捕縛者達
さて、奴らは何をするでもなくこちらをフードの奥からじっと見つめるのみ。そんな奴らに不気味さを感じて、まず二人が口を開く。
「なっ、何この人達!?」
「わっかんないよ! というかなんでこのタイミングなの!」
「カイトがあんなこと言ったからじゃないかしら」
「いやでもあれだけフラグっぽいの立てたら運的にも流石に出てこないかなって思ったんですよ!」
「うんうん、だからね」
そいつらの突然の登場に驚いていると、早口になって焦っているカイトに返答する様に奥から新たにもう一人現れた。
「逆に出て来たら面白いし驚くかなぁって! どう? 驚いた?」
高めの声に低めの身長、無邪気さ溢れるその人影は何処からどう見ても子供だった。子供だからどうということは無いが、私のこんな見た目故に身長が低いだけの大人か普通の子供かを無意識で考えてしまうというだけだ。
それはさておき、眼帯を付けたこのガキはニコニコと満面の笑顔でその長いツーサイドアップを揺らしながら返答を待っていると思ったら、今度は声を出して笑い始めた挙句、
「きゃはっ、団長がゆーからめちゃくちゃ屈強なのばっかかと思ったらただのファミリーじゃん!」
「かっ、家族!?」
一瞬馬鹿にされたかと思えば家族、五人家族とか素っ頓狂なことを口走り始める始末。ふざけるな、どういう目をしてるんだ。よりにもよってこいつが身内なんて許せない。
「えー、家族じゃないの? 貴方がお父さんでー、貴方がお母さんでー」
「違う、断っじて違う! やめてくれ、殺される……!」
「そうね。私がカイトに無理矢理、なんて言ったらあの人殺すじゃ済まないわね」
「じょっ、冗談やめてくださいよ……」
ああ、ここまで慌てるカイトも珍しいな。少し良い気味だ。そんな珍しげな反応を楽しんでか、副団長も目の前の子供に乗っかっている。
「ふふ……」
と、気味が良すぎて声に出てしまった。いけないいけない。敵に囲まれているというのになかなか緊張感が無いがこのガキも悪い奴では無いのだろうな。状況次第では可愛らし────
「で、そこのちっこい人が三女!」
「は?」
────くないな、このクソガキ。危うく可愛らしいと言う所だったじゃないか。
だが三女だと? よりにもよって私が? ふざけるな、とそう思った所で一つ些細なことだが思い出したことがあった。
「ねえ……もしかしてお前、弟居ないか……? 泣き虫で生意気……わかりやすく子供らしい奴で……シスコンだった……」
私が溢れ出る怒りを抑えつつそれを口にする。主にシスコンを強調してやってな。
すると、そいつは目を見開いてより堰を切った様に話し出す。
「えっ、なんで知ってるの!? お姉さん超能力者!?」
すごいすごい、とはしゃぐ様子を見ても図星だったのだろう。というか『お姉さん』って、こいつは気づいていたのか。その上で敢えて言ってきたことにやはり怒りを覚えるが、それは一先ず置いておく。
「似たような……『間違い』をしたからな……」
「あ、もしかしてお姉さん達、ライ……あーしの弟んとこの部隊とぶつかった?」
何か思い当たったことがあった様で今度はあちらから聞いてくる。
なるほど、あのガキはライというのか。そういえば尋問担当の団員がそんなこと言っていた様な気がするが、ここに来るまで奴のことは完全に忘却の彼方へ追いやっていたから仕方ない。
私はそれに対し、そうだと頷いた。
「へー、てーことはお姉さん達は騒乱の会ってことでいいんだね? そっかそっかぁ……うん」
一人、何か納得した様な素振りを見せるガキに対してどうしたのか問おうとした所、そこでふとそいつは口角を歪め、釣り上げて言った。
「それじゃあ捕縛対象だね!」
「っ、クアイさんっ!」
瞬間、風を切る様に飛んできたハープが私を乱暴に押し倒した。するとほぼ同時、私のすぐ傍でひゅっとこれもまた風を切る音がした。
「わ、すっごい! えっ、茶髪のおねーさん、どうやって私の鞭にあんな反応したの!?」
「鞭、か……」
なるほど、あれは高速で放たれた鞭の音だったのか。アレに反応するのは予備動作を見たとしても尋常なことではない。
いやはや、流石と言うべきか、ハープの察知能力と瞬発力には感服する。察知能力に至ってはAGI値に頼らない元々の力だと言うのだから正しく離れ業だ。ユズにちょくちょく存在感を奪われるが、実質ハープの方が化け物と言えるな。本当に野生で育ってきたんじゃないか、こいつは。
「さ、皆行っくよー! 殺さないように気をつけてね!」
「……っ!」
そうこうしている内に私達を取り囲んでいた奴らがガキの合図で動き出した。こいつらの目的は捕縛、なら隙を見て逃げ出すというのも手だろうがユズが逃げ遅れる可能性が高い。やはりここはきっちり倒していくのが正解か。
「『闇との同化』!」
「っと、ハープ行っちゃう?」
「うん、そりゃもう思いっきり……ねっ!」
ハープがバフ系らしい技を使って向かってくる敵に正面からぶつかっていくのを皮切りに私達も動き出す。
「らぁっ……!」
「っ!」
やはり仕向けてくる程度には反射神経がある。だが流石に初手は避けると思ったから別に問題じゃない。相手は木が密集していると大槌も振りにくいだろうと奴らは考えているのか私をより密集した所へと誘導しようとしてくる。ああ、だけどそれについては心配要らない。
「木ごと薙ぎ払ってしまえば……逃げる術は無い……」
この程度の細木、ユズでなくとも容易に薙ぎ倒せる。は、迂闊な森林破壊はよせ? 問題無い、システム上後から勝手に生えてくる。だから安心して……、
「こそこそと隠れるネズミごと……文字通り木っ端微塵……!」
相手が木の陰をひょいひょいと移動する中で、瞬間、そこにある木の陰に隠れた所を私は思いっきり打ち当てた。すると細木は当たった辺りで無惨な断面を遺してそれより上を吹き飛ばされた。肝心のそいつだが、その反射神経で咄嗟に伏せた様で諸共吹き飛ばされることはなかった。
あわよくば木片でダメージを負うかなと思ったがそんなことは流石に無いか。まあ元から期待なんてしていなかったが。
「はぁっ!」
「ぐっ……うあっ!」
気を取り直して一振り一振り、そうしていく度にメキメキッと折られ砕かれていく木とその音に掻き消されそうなそいつの喘ぐ声。この程度の細木だとか木っ端微塵だとか言って張り切っていたが、正直こういうことは今まで積極的にやってこなかった。今回で気付かされたが、これなら相手を追い詰められる次いでに視界も開ける。悪くない闘い方だな。
相手が鞭を放つ際には木に攻撃を妨げられたり引っかかったりすることを気にしながら動かないといけないことに対して、私は気にせず攻撃することが出来る。
こいつらは、私達が林立する木でまともに動くことは難しいだろうから動きが消極的な内に早々に片付けられるとしてここを選んだのだろうが、最初から私に限らず積極的に攻撃する姿勢を取っていたこともあって初動の時点でそれに関しては間違いだったと思い知っていることだろう。
「わわっ!」
「……!!」
「あっ、シャード君ありがとう!」
「ユズってこういう状態で戦うの苦手だもんね、っと投擲、からの影縫いっ!」
それで私含め二人居る内の破壊要員であるもう一人は、使う魔法が殆ど大規模な物のせいで杖での殴打を基本とするのを強いられているお陰で所々危なっかしい場面が見られる。
だがあの影の奴や時々ハープにサポートしてもらいながら闘っているからある程度安定した姿勢を見せている。
「ユズ、あの精神攻撃使わないのっ?」
「心の闇? あ、えっとね、アレって発動までにちょっと時間がかかるからテンポ早いこの状況じゃキツいかな、って。シャード君に守ってもらいながらって言ってもダメージ受け過ぎたら消えちゃうし」
「よっ、とっと危ない危ない……あー、じゃああの落とし穴は?」
「うーん、奈落の穴だと相手の人達も割とフットワーク軽めだから隙を突くぐらいしか……だから基本じゃ使えないかな。うん、暗黒球もそんな感じ」
「それじゃあ近距離でいつも通り殴るだけかぁ。っはは、やっぱりユズってそうなっちゃうんだ?」
「うぐっ、で、でもまあ何とかなるよ! …………その何とかも隙さえあればだけど」
「あはは、流石のユズも自信なさげだね。うーん、じゃあユズは防御に徹してて。私が何とか隙作るから! シャード、ユズのこと宜しくね」
「……!」
どうやら戦闘方針がしっかり決まった様だ。こうなれば目的は定まっているからある程度安定した戦いが出来る。
心配な所と言えば、この二人、強過ぎるせいでよく忘れるが防御面では紙っぺら同然だ。さっきもユズが状態異常系の技を受けて当然のように状態異常にならなかったものの、通常攻撃よりもダメージ量の下がる状態異常系にも関わらず他人に比べて何倍もダメージを減らしているのが見て取れた。
すぐにHPポーションを使ってなんとか凌いでいたがやはりひやっとした。相手側としても倒すことではなく私たちを捕らえることを目標としているからその心配はやむを得なくならない限りはならないんじゃないかと思う。が、そう言ったこちら側二人の問題から「うっかり」が生じるかもしれないことを考えると相手側だけじゃなく、私達側としても心許なくなってくるからやっぱり安心できない。だけどこういう破壊的な戦法を取っている私があの場に入っていける筈もない。だからしょうがない、任せておこう。
副団長とカイトは言わずもがな、上手い立ち回りを見せている。団長は毎度お馴染み対多人数用の分身で複数人を相手取っているから毎回毎回助けられている。今回も例の如く人手の少なさを補ってくれているからどうしても攻撃の合間にスキができてしまう私としても安心して一対一が出来るのだった。
そしてカイトだがこちらも職業柄、手慣れた動きでガキ相手に立ち回っていた。 暗器とかそういうので闘っていそうだが奴は基本、ナックルダスター? 格闘武器に関してはよくわからないから本人に聞かないとわからないが、確かそんな感じの名前の武器を使用している。奴曰く、
『武器を飛ばされたり奪われたり何なりで使えなくなったら丸腰でしょう。これならどうにかされても最悪素手でもスキルが同系統なので闘えることには闘えますし』
ということらしい。
カイトがそういう武器を使用するのは意外と言えば意外だということ、それから極端にリーチが短いことを除けばまあまあ良い考えだと思う。
見ればそのリーチの欠点を、敵に向かって投げつけると少量だがダメージを与えるアイテムを食らわせていたり、またそのアイテムを目くらましにしたり自分の方へ誘導させるように避けさせたりして無理矢理接近戦に持ち込んでいた。
こう戦闘態勢が確立してくると、こちらが若干優位な風に見えてきた。勿論、奴らも私達を捕縛する為に送り込まれたのだからそれ相応の実力を持っているから、何かの拍子で状況がひっくり返るかもしれない。でもまあアレだ、こうして振り下ろし振り回しながら思考出来る程度には落ち着いていられるから、油断は禁物だがそれをしなければこのままの調子で行っても悪いことにはならないだろうな。
「ぅ、らぁっ!」
「いっ、しまっ……!」
ほら、とでも言う様なタイミングで相手がとうとう思い切りバランスを崩して決定的な隙を見せた。これを逃すつもりはない。こちらとしてもちょこまかと動き回るそいつには少しイライラしていた所だ。なら、そんなネズミはここで確実に仕留めてしまうのが最善だ。
「逃さない……『雷神の怒り』……っ!」
「……ぃ!」
私が相手に向かって跳び上がるのと同時に、紫電に覆われた大槌が声を挙げさせる隙さえ与えず轟音と共にそいつを押し潰した。
紫電が消えて、打面とぐしゃぐしゃになった地面の間からエフェクトが散るのを見て私の身体から力が抜けた。
「ぐっ……」
そうなったのは気を緩めたからでも久々に使ったせいで反動が来た訳でもなく、単なる代償だ。
『雷神の怒り』、大槌に紫電を纏わせ相手を強打する大技で確かSTR値が一時的だが1.5倍から2倍の間でランダムに強化される。
強力な技ではあるが、代償として発動後、このように自らに麻痺(強)を付与する。だから丁度今みたいに敵が他に居ない状態でトドメを与える様な限られた場でしか使うことは無い。最後に使ったのは前イベントのチーターのクズ男の時ぐらい、普通そんなものだ。
さて、そういう訳で私は暫く動けない。他の皆へは想う気持ちはあるが、今の所誰も大きく押されてはいないのを見て少なくとも私が関わらなくてもこのままの調子で居られると思う。まあ麻痺状態が解けたら当然何処かに乱入するつもりではあるが。
私は決して気を緩めることなく、何処に割り込むか、如何にして闘うか、このもどかしい時間の中でそんなことを考えながら痺れが解けるのを待つことにした。
また二ヶ月程空いてしまいました。今年はやっぱり忙しいので申し訳ありませんが不定期とさせていただきます。ですがエタりたくもエタるつもりもないので辞めることはないと思います。宜しくお願いしますm(_ _)m




