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青ノ概念  作者: Suck
第五章 紅色の夢想 【上】
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第水話「懐疑的青」

白軍内の戦力は変化の色を濃くしていた。新人の補充もあってか、全体会議では異様な雰囲気を漂っている。


8位 スターガール


化学実験の被害により皮膚を爛れさせ、痛ましい姿をした双子を鎖で繋いで飼っている少女。双子の目は煤がかかっているように黒く、毛髪も全て抜けている。彼らは呻るような声をあげていた。スターガールはゴスロリに絵の具をぶちまけたような独特の衣装を着て、紫や緑の色鮮やかな髪をしている。


7位 露光(ろこう) 利光(としみつ)


貫禄のある面持ちで、口髭とあご髭を繋げている。歳は50ほどだろうか。豊麗線や目尻の小皺が目立っていた。肌は茶色く焼け、チリチリの黒髪をしている。見た目は普通の初老のようだ。


6位 ヘイ・ロウ


5位 チェーカ


4位 イヴ


3位 審議中


2位 ブラックマスク


1位 ミリオン


ヘイが白軍に入隊してから、既に半数のメンバーが除籍されていた。


「ふむふむ。華ちゃんの件でなかなか被害を受けたみたいだね。まぁ、僕がいたら余裕だったけど」


白軍1位のミリオンは赤い頭巾の隙間から覗く目を細めながら調子の良い声で言った。彼は忍者のような格好に防弾ベスト、腕にはびっしりとタトゥーが入れられている。筋骨隆々の男で、紅鳶の右腕だっただけのことはある風格をしている。


彼の言葉にヘイは怒りを覚えたが、拳を強く握って押し殺した。浅黄の死は全ては自分の無力さが原因だと言い聞かせる。


「屑が...」


「おっ!Dカップの子じゃん!どうしたの?惚れた?僕に惚れた?」


小さく呟いたチェーカの言葉に反応し、彼は机に乗るとスライディングしながらチェーカの座る席の前に飛んで行った。お調子者も度を越すと厄介だ。


「野郎...紅鳶が消えたからって調子に乗んじゃねぇぞ!」


彼女は眉間に血管を浮かべ、腰から剣を抜き、切っ先をミリオンに向けた。しかし彼は鼻をほじりながら彼女を挑発する。


とうとうチェーカがキレて剣を振り下ろす。露光(ろこう)は彼女の暴挙に一瞬驚いたが自前のお茶を水筒からカップに汲むと、音を立てて啜った。


「ぁっ...」


ぎらりと光る刃は机にめり込み、行き場を失った。彼女の斬撃をかわしたミリオンは素早く背後に回り込み、チェーカのシャツの下から胸を(まさぐ)る。


「おおっ。やはり使い込まれた胸は素晴らしいな!」


場を弁えぬ発言に、イヴが立ち上がり、ミリオンの前で止まる。チェーカは泣いていた。彼女の過去を知る者ならば絶対にしない発言をミリオンはしたのだ。彼にとって人を傷つけることは快楽。圧倒的武力を持て余し、ついには精神的に相手を追い詰める性癖を生んでしまった。


「ミリオン。やめて」


彼女の真剣な眼差しと声により場は収まり、ミリオンは


「わかったわかったAAの少女」


と言って席に座った。イヴは珍しくめそめそ泣くチェーカの頭を撫で、彼女を宥める。


(あの体勢からチェーカの剣を避けた...?あの男...なんなんだ)


ヘイは一連の出来事をただ傍観することしかできなかった。後に残るのはミリオンの並外れた強さ。もしかしたら、彼はこれが狙いだったのかもしれない。脅迫的な支配。自分は白軍のどの猛者よりも強く、いよいよとなれば貴様らを殺すのも厭わない、と。


パンチャー山田は場が静まったのを見計らって話を切り出した。


「それでは、全体会議を始める。今回は、新たに加わったメンバーを紹介しよう」


パンチャー山田は坦々と話ながら、紅鳶がいかに有能だったかを実感していた。トップとして頼るには、ミリオンは癖が強すぎたのだ。


...

......

.........






皇帝の部屋はワインレッドの壁と椅子やソファが印象的であった。高貴ながらも少しの生活感を漂わすその部屋は、庶民には感じられないものがある。


ゲルマン帝国皇帝に部屋へ招かれた紅鳶は若干の緊張を持ちながらアラベスク模様の絨毯の上に立つ。

しばらく待つと、奥から灰色の軍服を着た皇帝が現れ、深々と椅子に腰をかける。


「紅鳶よ。お前の活躍はゲルマン帝国発展に大きく貢献している。今回、私の護衛についてもらった訳だが、本来の目的はそれではない」


皇帝はそこまで言うと、言葉が詰まり、何かを考えるような仕草をしながら顎をさすった。


「どこから言えばよいのか。...そうだな。お前はわかっているかもしれないが、鳩のモザイク画が消えてしまった。これはUボート奪還作戦のときに発覚したことだが...」


「今、杜若に拷問を加えております。おそらく狡猾な杜若がコレクションルームから鳩のモザイク画を盗み、市場へ回したと思われます。その証拠に杜若は青自体に興味がなく、モザイク画を運んでいたセル暗殺兄弟とも関係があったようです」


紅鳶は片膝をついて言う。

彼は、皇帝の発言から、Uボートにのっていた鳩のモザイク画が本物であったことを確信した。


(役人を派遣して艦内を調べたが見つからず...と言ったところか。誰かが持ちだしたか...)


皇帝は白髪の頭を掻き、困った表情を見せる。


「そのことだが。艦内からモザイク画を盗み出した者の足取りが掴めた」


「本当ですか!」


「うむ。その名はニケ。勝利の神の名を持つ男。...奴はフランス共和国北西部にあるマルブル島へ逃げた」


マルブル島。島全体が大理石でできた奇妙な島で、白い砂漠のように地面が覆われている。名もなき彫刻家たちがその島に足を運び、各地に像を掘っている。海にぽつんと浮かぶ島だが、トンボロ現象により干潮になると数時間だけ島まで道ができ、そこを海面列車が横行するのだ。


「つまり...マルブル島にいるニケを殺害し、鳩のモザイク画を取り返すと?」


「うむ。青を志す他でもないお前にこの任務を託す」



面白い皇帝だ。軍人皇帝にも関わらず、自分の軍隊は信用せず、元白軍に全てを託している。それほど軍の者が欲にくらみやすく、弱体化しているのだろうか。


(ついに来たか...)


紅鳶はこの時を待っていた。幾つもの地獄を目の当たりにし、幾つもの犠牲を払って白軍の名をあげてきた。


ついに皇帝から直接依頼されるほどの実力を見せ、青に近づく。彼の半生は全てこの瞬間のために注がれていたのだ。


杜若は拷問を受けながらも、鳩のモザイク画のありかを吐こうとしなかった。だが、仕事をヘマしたニケが足取りを掴まれ、結果的に鳩のモザイク画の場所を割り出されてしまった。


だが、皇帝は紅鳶が退室する際、不吉なことを口にする。


「気をつけろ...奴を人間だと思うな。人外を相手にすると思え」


参加した争い全てにおいて勝利を収めるニケ。杜若の件ではイヴが攻め込む直前に逃亡し、難を逃れている。


(一体...なんなんだ)


白軍から抜けた紅鳶は、彼らに頼ることもできず、最強の男とのサシの勝負を背負わされてしまった。

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