繋がりと温もり
私は一頻り桜の胸の中で泣いたことで、桜にやっと向き合うことが出来るようになっていた。
そう、私はまだ納得していない。
どうしてこんな場所に居て、家族にさえ会えないことだって。
ただ、理解の出来ないことを聞かされて、あまりにも理不尽で、泣き喚いてしまっただけなのだ。
「もう、よろしいのですか? お嬢様」
「……うん、それよりも私に聞かせようとしていたこと、あれで終わりってわけじゃないんでしょう?」
「はい、むしろ本題はここからなのです」
私は、知らなければならないんだ。
何も知らないまま、この場所でただ悪夢に魘されて、起きている間は退屈な時間が過ぎ行くだけなのは、もう終わり。
私は、私のことを知って、私自身で外の世界へ行くんだ。
その時は、桜も一緒ならいいなって、そう思う。
桜は、私がそんな小さな野望を思い浮かべていたことも知らずに、私に話をする。
「簡単に説明するのなら、お嬢様の夢は少なからず現実にも影響を与えてしまうようなのです」
「……私の、夢が?」
「夢の内容がそのまま反映される訳ではないとしても、お嬢様の夢が現実に影響を与えるということは事実のようで、過去にお嬢様がご両親にお話された夢の内容と酷似した事例が現実に何件か確認されている、ということらしいです」
妙に現実感のある夢の中で起きる、非現実的な出来事。
もしも、それらが現実に起きる、あるいは起きているのだとするのなら――。
それは、とても恐ろしいことだ。
「そして、お嬢様のご両親から話を聞いたことで、一つ、重要な情報を手に入れることが出来たのです」
「重要な情報……」
桜は、私がまた弱気になりかけているタイミングで、少しでも明るく振る舞おうとしながら、話を続ける。
私は、そんな彼女と向き合いながら、彼女の声に耳を傾ける。
「恐らく、お嬢様は限定的ではありますが、夢の内容に干渉する事が可能だと思うのです」
「それって、私の見る夢の内容を、変えられるってこと?」
「単純に説明するのなら、そういうことになります。ですが、恐らくそう簡単なことではないと思います」
「どういうこと?」
「あくまでもお嬢様が見ているのは夢だということです」
「……もう少し、わかりやすく説明をお願い」
「そうですね、夢というものの内容を自身で変えようと思って自由に変えられるかというと、そうではない時のほうが多いのです。あくまでも気まぐれに、結末を迎えることさえ無いことも多くあります。
そんな夢が現実に影響を与える、つまり、何が起こるのか、お嬢様が夢を見るまで分からないのです」
桜の説明は、私には少し、難しいように感じた。
けれど、桜は私に分かりやすいように、一生懸命に伝えようとしてくれている。
私は、そんな桜の姿がなんだかおかしくて、どこか微笑ましくも感じてしまって。
なにより、私のことを思っていてくれていることが伝わってくるのが嬉しくて。
私の顔には、笑みがこぼれていた。
「桜は、どこまでも、いつでも、優しいんだね。どうして?」
突然の私の問いかけに、桜はきょとんとこちらを見た。
けれど、すぐに笑って。
「……お嬢様、勝手ではありますが、私はお嬢様のことを、家族だと思っているのです。私の本当の家族はもう居ませんから。
こんなにも可愛らしい方が私の家族だったら、なんていつも思っています」
「そっか……そっかぁ」
私は、なんだか嬉しくて、嬉しくて、たまらなくなって。
一度は離れた、桜の胸の中に飛び込んで、温もりを感じた。
桜は少しだけ困ったような顔をしたけれど、すぐに諦めたのか、優しく微笑んで、私を包み込んでくれた。
それだけで、私はまだ、私のままで、頑張れるような気がした。
例えこの先、私の考えているよりもずっとずっと大変な未来が待っているとしても。