表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

元軍人と新米兵士2

作者: HAL姉

声劇台本(2:0) 男性2人用声劇台本です。

1〜3まであり、比率そのままで通し版もあります。

男性2人用ですが、女性でも男役として演じて下さって構いません。

規約は設けておりませんので、どの媒体を使用し配信しても大丈夫です。

少しでも、楽しい時間を提供させて頂けたら幸いです。

尚、配信媒体を使用される場合は録画機能がある場合、残して下さると助かります。

強制ではありません。

キャスト

マスター・軍人A:

ルーキー・軍人B:



レトロな雰囲気のバーにて



マスター

「ん、客……?

まだ開店前なんだが……あぁ、ボウズか」


ルーキー

「……こんばんは」


マスター

「何だ、不景気な顔してるな」


ルーキー

「…えぇ、まあ……」


マスター

「ボウズ、今度は与太話(よたばなし)でもしに来なと言っただろう。

また何か抱え込んでんのか」


ルーキー

「…いえ、そうではないんですけど…」


マスター

「とにかく座んな。

この時間に来たって事は、他に客がいない頃合いを見計(みはか)らったんだろう?」


ルーキー

「すみません…」


マスター

「この(あと)の予定は?」


ルーキー

「……帰らされましたんで、もう、何も予定は無い…です…」


マスター

「あぁ、そういう事か。

なら酒を出しても構わないな」


ルーキー

「……少し…強いのを頂けますか」


マスター

「そうだな……ボウズにはまだ早いかもしれんが、いいのがある」


ルーキー

「……(溜め息)」


マスター

「ヤケ酒は勧めないが……これならお前さんには似合いだろう。

飲んでみろ」


ルーキー

「…頂きます………甘い…」


マスター

「……初めてここに来てから、ひと月か」


ルーキー

「えぇ、そうですね…」


マスター

「そう辛気臭い顔をするな、折角(せっかく)のいい酒が不味(まず)くなるぞ」


ルーキー

「…すみません」


マスター

「ふむ………そうさな、今日は俺が話してやろう」


ルーキー

「えっ…?」


マスター

「与太話って奴だ。

あれは、俺がまだお前の年の頃ーー…」





軍人A

「くっそ……ちったぁ手加減しやがれってんだ!」


軍人B

「いい見世物(みせもの)だったぞ。

自業自得(じごうじとく)だな」


軍人A

「あん?

他人事(ひとごと)だと思ったらお前も痛い目に()うぞ!」


軍人B

「俺はお前みたいなヘマしないよ。

ゲンコツ一発で済んだだけでも良しとしたもんだろう。

演習で良かったな」


軍人A

「ぐっ…」


軍人B

「戦場では、どんな言い訳も通じない。

全てにおいて生死に関わってくるんだ」


軍人A

「お前にまで説教されたかねぇんだよ!

階級は一緒だろうが!」


軍人B

「あぁ、今はそうだが、すぐに置いていくさ」


軍人A

「何言ってんだ、お前」


軍人B

「そのままの意味だよ。

俺は一等兵で終わるつもりは毛頭(もうとう)無い。

まだまだ足りないんだ、何もかも」


軍人A

「はん、またアレを言うつもりか。

耳にタコだ」


軍人B

「ははっ」


軍人A

「何笑ってやがる」


軍人B

「理想論だろうが、綺麗事と(ののし)られようが、俺の信念は変わらない。

笑われる前に笑ってやるさ」


軍人A

「…俺には分からん」


軍人B

「理解しろとも、共感しろとも言わない。

目指す指針は、人それぞれでいい」


軍人A

「………なあ、お前、出身はどこだ?」


軍人B

「何だ、急に」


軍人A

「いいから、教えろよ」


軍人B

「名前も知られてない、辺境区(へんきょうく)だよ」


軍人A

「名前も…?

そんな所がこの時代にあんのか」


軍人B

「さぁてね。

確認した訳じゃないが、もう地図からも抹消(まっしょう)されちまっただろう」


軍人A

「な……まさか」


軍人B

(さき)大戦(たいせん)で飛び火()らったんだよ。

あんな片田舎(かたいなか)、放っておいたって何の影響も無かった(はず)なのにな」


軍人A

「……見せつけか」


軍人B

「さあな……今となっては分かりようもない。

狩る者の意向なんて、知りたくないよ」


軍人A

「……すまなかった」


軍人B

「うん?

何故お前が謝るんだ」


軍人A

「いや……」


軍人B

「…話したくなかったら話さないさ。

俺は、ただひたすらに進み続けるだけだ」


軍人A

「…そうか」


軍人B

「そういや、お前はこの州の生まれらしいな」


軍人A

「そうだが…何で知ってるんだ?」


軍人B

「俺は地獄耳なのさ。

情報収集も身を助けるからな」


軍人A

「その内千里眼も使えるとか言い出しそうだ」


軍人B

「いいねぇ、使えたら戦場での指揮が格段に向上するだろう」


軍人A

「冗談をまともに(とら)えるな、馬鹿馬鹿しい」


軍人B

()いつくばってでも、(すが)りついてでも…かけがえのないモノがあるって事だよ。

なあ、お前の家族は息災(そくさい)か?」


軍人A

「ん、あぁ、片親(かたおや)だがな。

親父は俺が幼い頃に病死して、母さんは軍病院で働いている」


軍人B

「ほう……医師か」


軍人A

「そんな所だ」


軍人B

「何故お前は、医師にならなかったんだ?」


軍人A

「とぼけた事を言うな。

俺にそんな頭があると思うか?」


軍人B

「必要なのは頭の出来じゃない、魂さ」


軍人A

「俺は、机に(かじ)りつく位なら走っていてぇんだよ」


軍人B

「脳まで筋肉になってそうだな。

継ぐ事は考えなかったのか?」


軍人A

「さて……考えた事も無かったよ。

もっとも、軍に籍を置く事になるとも思ってはいなかったがな」


軍人B

「そうなのか?

明日からはゆっくり話す時間も持てないだろうし、幼少期の夢でも語ってくれよ」


軍人A

「何の為に?」


軍人B

「与太話さ」


軍人A

「有益な時間とは思えねぇが」


軍人B

「消灯にはまだ早いだろう?

有益か無益かは、俺が決める」


軍人A

「とてもシラフで話せる内容じゃねぇな。

明日は朝イチで最終ブリーフィングだろう、とっとと寝ろ」


軍人B

「初の実戦だ、気になる事があったら集中出来ないじゃないか」


軍人A

「そこまでの話じゃねぇだろ」


軍人B

「おいおい、勿体ぶるとハードル上がるぞ?

いいじゃないか、同期のよしみだ」


軍人A

「…ちっ、しつこい奴だ。

笑うんじゃねぇぞ」


軍人B

「笑わないよ」


軍人A

「…………空を、飛びたかった」


軍人B

「空?」


軍人A

「あぁ。

()り来たりな話さ、親父がパイロットだったんだ」


軍人B

「軍用か?」


軍人A

「いや……虫も殺せない様な人だった、らしい」


軍人B

「へぇ…じゃあ旅客機(りょかくき)か。

らしいってのは何だ?」


軍人A

「人柄について(ほとん)ど記憶が無ぇんだ。

やっと民間機が定着し始めた時代だったからな、親父はろくな休みも無く飛び回っていた」


軍人B

(ふる)い軍用機の果てか」


軍人A

「そうだ。

旅客機とは名ばかりで、避難民の搬送(はんそう)(おも)だったらしい」


軍人B

「先の大戦では、大規模な勧告が出たからな。

俺が生まれ育った片田舎の犠牲の上らしいが…」


軍人A

「安全な地など、どこにも無かった頃だ。

不可侵領域(ふかしんりょういき)後手(ごて)に回った。

政府を…恨んでいるか?」


軍人B

「何を馬鹿な事。

野暮(やぼ)な質問だ」


軍人A

「そうだな、馬鹿な事を聞いた」


軍人B

「俺がここにいる事がその答えだろう。

なぁ、お前は何故パイロットにもならなかったんだ?」


軍人A

「ならなかったんじゃない、なれなかったんだ。

言っただろう?

頭の出来が悪かったんだよ。

頼みの(つな)も切れちまった」


軍人B

「…そうか、それでここに」


軍人A

「もう一度…観たかった。

一度だけ親父の操縦する機に乗せて貰った時の、突き抜ける青を、視界の(はし)に去っていく白を、遥かな地平線を…」


軍人B

「ははっ」


軍人A

「……もうこの話は終わりだ」


軍人B

「すまない、笑わないと約束したんだったな」


軍人A

「くそっ、だから言いたくなかったんだ」


軍人B

「悪かったよ、あまりにも詩的な表現だったから、ついな」


軍人A

「キャラじゃないと言いてぇんだろう」


軍人B

「あぁ、その通りだ。

お詫びに俺の話を聞かせてやるよ」


軍人A

「散々聞いた」


軍人B

「そう言うなよ。

継いだ話はしていないだろう?」


軍人A

「継いだ?」


軍人B

「先の大戦での事さ。

俺は、生かされたんだ」


軍人A

「何の事だ」


軍人B

「あの日は晴天だった。

俺は、家族分の洗濯物を干す母親の足元で見つけた(あり)の行列に夢中になっていた」


軍人A

「大戦中とは思えない光景だな」


軍人B

「あぁ、平和だったんだ。

自国が他国と争ってるなんて、これっぽっちも思っちゃいなかったさ。

どこか遠い、知らない国同士の争いだとね。

まだ片手の年だった俺には、報道を理解する知も無かった」


軍人A

「無理も無い…」


軍人B

「蟻の行列がどこから始まって、どこへ向かっているのか…

それを突き止めようと、しゃがみ込んで追い掛けていた。

BGMは母親の軽快なハミングだ。

ふと、そこに影が差した。

突然耳鳴りがして、暗くなった事に不審がった俺は顔を上げた。

そこには、同じ様に空を見上げて固まった母親の顔と、青空一面を(おお)い尽くす戦闘機の群れが映っていた。

母親は、手にしていた洗濯(かご)を放り出して、代わりに俺を抱えて走り出した。

俺は、何が起きているのか分からなかったが、ただならぬ気配にその腕にしがみつく事しか出来なかった。

遠くからヒュルヒュルと音を立てて何かが落ちてくるのが、母親の背中越しに見えた。

そこで、一度意識が途切れた」


軍人A

「途切れた?」


軍人B

「あぁ、気付いたらどこか、建物の中で寝かされていた。

今思うと多分あれはシェルター内だったんだろうな。

心配そうに俺の顔を覗き込んでいたのは、母親ではなかった」


軍人A

「まさか…」


軍人B

「勝手に殺さないでくれ、母親は生きている」


軍人A

「何も言ってねぇだろうが」


軍人B

「気休めに床に敷かれた布切れに寝かされていた俺の隣りで、応急処置をされていたのが母親だった。

だが俺は、それに気付けなかったんだ」


軍人A

「どういう事だ?」


軍人B

「まるでミイラみたいに、身体中あちこち包帯だらけだった。

包帯の隙間から覗く鼻と口だけでは、俺には母親だと判別出来る訳も無い。

痛みに耐える(うめ)き声も、耳に残っていたあのハミングとは重ならなかった。

だから、ただ(おび)えて、(そば)にいた兵士に(すが)りついていたんだ」


軍人A

「……その後は、どうなったんだ」


軍人B

「建物の中には見知った人物はいなかった。

孤児(こじ)と識別されて、軍が運営する施設に収容されたのさ」


軍人A

「そうか……いや、ちょっと待ってくれ。

その時は分からなかったのに、何故隣りにいたのが母親だと?」


軍人B

「その兵士から手紙で知らされたんだ、3年前にな。

成人し、施設を出る年だった。

その手紙には、俺の母親があれから(しばら)く軍病院で治療されていて、脊髄(せきずい)に損傷があって1人では動けない事、失語症になっている事、筆談(ひつだん)でやっと身元が分かり、俺の母親だった事が判明したと書かれていた」


軍人A

「今も…生きているのか?」


軍人B

「…多分な。

死んだという(しら)せは無い」


軍人A

「多分って…会いに行ってねぇのか、何故!」


軍人B

「行けると思うか!?」


軍人A

「っ……それは…」


軍人B

「…天涯孤独(てんがいこどく)だと、ずっと思っていたんだ。

憎かった!

俺を天涯孤独にした戦争を!

全てを奪っていった敵国を恨んだ!!

……復讐(ふくしゅう)してやろうと思って軍に入ろうとしていた俺に、突然母親が生きていると報せが来たんだ。

生きていてくれた事は素直に嬉しかった。

でも、まだ会いには行けないんだ。

何も…()していないから」


軍人A

「……そうか」


軍人B

「………胸を張って、会いに行きたいんだ。

あの人は、命懸けで息子の俺を守ってくれた。

あの時居合わせた兵士も、あれから何年も経ったのにわざわざ報せてくれた。

だから俺は、(むく)いる為に1人でも多くの人をーー…」





マスター

「………与太話はこれで終わりだ」


ルーキー

「え…」


マスター

「すまんな、開店の時間だ。

今日は帰ってくれるか?」


ルーキー

「な、何故です?

私は客としてここに居られないんですか!?」


マスター

「予約が入ってるんだよ。

また来な、ボウズ」


ルーキー

「待って下さい、今の話の人ってーー…!」


マスター

「さぁ、帰った帰った」


ルーキー

「教えて下さい、その人はきっと!」


マスター

「今度来たら話してやる。

お前さんが知りたい事もな」


ルーキー

「ほ、本当ですか…?」


マスター

「あぁ、約束しよう」


ルーキー

「…わ、分かりました、今日はこれで失礼します…

絶対ですよ!」


マスター

「分かったって、お前さんもしつこいな」


ルーキー

「約束、忘れませんから!

それに、今度こそボウズと呼ばれない様にします!

では!」


マスター

「…は、覚えてやがったか……お前さんは、まだまだボウズだよ。

しっかし、つい口が滑っちまった。

またどうせ、高みから見物して笑ってやがるんだろうな、あいつは…

昨日、どこの(つて)か知らんが俺の所に報せが来たんだ。

もう会えたか?

今頃、順番が違うだろうって、母親に怒られてんだろうな。

俺は、番がまだ来そうにねぇからもう暫くガキ共の世話をする事にしたよ。

俺も胸張って、お前に会いに行ける様にな」




-end-

感想を頂けると大層喜びます!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ