、真正面に見つめ返した。
「な、なによ?」
一年前。どうしようも無かった俺は綾さんに救われた。
だから、とは言わない。これは俺の暇つぶしに近い。
「お前は優しい奴だ。分かるよ」
「はあぁ!?」
田宮は席から立ち、顔を耳まで赤くさせ、俺を睨む。
「…………はは」
少し俺に似た奴。俺には作る事が出来なかった友達。
もし可能ならば、コイツに友達を作ってやりたい。
「な、何笑ってんだよテメェ!」
何と無くそう思った
「……お二人とも、授業中ですよ~。先生困っちゃいますよ~」
「うるさい!」
前途多難っぽいけどな。