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国王の威圧感

猫、人になってまた猫に戻りました、ご注意



「…………」


なんだか空が曇って来た気がして、私は空を見上げた。

庭に出て草に水を与えていた時の事。

今日はユースヴィルがお仕事があるのでお部屋に引き篭もっている日だ。

特になんの予定も無く、私はまだお昼を過ぎた辺りなのでのんびりお昼寝をしようとしていたのだが、なんだか落ち着かなくなって来たので、ジョウロを置いてリビングへと向かう。


「……なんだろう」


なんとも言えない、不安のような気持ち悪さが胸に残っている。

今日朝食べたものが何か悪い物だっただろうか……いや、新鮮な卵をスクランブルエッグにして、マヨネーズをかけた物をパンの上に乗せただけだ。

卵は完全に火を通していたし、なにより私とユースヴィルは同じ物を食べている。

お仕事の邪魔をするのは嫌だけど、ユースヴィルは平気なのか気になって、私は階段を上がってユースヴィルの執務室のドアをノックした。


すぐに「入っていいぞ」とユースヴィルの声がして、私はドアノブを回した。


「……お仕事の途中でごめんなさい、ユースヴィル」


「大丈夫だ、何かあったのか?」


「なんだか胸の辺りが気持ち悪くて……変な感じなの」


「気分が悪いのか?」


机から急いで私の前にやって来ると、手を取ってソファーに座らせてくれた。


「違うの、でもなんだか言葉に出来ない変な感じで……」


私が言葉に詰まらせていると、ゴーンゴーンと鐘の音が聞こえて来た。


「ハルトかな……あんず、ここに居てくれ。

ハルトなら何か分かるかも知れないからな」


優しく私の頭を撫でて、ユースヴィルは階下へ降りて行った。


食べた物は普通なようで、ユースヴィルは特に何も無かったようだ。

それに安堵していると「なぜここに貴方が!」とユースヴィルの怒号が聞こえた。

今まで聞いた事が無いほどの硬い声で、私は怖くなってその場でドアの方を見る。

きちんと閉まっているはずのドアから、何かとてつもない威圧感を感じた。



「……どうしてここに!?」


「お前が誰とも分からぬ者を屋敷に招いたと聞いた」


「だとしても貴方には関係の無い事でしょう!!

俺は俺で好きに生きている、領主としての仕事もこなしている筈だ!」


向かって正面に居るこの人間に、俺は怒りを禁じ得なかった。

冷たい視線、見下ろす巨大な体躯、冷ややかな言葉。

全てが「国王」としての態度だ。

あんずが怖がっていたのはこの人の事かと合点がいった。


「それで、連れはどこに?」


「猫なら居ない、今頃外に散歩でも行ってるんじゃ無いですか?」


「では稀なる容姿を持つ女は?」


「ハルトと一緒に町へ行ってますよ。

もういいでしょう、お引き取り下さい」


視線を上に向けると、冷え切った視線に足が震えた。

昔からこの人のこの目が怖かった。

怖くて怖くてたまらない、自分がまるで存在していないもののように感じる。


「……今回は見逃してやるか……しかしな、ユースヴィルよ。

お前は仮にも元王族、我々の足を引っ張る事の無いように、圧倒的下位の者を側に置くのはやめておけ」


「……は?」


ユースヴィルの言葉は届かなかった。

ゆっくりと歩く国王は、今、なんと言ったのか。

その言葉をはっきりと理解した時、カッと身体が燃えるように熱くなったのが分かる。


「ユースヴィル!」


「ハルト」


どれくらいそこで立ち尽くしていたのだろう。

ハルトの声に顔を上げると、血相を変えてハルトが俺の肩を掴む。


「大丈夫か、何があった?……何を言われた?」


心配そうなその表情に肩の力が抜けて、ようやく強張った表情を解除した。


「猫と女を見に来たんだと」


「国王がわざわざ!?

……自分から勘当しておいて、まだユースヴィルを縛られるつもりなのか、あの方は」


ギリっと奥歯を噛み締めて、ハルトは渋い表情になる。


「大丈夫だよ、あんずは居ないって言っておいたし。

それに今回は忠告を受けただけだ」


「忠告?」


不思議そうな顔をしたハルトに先程の言葉を伝えてやると、さっきの俺と同じような顔になった。


「そのままあんずの前に出るなよ、きっと心配するからな」


「……それもそうだな」


ハルトはため息を吐き出すと「そう言えば、あんずは?」と部屋の中を見渡した。


「そうだ、執務室の中に居る。

王が来る直前に気分が悪いって言ってたんだ、診てやってくれないか?」


二人で執務室へ向かうと、ソファーの上にあんずの姿は無かった。

不思議に思って部屋を見渡すと「みゃおん」としばらく聞いていなかった鳴き声がして足元に視線を落とす。


「……あんず!?」


「みゃおう」


抱き上げると、あの綺麗な白い毛と珍しいアメジストの瞳を持つ猫に姿が変わっていた。


「……これは一体……」


俺達は二人して、困惑の表情であんずを見詰めるしかなかった。

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