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思い返せば

猫、また人になりました、ご注意



「え?昨日町に出てたのかい?

それなら連絡してくれれば合流出来たのに……」


「昨日は演劇とクリームパンを食べに行ったから、買い物はそのついでだったんだ。

その後はすぐ帰ったし、あの猫も居たからな……」


「は?猫?」


よく分からないと言った表情でハルトは首を傾げる。

俺が軽く説明を挟むと、ハルトは声を上げて笑い始めた。


「なっ、なんで笑うんだ……」


「そりゃそうだろう!

いやあ……すごいなぁ、あんずは」


笑い終わったのか、目尻に溜まった涙を拭うと「本当に良い出会いだったんだな」とハルトはしみじみと言う。


「ここ半年程前の事を思い出してみろ。

ユースヴィル、お前は人が嫌でこの屋敷に来た。

そしてしたくもない領主と言う役目を背負わされ、王子としての権利を剥奪されて王家とは勘当だ。

半年前まで、お前があんずと出会う前までこの家はゴミ屋敷だったしな。

それがあんずとの出会いを経てこの家はゴミ屋敷を返上して普通の屋敷として使える事になり、今はあんず用の部屋も、俺が寝泊まり出来る用の部屋もあって、ゴミは綺麗に片付けられた。

さらにユースヴィルは今まで以上に町に出る機会に恵まれ、あんずを伴ってこの屋敷の外に出るまでになった」


朗々と語られるその話しがまるで自分の事では無いように感じて、俺は気恥ずかしさで顔を覆う。


「おや、どうしたんだ?ユースヴィル?」


「お前うるさい」


「そうか」


笑ったような気配がして、ハルトは「お茶にするか」と書類を置いた。


「下に降りよう、ユースヴィル。

今日はマフィンとクッキーを焼いて来たんだ」


「……お前は城を出て家事を覚えてからは、まるで主婦の様に嬉々としているよな」


後悔はしていないのか?


そう聞きたくても聞かなくて、やはり自分は意気地無しかと腑に落ちかけて、以前あんずに意気地無しと言われた瞬間を思い出した。


あの時は人の姿になったあんずに触れてしまうと、すぐに猫の姿に戻ってしまうのではと言う不安があった。

そして何より人に触れる行為が怖かった。

そんな俺の行動を見て、あんずは頬を膨らませて「意気地無し」と言う。

しかしその声にトゲトゲしさは無く、ただ柔らかだった。


……いつからだったかと言えば、きっとその瞬間からだ。

あんずから目が離せなくなった。


猫の姿の時でさえ、真っ白で綺麗で美人な猫だと思ったくらいだ。

人の姿を取って、白く金に輝く柔らかそうな髪と猫の時と同じようにアメジスト色の瞳を嵌めた綺麗な姿を見てしまうと、この世の全ての美しさを集約した様だと思ってしまった。


惹き付けられて、離れられない。


いや、離したくないと、思った。


俺は自分の手に収まる小さなあの手と赤くなったあんずを思い出して、つい緩まる頬を隠す為に両手で顔を覆うのだった。

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