幸と咲
部屋を出ると、使用人の二人である、幸と咲が廊下の掃除をしていた。
私に気づくと二人は「おはようございます」とだけ言って、そっぽを向いてしまった。
私は遅れて「おはよう、ふたりとも」と返したけれど、こちらをもう一度向く様子は無かった。
幸は私と背はそれ程変わらないものの、時々言動がきつい時がある、それは私が嫌われているのが理由かもしれないけれど。
彼女の長く、黒い髪が私の白い髪とは対照的で、その黒い髪が私はたまに、羨ましく思う。
桜は私の白い髪も素敵だと、言ってくれるけれど、普通というものに、私は憧れていた。
もう一人使用人である咲は、仕事中以外はよく、幸の後ろにぴったりとくっついている。
幸の背が小さめなのに対して、咲の背は私よりも大分大きい。
その為、二人が一緒に居る時は、微笑ましい姿を見ることが出来る事が多い。
二人がそうしている時に幸と目が合うと、暫く幸は機嫌が悪くなる。
その矛先が私になるのだ、そもそも数人しか住んでいないこの家では、仕方のないことかもしれないけれど。
そういえば、この家で髪が茶髪なのは、咲だけだということに気づく。
私自身髪の色は白という珍しい色だから、あまり気にしていなかったけれど、彼女の髪は傍目から見てもふわふわでとても惹かれるものがあった。
私には、そういった髪型も、茶色の髪色も、きっと出来ないから。
……無駄に大きなテーブルが置かれた部屋につくと、桜が用意してくれた、朝食を食べる。
「うん、今日も美味しいよ、桜」
「ありがとうございます、お嬢様」
「きっと、桜も一緒に食べてくれたら、もっと美味しくなると思うんだけどなぁ」
私は桜といつも同じようなやり取りをこの朝食の時間でしている。
この後、桜は決まって同じ事を私に言うのだ。
「使用人である私とお嬢様が一緒に食事をすることは出来ません」と。
それでも粘り強く、私は毎日、同じやり取りを繰り返す。
いつか、桜が諦めて、私と一緒に食事が出来るようになるまで。
「ごちそうさま」
私がそう言うと、桜は笑顔で食器を片付けていく。
桜の後ろ姿はとても綺麗で、私から見た桜は、姉のような存在だった。
少し短めだけれど綺麗な黒い髪の毛。
細い腰に、膨らんだ胸、整った顔立ち。
私にとって、彼女はとても完成された存在に見えた。
そしてきっと、私には届くことがないということも、分かっていた。
どこまでいってもきっと、私は私のままなのだ。
鳥籠から出ることが許されない、鳥のように。




