光陽の太陽
4280文字
月光も当たらない薄暗い地下。わずかな光源の蝋燭が、漂う風に緩やかに揺れる。地下に充満した鼻を摘まずにはいられない腐敗物の臭い
長い廊下に左右の重々しい扉。扉には申し訳ない程度の窓が着いており、その中は二畳ほどの空間がある
「今日からここが君たちの部屋です
明日の朝までは私語禁止、いいですね」
大臣を含め数名の兵士達が地下の独房まで、勇者である少年少女を直に押し込んだ
廊下の並びに従う隣の部屋との交通を遮断する為に、かなり長めの間隔をあけてある。私語ではないためほとんどが独房から嗚咽を聞かせていた
その中でユウと弥景、真のみが涙を流さず部屋を見回していた
(う〜ん。雨風しのげる壁と屋根、トイレ替わりの桶があるし爺ちゃんの修行と比べたら楽園)
地面に転がる小さな石粒の退かし寝っ転がれる場所を作りながら弥景はそんな事を思っていた。幼少から行われた理不尽の塊とも言えよう祖父と父による修行
彼女の家が忍者の末裔で、更には今代まで続く由緒正しい家柄である
ただし一人っ子であるがために弥景がこのまま異世界で過ごせば、跡取りがおらず家は廃れる事間違い無し
(まあ、父さんも母さんもまだ若いし。私が帰れなくても子供拵えるでしょ)
しかし、次期当主になるはずの本人は、異世界で奴隷になっても未だ心躍らせていた。何時いかなる状況でも自身を見失わない様に教育された彼女に取って、明日どうなるか解らない状況でも悲観的にならずにいた
若干の凸凹はある物の寝転がる為の場所を確保した弥景は早速横になろうとする。すると、綺麗にしたばかりの場所に石粒が転がってきた
自身が蹴ったと思い、弥景はゆっくりと移動して転がってきた場所から石を取り除く。だが、また直ぐに石が転がってきた。しかもさっきよりも大きい
ここで飛んできたという事に気がつき、唯一飛んで来れる場所であろう扉の窓から外を覗き込む
道沿いの部屋同士はかなり距離があるにもかかわらず、通路を挟んで向かい側の部屋とはあまり離れていない欠陥物件
弥景の独房の向かいにはこけた顔のユウがこちらを除かせていた。ユウは声には出さず、口だけを動かしていた。特に相手に伝わる様ゆっくりと動かしている
(読唇できる?)
(まあ、できるよ。でも、これって私以外だと無理だと思う)
(弥景ならできるかなって思って)
この時、扉越しに口だけを動かす男女の絵が完成した
(私は寧ろ普通の学生であるユウが読心術を使える方が不思議で堪らないよ)
(別に難しくないよ? まあ、その話は置いておいて。弥景はこの腕輪外せそう?)
はぐらされた感が否めないが弥景は自身の両腕に着いた金色の枷を見て、触って、動くかどうかの確認をする
(無理。ピッタリなサイズになって指が少しも内側に入らない。鍵もないし、元より外す事を考えてないんだろうね)
(同意見か。外す事も考慮されてたら俺にもどうにか出来たんだけどなあ)
(……鍵開けもできるの? もしかして空き巣とかしてた?)
(するかそんな事。鍵開けくらいならできるけど)
(君はなんでもできるんだね)
(なんでもできないでしょ。こうして捕まってるんだから。奴隷にされるのも察知できなかったしね)
(まあ、確かに。……ところでそんな事を聞くって事は?)
ユウはニヤリと笑って答える。しかし、その表情も完璧ではなく。少し困った雰囲気があった
(できる事ならね)
〜 〜 〜
「あのままだと奴隷にされてた!?」
「ちょ、五月蝿い」
時間は千代から未来の話をされた所まで遡る。光陽の驚く声は彼の理性により最小限まで抑えられていたうえ、千代の排尿によって監視役とも言えるローブの女には聞こえていなかった
「なんでユウに話さなかったんだ!? こういうときこそユウの力が必要だろ!」
「ユウに話せば、芦川さんが声を荒げる未来も見えたの。そうすれば、皆気がついて、兵士達に実力行使で奴隷にされる」
「こんな時まで」
結女の顔を思いだしながら、忌々しいと口にする光陽。口には出さない物の千代も同じ気持ちであった為に、悪態について光陽を制する気にもならない
千代は直に話を戻した
「例えユウや不知火くんを助け出したとしても、国の真ん中で国を守る兵士に囲まれたら勝てない
能力を得ても、私たちには絶対的に経験値が足りない。とにかく今は逃げるしかないの」
「わかった。僕はどうすれば良い?」
「私に作戦がある」
自信満々に言う千代に光陽は頷く。そして千代が作戦を言う直前に彼が一番気になった事を口にする
「千代。ちょっと長くない?」
「……我慢してたからね。あと、このことをユウに言ったら叩く」
「うい」
千代の作戦を聞いて光陽は少し意気消沈気味になった
「マジで?」
「マジです。さあ! やるよ」
力弱く光陽は頷いた。全ての用を済ませた二人がトイレから出る
「ああ、お済みですか。意外と短かったですね」
「え? 短かったですか?」
「ええ、ヤってるものかと」
ローブの女の爆弾発言。二人は声を揃えて答える
「「なんでコイツとヤらなきゃいけないんですか」」
「トイレに一緒に入るのにですか!?」
確かに一理ある。光陽のそんな思考に反して千代は力強く否定する
「私には好きな人がいるんで光陽はお断りです!」
「まあ、僕にも好きな人がいるしね。あ、それはそうとお姉さん」
「はい? なんでしょう」
「流し方が解らないんですけどどうしたら良いですか?」
光陽達の元いた世界が解らないと仮定した文化の違い作戦。どの道適当な嘘を着いてもこの世界の人には真偽を判断できないという千代の意向だ
実際にもローブの女は疑う事もなく光陽達が出てきたトイレの中に入る
女がトイレの水を流すと同時に光陽が頭を便器へぶち込み、千代が手足を全身を使って押さえ付けた。流水があるため直に息苦しくなる
押さえ付けているのが女という事もあるが、元より魔法使いの彼女は身体を動かす事を得意としていない。必死に暴れるも、男性の力には敵わず一分程度で動かなくなった
抵抗が緩くなったのを見て光陽は急いで顔を便座から上げる。口元に手を当て、息をしているかを確認する
「息してるのおかしくない?」
「低酸素みたいな感じだから大丈夫でしょ?」
実際は本当に危険な事をしているのだが、全く理解していない二人は。死んでいないだけマシと割り切って次の行動に移る
奴隷にされて良い様にされてたまるか。その思考で人を襲う事にためらわない彼らも大概壊れているのかもしれない
大臣に選ばれたローブの男はトイレの前で大きな欠伸をしていた。光陽達がトイレへと消えて行った三人を待つ事数分
千代の爆弾発言もあり、あと十数分は出て来ないだろうと思っているのでトイレとは向かいの壁に背中を預けてたっていた
日も変わる頃という事もあり、廊下を誰かが通る事もない。二度目の欠伸を済まして、眠い眼を擦っている。そんな時だった
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
トイレの中から男の叫び声が聞こえてきた。トイレの中に男など一人しかいない。光陽だけだ
男は壁から身体を話すも、トイレには入れない。中がどんな状況かが解らないからだ
もし、もしも中では半裸の光陽と半裸の千代がいれば入った瞬間、批難の目に遭う事間違い無し
ためらう男の前にトイレから一人の女が出てくる。ローブ姿ではなく、制服
千代であった
「あの、あのあのあの! 光陽の光陽がズボンのチャックに挟まれて大変な事に! 助けてください!」
「な、何を言っているのか解らないが。解った何とかしてみよう!」
先に入って行く男を、薄く目を開けてニンマリと笑う千代が見送った
「大丈夫か!?」
個室が複数並ぶトイレで唯一扉の開いた部屋があった。そこからは学校指定のズボンとスニーカーが見えていた
それが目に入ってきた男は、同じことをもう一度言ってから個室を除く
しかし次に映った光景は、紅い髪の女性がズボンを履いて気を失っていたのだ
紅い髪の女性、それは自分と一緒に二人の監視を言い渡されたローブの女
思っていた光景と違い。男は一瞬思考が止まる
「ほい」
思考の止まった直後、戻ろうとした思考を下腹部からの衝撃によって。再度思考が止まる
千代の蹴り上げたキックが見事に男の股間を直撃したのだ。余りにも綺麗にはいるものだから、叫びの一つも出ないで唸り声を上げて踞る
「はい。ちょっと失礼」そんな光陽の声が聞こえ、最後には息苦しくなっていく。そしてそのまま意識は闇の中へと消えて行った
「いやあ、千代。相変わらずエグいことするよね」
「作戦は完璧だったでしょ。さ、二人の服と私たちの服を入れ替えるよ。こんな国とはおさらばおさらば」
千代の作戦はこうだ
先ずはなにがなんでもこの国から逃げる事。千代の予知が祝福により無自覚の能力から任意の物になった事で、逃亡は比較的容易いだろう
追っ手が来たとしても。光陽の得た能力『不屈の太陽』の力でどうにでもなる
その後、出来うる限りの力を付けてユウを含むクラスメイトを救い出す
これがまさにどうにかして逃げ出す事の第一歩
二人はローブを着て城内を歩く。来た道を戻り城と召喚された建物を繋ぐ通路から中庭に出る。移動するに従い千代は何度も何度も未来予知を使う。角で誰かにはち会わないかを確認し、警備の交代の隙を着いて移動
全て彼女の能力が鍵を握っていた
千代に取って異能とも言える能力は元の世界で何度も体験した事なので、一切合切問題はなかった
そうなると問題になるのは莫大な魔力を使う未来予知である。元の世界では一度使えば数秒先の光景を見ただけで、真面に身動きが取れなくなる物だったのだが
現在、逃亡に使っている予知の回数は八十を越えた。燃え尽きること無く彼女は能力を使う
「やっぱり便利だったね。不屈の太陽」
「二個目の方はな。もう一個は練習しなきゃ絶対に危ない。それで? まだこの城から出られそうにないか?」
「もうちょっとで出れるよ。だからここに能力使って」
「おいおいマジかよ」
そこから数分。二人は城を取り囲む壁の正門の近くに身を隠していた
「さあ! やっておしまい!」
「いくでやんす! 不屈の太陽発動!」
能力名『不屈の太陽』
説明・最強の発火能力。ではある物の、細かい操作ができない暴走能力。使用時、噴出点の設置、噴出口の大きさを指定する事で多少の加減ができる
過去に同じ能力を持った勇者が、本気で能力を使い国を一つ滅ぼした事があるとかないとか
上記は使用者のみに反映される
この能力の真価は、能力所持者が『仲間』だと思った者に無限の魔力を授ける事である
城を挟み、正門とは真反対側で巨大な爆発と火柱が立ち上った
下ネタですか? QAよりは確実に多いでしょうね。キリルの筋肉フェチが下ネタだと言うならば、向こうも多いでしょう