お掃除
猫が人になりました、ご注意
「……え?名前?」
「うん」
頷きながら、私は受け取った本を胸に抱えた。
「あいつはハルト・ローゲインス。
俺の居た国の……ええと、知り合いってのは前に言ったよな?
昔からずっと腐れ縁なんだよ」
「そうなんだ」
本を運びながら、私達は二階の部屋へとやって来た。
一部屋、何故か何も無い部屋かがある。
それに首を傾げると「この家、部屋だけはいっぱいあるから、まず避難」と本を床に積んで行く。
「それって、ただ移動させただけじゃ……?」
「ひとまずはね。
今度町に出て本棚を買うよ、そしてここを書庫にする。
リビングとキッチンの物は全部ここに持って来てから、掃除だな」
「分かった」
頷いて、私達は二階と一階の往復を開始した。
日が昇りきってからご飯を食べて、空が茜色に染まるとドアベルが鳴った。
「ごめんあんず、出てやって」
「うん」
ぱたぱたと玄関へ駆けて行って鍵を開けると、沢山の箱と一緒にハルトが現れた。
「遅れてごめんよ、掃除は順調かい?」
「ちょうどリビングの床とキッチンのシンクが見え出したところ」
「それはすごい!何年振りかな?」
笑って箱を玄関へ置くと、腕まくりをして「手伝おう」とリビングへ入る。
「俺はこっちのキッチン片付けてるから、あんずと一緒にそっちのリビング頼む。
二階の四つ目の部屋におおまかな荷物を逃してるから、細かい物はお前の分別で捨てるか残すかしてくれ」
「分かった」
それからはとても早かった。
ハルトの細かい指示を受けながら、私も色々と物を移動させたりして辺りが真っ暗になる頃。
ようやく家具と床との間に道が出来た。
「……俺、引っ越して来てからちゃんと床見たの久しぶりだ」
「俺もだ……」
二人してすごく苦い顔をしたけれど、そんなに汚いまま一体何年過ごしていたのか。
「で、何買って来たんだ?」
「ああ!そうだった。
部屋の空気を入れ替えるついでに、先に風呂に入っておいで。
これ、着替え」
「……」
手に乗せられたのは、可愛らしいピンク色の服だった。
首回りがゆったりとした服ですごく楽だ。
「洗濯カゴも、新しい物を用意した。
あんずの物はこれに入れて、洗濯も分かるように。
ユースヴィル、お前の物も新しくしたからな」
「……ハルトはお世話が好きなの?」
首を傾げると、ちらりと彼を見てため息を吐き出すと、笑った。
「残念ながら、幼馴染があんななのでね」
「そう……すてき」
私は笑って、ハルトと一緒に浴室へと向かうのだった。
真っ赤になって手渡された「下着」には、フリルがたくさん付いていて、着たことが無いと言うとさらに真っ赤になって下着の付け方を教えてくれた。
人間は毛が無い分、沢山の服を着ているのだなーと思いつつ、やっぱり優しい人達だと笑みを浮かべる。