相談と出発
あの騒動から半月が経ち、集団宿泊が明日に迫った5月半ばのある日
「ねぇ、ちょっと付き合ってくれない」
教室に衝撃が走った
特別教室に心が浮わついていた生徒は一斉に静まり返り、野郎の嫉妬の目線と女子の弄り心がこっちに集中する
「……………」
「あれ?寝てるの?起きてよ!」
無視無視
「それじゃあ」
『最終手段だよね!返答には期待しないから勝手に言うね?』
「………おいコラ………とりあえず邪道を呼べ…最終戦争だ。あいつを狩る」
教室に恐怖の感情が渦巻く。前までは問答無用で眠っていたのに目線が1つも減らないことに少しいらない成長したものだなと怒りに震えるが全責任大元はあの邪道だ。絶対に今日こそ狩る
「邪道?………ああ写堂先生ね。何で時々そんな風に言うの?」
「邪の道を突き進んだ男だからだ」
「なおさら分かんない。どういう意味?」
「ところで何を付き合ってほしいのかな?」
そしてようやく本題に入った。「俺と」と言わないことで変な誤解を受けないようにすると少し目線が消えた
「あ、その話もう1人関わってるっていうか、その人に頼まれたんだ。今待たせてるから行こ!」
「いってらっしゃい」
「真くんも来るんだよ?」
「来てもいいけどどんなことでも協力ないし、手伝いもしないぞ」
「そうですかそうですかじゃあ、強制参加させるしかないね!」
「邪道に頼ろうとしても無駄だぞ。アイツの命令聞く気ないし」
「じゃあ」
清藤の手が動いた
ーーーバドンッ!
空気を斬って俺に向かう何かに対し片手で横に流す
その何かは木刀だった。俺は少し目を細めた
「戦ってもいいけど、死ぬなよ?」
「それならこっちも全力で斬るよ」
「木刀で斬るとはおかしな話だな?」
「全て斬る」
「お前の心は読みきった」
かくして唐突に戦いは
「あ、あの………」
始まらなかった
誰かが俺の制服の腰あたりをつかんでいる
振り返ってみると、そこにガキがいた
いや、正確にはガキではないのだろう。うちの高校の女子制服に身を包み、清藤と同じ赤いリボンをしている1年の同級生の女子生徒だった。
しかしもっとも清藤に違うところは身長の低さだった。清藤の胸あたりに用なく届きそうな130cm程の身長だ。栗毛色の髪は足の付け根のあたりまで伸びており一見長いように思えるが、実際のところ身長の低さがそう見せる錯覚。おそらく腰のあたりまで伸ばした清藤と同じ髪の長さだろう
「ガキどうかしたか?」
「ガキじゃないです。ちゃんとした高校生です!」
「それはわかる。うちの制服着てるし。だが、身長の低さと、他人に対してビクビク怯えている心の弱さをみてガキだと言ったんだ」
「ひ、ひどいです!あんまりじゃないですか!」
少し涙目になりながらガキが叫ぶ。その姿に少し憂鬱になる
というか、こんくらいでうるうるするな。めんどくさい
「そうだよ!いくら小さいからってそんな言い方ないでしょ!」
フォローになっていないどころか傷に塩をぶっかける清藤を横目に見て続ける
「とりあえず目線がキツいからどっか行くわ」
「ちょっと待ちなさい!猫ちゃんの話ぐらい聞きなさい!猫ちゃんをチビ呼ばわりするから居づらくしたんでしょ。責任とりなさい」
「……………自分で傷抉ってるの気づかないのか………?」
第一チビとは言っていない
そしてその時、猫ちゃんと呼ばれた生徒の名前をようやく思い出した
「猫山綾」
「あ、知ってたんだネコちゃんのこと」
「そりゃ<キャプテンキラー>の名前ぐらい学校中に響き渡ってるだろうさ」
部長殺し、もしくは<キャプテンキラー>と呼ばれる一年生にその名前があったことを思い出した。詰まるところ清藤のお仲間だ
剣道部部長武蔵野を倒した清藤春音を中心として
空手部部長南国を倒した鬼塚京
弓道部部長佐藤を倒した姫木梓
算術部部長西田を圧倒した籠馬愛
そして陸上部部長鈴木を圧倒した猫山綾
それぞれかなりの実力者で今年のインターハイでの活躍を期待されている。噂ではその5人は徒党を組んでいる………はずだった
「猫ちゃんが入りにくいみたいなんだよ」
猫山だけは違ったらしい。彼女は重度な人見知りで入学当初から女子が作る徒党に入れずにいたのだが、そんな噂が出回りチャンスはできたが、猫山の性格上、今さら徒党に入れないということだった
「そこで真くんの出番なの!」
「さっき言うの忘れてたがなに勝手に名前呼びしてるんだ?」
「え?友達なんだから名前で呼んでもいいじゃん」
「友達じゃない。知り合い」
「もう、堅物だな~。それはもういいでしょ!話続けるね」
「断る」
「言う前に断らないでよ!」
「俺の力を使ってうまく輪の中に入れようだなんて見え透いてんだよ」
「さすが真くんだよ!じゃあよろしくね!」
「断った。第一なんで猫山の為に何かしないといけないんだ?」
「いいじゃない。猫ちゃんかなり人気あるんだよ!ちっちゃくて可愛くて優しいし」
それは知ってる。現在進行形で猫山ファンクラブの嫉妬の視線を一身に受けている
あと
「トドメ刺したのお前だから」
「トドメ?何の………」
「うぐっひっくひっく」
「えぇ!?猫ちゃん!?」
どうやら猫山は身長のことを気にしており『小さい』が禁句らしい。俺と清藤が言い合う前から涙目だった彼女の涙腺を守るため、言わないように気をつけて話していたが、清藤が崩壊させた
おかげで
「……………」
「………………」
「…………………」
「……………………」
「………………………」
「…………………………」
無言の視線が痛い。これ以上は駄目だ。ところ構わず殴りたくなる。そう思った俺は決して口には出さないが小柄な猫山を脇に抱え清藤の襟首を掴み逃走した
●●●
かくして会議室に転がり込んだ
「あの、大丈夫でしょうか?」
「案ずるなこの程度で体力が尽きるような鍛え方はしていない」
「いえ、あなたではなく………」
先程まで襟首を捕まれ引きずられていた清藤を見る
「春音ちゃんのことです」
「安心しろ呼吸している」
「不安です意識がありません」
まさか首絞まった程度で気絶するとは思わなかったんだよ。まあ、確かに俺でも気絶するけど、コイツ人の枠越えてるし
「まあ、清藤が聞いてないなら好都合だ」
「え?…………ま、まさか私の体」
「俺に恋愛感情はない。あっても、お前だけはない」
「これ以上は聞かない方がいい気がするのです」
「そうだ。自分の傷は自分で抉るものじゃない」
「それ、暗に言ってます!」
「それはさておき、お前徒党を組みたいんだっけ?」
「急に本題に入りますね………ええ、はい、その通りです」
まあ、大概の人間は徒党というかグループ、仲良し組まあ、言い方は色々あるが集団になる。まあ、一部例外が俺という訳だ
「結論から言えば嫌だ」
「それはどうしてもでしょうか?」
「そう言うなら、今、清藤を叩き起こし問答無用で約束を取り付けることは出来る。って言うかコイツは元よりそのつもりだったんだろうけど」
「そんなの私が嫌です」
「だろうな。俺もお前と一緒に入れる気満々だった清藤に悪い気もしないが、嫌だ」
「もしかして春音ちゃんのお願いを断れないから首を絞めたんですか?」
「ん?」
「あ、言うのが嫌だったら別に言わなくて結構です。忘れてください」
やけにオドオドするガキだな。もう少しはっきり言えばいいのに
「その通りだが?」
「え?」
「その通りだと言ったんだ。問答無用で約束を取り付けられるのが嫌だったからな。まあ、俺は嘘つきだし約束を守らなくても良いわけだが後が面倒だったから眠らせて約束を出来ないようにした」
「そうですか………あ、」
猫山がチャイムに気がつき声を漏らす
「じゃあな」
俺はそう挨拶するとさっさと教室まで歩いた
『真さん、あなたを頼りたかった』
見えない声を後ろに感じながら
●●●
で、その翌日つまりは朝5時に変わる
俺と清藤は集団宿泊教室の集まりから少し抜けた駐車場に佇んでいた
「おい、これどういうことだ?」
「いや、真くんは先生に車に乗ることで話まとまったんだよ?」
目の前に赤いスポーツカー
つまり邪道の車がそこにあった
「まとまってねぇよ!」
つうか、まとまらせねぇよ!全力で止めてやる!全身全霊で停止させてやる!
「いや、だからまとまったんだよ」
次の瞬間オチが(心眼で)読めた
「全部丸投げされたから私が決めたの」
ミスった。確かに集団宿泊教室の件で俺は全くと言って良いほど関わってない。だが、しかしそれは清藤の戦力外通知が出たから任せたのであって他意はない
「あ、もし私が戦力外通知を出したから悪いと思っていそうだから言うけど」
「いつの間に俺のキャラを奪った?」
「大体分かるでしょ。あんたみたいな卑屈者の考え程度そうぞうできるっつうの。」
まあ、確かにそれもわかるにはわかる
「あの時謝りに来ると思っていたのに全く謝りに来ないと思ったら、何故か戦闘行っているから助けるの半分謝りに来る口実半分に投げ渡したけれどやって来たら清藤のせいでこんな羽目になったということを愚痴っただけで全く謝罪の言葉がなくて、ちょっと腹いせと邪道と俺の仲が悪いと勘違いしてお節介なことにこんな手の込んだ同乗なんてする必要ないじゃないか………」
「そこまで分かっててお前は謝らなかったのかぁ!!」
さて、こんな話を聞いたことはあるだろうか?
とある学校で起きた出来事だ
とあるクラスが全員で担任を怒らせてしまい。6時間目の途中で担任は自分の授業を放って
「お前ら帰れ!」
と怒鳴ったそうだ
簡単に言えば小中学校でよく聞く話であり実際問題そうなのだが
この大概誰一人帰らず職員室に全員で謝りにいくのが当たり前なのだが
しかし、このクラスは本を読むために残った生徒一人残して全員帰ったそうだ
そのクラスはまあ、極々一例であり普通ではないのだけれど彼らの言い分も分かる
「だって帰れっていったもん」
さて、ここから導き出される俺の言葉は一つ
「だって戦力外って言われたもん」
「そう言われてもこの状況は変わりません。おとなしくお縄になりなさい!」
「お前は邪道の車の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだ!」
「問答無用!!」
木刀持ちと素手で善戦したと言っておこう
●●●
まあ、クソつまんねぇ点呼や出発前の長話は気絶のせいで聞けなかったが(いっそ聞かなくてよかった)
気が付けば邪道のスポーツカーは山中の道路を走っており、そこに俺はいた
「帰りたい」
「まだ行ってもいないのにうだうだ言うな」
「お前は黄泉に還れ」
つうか気が付いたのかぐらい聞けよ
「ほう、俺は天国かそれは素晴らしいな」
「お前がこの世から消えるのであれば黄泉に還らせてもいいくらいだ」
「一応言っておくが、今俺が死んだら一蓮托生でお前も死ぬからな」
「改造しやがってブレーキレバーの種類が15とか程を知れ。これじゃあ俺でも運転できないぞ」
「無免許運転は法律違反だぜ」
「改造車も充分に法律違反だろうが。今さらなに言ってんだか」
「カッコいいだろ?」
「卑劣だよ」
まあ、どっちも言えた質じゃない。片や人でなしでろくでなし、片や暴力団会長
「スゲーカッコイイって言われて思い出したのだが」
「一言も言ってない」
「どうして猫山の頼みを断ったんだ?」
その話題にカッコイイの要素がなく、どうして連想できたのかははだはだ疑問だが、しかしそれは脇に置いておく
「それは話の中に入っていただろう」
「いや、その話には清藤の約束を断る方法しか無くてお前が断る理由は無かっただろう」
「よく聞いてるな。驚きだ」
「その割には全く驚く素振りが無いけどな。で、結局どうしてなんだ?」
「人の願いを聞く性格じゃないのはもちろんだが、別にやることがあったからな。この集団宿泊教室で」
「ほう………そのやることはなんだ?」
「上手く事を運べたら教えてやるよ」
「暴れるときは言えよ。手ぇ貸してやるからよ」
「そりゃ、心強いことで」
まあ、コイツはいろんな意味で邪の塊だが仲間である分には力強い
「まあ、そんときは手加減しろよ?」
「場合によりけり」
「それで構わん」
至って普通の会話のはずだった
それは唐突に
それは鋭く
それは殺気だった
「襲撃来るぞ!」
「はぁ!?なんで?何処から!?」
「敵はスナイパー………」
言い終わらずにもう一つ続いて殺気
威圧的な殺気それはまるで隣に座る写堂と同じような殺気だった
「追加でグラディエイター」
「それは間違いねぇ<W>だ!」
というかこの状況で襲ってくる相手なんざ<W>を差し置いて誰もいない
「というより、お前らの偽装工作はどうなった。1月で破られたじゃねぇか」
「知るか!噂の情報屋ファントムでも使ったとかだろ!」
「それ都市伝説だろうが」
なぜこんなにも早く俺らを発見したのかを論議する暇もなく、爆音と共にヘリコプターが飛んできた。
女スナイパーは壁のない側面に銃口を向け寝そべってその鋭い殺気を俺の頭へガラス越しに狙っていた
「おい、これ防弾か?」
「フレームもガラスもちっとやそっとじゃ空かねぇよ!」
ドゴンッ!!!
ゆっくりと、しかし確実に俺の横のガラスを見る
「そこにはちっとやそっとじゃ空かねぇ」はずの防弾ガラスにドデカイ弾丸が貫いたまま挟まっていた
「………対物ライフル」
それはまさしく12,7×99mmNATO弾
対物ライフルに使用される大型の弾丸だった
「こりゃ逃げるにしても、戦うにしても多少の応対はしないとだな」
邪道の視線の先、俺の足元に注がれるナニカを取り出すため。試しに蹴ってみた。かなり強めに
そこから現れたのはバレットM82
リロードした状態でマガジンを補充することで11発撃てる対物ライフルである
それを使ってヒビの入ったガラスを砕き殺気の方向に構える
「加速するなよ!」
「無茶言うな!追い付かれるだろうが!」
「おい、ちょっと待ちやがれ。冗談じゃな………」
その声は急に轟音を出したエンジンにかき消された
やべぇ、このままじゃあ<W>じゃなくて邪道に殺される
俺がこいつの車に乗りたくない理由。その真価が発揮される
作)ぜぇぜぇ………
春)作者さん。よく頑張ったね9時過ぎたよ
作)終わったぁ!緊急編集もうしたくない!!明日から1話ずつ投稿していくぜ!
真)おい、タイトルを「相談と地獄」に変更しやがれ(怒)
作)え?ヤダ。そして春音さんや。次出番無いよ?
春)なんですと!?




