再会
猫、また人になりました、ご注意
密偵の一人が帰って来た事により、町外れにある屋敷が盗賊団の本拠地だと考えられた。
今回二人が被害に遭う事になった経緯や奴等がなぜこの二人を攫ったのか。
まずは現行犯で取り押さえてからの聴取と言う事で話しがついて、町の警ら隊と、役所の職員数人が騎乗する。
そして当然のように馬に騎乗し、いつの間にか帯刀していたユースヴィルに、警ら隊らはギョッとしつつも大人しく指揮を執るハルトの指示に従った。
町から出て少し行くと、街道から少し逸れた道に出る。
ハルトは兵を二手に分けて表も裏両方から屋敷を囲うように指示した。
正面の隊はさらに二手に分かれ、入り口から突入する部隊と待機する部隊に分かれる。
数が四十と少ししか居ないので少数精鋭だが、屋敷の周りに馬車や馬の類が無い事が気になるが、ハルトは突入の指示を出した。
突入から少しすると、何人もの悲鳴や怒号が辺りに響く。
気が付けば辺りは暗闇に包まれており、街灯の明かりも届かないこの林の中はポツポツと馬に取り付けられた心許ない明かりだけが頼りになる。
木々の生い茂る中月の光も頼りにならない。
そんな中、突入部隊に加わると言ってハルトに止められたユースヴィルは目を閉じて、その声を静かに聞いていた。
悲鳴の中にあんずの声が聞こえるか。
それとも今はただ怯えてしまって、声も出せずに震えさせているのか。
怪我はしていないだろうか、猫の姿に戻っていないだろうか。
自分がその場に居られない事が心底妬ましい。
しかしハルトの言葉も一理あるので、冷静な部分で判断してユースヴィルはその場に残った。
屋敷の外、数名と共に屋敷の入り口を見張る。
だんだんと落ち着いて来た悲鳴や怒号の中、あんずの声は聞こえない。
入り口から拘束された人間が何人も現れるが、そんな奴らには目もくれずただ見えない月を見上げていた。
ただあの白くまろやかな頬に触れたかった。
無事を確かめたい、笑顔を見たい。
仕事なんて放り出して、数少ないあんずのわがままを聞いてあげれば良かった。
ハルトを責めるつもりは毛頭無いが、自分の考えの甘さに涙が出る。
「……ユースヴィル」
「あんず!」
馬から転げ落ちるように一歩前へと足を踏み込む。
一歩、また一歩と木々で届かなかった光を集めるあんずへと駆け寄る。
白く金に輝く長い髪は一つに縛っていて、着ていたワンピースの裾は長かったためか邪魔にならないように膝下でまとめられていた。
それだけを見ても、あんずが何をしようとしていたのかが伺えて、今回あんずに手を出した奴等への怒りがふつふつとこみ上げてくる。
「ユースヴィル」
「あんず……良かった」
すがるように手を伸ばすあんずのその小さな手を取って、俺は力強く抱き締めた。
ただこの場所で待っていただけの、力無い自分を悔やむ。
もっと俺に力があればもっと早く迎えに行けたというのに。
もっと自分に自信があれば、もっと町の人間達と交流があれば……もっと早く事態の収穫に尽力出来たかもしれないのに。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ユースヴィル」
「あんずは悪くない……怪我も無さそうで、本当に良かった」
ホッと息を吐き出して、俺はまたあんずを抱き締めた。
一つの思いを胸に抱きながら。




