くらやみ
猫、また人になりました、ご注意
それは、いきなりの事だった。
私が町へ行きたいとユースヴィルにねだると、仕事で忙しくて一緒に行く事が出来ないとの事で、ハルトと町へ行く事になった。
目的は今日やってくる劇団の演目を見たいからだが、ユースヴィルが行けないなら行かないと言うと、ユースヴィルが帰って来てどんな話しだったのか聞かせて欲しいと言うので、私とハルトで町に来た。
今回は下町の花屋の娘と、城の門番の恋模様を描いたお話しらしい。
あれからすっかり演劇を気に入ってしまい、私は飲み物を買おうと屋台に立ち寄ったハルトの服を引きながら視線を彷徨わせてしまっていた。
この町はとても治安が良い穏やかでゆっくりとした時間が流れる町だった。
だからこそ、ハルトも私も油断していたのかもしれない。
いつもなら、絶対に何かの気配に気付かずに背後を取られる事は無かった。
音にも気配にも機敏に反応していたはずだ。
それなのに……その人は足音はおろか人の気配が薄かった。
だからこそ、気付くのが遅れた。
私は気付けば箱のような物に入れられていた。
周りには何人もの人の気配と、誰かの話し声が聞こえる。
手足は枷が付いているので動かせない、声も掠れている。
どうしよう。
「……なあ、コイツら売値いくらくらいつくんだ?」
「あー……白い方は高く売れるだろうなあ。
赤い方は気性が荒いからその手の奴には売れるだろう」
「値段なんかオークションで煽って釣り上げりゃそれなりになるさ。
それよりもコイツらの身内から捜索なんか受けてねえだろうな」
「……あるわけ無いだろう、そんな奴居たらボスに殺されてるさ」
下卑た笑いが当たりに響く。
どこか狭い場所に居るのだろうか、タバコの臭いが鼻につくのと、声が反射して聞こえてくる。
伸びたりしていないと言う事はこの至近距離で跳ね返って来ているのだろう。
オークションと聞こえたが、私はもしかしてオークションにかけられて売られるために攫われた?
赤い方と言う事は、私だけじゃない……少なくとももう一人居るんだろう。
「おい、あと少しでコイツらのどっちも目が醒めるはずだ、薬切らすんじゃねえぞ。
女の声ってのはたっけえからやかましいんだよ」
「へいへい」
誰かが立ち上がる気配がして、私はぎゅっと目を閉じた。
声が掠れていたのは、どうやら薬に喉をやられたからの様だった。
悔しい。
ユースヴィル、ハルト、ごめんなさい。
私は頬を流れる涙を拭う事も無く、さらに瞳を閉じる力を強めた。




