第2話 友達百人できるかな?
母親の説教を無事抜け出した俺は、近くの森に向かっていた。
風そよぐ野原を超え、たくさんの水が流れる川を渡った後、直線に向かって真っ直ぐ進むんだ。そして、ある1つの洞窟に辿り着いた。
「俺が一番乗りか?」
疑問に思いつつも、洞窟の中に入る。足音が洞窟中に響き渡り、ぴちゃりと水滴が落ちる。
見た限りだと誰もいないが、微かに人の気配はあることには気づいた。
「(俺を脅かそうと隠れてるみたいだな。ふふ、そうはいかねぇぞ)」
俺は大きく息を吸い、両手を適当な長さまで広げた。そして肺が酸素で一杯になった瞬間、広げた両手を双方に打ちつけた。
クラップ音が洞窟中を伝わった。俺は集中状態を閉ざさず、音が消えるまでジッと待った。
「(成る程。多分あそこだな。)」
俺は目を開き、足元に転がっている手のひらサイズの石を音を立てぬように拾い上げた。その石を力一杯握り締め、野球選手のようなフォームをとると。全身の力を振り絞り、外からは丁度刺客になっている岩の陰を狙って石を投げた。
石はぶれることなく、正確に標的に命中した。
「ぬぉぉぉぉーーーー!!!」
「やっぱり隠れてたか。」
岩の陰から悶絶しながら叫ぶ少年が現れた。目には涙を浮かべ、頭にできたたんこぶを抑え、ハンスを指差す。
「おいハンス!親友に向かって石を投げることはないだろ!」
「こそこそ隠れて待ってるような奴に言われたかねぇよ。」
この馴れ馴れしいいかにも熱血という文字が大好きそうなこの少年は、俺の村に住んでいるグリル・レッド。俺の友達で、村の子供達のリーダー的存在だ。
「にしてもハンスが二番目に来るとはな、今日何かあったのか?」
「母さんに説教食らってな。家に居づらいから、早めに来ただけだ。」
「ははは、おばさんも大変そうだな。どうせ喧嘩でもしていたんだろう。まぁ、どうせあっちからやってきたんだろが………もちろん勝ったよな。」
「当たり前だろ。あんな雑魚に負けるはずがねぇ。」
この会話の通り、俺とグリルはライバルの関係だ。まぁ、仲が悪い訳ではない。それとは逆に、グリルは俺の事を親友だと思っているくらいだ。俺もこいつの事は嫌いではない。苦手なタイプだがな。
「お〜い!二人共〜〜!」
洞窟の外から俺たちを呼ぶ声が聞こえた。そこには体全体から元気が溢れでている少女と、落ち着いた表情でいる少女がいた。
「お前ら遅刻だぞ!」
「えぇ〜!良いじゃん!ちょっとくらい遅れた良いじゃん!」
「良いわけないだろっ!大体お前は………。」
「も〜!グリルの説教は長いから嫌い!」
「なんだとぉ!」
グリルと激しい言い合いをしているこの少女、名前をカティ・クレアという。俺の幼馴染であり、いつも明るいトラブルメーカーだ。ちなみに結構美少女だ。異世界には美人が多いとどこかのお友達に聞いた事があるが、彼女もそう部類に入っているだろう。
「 ねぇ、イトラちゃん助けてよ〜。グリルが私を虐める〜〜。」
「…………………」
「無視しないでよ!」
二次災害を避ける為あえてカティを見捨てるイトラというこの少女。本名はイトラ・カユラ、俺らとは1つ下の年だ。あまり人と話さないが、それはこいつが極度の人見知りだからだ。
「…………………ハンス。」
「んっ?どうした?」
「…………………」
「何もじもじしてるんだよ。ちゃんと喋らないと友達が減るぞ。」
「うぅ………………お、おはよう。」
「もう昼だけどな。」
「う〜〜。」
こんな最低限の会話でさえ、もじもじしながら恥ずかしそうにしている。そんな姿を見ると、どうしてもいじめたくなってしまうのは何故だろう。
「おいグリル、全員揃ったし始めようぜ。」
「そうだな。よし!オッホン!」
グリルはカティの説教を中断し、大きく咳き込んだ。
「よくぞ集まってくれたなお前達!」
「集まったっていうか、呼ばれたんだけどね。」
「カティ、静かにしないとまたグリルに説教されるぞ。」
「………カティは学習しない。」
「イトラちゃん酷くないっ!?」
「こらぁ!ちゃんと話を聞かんか!」
カティを強く叱責するグリル。小声で「そんなぁ〜。」と言っているが、自業自得である。
「少しばかり邪魔が入ったが、気にせず始めるぞ!」
「これより、このグリル探険隊の第三回、定例会議を始める!」