入学と不穏
2101年
22世紀少年が生まれ始めた頃の日本にある都市
瑠璃郷市に建設された名門・瑠璃郷東高校
東という割に、吸収合併等々を繰り返した結果、瑠璃郷市のほぼ真ん中に位置する高校はまさに様々な活動をしている
勉強に目を向ければ、数学オリンピックの上位に食い込み、文章を書けばコンクールで楯をもらえるのは間違いなく、
部活に目を向ければ、甲子園では5年に1、2度は出場して、吹奏楽部では度々金賞を獲ている
行事に目を向ければ、どんちゃん大騒ぎで他校にないサバイバルゲームがあったり、体育祭が赤白青黄と教師も混ざる
本当に様々な偉業を成し遂げる高校である。さらにこの高校が人気の理由が制服にある
ブレザータイプの制服で男女それぞれシャツとブラウスをを着用し赤と白が基調とされた上着を羽織り、男子は黒に少し朱を入れたようなダークレッドのズボンに女子は白のスカート
このデザインがとても人気で、制服ランキングでは1位を独占している。実質、この制服を着るためだけに瑠璃郷東を希望する生徒がいる
しかし高校というのは希望する生徒が増えるほど、必要になる学力や部活の実績というのが増えていくのは知っての通りだ
もちろん瑠璃郷東も例外ではない。人数を減らすために異常に高い条件が準備されている。
一般入学の場合、偏差値は77必要である。偏差値77の学校というのは分かりやすく言うと大学を入れて全国トップ10の仲間入りするほどと言えばその凄さがわかるだろう
スポーツ推薦の場合、相当な実力がない声がかからない。優勝経験は当たり前の世界だ
まさに高嶺の花といえる瑠璃郷東の話をしているのかと言うともちろん今日から入学するからである
一般入試で希望した俺は確実に合格するために『心眼』を最大使用させてもらった
まず入試問題を作る先生の心を覗いた。その人物の性格を知り、どのような問題が出るかを過去問と照らし合わせて分析、それからその先生の中間や期末テストのプリントを瑠璃郷東の生徒からスッたりして情報を集め、引っかけ問題の個数、必要になる公式、応用問題を導きだし1ヶ月前にはすでに『99%の問題が出る入試問題・解説付』を作り上げた。その精度は中学のテストでほぼ満点を叩き出したときと同じく見事に当たり合格したのだった
入学式は何事もなく終わり俺は教室に向かう列から離れ、職員室に来ていた
「やあ、真くん久しぶりだね!また会えて嬉しいよ」
「やあ、邪道先生久しぶりだね!地獄の鬼が待ってるよ」
入学式に見かけた予想外の人物に『夜路死苦』と挨拶しに来たのだ
「ここでは写堂先生だからね」
『その呼び名使うな。クソ野郎』
「そうですか。それじゃあ邪道先生」
「写堂先生と言いなさい」
『言わなきゃ地獄まで道ずれにするぞ?』
まったくもって裏表激しい奴だ。いっそ清々しい。第一、俺は確実に地獄行きだから道ずれじゃなく共倒れだな。でもまあ、三十路過ぎの野郎と共倒れなんざお断りだな。よし、蹴り落とそう
「で、写堂なんだよ。つうかなんで居る?」
「チッ、先生まで付けやがれ………なさい」
『やべぇ、素出るところだったわ!危ない危ない』
完全アウトだ。隣の先生ドン引きだぞ。『え、つけやがれ?………元ヤン!?』って思われて分マシなのか?
なにせ、暴力団組長様だし………よく教員なれたな
「……もしかして、あの事バレたらいけないのか?」
「……まあ、そんなところだ。もう他の奴に変わって隠居生活中だ」
じゃあ、元組長なのか。どうせ会長というオチだろうが
そんな奴が職員とは世も末だねぇ
しかも天下の瑠璃郷東………明日には世界が終わるのかな?
ちなみに隣の先生『他の奴に変わって隠居生活中!?偽名なの!?住民票売買!?』などと勘違いしている
先にこいつの人生が終わりそうだ
「とりあえずそれを口止めできれば充分だ」
『後で色々説明してやるからここは下がれ』
「分かった。あと………」
教師がたくさんいるなかでバラす訳にも行かず、目線で『心眼を使うな』と意思表示をした
「くくっ、了解だ。とりあえず教室戻ってよし!」
『用が出来たら呼び出すから』
人の『心眼』をテレパシー代わりに使いやがって………
まあいい、元組長とはいえ今は先生だ
こっちも有効活用出来るときは使ってやろう
………その前に住民票売買で通報されなければだが
●●●
教室に戻ると入学式を終えた新しい同級生が騒ぎあっていた。新生活の興奮一色の教室は俺の天敵だ。
新しい生活の喜び、歓喜、不安、恐怖等々
そういうときは俺はなるべく下を向く
これで視覚が塞がる
どうせ耳も塞いだところでこの狭い教室の中では漏れ聞こえてしまうだろう
仕方がないので諦める
こうやって情報を可能な限り少なくする。そうでもしないと感情に飲まれて頭が痛くなる
これからは本でも持ってこようかと思案したときだった
「顔色悪いけど大丈夫?」
結局感情に飲まれかけて、いつの間にか気付かれるほど顔色を悪くしていたらしい。未だにうつ向く俺には声をかけた女子生徒の表情は見れないが他の情報から素直に心配してくれているのが分かる
「安心しろ。授業が始まれば治る」
授業中ならほぼ全員一心に板書を行うため感情の高低が少ないから校内で唯一心が休まる時間と言える
まあ、一瞬で休まる空間に仕上げることも可能だが、過激な方法だし自重しよう
「君、不思議だね。皆授業なんて嫌いだと思うけど」
「俺も授業が嫌いだ」
「さっきと矛盾しているよ。君?」
「矛盾してない。授業が始まれば頭痛が治まると言った。授業が好きだと言ってない」
「どうも屁理屈に聞こえるなぁ」
「事実だ」
変な奴だ。下を向いて相手の顔を見ずに喋る人間に声をかけるとはな。周りの喋り声が俺に向けて奇怪な感情が流してくる
「ちゃっちゃと向こう行け、俺は人間が嫌いだ」
そんな目線をかけられる俺に二度とコイツが話しかけないよう事実を言う
「君、やっぱり不思議だ。人間が人間が嫌いだなんて、クレタ人のパドラックスを言うんだね」
それでも彼女は声をかける
クレタ人のパドラックスか。確か
「クレタ人は嘘つきだとクレタ人は言った」
「お、知ってるんだ」
「この程度一般常識の範囲内だ」
俺は人間が嫌いだ
クレタ人は嘘つきだとクレタ人は言った
「なるほど文字数は違えど言っていることは一緒か」
「君、ひねくれてるね」
「だったら向こう行け」
シッシッと手で払う。人間が嫌いな俺ととしては目障りだ
「君、名前なんて言うの?」
それでもまだ彼女は下がらなかった。伏せてた目線を少し上げる
初めて見た彼女の姿は色白で輝く黒髪、瞳は優しく微笑みを浮かべている。恐らく他者から見れば可愛い類いに入るだろう。それは俺に向けられる嫉妬の目線が保証している
しかし、恋心どころか心丸々のない俺にとってはどうでもいいことだ。心を読む為の情報を得ると再び視線を伏せた
「お節介なら無用だ。世話焼きな心が丸見えだ」
正確に言えば歓喜だった
友達ができる歓喜、俺にふさわしくない心だ
「お前ボッチか?」
「ボッチじゃないよ?君がいるし」
「勝手に友達扱いするな」
「クラスメートになったらみんな友達でしょ?」
「そんなわけないだろ。脳天お花畑」
「脳天お花畑!?私そんなことないよ!」
「脳天お花畑とだけ言ったのに返事した時点で自分で自覚しているってことじゃないのか?」
「そんなわけないじゃん!本当にひねくれてる人だね!」
「いったい誰を指すのか俺には分からないな」
「君だけずるい!」
「知るか。すぐに人の技をパクるしか能がないやつだから脳天お花畑と呼ばれるんだ」
「あのねぇ私には清藤春音って言う素敵な名前があるの。清らかな藤に春の音で清藤春音だよ。決して脳天お花畑なんじゃない!」
こいつ2度目引っ掛かってるの気付いていないのか?馬鹿なのか?
「脳天お花畑だから名前に春を入れたのか。いいと思うぞ」
「よくない!それじゃあまるで脳内お花畑から先に付いた名前みたいじゃない!」
「よくないならさっさと下がれ」
「無理!君みたいな人放って………」
「おけるんだろ」
「おけないの!人のセリフを被せて否定しないで!」
「あ、急に睡魔が………」
そして微動だにしなくなった
「え!?どうしたの?」
「………ついに…急性睡眠症候群にかかってしまったか………ガクッ」
「ちょっと待ってて!友達からお薬もらってるから!」
「……………」
何の薬だ?ゴラ
「はい。万能薬!」
ねぇよ。ゲームし過ぎか?しかもこいつ信じてやがる
無理やり口に入れようと顔の下に薬が捩じ込まれる
綺麗な虹色をしており映像化するならモザイク必須、腐乱臭が教室に充満し、焼きコテで<万能薬>と書かれた丸薬が俺の口に運ばれ
「フギャッ!!」
「隙あり」
………ることはさせず。内股狩りを清藤に食らわせた
「何してくれてんの!?」
「それ俺のセリフ。明らかにヤバイもの食わせるのかお前は?」
「ヤバイものって、愛ちゃん特製の急性睡眠症候群の薬だけど?他にも急性腹痛症候群とか、急性頭痛症候群、急性高熱病等々に効く万能薬だって言ってたから大丈夫だよ!」
………こいつ友達に恵まれてるなぁ。対仮病用劇薬をわざわざ用意するとは。信じる奴もそれはそれで………な
「それにこの万能薬を飲めば君の青い顔も治るよ!」
『心眼』には嘘1つない純粋な心を見せていた
「この純粋バカどうすればいいのだろうか………」
「なんか言った?」
「いや、青い顔はそれでは治らないと医者が言っていただけだ」
「え!?万能薬なのに?」
「万能薬なのに、だ」
とりあえず『愛ちゃん』とやらにその内報復に行くとしよう
清藤が渋々丸薬を薬箱に戻したのを見届けると目を伏せた
「ところで名前聞いてなかったね。教えてよ」
「新木真、新しい木に真と書いて新木真だ」
「よろしく」
何故だか、その挨拶が厄介事を押し付けられたようにしか聞こえなかった
●●●
待ちに待った授業……というか入学初日なのでホームルームなのだが
「よし。おめえら全員いるな!」
なんで邪道が担任なんだよ………有効活用できると思ったけど早速要らねぇ。教育委員会に連絡でもしてやろうか?
「じゃあ、新木号令」
「斬りつ、鬼ヲ突け、霊、オ涅害死魔首」
「うん、新木ありがとう。さて最初のホームルームで居眠りする奴がいるとは元気ないな」
まったくだ。「先生、居眠りじゃなく失神です!」などと叫んでいる輩がいるが気のせいだろう。たかがちょっと殺気を漏らした程度でそう簡単に失神しないはずだ
「まあいい。寝たい奴は寝かせとけばいい。最初のホームルームは一番最初のイベント集団宿泊教室のことだ!この教室では男女2人の級長を決めるのだが、男子は今起きてるのは新木だけのようだな。新木確定っと」
「おい、こら待て」
刹那、俺から発生されたネットリとした殺気が教室を包む。生徒が飲まれ悪寒が止まらなくなる
「てめえ何勝手に決めてんだ?」
「あ?そんだけ元気ありゃ充分だろ?」
邪道が言い終わると同時に威圧的な殺気が教室を包む。生徒が恐怖で舌が回らなくなる。やがて2人の殺気に飲まれ頭が回らなくなった生徒が次々と失神していく。
「俺がするわけねぇだろ?そんなこと」
「てめえが殺気出すから周りの男子全員失神したんだろうが!責任とりやがれ!」
「こっちは失神しないようギリギリの殺気で押さえてるんだ。トドメ刺したのおめえだろうが」
「っるせい!この際だ。いっそ決着つけるのはどうだ?負けた方が校内で優位に立てるという条件でよ」
「いいね。乗ってやる」
互いにボルテージ、殺気までも流れ出していく中、相手の隙を伺う気の張り合いが始まった
「やり過ぎよ!バカ共!」
気はいきなり現れたハリセンによりパパンッと呆気なく潰された
それは清藤のものだった
「邪魔をするな。もう少しで隙が見えそうだったのに」
「そうだそうだ!今日こそ決着時だと思ったんだぞ!」
「ま、わ、り、み、ろ!」
そう言われてゆっくり周りを眺める。机に突っ伏した者、椅子に寄りかかり天井を仰いでいる者、体制を崩し倒れている者……………俺たちを除く全員が失神していた
「あんた達バカでしょ!殺気だかなんだか知らないけど、これじゃあこの後に差し支えるでしょ!」
『とりあえず殺気を感じていないあなたは何ですか?』
とりあえず殺気を感じていないあなたは何ですか?
不覚にも同時につっこんでしまった。全員が失神している中、唯一意識保ってるし、皆の心配より今後の授業の心配してるなどなど言いたいことはたくさんあるが、今言うべきことは一つ
「お前級長よろしくな」
「は!?なんで!?」
「ちなみにお前もだから」
「いいぜコイツに全て押し付けるから」
「最低過ぎる!」
かくして、俺と清藤が級長になったのだ
●●●
その放課後
俺は赤いスポーツカーに寄りかかって時を過ごしていた
「やっぱり待ってたか」
「当たり前だ。邪道」
缶コーヒーを片手に邪道が車を開ける
『早く乗れ』
「ほんと、人の『心眼』を利用するなつうの」
そしてしばらく立ち尽くす
「いや、乗れよ!」
「お前の車が仕出かしたこと俺は忘れねぇよ」
もう、乗りたくねぇよ。モンスターカー
「は、や、く、乗れ!!」
写堂により無理矢理車に乗らされるとコーヒーの匂いが充満していた。少し邪道を見て車内に戻す。灰皿入れを見ると豆がぎっしりと詰まっていた
「お前も利用してるじゃん」
「そりゃ自分の能力だからな。にしても何だこれ?」
「コーヒー豆には消臭効果があるんだよ。この匂い好きだしな」
「コーヒー厨め」
それから車は発進した。校門を抜けた辺りで口を開く
「なんでここにいる」
「ここ俺の車なんですけど」
『やっぱり用件それか』
「意味分かってる癖に焦らすな」
「かー、お前は本当にやりづれぇー」
邪道、いや写堂が指揮する暴力団は日本でかなりでかい部類に入る組だ。その組長がたかが三十路過ぎた程度で隠居なんざありえない。裏に何かある。そう俺は睨んでいた
「<W>が動き出した」
手加減なしの殺気が流れる。教室での殺気より強力に泥沼にはまったかのように包み込み。その泥は口にまで浸透し息をすることすら許さない
「………おいおい、俺でもそれはキツいんだが」
「黙れ、確認に決まってるだろ」
嘘を吐かないようにではなく嘘を吐いたときのその後を知らしめる為の……
「………本当だ」
ミラー越しに写堂の瞳を見る
「そうか」
殺気を消す。それが答えだった
「お前の殺気、他の奴なら失神じゃすまないからな」
「お前が手加減なしじゃないとビビらねぇからだろ」
「ま、だてに長張ってねぇよ」
「じゃあ、その上当てられないよう頑張れよ」
「まだ上あんのかよ!」
当たり前だ。殺気が一番危険な感情ではない。本当に危険なのは殺さず死ぬより残酷な仕打ちを行う。そんな人間の感情だ
「で、<W>が動き出したって機次とルシファーはどうした」
<W>それは写堂の組と俺が敵対する勢力の仮称である。本当の名称はまだわかっていない
今までは邪道の組員による工作で表面上均衡していた。その中心人物こそ機次とルシファーなのだ
「今までの<W>の動きは各国へのハッキングだけだった。それが俺らつうか日本に人員を潜伏させた」
「その言い方からすると既に確認したんだろ?どんな感じだ」
「監視カメラからだがな。人数は2人、巨漢の男とトランクを持った小柄な女」
そう言って写真を渡される。その中心に今回の敵がいた。服を着ていても分かる筋肉質の巨体と、身長にそぐわない長いトランクケースを持った少女だった
写真が不鮮明で顔がよく判別できない。恐らくハッカー同士の熾烈な争いがあったのだろう
「完全に凸凹コンビだな」
「まあな、あと、これは予想だがトランクの中には狙撃用ライフルだと考えている」
「だろうな。俺もすぐに思いつく」
写堂はジュースホルダーに乗せたコーヒーを飲み干す。写堂が味わうことなく一気飲みするときは限って一番重大なことを言う
「それで行動調査をしていた仲間が3人やられた」
「被害は?」
「2人は銃で、1人の拳だ。全員病院行きだ」
「それでもマシなほうだ。おそらくまだ殺しはしないだろう。死んじまったら死体が残って厄介だ。本腰入れたら違うだろうが」
「それで、部下じゃ相手にならねぇ。俺らでどうにかする。そのためにお前の学校に来たんだ」
「こっちに来るのか?」
「それは間違いねぇ。奴らのターゲットには俺らが含まれてる。俺の潜伏先流したら向かってきた。無論デマだがな」
「なら、ここの場所と大量のデマの場所両方流せ、それでしばらく時間が稼げる」
嘘に事実を混ぜることで真実味が増す。逆に1つの事実に気付かず全部嘘だと思ってもらえれば、よしと言える
「もうやってる」
「お手が早いようで」
「当たり前だ。短い付き合いじゃないんだ。お前が言わんとすることなんて分かってきたさ」
かくして、今日の1日は終わる。平穏の終わりを感じながら
作)ヤバイよヤバイよ!15分に1度乗せれば1時間新着一覧に入れると思ってたのに7分後には消えてたよ!
真)アホか!読もうが一番アクセス数が多い時間を調べておきながらその時間に投稿するって決めたんだろうが!急げ!
春)感想、誤字脱字の報告待ってます!