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千代の予知


 10422文字→10414文字→10408文字


 初めてその光景を見たのは八歳の頃だった。普通じゃ覚えていないであろう幼い記憶。しかしその時の事を千代は良く覚えている

 ユウと千代、光陽は、いつも通り近所の公園にて遊ぶ。日も落ちてきた所で家に帰ろうという話になった。腐れ縁の三人はいつも共に遊ぶが、家はそこまで近い訳ではなく。公園が中間地点だったのだ


 三者三様に違いで入り口から公園を出て行く。千代が公園を出たと同時にそれは起こった

 激しい頭痛と共に脳裏に景色が浮かんでくる。学ランを来た中学生が公園を出て直ぐの脇道から出てきて千代とぶつかる光景

 中学生は別に金髪の不良という訳でもなく、短い黒髪に大人しそうな顔をしている。だが、どこまでも嫌な目を持つ


 景色が見えなくなると猛烈な頭痛が千代を襲う。突如起こった不思議な現象に疑問を抱き、頭の痛さに絶えつつ、今見た景色と同じ道を辿る

 いつも通りならもう少し警戒して進む所だが、頭痛の所為で真面な思考に至ること無く歩き出してしまう。どういう訳か足取りはおぼつかなく、視界もあまりクリアではない


 そんな状況で先ほど見たと同じことが起こる。嫌な目をした中学生くらいの男が脇道から出てきて、千代とぶつかったのだ

 ただでさえ足取りのおぼつかない千代は道路に尻餅を着いてしまう。直に立ち上がる事はできずもたついていると、中学生が口を開く


「人にぶつかったら、なによりも先にごめんなさい。だろ?」


 言葉尻に千代は更なる景色を見る

 嫌な目を細め、口元をゆがめた中学生が握りこぶしを作りながら千代に近づいてくるのだ


 〜   〜   〜


 ユウは硬い床を身体の全面と左頬で感じた。気を失っていたらしく、低い呻き声を出しながら顔を上げる。妙に騒がしいと思いながら、辺りを見渡す。朝の教室とは考えられない程の暗さ

 顔を上げると直ぐ近くには光陽と千代がいた


 しかし、今見るべき所はそこではない。騒ぎに騒ぐクラスメイト達と、見慣れない黒いローブを着た人がなだめるように話しているのが解る

 天井はガラス張りで、ギリギリ真上までとは行かない場所にまんまるの月も見えた。暗くはあれど空には月明かりと星明かり、それとクラスの全員がいる円状の大部屋に幾つかのロウソクが十分な光源


 地面には白い石灰の様な物でおかしな模様が書いてある。既に生徒達によって踏み荒らされ、ほとんど見る影もない


「ああ、よかったユウ。起きたか」

「光陽。……ここはどこだ?」

「解らないよ。僕達のクラス全員がどこかに連れ去られたっぽい」

「……音と光。クラスにいた時感じたのは閃光弾の様な物だった?

 それにしては腹の減り具合は気を失う前と全然変わらない。気を失ってからそこまで時間は経っていないっぽいな」


 ぶつぶつと呟くユウは周りと違い、声を荒げずに眉間に皺を寄せ思考に耽った。そんな彼を、光陽と千代は満足げな表情で見つめる


「どうやら全員の目が覚めたご様子! これより皆様に現状をご説明致します! どうかお静かに!」


 黒いローブを着ている者の中で、周りのローブより少しだけ豪華な物を着ていた。声からして男。その男が数度同じことを言う

 呼びかけにより、数分後に全員が黙る


「皆様はこの世を救う為に異世界から召喚された勇者であります!」


 この言葉にクラスの五人が歓声を上げる。クラスのオタク達だ。実に嬉しそう。しかし、よく見てみればその喜ぶ者の中には日影弥景の姿もあった

 「きたきたきた」と瞳を輝かせながら弥景はローブの男の話を聞いて何度も頷く


「どういうこと?」

「結局は誘拐だろ!? なによりもこの世界が異世界だって証拠もねえ!」

「確かに!」


 クラスの中の数人が異世界への召喚という言葉を理解できず首を傾げる中、理解は出来ても喜ぶ事のできない者達は再び騒ぎ始める

 やり取りを黙って見ているユウは、ため息を吐いて何かを呟くローブの男を見ていた。実際異世界転移なんてものを疑っていた彼も、目の前で起きた現象に信じざる負えない


 先ずは手の中に収まる程度の火球

 次に無重力下にある様な球状の水

 更にはバチバチと音を鳴らす電撃

 手の平のどこからとも無く姿を現す石つぶて

 高速回転する小さな竜巻


 騒ぐ生徒は誰もいなくなった。目の前で行われた行為は、異世界転移を知らない生徒達にも解るーー


「皆様は魔法をご存知ですかな? 短縮詠唱なので今のが限界ですが、本気で詠唱すればこの部屋を破壊する事も可能ですよ

 話を聞いて頂けますかな?」


 生徒達の沈黙を肯定とし、周りとは少しだけ違うローブを着た男は何かの合図をした

 合図と同時に他のローブを着た者達がクラス全員分の椅子を用意してきた。皆が腰掛け、大人しく男の話を聞いた


 この世界でなにが起きているのか。そして、どうしてユウのクラス全員が呼び出されたのかを

 異世界転移物のテンプレ。魔王の出現で現在世界中の国がその対策に追われていると言い

 そして、ユウ達のクラスは世界を越える際に与えられる『祝福ギフト』がどの転移者よりも優れているという事で選ばれたのだと言う


「質問良いかしら!?」


 ローブの男の話を遮り、結女が声を荒げた。この瞬間、クラスの誰もが真面な話し合いが終わった事を確信した


祝福ギフトってのは何なの!」


 まさかの真面な質問に全員が彼女の顔を見た。そして気がつく。彼女の目が輝いているのだ。ここにもいた隠れオタク。彼女は現状を楽しんでいるのだろう

 話しの腰をおられた男は、結女の質問に対して素直に答えた


「確かに、いきなり祝福ギフトと言われても解りませんな

 祝福は皆様勇者に与えられた特殊能力。完全な固有の力で、その効力は魔法とは比べ物にならないほどの強力な物が多いです

 戦闘に秀でた物もあれば、鍛冶や魔法文学、調べてみるまで解りませんが何かに特化した能力だというのだけは解ります」

「どうすれば解るのよ!」


 最後まで聞き終えた直後に結女がまたも声が響く。男は「少々お待ちください」そう言って他のローブを着た者達に指示を出し、薄い石盤を持ってきた

 ユウが手渡された石盤を見る。石盤の下の方には丸い水晶玉が着いており、覗き込むと彼の顔が映る


 どう使うのか解らずに左右に座る光陽と千代を見る。勿論解るはずも無く、二人はユウの目を見て首を傾げた


「皆様、お手元の石盤に着いている水晶玉を手で割ってください

 ご心配はありません。破片で怪我はしないよう作っています

 能力名と簡単な説明のみですが確認できるようになるはずです」


 その言葉を聞いた直後に水晶玉の割れる音がした。もちろんの事結女である。彼女は一切のためらい無く押しつぶして、自身に授けられた祝福を確認


 能力名『奇跡アゲ回帰イン

 説明・最高峰の回復能力。四肢の欠損から如何なる病まで全てを治療する

 デメリットは多大な魔力の消費、十回までの使用制限


 結女はユウの方を見てわざわざ音読した。そして、自分もいったのだからお前もどんな能力なのかを言え。と、目で訴えてきたのだ

 しかし、その訴えはローブの男の声で遮られてしまう


「おお! 回復能力ですと!? しかも、四肢の欠損まで!

 回復魔法はあれど、欠損部位までは回復できませんからな貴重な力ですぞ!

 お名前をお聞きしても?」

「私は芦川結女よ! 覚えておきなさい!」


 どこまでも自己主張の強い女だこと。そんな事を思いながらも、周りから次々と聞こえてくる水晶玉を割る音に続く

 そこでユウは首を傾げた


「何じゃこりゃ?」

「おう、ユウはどんなのだった? 僕の予想だと『天地創世ワールドクラフト』敵な名前だろ?」

「いや、ユウなら『全知全能オールマイティ』でしょ」


 クラスもユウの能力に興味があったのか視線が集まってくる。固唾を飲んで見守る中、事も無さげにいい切った


「何も出て来ない」


 そんな答えに結女と結女の腰巾着、弥景を除く全てのクラスメイトが「壊れてるんじゃないのか?」と口を揃えて言った

 事をローブの男に伝えると新しい石盤を持ってきた。しかし、試せど試せど結果は同じ。結論から言って


「アンタもしかして、祝福貰えなかったんじゃないの! アハハ! 無能力って事じゃない! いい気味だわ」

「無能力か」

「そうよ! 私たちの中でも一番使えない。落ちこぼれよ!」


 そう言った結女は気がついていない。挑発しているはずのユウが、満足げに笑っている事に。左右の二人も嬉しそうにその顔を見ている事に

 まさかの出来事にクラスが騒ぐ中、後ろからそのやり取りを見ている弥景が隣にいたクラス委員長に疑問を投げかけていた


「えっと、宮崎さん? 聞いても良いかな。なんで、芦川さんは兎月くんを目の敵にしているの?」

ひとみでいいわよ。ん〜、詳しい理由は誰も知らないのよ

 結女さんに聞いても教えてくれないし、彼氏の一輝くんにきいても教えてくれない。ユウくんに至っては知らないからね」


 クラス委員長の宮崎瞳みやざきひとみにお礼を言って、自身の石盤を見る。裏返しにされているのでどんな能力かは誰にも見えない。弥景はふと、隣に座る委員今日の石盤を見た。おっとりとした雰囲気の彼女の石盤には


 能力名『精食鬼サキュバス王族クイーン

 説明・操作系能力。厳しい条件を引き換えに、絶対の支配力を持つ

 条件デメリットは対象が男である事に加え、相手の精を体内に吸収しなけれなばらない


 そう書かれているのがハッキリと見えた。女子には厳しい。そう心の中で思うのであったが

 等の本人は心底満足していた。なぜなら彼女は、見た目に反して


 ドが着くほどのビッチだったから


 そんな事は、学校へまともに来ていなかった弥景が知るはずも無く。ハズレ能力を引いた委員長を哀れむ気持ちでいっぱいだった

 思いつつ、自身の祝福が書かれた石盤を撫でる弥景。彼女が自分にぴったりな能力に満悦しているととある二人のローブの声が耳に入ってくる


 会話の内容に弥景は撫でる手を止めた。耳を澄ませて聞き耳をたてる


「まあ。た、例え祝福の能力が無くとも勇者であるならば、内に秘める才能は誰よりも高い事でしょう。それはもう、天才と言われるほどの!」


 しかし、その行為はローブの男が必死にユウのご機嫌を取ろうとする声に阻まれてしまった


「やめてください。俺は能力がなくて嬉しいんです

 俺なんかほっておいて、能力のある皆への説明をお願いします」

「そうよ! そんな価値のないヤツの事なんてどうでも良いわ! 私たちに速く説明してちょうだい!」


 そう言い切るユウに男はモチベーションを上げてもらおうかと何かしらを言ったあとに、全員の目に届く場所に移動した


「では話を戻しましょう。文献によれば、皆様の能力は今まで使ってきたかの如く自然と使用する事ができるそうです

 どうすれば使えるのか。という疑問は皆様既に解っていると思います」


 男のいっている意味が分からずにユウだけが首を傾げていると光陽が耳元で呟く


「能力の名前が解ったとたんに急に理解できたんだ。多分その事だと思うよ」

「なるほど、俺は能力が無いから解らない感覚だな」

「お一方把握できては降りませんが皆様は勇者という事で間違いありません。短いですがこれより国王様と謁見していただきます

 部屋を出ます時、待機している物に石盤をお預けください」


 男の言葉に反応してこの部屋の外に繋がる扉が開かれた

 異世界に呼ばれ、魔法と言う超常現象を目の当たりにした彼らは元の世界に帰れるのかという疑問も忘れ、男の言葉を聞き入れてしまった


 多くの者が席を立ち、移動する男達に従って移動する。真っ先に出て行くと思われた結女が、席を立ち上がったばかりのユウの前に立ちふんぞり返っていた


「さっさと歩きなさい! アンタの事を王様の前で無能と紹介してあげるわ!」

「芦川さん。別にそんな事しなくても解る事なんだけど」

「口答えしないでさっさと歩きなさい!」


 渋々と言った形で結女の前を歩く。この時、一輝はユウの立ち去ったあとの席、その左右を見て眉間に皺を寄せた

 光陽が千代に寄り添い、背中をさすっていたからだ。ユウもそれを見て戻ろうとしたが結女に阻止され断念。遠くなって行く二人の友人を見つつ前に進んでいった


 一輝は顔色の悪い千代を見る。真っ白な顔にびっしりと汗を浮べ、息も荒く速い。どう見ても体調が悪そうだった


「おい。光陽、千代はどうしたんだ」

「……発作だよ。時々あるんだ。一輝達と一緒に居た頃はあまりなかったけどね」

「喘息みたいなもんか? ちょ、ちょっと待ってろ。誰か呼んでくる」

「いや! いい。やめてくれ。直ぐ治るから」

「いや、どう見ても直ぐ治る様な顔色じゃないだろ? 誰かしらに見せた方が良い。結女には回復魔法もあるっぽいし見せてみよう」


 それでも尚、光陽は首を横に振った


「僕が大丈夫と言っているんだ。君は先に行っててくれ。僕たちは後から行くから」

「うん。本当に私は大丈夫だから、一輝は先に行ってて良いよ」


 顔色の悪そうな千代本人が言うのだから一輝もそれ以上何も言えず、もう残り少ないクラスメイトに続いて二人から離れて行った

 その代わりに、ローブを着た男が近づいてくる


「どうかしましたか?」

「ああ、彼女の気分が悪いそうなんだ。トイレを貸してくれないか?」

「ええ、勿論です。トレイニー。フーバア。二人をトイレに連れて行って上げなさい」


 男に呼ばれて二人の男女が光陽と千代をトイレに誘導する


「あ、忘れる所でした。申し訳ありませんが、お二人の石盤を渡して頂けると幸いです」


 千代に先を行かせ、光陽だけが足を止めた


「すいません。彼女を介抱している時に落っことしちゃって、壊れちゃいました」

「あ〜……そうですか。では後ほどもう一度石盤で鑑定してくださいね」

「解りました。では失礼します」


 千代に寄り添う光陽の後ろ姿を見て、ローブの男は小さな舌打ちをした「手間をかけさせてくれる」そう付け足して

 そんな言葉を聞きながら弥景は石盤を渡して部屋を出て行く。最後の一人だった


 光陽と千代はローブを着た二人の男女に連れられて豪華な廊下を歩く

 ここは王の住まう城の中、ユウ達が転移したのは城の横にある将官専用の建物だった。赤い絨毯に白い壁、所々に筋の装飾がなされ、高価な物をあまり理解していない二人でも一目で高いと判断できた

 そんな高級感漂う廊下を照らしているのは無数のロウソクと月明かり、窓を大きくしている為、例え明かりを持たなくても足下がしっかりと見えるだろう

 現在は二人の男女が明かりを持っているので正確には解らないが


 高級そうな絨毯を踏んづけるのをためらいつつ、数分後二人はやっとの思いでトイレへと案内された


「こちらで用を済ませてください。ご安心を、客人用です。王族はここを使いません」

「よし、じゃあ。千代行ってこい」


 光陽が千代の背を押すが、押し立てに抵抗感を感じた


「ん? 千代?」

「いや! いつも見たいに一緒に来て!」


 その言葉を聞いてローブの男女は、光陽達から目をそらし咳払いをする

 言われた光陽でさえ、理解できていない。なに言ってるんだ馬鹿かお前は!


 そう言おうとした光陽は千代の睨み付ける様な目を見て溜め息をつく


「仕方がないなハニー! いつものように丁寧に拭いてあげよう!」

「ありがとうダーリン! それでこそ私のダーリンだわ!」


 絶対に元気だろうと思わせるやり取りだったが、ローブの男女にそれは言わせないと光陽達はトイレに入って行く。後を追うようにローブの女が後を追ってトイレに入る


「えっと、お速めに済ませてくださいね。ちょっと離れてるんで」


 三つの個室に別けられた部屋の一つに光陽と千代が入る。イチャイチャベタベタする二人の空気を読んでの事だ。個室に入った瞬間二人はお互いの身体から離れた

 千代は直にスカートをたくし上げ、パンツを脱ぐとまさかの洋式トイレに腰かける


「なんでお前のへたくそな演技に付き合って、しかも放尿を見なければならないんだ? ……石盤も壊されるし」


 小声でそう言うと千代も小声で返す


「予知したの」

「まあ、だろうとは思ってたけど」


 能力名『未来予知』

 説明・未来の出来事を予知する能力。四段階に別けられ、数秒、数分、数時間、数年先の未来が見る事ができる。しかし確定の未来ではない。未来を変えられるのは未来を見た本人か、本人から聞かされて回避しようとした物のみに限られる

 デメリットは段階によって莫大な魔力を消費する。因みに数年先の未来を見ようとすれば数分後、死に至る


「あの頭痛って魔力とやらの欠乏症だったのかもな。で? なにを見たんだ?」

「手短に行くよ」


 千代の言葉と水の滴る音が流れるのはほぼ同時だった


 〜   〜   〜


「歩くのが遅いのよ! もっと速く歩きなさい!」


 結女の蹴りがユウのお尻を襲う。彼女自身の蹴りは非常に弱いのでユウは特に気にする事もなく歩き続ける。後ろの二人が追いかけてくるのを待つようにゆっくりと

 しかし、ユウの後ろを歩いているのは結女と一輝、そして弥景のたった三人だけだった


「一輝くん。光陽達は?」

「後から来るってよ。しかし、知らなかったな。千代が病気だったなんてよ」

「私の一輝にきやすく話かけないでよ! 一輝もコイツと話なんてしないで!」


 一輝の発言でユウは千代が未来予知で頭痛を引き起こしたのだと解った。だからこそ更に不安になった。彼女の見る未来予知は常に『不幸』だから

 顔を顰めるユウは視線を感じてそちらに振り向く。とても短い黒髪の少女がこちらを見ていたのだ


 間近に見るのは初めてだった彼女への印象は、髪型は男っぽいが顔は可愛い。ただし胸はない。そして


(日影さんだっけ。とっても面白そうだな)

「初めまして日影さん」


 ユウは異常に叫ぶ結女を無視して弥景と並んで歩く。ユウが面白そうと思っているのと同じように、弥景もそう感じていたのか。笑顔で返す


きみは弥景で良いよ。私もユウくんって呼んでいい?」

「いや、くんも要らないよ。よろしくね弥景。もっと早く会ってみたかったな」

「私もそう思う。ユウはなんて言うのかな。初めて話したけど結構評価高いよ」


 ナンパしてきた男に、ナンパ待ちの女性の様な会話をしているが。二人が二人、まったく別々の評価をしている事に気がついていない

 ついでに騒ぐ結女の声にも気がついていない


「弥景はなんで学校に来なかったの?」

「家の都合。一応テストとかは受けて成績は貰ってるんだよ」

「知らなかった」


 他愛無い会話をしながらも歩く事十数分。やたらと広い城の中でも大きな扉の前に並ばせられた


「本日の謁見は終了していますが、王のご意向により召喚された勇者様方は直にお連れするよう言い渡されています。失礼の内容お願いしますよ。特にユメ様は」

「どういう意味よ!」

「結女。そういう意味だ」

「一輝! だからどういう意味なの!?」


 まさか解っていないとは彼氏である一輝ですら驚きの顔をした


「取り敢えず黙ってような。失礼だから」

「そんなの当たり前じゃない!」


 意味の分からない所で常識を持つな。豪華なローブの男が巨大とも言える扉を押して開いた

 広い空間。中には数十名の甲冑を着た兵士がおり、自らの兜を小脇に抱えて並ぶ彼らが一つの道を造る。その先には数段の階段があり、最上段には王冠を被った白髪まじりの金髪をオールバックにした男が立っていた


「突然御呼びしてしまい申し訳ない。私がこのヘティアルバルーム王国

 国王のレドア・イリエヂア・ヘティアルバルーム七世である

 早速だが今宵は勇者の証をそなたら勇者に授けようと思う」

「ん? ちょっと待ってはくれませんか王様」


 とんとん話を進めようとする王の言葉を遮るように百九十はある巨体の男。不知火真しらぬいしんであった

 話を止められた王は首を傾げながら真に質問を返す


「他のヤツらはどうか知らんが、俺は勇者になる気はないのです。帰らせて欲しい」

「ふむ、大臣。説明したのではないのか?」


 大臣と呼ばれて、豪華なローブを着た男が答える


「はっ! この事は王がお話しした方が良いと考えました。体面もございますし、場所の事もあります故」

「そうか。ああ、そこの大きな勇者よ。名前はなんと申す?」

「不知火真と言います」

「そうか。シンよ。すまんな。それはできんのだ」


 王の言葉に部屋がざわつく。それの収まる前に王様は更に話を続ける


「だが、帰れない訳ではない。勇者方を召喚した魔法陣に帰還の条件をつけてあるからな」

「条件?」


 クラスの誰かがそこだけを復唱し、話を聞き漏らさないように黙る。王は話しながら階段を数段下りた


「魔王を倒す事で其方らの契約は終了し、元の世界へと帰れるようになっている

 それに安心して欲しい。他国と張った共闘戦線の前に魔王群も衰退している

 ただ一つ、魔王を倒せるだけの力が欲しかったのだ。早くても三ヶ月、遅くても一年で其方らは帰れるのだ

 どうか力を貸して欲しい!」

「戦うなんて無理よ!」


 またもクラスの女子の誰かが言った。王は更に数段降りて、ユウ達と同じ高さ、目線で話を続ける


「ならば戦わなくても良い。戦う覚悟のある者のみ力を貸して欲しいのだ

 別の世界の誰かの力を借りねば、悪しき敵を倒せない様な不甲斐ない世界の住人で悪いが、この通りだ!」


 そこから王の目線は更に低くなり、片膝を着いて全員に向かって頭を下げる

 一国の王が頭を下げる事の意味を理解してか。全員が押し黙る


「勇者の証を身につけるのをためらうのであれば、一晩見当して欲しい。頼む」


 決め倦ねるクラスメイトと同じようにユウも考えるフリをしていた。彼自身はどっちでも良かったのだ

 その横顔を見ていた弥景も同じように考える振りをする。彼女は勿論賛成だが、本当に嫌な子の事を思っての事だ


 王は頭を下げ続けた。誰が何を言う訳でもなく時間だけが過ぎる。どの道選択肢が一つしかない事に気付かせる為の作戦でもあったが、数分の時が経過


「わかった。俺も手伝おう」

「おお!」


 真の言葉にオタク層のクラスメイトと結女が続く。まあ、三ヶ月程度なら。そう思ったクラスメイトも頷いて行く

 ほとんどの生徒が同意した後で弥景も頷いた


「では勇者の証を皆に授けよう。大臣、持ってきてくれ」


 大臣は返事をして一度大部屋からでていくと、大きな布の被った台車を押して直に戻ってきた

 王の合図で布を取り払うと、その中には金色のドーナッツみたいな腕輪が入っていた。計五十六個、ユウのクラスはこの場に居ない光陽と千代を含めて三十人なので、一人二つずつ嵌める事ができる個数だ


「では一人ずつ前に出てきてくれ。私自ら装備をして進ぜよう」


 道として立っていた兵士達が声を上げる。栄誉な事だと口々に発言。いい気になって結女が真っ先に王の前に歩き出した


「先ずは握手を、名前を伺っても?」

「私は芦川結女! 一番最初に勇者の証を頂くわ!」

「おお、話は聞いていますぞ。回復能力で欠損までも治せるそうですな。期待しております」


 王は一事言って結女の腕に証を付けた。結女の細い腕にはブカブカだったが、付けた直後に彼女の腕に合ったサイズに変わる。ピッタリハマった証を掲げてクラスの全員に見えるようにする

 結女に始まり、どんどんとクラスメイト達が王から証を授かる。最後まで待って成り行きを見ていたユウの元に、弥景が証を付けて戻ってきた


「見てよこれ。まるで手錠だ」

「はは、随分卑屈な感想だね」

「色も私には似合わない。黒が良いな」

「めちゃめちゃ嬉しそうな顔で全く嫌そうに見ないのは俺だけかな?」

「む、そんな事言ってる間に君の番だよ」


 「光陽も千代も遅いな」そう言い残しユウが王の前に立つ。差し出された手を取り、名前を名乗る


「兎月夕です」

「おお、祝福の能力を授からなかったそうだね。まあ、他の分野での活躍を期待しているよ」


 この時ユウは、王が証を付けるのには目もくれずとある人を見ていた。ユウの右側、ウェーブが買った金髪の女性が目をそらしたのだ

 そして、証がユウの腕に付けられた直後、王から言葉が付け足された


「奴隷ども」

「ん?」

「跪け!」


 クラス全員が同時にその場に跪いた


「ああ、疲れた。誰かに頭を下げるなんていつぶりだったか。なれない事はするもんじゃないな」

「どういう事よ!」


 跪きつつもいつも通り大きな声で騒ぐ結女。それに合わせて同様に騒ぎ立てるクラスメイト達。それを王は、騒ぐなと命令を下した


「ふん。その腕輪は勇者の証ではなく、奴属の腕輪。元よりそう言う計画だったのよ

 異世界から来た身寄りのないお前達ならばどう扱おうがこちらの勝手

 まあ、その腕輪を付ける為の芝居だったという事だ」

「なるほど、この腕輪には幾つかの制約が必要なのか

 直接付けた者に全権が与えられる。とか、一定時間触れていなきゃ行けない。とかかな」


 ユウの言葉に王が驚きの声を上げる。拍手をしてユウの肩を叩く


「ほう、賢いな。その通りだ。能力は持たんようだが頭は回ると見た。能力以外は期待できそうだな

 大臣コイツらを手筈通り独房に入れておけ」

「王よ。手順を一つ抜かしておいでです」

「むっ? ああ、そうであったな」


 王は思いだすように目を瞑って頭に手を当てる


「一つ、無断での能力、魔法の使用を禁止!

 二つ、自傷行為の禁止!

 三つ、命令には絶対服従!

 四つ、脱走の禁止!

 まあ、これだけ言いつければ大丈夫か?」


 話を振られた大臣は頷く


「はい。今後も少しずつ制限を増やして行きましょう」

「そうだ。確か他の二人はどうなった?」

「まだ連絡はありません。ですがその内ここに連れてくる事でしょう」

「そうか。では先にこやつらを連れて行け。」


 そんなやり取りを見ながらも生徒達は押し黙ったままだった。時々すすり泣く声や悪態も聞こえる

 大臣は生徒を二列に並ばせると大部屋から出て行く。理解の追いつかない生徒や泣く生徒達ばかりの中、ユウと弥景だけが笑っていた


「ユウ。笑うなんてこんな非常事態に信じられないね」

「それはこっちの台詞だよ弥景。君には感情って物がないのかい?」


 そして最後に、二人は同じことを言った


「「人生はこう出なくちゃ面白くない」」


 これから人格を壊されて行く生徒達の中で、既に壊れている二人は笑って列に着いて行く





 話の締める所ってどうしても雑になるのが私の悪い癖

 加筆するかもしれませんね。かもしれませんね!


 一人称だといつも『落ち』を付けたら書くのやめちゃうんですけど止まらんなあ。おい


 あ、千代の名前は能力が未来予知だから付けたんですよ。安価ですね〜


 投稿初日の一分以内で最初の数文字の削除(同じ事を別の言い回しで言ってやがった)

 更に数秒後気に食わないので数文字削除(三人三人言い過ぎて笑える)

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