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赤い髪の女(ひと)

猫、また人になりました、ご注意



ひとまず気配に気を付けながら、私は今の自分の状況を整理してみた。


私は何か箱の様な物に入れられている。

臭いからして部屋の中、あるいはどこか狭い場所。

男達の会話からオークションと言う言葉が出て来たので、どこかに向かう事は分かった。

だけど、声から察するに男は四人居るようだ。

今の私がいくら抵抗したとしても、残念ながらすぐに捕まってしまうだろう。

赤い方の人も気になるし、私はひとまず大人しくしておこうと決めた。



どれくらい時間が経ったか分からないけれど、人が何人か増えて来た事に気付いた。

初めは一人、二人と増えて行き、今は足音で分かるだけでも十人を超えているだろう。

何かあるのかと思っていると、いきなり視界が揺れた。


「っ!」


ガタンガタンと転がったのは、私が入った箱だろうか。

もう一つ音が聞こえたので、私ともう一人の赤い人の二つの箱がどこかに落とされたか何かしたのだろう。


「いやあっ、なに、なんなの!!」


「まあ待てや、すぐ開けてやるよー」


面白がった男の言葉と、そして周りに聞こえる笑い声。

寒気がして、私は恐怖で黙り込んだ。


急に視界が真っ白になったと思えば、いきなり箱の扉が開いて解放された。

ゴロンと出て来た私と赤い髪の女の人。

それぞれが視線を合わせる中「よう」と短く霞んだグレーの髪をオールバックにした男が、私達に声を掛ける。


「ようこそ商品、お前達は今からオークションで高値で売れる。

どう言う奴に飼われたいかの希望だけ聞いてやるよ」


年の頃なら30代の男はそう言うと、私の髪を乱暴に掴んだ。


「やっ、やめて!貴方達なんなの、どうして私達をっ!!」


「そんなもん売り物になりそうだからって理由以外にあるわけねえよ。

お前は生意気そうだから、そう言うのを好むバイヤーに買われるだろうなあ?

こっちには買い手が既に五万と居るんだ、あんな田舎町で燻らせるくらいなら、高く売るに越したこたぁねえ」


「……私は商品じゃないわ」


「あん?」


黙っていようと思ったのに、つい声が出た。


「私は商品じゃない。

彼のパートナーよ」


「彼ェ?お前、なんかどっかの商品か?」


「違う、売り物でも商品でも無い。

私は彼のもの……彼以外の誰の物にもならないわ」


そう言って正面に座っている男を睨み付けると、鼻で笑うと「そうかよ」と私の髪を離す。


「希望無し……と、言う事で、バイヤーには多少壊しても大丈夫だと伝えておこう」


男達は奥の扉へ向かう。


どうやら私達が箱から出されたこの場所は檻の中で、男達はその外に居たようだ。


「じゃあな商品ども、最後の夜を心行くまで楽しめよ」


がちゃんと扉の閉まる音と共に、重い鍵が回る音がした。

脚と腕には手枷と足枷が嵌められているが、飾りみたいなもので少し力を入れるだけで壊れた。


「……ね、ねえ……これから、どうなるの……私達」


声に振り向くと、赤い女の人が私を見ていた。


「私はカノン……劇団員よ。

せっかくお披露目の舞台に恵まれたのに、こんな事になるなんて……最悪」


「私はあんず、カノン、外に出ましょ」


「え?」


きょとんと目を丸くしたカノンの視線を頷きで返して、私は着ていたワンピースの裾を纏める。


「ここに居てはダメ、何があっても外に出る」


「そんな!ここがどこだかも分からないわ!?」


「それでも良い、まずは外に出る。

カノンはどうする、ここで好きなだけ現実を悲観しても良いけれど、時が来たら私達は問答無用で売られるわ。

それならこの手と足が自由な内に、私は彼の元へと戻る」


猫の姿では無いが、暗闇は得意だ。

持久力はどうだか分からないけれど、ここに来るまでの音は覚えている。


「どうする、カノン」


暗闇の中赤く光る髪と瞳が揺れて、やがて私をしっかりと見据えて手を取った。


「行くわ、私だって冗談じゃない。

戻って舞台のやり直しよ」


「ありがとう」


そう笑って言うと、髪を束ねるためのゴムを貸してくれた。


私以上に長いもの、邪魔になるでしょうと不敵に笑ってくれたカノンが頼もしくて、私はゆっくりと頷くのだった。

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