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馬上での思い

猫、また人になりました、ご注意



暖かい音がした。

ユースヴィルの心音はとても落ち着く。


私達は馬に揺られながら町へ向かっていた。

本当ならばそのまま屋敷に戻りたいところだけど、カノンを始め私達を捕らえた男達を町へ移送する事と、私達の安全と、なにがあったかを聴取するとの事だ。

被害者としての責務だろうと思って私は納得しているが、私を馬に乗せてくれているユースヴィルは少し不満げだった。


屋敷から出てすぐ、ユースヴィルを見付けて駆け出した。

私達の居た場所へはハルトと数名の人が入って来て、それに気付いたカノンがハルトに蹴りを繰り出し、何度かやり合った中で目が合い「あんずか!?」と私の名を呼んだ事でハルトだと確信を持って、カノンを制止した。

カノンは「味方なの!?」と顔を真っ赤にしていたが、ハルトが今この屋敷を包囲していて私達を助けに来たのだと聞くと、カノンは泣き崩れた。

やはり緊張していたのと、気を張っていたのだろう。

その場で気絶してしまった。

思っていた以上に追い詰めてしまったのかもしれないと自己嫌悪していると、ハルトが優しく私を撫でて「無事で良かった」と呟いた。

屋敷の中の8割は占拠していて、団員もほとんど拘束しているらしい。

あとは私達が外に出て完全にこの屋敷を落とすとの事だ。

倒れてしまったカノンをハルトが抱えて、私はその後ろに続いて部屋を出た。

はめ殺しの窓の外はまだ暗い。

町へ出てどれくらい時間が経ったのだろうかと、私はぼんやりと考えていた。



「ユースヴィル」


「どうした?」


返事をする声もどこか硬くて少しだけ怖い。

もう、私は要らなくなってしまっただろうか。

見限られてしまうのだろうか。


ぎゅっと服の裾を掴むと、ユースヴィルはピクリと腕を緊張させる。


「……ごめんなさい」


ただ一言、私は謝った。


涙は出るし、これ以上謝罪の言葉を重ねようとすると言葉に詰まる。

怖くて、悲しくて、感情がぐちゃぐちゃで、伝えたいのに言葉が出て来ない。

ハルトも、ユースヴィルも、危険なのにこの場所まで来てくれた。

嬉しいのに、申し訳無くて。

ただぎゅっとユースヴィルの服の裾を掴んだ。


「……あんず」


馬の上で、ハルトが私が掴んで居ない方の腕を首に回す。


「良かった……本当に無事で良かった、俺こそごめん。

俺も一緒に町に行けてたらもっと早く……こんな目に遭わさなかったのに」


「ユースヴィルは悪くない、悪くないよ……私がぼーっとしてたから、ごめんなさい」


後ろから背中に押し付けられるユースヴィルの瞼が熱い。

ユースヴィルも泣いているのかと振り返りたいけれど「恥ずかしいから見ないでくれ」と不貞腐れたユースヴィルに、私はようやく笑みを浮かべた。


「来てくれてありがとう、ユースヴィル」


「……当たり前だ、あんずの為だからな」


後ろから響く言葉は暖かい。

心がふんわり暖かくなる。

背中に居るユースヴィルに安心してもたれると、首に回ったその腕が私の手を取った。


「今から町で聴取を受ける事になる、辛い事もあるかもしれないが……耐えられるか?」


「大丈夫……けど、帰ったらね、暖かいミルクを飲みたい。

ユースヴィルにいっぱい甘えたいな」


「もちろんだ、いくらでも」


苦笑した気配がして、私はまたユースヴィルに背中を預ける。

今ならなんでも出来る気がして、私はこくんと頷くのだった。

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