心眼と喧騒
あの日から1週間過ぎて生徒の興奮が覚め、俺は清藤に絡まれながらも穏やかな学校生活を送っていた
「新木くん、手伝ってくれない?」
この瞬間までは
「ヤダ」
やはりこれからも穏やかに過ごす
「強制連行です!」
「はあ!?ヤダだって言ってるだろ?放せ!ってか力強い!それでも女か!?」
「剣道初段から逃げられると思うなよ?」
『それでも女か!?だって?後でシメル!!』
……とりあえず平穏はしばらく来ないようだ。
生きているかも怪しいが
「なにするんだよ」
「新木くん忘れたの?集団宿泊教室で班長になったでしょ!」
「忘れたので他の奴がやってくれ」
ビシュッ!
「ん?なんだって?聞こえなかったからもう一度言ってごらん?」
俺の切り傷が付いた顔の横には清藤の手の中にある刃のないハリセンがあった
まさに言ったら殺すを体現していた
「忘れたので他の奴がやってくれ」
その後笑顔の清藤がハリセンを掲げたのだけは覚えていた
●●●
「アッハハハハ」
「本当に言う奴普通いないでしょ!」
意識を取り戻したあと、俺は空いていた会議室で彼女に正座させられていた
後者は当たり前の言い分として前者はそのまま笑い死ね
「定石は覆してこそだろ?」
「あなた常々ひねくれてるわね」
「そりゃどうも」
「誉めてない!」
ちなみに清藤にはまだ俺が心読みが出来ることは言っていない。まだ信用度が足りないからだ
「アハハハッハッハッ!苦しい!死ぬぅ!」
「良かった。そのまま死んでくれ」
「あんた学年主任の先生に向けてよくもそんなこと言えるわね……」
不思議なことに元組長の邪道は学年主任も任されているのだ。……学年主任の元組長(現会長)…本当に不思議だ
「いや、旧知の仲、悪友だからな。悪はさっさと滅びろ」
「……昔何があったのよ」
それは男同士拳で語ったんだ。その後握手を交わしたのがそもそもの間違いだったのだけど、詳細に話すと長くなるので割愛
「まあ、タメ語になるようなことがあったんだよ」
コイツには先生という利用できる価値がある。変に噂を立てて退職する事態にはまだ早い。利用価値がなくなった瞬間社会的地位も、精神的優越も、身体的脅威も全部なくしてそこら辺に転がすのが、後に待つ一番の楽しみだからな
「あれ、笑いが止まった?」
こういうのを勘がいいというのか………
「で、何を手伝えばいいんだ?」
「まず、バスの座席と…」
「俺タクシーだから」
「即答!?ちょっと待ってぇ!」
「待たん。決定、バスとか確実に死ぬ。酔って死ぬ」
「じゃあ、窓際にすればいいでしょ!」
「人に酔うんだ。勘違いするな」
さて、教室のウザイ状況でさえ気分を崩す俺が、集団宿泊という学校で一二を争うイベントでテンションが上がる状況のなか狭いバスに閉じ込められ感情の渦を問答無用で『心読み』が読み取り俺の頭にぶちこむのだ。絶対に耐えられない。10分に一度死ぬ自信がある
「人間嫌いにも度があるでしょ!」
「人間嫌い?何言ってるんだ?コイツは『心眼』のこと言ってるんだぞ」
…………邪道、お仕置き決定。
「……へぇ……『心眼』ねぇ」
「哀れみの目で見るな」
これが嫌なんだ。『心眼』なんて現実離れした力を知られただけで何時もこの目だ。見なくても分かる信じてない
『新木って中二病だったのか~。全く素振り見せてなかったから分からなかった』
「新木って中二病だったのか~。全く素振り見せてなかったから分からなかった」
「………」
「………」
しばらくの無言
「ガチ?」
「ガチ」
「だからこういう交遊しないし友達作らないもんだから、コイツボッチ何だよ。友達になってあげてね」
「要らん。人間が嫌いなんだ。関係は少ない方がいい。第一お前なんか友達になんぞなりたくない」
「あ、先生新木の電話番号教えてください」
「了解、俺の電話番号とりあえず教えるから新木が居ないところでメール送ってやる」
とっさに邪道の襟首を掴んだのは当たり前だった
「教師が情報漏洩とはいい度胸だな。おい」
「ガキに友達作ってやらせてんだ。教師として立派だろうが?」
「殺すぞ?」
「殺れるもんなら?」
恐怖と威圧の殺意がぶつかる。右の掌を腰にあてがい左の掌を邪道に向ける。邪道は拳を胸の前に構える。一髪触発
その空気に押され外で誰かがコップを割った。
-ズドン
放たれた拳と掌が衝撃を生んだ。そのまま第2射の右足が力を振るう
「いい加減にせんかぁ!」
それはまごうことなき校旗だった。縦に振られたそれはクロスした足を地面に落とした。靡く布が敵の姿を隠し勝負の終演をみせたかのように思えた。しかし俺らがやっているのは死闘だ。その程度のことで止まりはしない
押さえられた一歩前にある足を曲げ前にかかる力を生み、引き戻された左の掌が溜めていた制限を解き放ち、腰の回転が増幅させる
旗を歪ませ進む先に暴力を穿った
「いや、止まりなさいよ。2人共!」
地面に不安定に突き立てられた旗棒を中心に回し蹴りを俺らの顔面に決める清藤の、レースのついたリボンのピンクだけは覚えている
●●●
「あの時の記憶は永久忘れない!」
「ここに清藤いたら退職もののセクハラだぞ」
あのあと目を覚ますと清藤はすでに帰っておりテーブルの上に『あんたらいるだけ時間の無駄だったわ』と書かれた紙が置いてあった。かくして見限られた俺らは帰る運びとなった
「セクハラ先生<W>はどうなった?」
「ん?<W>なら撒いてるぞ。どうかしたのか?」
「いや、別に……先にセクハラ先生をつっこむべきじゃないのか?」
「るっせい!男は大体セクハラ野郎だ!女に興味ないお前がおかしいんだよ」
「そりゃどうも。」
「ほめてねぇよ!」
「わかってるよ。俺はお前みたいな変態野郎と一緒じゃないことがたまらなくうれしいんだよ」
「ああそうですか。だいたいこの世界が理不尽なんだ。ガキが生まれるときは『生命の奇蹟』とか言うくせに、その前の行為は『変態』と言いやがる!」
さすがは<変人>と呼ばれるだけあって言うことも変態じみてる
「人間はルール、マナー、モラルなんてものに縛られているんだ。だから大量の理不尽が生まれ、世界で誰かが傷ついている。正しいことで傷つけあう世界それ自体が一番の理不尽だな」
「うるさい!黙ってろ!」
「あーはいはい」
「あれ?今、肯定しなかったか?え……あ、マジかよ。お前も女に興味を持ってくれたのか!俺は嬉しいぞ!」
「心の底からそう思っているからさらに腹立たしい」
「じゃあ、どういうことだ?」
唐突だが、この学校の自転車小屋は2階建てのプレハブだ。後方前方にスロープが付いた簡易なものである
その場所がようやく見えたとき今まで薄かった感情が渦となって増えた
隠しきれていない素人の感情に邪道も気がついたらしい
「妬み、怨み、怒り、大概愛の裏返しにある感情が渦巻いてやがる。問題は闘気なんてものがある。恐らく用心棒だろうな」
「手伝ってやろうか?」
「大丈夫だ。気分悪くなるだろうがその程度ハンデにもならない。バカ共が警戒しないように向こういってくれ」
「了解」
『チャリがやられてたら送ってやる』
「『心眼』使うなっての」
そのまま邪道と別れ、自転車小屋に乗り込む
「よう、新木」
2階の入口に立った時に現れたのはバットを持った少年だった。細い少年にはソフトボール用の太いバットは滑稽だ。しかしさらに問題なのが後ろに置いてあるボコボコにされた自転車だった
俺のチャリだ
「それ、やったのお前か?」
「ああ、そうだ」
刹那、彼の体は吹き飛んだ。壁に叩きつけられ呼吸困難になるあれは蹴られた腹を押さえる
「……これで…終わると思うな………」
「分かってるよ」
俺は重力に任せしゃがむ。バットが体があった所を通り過ぎる。そのまま左足を軸に下段蹴りで後ろの奴の足を払う
倒れたこれは未だバットを持っているため、飛び蹴りで武装を解除させる
俺はバットを蹴り飛ばす
「あと、30人ぐらいかな?」
近くに隠れている奴らに向けて言う
「おぉ怖い怖い。けどこの人数相手にどうにかなるの……」
最後まで言わせなかった。ゾロゾロ現れた30人のリーダー格を掌をぶつけて黙らせる
圧倒的な実力を前に怖じけづきそうなバカ共に一言
「どうせお前ら清藤のファンだろ?ちょっと仲良くしてただけで怒っちゃって、それで実力伴わない相手にケンカ売るとかバカでしょ。30人なんて人数集めないと負けるとか負け犬の集まりかよ。1週間ずっとウザかったんだよ。気色悪い。負け犬とか言ったけどそれじゃあ負け犬に失礼だな犯罪者予備軍。だいたい人数とバット用意したところでで楽勝出来るぜ変態共。おっと、お前らと一緒にされたら変態から道端に落ちた小石にすら失礼だったな。まあいいさ。ちょっくら胸貸してやるからかかってこい。どうせ胸にも届かない弱小者共だろうけど」
恐怖が殺意と怒気に変わるのに時間はかからなかった
言い続ける
遊んでやる
殺気が放たれた
●●●
バットを振りかざし俺に突撃する3人を俺は待ち受けた。加減無しに降り下ろされたバットはそのまま地面に叩きつけ、頭上に現れた俺の足に蹴られ、全員倒れる
「愚直、トロい、打たれ弱い」
雑魚共はどうにかできる。問題は用心棒。敵の中に戦いたくてウズウズしている化け物がいる
「チッ!数はこっちが有利なんだ!囲んでぶちのめせ!」
そう、誰かが叫ぶ
愚策だな。数の暴力と力の暴力で行ってはいけない行動だ
敵は指示に沿い俺を囲む
「せーの!」
掛け声とかまさに避けてくれと言わんばかりだ。おかげで上に余裕で逃げれる
俺を囲んでいたのだから当たり前だが対角線場には誰かがいる。それぞれが放った拳は味方同士でぶつかり合い。あえなく倒れた
俺は握っていた屋根の柱から手を離す。着地と同時にうめき声が聞こえるが生きてる証だ。どうってことない
「挙げ句に愚行、まったく、人の自転車壊しやがって………邪道の車に乗らなきゃならねぇじゃねぇか」
再び俺を囲む。相手は手を開きゆっくりと近寄る。俺を押さえればどうにかなると思ったのだろうか?
結局もう一度同じことを繰り返されれば結果が見えるというのに
そして気づかれないように足に力を込めていた
その時だった
闘気が耐えきれず崩壊したのは
今度は手だけではなく足まで柱に付けて回避する
現れたのは異常な速度で一本の槍と化した金属バットだった男たちの頭を掠めたそれは自転車小屋の壁に突き刺さりようやく止まった
「僕に出番はまだですか?いい加減前座に終わってもいいでしょう?」
投擲した男が全員に聞こえるようにだが、静かな声で言った
彼はバカ共とは違い制服ではなく和装をしていた。その着なれたような袴姿は恐らく剣道部員なのだろう。片手に竹刀をこさえてたたずんでいた
その立ち姿はまるで時に置いていかれた剣豪のように美しく堂々としたものだった。まさに彼こそ俺が問題点としてあげるほどの闘気を放つにふさわしかった
「誰だあんた」
「名前などどうでもいいでしょう。あなたは先程まで名も知らぬ者たちに攻撃をしていたのですから」
「いや、なんか見覚えのある顔だったからな。ちょっと気になった」
「なるほど、それは恐らく部活動紹介の時にでも見たのでしょう。不詳ながら剣道部部長をしていますので」
「ああ、負け部長か」
入学式後の学園で少しの騒動があった。いや、騒動と言うより武勇伝に近いだろう
体験入部として現れた新1年生が部長に勝負を挑み、勝利したのだ。しかも、他の部活動でも同じことが起こった
当初、部長達は胸を貸すつもりで勝負を引き受けたのだ。中学生の頃に輝かしい成績を残したとは言え、所詮は部活動にも力を入れている瑠璃里東高校では通じない。と
しかし、ふたを開けてみれば、部長達が敗北を喫したのだ
その後、勝利した新1年生は<キャプテンキラー>という異名を付けられ、敗北した部長達は負け犬などと虐げられたのだった
だが、部長達はそれで塞ぎ混むことはなかった。卒業までに打倒<キャプテンキラー>という目標を掲げ、今まで以上に厳しいトレーニングを積んでいるらしい
剣道部もその1つで<キャプテンキラー>に負けた部長の名は
「負け部長とは失礼な。それ以外に名を知らぬと言う前に、名乗っておこう。我が名は武蔵野。いざ推して参る!」
武蔵野と名乗る男は俺に木刀を構える。<キャプテンキラー>に負けたとは言え彼はかなりの実力者。雑魚が残っている状況で戦うのは少し得策ではない
だが、だから
「まあいいだろう。ただし」
刹那、何もなかったはずの虚空から後ろの手に向けて木刀が一本現れた
「こっちも得物使わせてもらう」
武蔵野は少し驚いただけで再び木刀を向ける
雑魚共はバットを構え臨戦態勢
そして俺は殺気をさらに増幅させ襲いかかった
作)舐めてました。8時から9時がここまで恐ろしいものだったとは………
真)予定数これ入れて2話とだよな?確か
春)許せ…………読者
作)ーグサッ
こうかはばつぐんだ…………