終わりのない歌(3)
少女が居なくなってから数日経ったある日。
微かに、するはずのない音を僕の耳が拾った。
その音は、僕が待ち望んでいた音なのだろうか。
今はもう、それさえも、僕の心を輝かせるものだった。
確証も、なにもない。
ただ僕は追い続けただけなのだ。
大好きだった、歌を。
誰にも聞いてもらうことが出来なかった、少女の歌を。
……その音は、少女が居なくなった後に、この場所にずっと在り続けた、大きな穴の中から聞こえてくるようだった。
空洞によって反響するような音ではなく、穴から直接僕の耳に聞こえてくるような。
まるで、耳元で囁かれるような、そんな音だ。
僕は、地面にうつ伏せになって、穴に耳を寄せた。
……聞こえてくる音は、少女の歌にしか思えなかった。
何度も、何度も、聞いた歌だ。
間違えるはずが無いと思った。
僕は少女が歌を歌い続けるのをその場所で聞き続けた。
ずっとずっと待ち望んでいた少女の歌だった。
目を閉じて、その微かな音でさえも、ずっと、永遠に聞いていたいと思った。
けれどやがて少女が歌うことをやめると、僕は目をあけて、眼下に広がる穴に向かって、声をかけようとした。
……おかしい。
僕は、少女の名前さえも知らない。
僕は、少女の歌しか知らない。
僕なんかが、少女を助けようなんて、そんな事を思ってもいいのだろうか。
不意に逃げ出したいという衝動が僕を襲った。
けれど、それでも、僕は穴に向かって声をあげた。
「なぁ、ここからは見えないけれど、誰かが居るなら、聞こえているなら、返事をしてくれないか!」
僕の言葉は、ちぐはぐで、心臓はとてもうるさくて、震えていた。
それが恐怖なのか、期待なのか、それとも恋かなにかなのか、もはやわからなかった。
穴の中からは、意外なほど早く、返事が帰ってきた。
いつか聞いた、少女の喋り声だった。
「お兄さん、無事だったんだね」
無事? 無事とは、どういうことなのだろう。
この場所で、何かが起きたのだろうか。
おかしなところなんて、この道の真ん中に大きくあいた、穴だけだというのに。
「そっか、お兄さん、まだ気づいてないんだね。ふふっ」
笑っていた。
少女の姿や顔を見ることは叶わないけれど、その声は笑っているようだった。
この大穴の下で、僕に向かって、笑っていた。
それが、僕は何故かとても、とても、嬉しかった。




