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青ノ概念  作者: Suck
第一章 白軍への入隊
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第深藍話 「傭兵と白軍」

荘厳な雰囲気漂うロマネスク様式の美術館。誰もが教会と見紛うだろう。過去ドイツのメルヘン街道付近に

建立されたここメルヘン美術館は、45世紀前の遺物が展示され、多くの観光客で賑わっていた。


しかし現在、過激派宗教組織によって美術館は占拠されている。彼らは、国内で起きている宗教対立を理由に、ここで人質をとって自らの要求を通そうとしていた。


赤の覆面と防弾ベストを着用した彼らは、週末の美術館を急襲し、館内で美術鑑賞をしていた客を人質にとった。


初め、客は騒いでいたが、覆面をつけていない組織のリーダーが1人の客を殺したことにより、館内は静寂を取り戻した。


「いいか?俺たちはヴェンデーレ派が認められるまでここに居座る。当然お前らも外の空気を吸うことはできない!」


リーダーの怒号は客たちの不安を煽った。ヴェンデーレ派とは、「青」を売買することを良しとする宗教の一派である。彼らは貯蓄を肯定し、労働による富を第一に考えた。


この世界では、「青」という存在は神に等しく、よって人々の間にそれの異なる見解が生まれているのだ。


「青」を絶対的に保護するというリザヴァ派、先も述べたヴェンデーレ派、更には人の血肉の中に「青」があるという狂信的なソダ派も存在している。


そんななか、青を純粋に求める男が、この組織の中にいた。


メンバーの殆どが館内で見張りをしているのに対し、その男、ヘイ・ロウは美術館の監視室で監視モニターをチェックしていた。


(旅の資金が尽きたとはいえ...さすがに一般市民に手をかけるのは気がひけるな...)


2ヶ月前、彼は青を探しに過去ドイツへと旅に出た。しかし両手で抱えるほどもない旅の資金は泡のように消えてしまったのだ。


路頭に迷った末、彼は傭兵としてこの宗教組織に雇われた。


「誰も来ないでくれ...」


ヘイは白い指でデスクを叩く。

できれば楽に金を受け取りたいと考えていたが、無論それは不可能な話だろう。


なぜなら、この領地を支配する諸侯は、「青」関連の事件を解決するためのエリートをこの美術館へ向かわせていたのだから。




『我々は商業主義をとり、この国をより発展させるべきだと考える。そのためには青の売買が必要だ!』


拡声機を通して美術館の外にリーダーの声が響いた。大通りの通行人はたちまち野次馬へと変わり、警察隊の動きを阻害した。


だが、諸侯が派遣を要請した白軍隊(はくぐんたい)は美術館の後ろから作戦を開始した。


8名の小隊は茂みに隠れながら、裏手を守っている組織の一員を葬った。


普段彼らは、腰に据えたナイフと、軍が使用を独占するアサルトライフルを駆使し、「青」関連の事件を解決している。


多くの修羅場を乗り切ってきた彼らにとって、過激派宗教組織の氷山の一角を仕留めることなど、赤子の腕を捻るも同然であった。


黒い装備に身を包んだ兵隊達は、機敏に動き、裏口から進入した。


「二手に分かれて鎮圧する」


小隊のリーダー、アジア系の紅鳶(べにとび)が小声で指示した。

髪は黒く、肌は白い。鼻の付け根にある雀斑(そばかす)が特徴的だ。

いつものように、といった表情をしているが、彼の切れ長の目は常に戦場を凝視していた。


紅鳶(べにとび)率いるαチームは非常階段を伝って2階へと上がる。ここにはヘイがいる監視室がある。


βチームは1階から人質のいる大広間へと向かい、各所にいる見張りを暗殺していく。


それは足音さえ響きそうな館内で着実に行われた。1人、また1人とヴェンデーレ派のメンバーは命を落としていく。


異変を察したのか、リーダーはハンドガンを構えた。


(静かすぎる...外の警察隊すら動きを見せない)


彼の額に浮かぶ汗とトリガーにかかる指が緊迫感を加速させた。


その間にも、組織は解体へと刻一刻向かっている。


その傍ら、2階の裏口方面を見張っている一味は、暇を弄んでいた。


「お前も傭兵か...?」


「あぁ、腕はお前らよりたつと思うぞ」



マスクをとり、髭を生やした男が大柄の傭兵と小さな声で喋りだした。


「そのマシンガン...ヴェルツェコ製か?」


*ヴェルツェコ=過去ロシア


「故郷から持ってきちまった。こいつの破壊力は並じゃ...しっ!」


傭兵が全て言い終わる前に、何かの気配を感じ取った。


口の前に人差し指を置き、髭を生やした男に手で合図した。


2人は一気に強張った顔つきに豹変し、トイレのほうへ向かう。


豪華なタイルが敷き詰められた男子トイレへ入ると、小隊の1人が部屋の隅から現れ、髭を生やした男の胸をナイフで突き刺した。


ギラギラと光ったダガーナイフが男の防弾ベストへめり込む。

先端が胸の皮膚を裂き、大胸筋に大きな裂け目を入れた。

更に肋骨の隙間を這い、ナイフは男の心臓部に達す。妙な振動が隊員の腕に伝ってきた。心臓の中の血が噴き出す振動。


一瞬の出来事で、何が起こったかわからない様子の男は、肺から空気が抜ける音と共に、唖然とした表情のまま膝から崩れ落ちた。


傭兵は状況を即座に飲み込み、銃を構えようとしたが、彼よりも早く、他の隊員が傭兵の頭を撃ち抜く。


「うっ...!」


銃口から捻り出た弾はサイレンサーと男の頭を通して美術館の壁に潜った。


辺りには、赤いマスクか傭兵の頭の肉片と血飛沫が散らばっている。髭を生やした男の下には血の池が生まれていた。


「片付けている暇はない。行くぞ」


1人が合図すると、もう1人が頷く。

敵が異変を感じる前に仕留めなければならない。

紅鳶(べにとび)が率いるαチームはさらに2-2に別れた。


紅鳶(べにとび)らは人質がいる場所を探し、残り2人は監視室へと向かう。


一方、大広間を眺めることができる2階にいるヴェンデーレ派のリーダーは痺れをきらして見張りを何人か偵察に行かせた。


白軍隊はこの時を待っていたのだ。人質は彼らにとって最大の武器。その監視を怠るということは、自ら武器を投げ捨てているのと同じだ。


1階を制圧していたβチームは、次に人質のいる大広間の付近に隠れた。


大広間にいるまだ毛髪の少ない人質の赤子が指をさす。


(こらっ!)


心の中で隊員は叱った。思いが届いたのか、その子の母親がそっと赤子の手をさげる。



「ワンフロアクリアー。配置完了」


隊員が無線を使って伝えると、αチームから「了解。6秒後に制圧開始、5、4、」とカウントが始まった。

隊員たちに緊張が走り、



3、2、1。


2階と1階から同時射撃が開始された。

大広間の人質は一斉に頭を塞ぐ。


人質の近くにいた3人の見張りは次々にヘッドショットされ、絶命。


2階にいる見張りとリーダーも殺害された。


その間約1秒弱。

空気の破裂する音と共に5人が命を閉ざした。


βチームは緊張の糸が切れた表情をして人質の安否を確認しにいく。

不幸なことに人質を1人喪ってしまったが、解放された市民達は安堵の涙を流したり、互いに抱擁したりした。



そんななか、1人魂を締め上げられたような険しい顔をしている者がいる。


紅鳶(べにとび)だ。

彼は眉間に残りそうな皺を寄せ、現状を伝えた。


「ジェイルとフィリップスから応答がない」


監視室に向かった2人だ。遭遇する相手は1人、ヘイ・ロウ。


「直ちに向かいます」


「よせ、おそらく傭兵の仕業だ」


紅鳶(べにとび)が隊員を制す。


「どうしてわかるんです」


「ヴェンデーレ派。過激派組織と言っても所詮は市民の端くれだ。代わりにこいつらは傭兵を雇ってやがる」


彼らはなけなしの金で傭兵を2人雇ったのだ。その1人がヘイ・ロウ。


白軍隊にとって意外な敵が現れた。


「俺が行く。2人のことは気の毒だが、これも彼らの弱さが招いた結果...」



紅鳶(べにとび)は辛辣な言葉を吐くと共に、胸で十字を切り、祈る仕草をした。


彼自身、この動作の意味を「死者への祈り」と解釈しているだけで、起源は知らない。


「お前らは人質を警察隊に引き渡せ。俺は久しぶりに殺りあってくる」


「了解。御武運を」


紅鳶(べにとび)は赤いスカーフを喉に巻き、ヘイ・ロウの待つ監視室へと足を運んだ。


彼は怒りの奥底で、どこか心が雀躍(じゃくやく)しているような表情をしていた。

現実世界をモデルとしているため、地理的な混乱を招かないように第3次世界大戦後の世界でも「過去ドイツ」などと表記します。


会話で出てくる地名はおいおい説明したいと思っています。

何卒よろしゅうお願い致します。

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