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町へ行こう

猫が人になりました、ご注意



町へ向かう事30分程だろうか。

川にかかる小さな橋を渡ったところで、ユースヴィルが「あそこ、行ったことがあるか?」と聞いて来たので首を傾げた。


その指差す先には小高い丘があって、白く小さな教会がある。

目が覚めた時に、私が居た場所だと答えると「そうなのか?」とユースヴィルは目を丸くした。


「そう言えば……あんずはどこで生まれたんだ?」


「多分あそこだと思う。

目が覚めたら、一人だった。

町に行くとご飯が貰えたけれど、どこの猫も私を知らないって。

親が居るのか兄弟がいるのかも分からないわ」


「そうだったのか……そう言えば、町からここまでは結構離れてるけどなんだってうちの庭に来たんだ?」


「あそこはまだ猫が誰も入った事がない場所なんだって聞いたの。

しつこく付きまとって来るオスが居て、じゃああそこなら安全かなと思って……」


その時ふと、前に猫達に言われた言葉を思い出した。

ユースヴィルが町の猫に噂されている事。

猫を実験材料にしていたり、夜な夜な徘徊していたり。

実際には全然そんな事無くて、むしろ人から距離を置く人だと私は分かったけれど……町の人はユースヴィルの事、どう思ってるんだろう。


そう思って隣を歩く彼を見ると、変な顔をしていて思わず笑ってしまった。


「どうしたの?」


「いや……しつこく付きまとうって?」


「ああ……さあ、よく分からないんだけど、何度も何度も断ってるのに、遊ぼう遊ぼうってうるさくて。

この辺りの縄張りで一番大きな土地に住む家猫らしいんだけれど、ユースヴィルの屋敷にお邪魔してからはぱったり来なくなったから、今の今まで忘れてたわ」


あの三毛猫を思い出してしまって、私はため息を吐き出した。


「今は、大丈夫なのか?」


「人の姿を取っているし、猫だと分からないと思うけれど」


尻尾も耳も無いので、あちらも私があの白猫だとは分からないはずだ。

そう言う意味で大丈夫だろうと笑うと「まあ、来ても追っ払ってやるさ」とユースヴィルも笑ってくれた。



町への入り口は簡単な門を潜るだけだ。

門の入り口には屈強な男達が槍を構えて立っているが、にこりと笑みを向けると陽気に手を振ってくれた。

しかしその隣のユースヴィルに視線を向けると、全員がキリッとした表情で敬礼をして、二、三人が町へとバタバタと走って行ってしまった。


「……しまった、先触れが必要だったか」


「先触れ?」


「いきなり行くと驚かれるとか、そんな感じ……。

あーもー、こう言うのが面倒なんだよな……」


町に一歩踏み出してすぐに漏れた呟きに首を振って、小さく「前向きに考えろ……」とユースヴィルは呟いた。

この人は本当に素敵だなあと私はそれに頷いて、自然と繋がれた手に力を込めた。

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