第白話「青ノ概念」
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「お父さん!青のない世界読んで!」
空に白い絵の具を垂らすと綺麗な星模様になりそうな真っ暗な夜。テールランプの淡い光が漏れたベッドで、娘が絵本を読めと強請る。
「またか?」
父親は苦笑しながら小さな本棚から一冊の本を取り出した。本棚の上には父親と、白いボブカットの艶やかな髪を靡かせた母親の写った写真が立ててある。
娘は布団を胸の位置までもってきて、軽く叩く。いつものおねだりの仕草だ。父親は布団に入ると、妻に似た娘の白く透明感のある髪をゆっくりと撫で、絵本を開いた。
「これは、青のない世界でたった1人...青を求めた男の物語」
父親はそこまで口にすると、何かを思い出したのか急に黙り込む。
「お父さん?」
娘が心配そうな表情で彼の顔を覗き込んだ。しばらく考え事に耽った後、父親はこう言った。
「...そうだな。じゃあ今日はお父さんの話をしよう。青よりもずっと綺麗な色を見つけた男の物語だ」
「青よりも...綺麗?」
「あぁ、ずっとな...」
.........
......
...
「やっと眠ったみたいだ」
娘を寝かしつけた父親はリビングの椅子に座り、用意されていたコーヒーを啜った。向かい側には未だ衰えを知らない美しい妻がいる。
「私の第一印象は随分素敵だったのね」
彼女もマグカップに注いだコーヒーに口をつけた。
「聞いてたのかよ。グレイスのやつ、ずっと青を見たいって聞かないんだ。見ないと後悔するって」
その性格は、かつて喪った戦友のようであった。大胆で繊細、そして人生の選択を後悔しないように決める友に。
そんな友に憧れていた節もあったなと思い出す。
「どうしたいかはあの子に決めさせたらいいけど...それよりも聞かせて。青より綺麗なものを見つけた男の物語」
妻はいつかのようにはにかんだ笑顔を見せた。
「仕方ないな...あるところにヘイ・ロウという男が...」
青はただの空想上の色に過ぎないのではないだろうか?
この世に本当に青はあるのだろうか?
そんな噂が飛び交うなか、青を求める者はまだまだたくさんいた。
その冒険が合理的でないことはわかっている。危険だということもわかっている。だが、それを止めることはできない。それは浪漫であるから。
「見たい」と感じたその時から
人々は青に魅せられているのだ
その概念を知らずとも
いや 概念すら知らぬから魅了されるのだろう。
おしまい




