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悪魔の使徒と死にゆく彼女  作者: 真嶋克幸
1/3

病室

どうにもならない絶望に打ち拉がれた時、人は気がおかしくなる。

そして、祈るのだ。そう、悪魔にでさえ。

 

 人が死ぬというのは、当たり前のことだ。そんな誰でも知っていることを、享受できないでいる。死を受け入れられないというのも、また当たり前のことなのだが、その時の僕は、もうまともではなかったのだ。

 

 夜になっても電灯を点けることももせずに、ベッドの縁に座り、動けないでいた。部屋に帰ってから、見るつもりもなくつけたテレビから、現役財務官僚の連続殺人というニュースが流れていた。このところは、いつもそのニュースばかりが流れている。殺された人たちは、子供から老人まで、男女問わず。事件が発覚したのは、複数の殺害現場近くのコンビニの防犯カメラに、犯人の姿が映っていて、有力な容疑者としてあげられていて、任意同行の際に逃げ、今も行方を追っている、とのことだ。


 そんな事件が世の中を賑わしているようだが、今の僕には、そんなことはどうでもよかった。僕はベッドの縁に座り、祈る。もう何ヶ月も、僕は祈っていた。


 死にゆく彼女のために……。


 今が何時なのかもわからない。どこまでも続くかのような闇の中、声が聞こえたのだ。


「君は運がいい」

 それは陽気で明るい男の声だった。


 


 病室の窓は開けられなくなっていた。外の空気は彼女にとって毒なので、春になろうとしている風を病室に入れることはできなかった。窓からはこの辺りのビルしか見えない。僕はその窓辺の椅子に座り文庫本を読んでいた。


「もう桜は咲いているのかな?」

 彼女はベッドの上で、首だけを僕の方に向けて、そう言った。


「来る時、まだ蕾だったよ」


 僕が、そう言うと、彼女は、「そう……」と言って、また目をつぶった。

 病室は個室で、二人きりだ。点滴を変えるために定期的にやってくる看護師を除いては。僕は時間のある限り、ここに来て一緒に過ごしている。それももう二ヶ月になろうとしていた。薬の副作用もあり、もともと饒舌だった彼女の口数は少しずつ減っていき、見た目も日に日にやつれていった。

 急性白血病。

 よくある病気だ。悪い意味で。

 

 実家暮らしだった彼女は、貧血のような症状を起こし倒れた。救急車で運ばれ、検査され、次の日には専門の病院に転院した。僕はそれを、彼女と一緒に通っている大学で連絡を受けた。


「ついてなかったなぁ……」

 病室で会った彼女は、苦笑いをしてそう言った。









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