寂しさに愛を
「私は、お嬢様が良くない夢を見ていると知ってから、仕事の合間を縫って、解決方法を調べていました。
けれど、図書室にある資料だけでは、限界があったんです」
「……それって、あんなに一杯本があるのに、それでも見つからないほど、私の夢は悪いっていうこと?」
「……はい。正直、ご両親がお嬢様をこんな場所に軟禁状態にしているのも、納得出来るほどに」
「そう、なんだ」
毎日のように私の意志とは関係なく見せられる夢。
その夢にどんな意味があるかなんて分からない。
それでも、こんなつまらない日常の中で、私の為にと行動してくれている人が傍に居たことが、何よりも嬉しく思った。
「けれど今日、この場所に来てから初めて、お嬢様のご両親と連絡を取ることが出来ました」
「嘘……どうして私を呼んでくれなかったの?」
「本当です。私もお嬢様をお呼びしようと思ったのですが、どうしてもと断られてしまいました。本当は、このことを伝えることさえも、断っていらしたのですが、内容が内容だけに、伝えないわけにもいかないのです」
私は、桜の言葉が半分以上、耳に入ってきていなかった。
私の両親が、私と話すことを拒否したということが、なによりも心に刺さる出来事だったからだ。
ここに来てから、暫くの時が経って、それでもまた、いつもの日常が戻ってくることを私は信じてやまなかったのだから。
「私のこと、嫌いだから、私と話してくれないのかな……」
「そんなことはありません、現にご両親はこう仰っていました。『もしも未だに夢に魘される日々をあの子が送っているのなら、それはあの子自身が倒さなければならない現実であり、世界だ。そしてあの子の先祖達が最後まで成し遂げる事が出来なかったことをやり遂げた時、私達はあの子をまた、受け入れよう。私達は、今でも信じている、私達の子が、使命をやり遂げ、私達の元へ帰ってくることを』と」
冗談か何かを伝えられているようにしか思えなかった。
もしも本気で言っているというのなら、あまりにも現実味の無い言葉から、私の両親は狂ってしまったのではないのかとさえ思った。
今まで信じてやまなかった両親が、どこか遠くに遠ざかっていくような気がした。
「わけ、わかんないよ。何? 世界って、先祖って、私はそんな事が聞きたいんじゃないのに、ただ、幸せに毎日を、家族みんなでいたいだけなのに!」
「お嬢様……」
どうしてか、私の頬には、涙が伝っていた。
また、会いたいと。ただそれだけで良かったのに。
優しく、語りかけてくれるだけでも、満足出来たかもしれない。
まだ幼い私には、難しい言葉の意味も、そこから伝えたい感情も、理解出来なかった。
ここへ来てから抑え込んでいた感情を吐き出すように、桜の胸の中で私は泣いていた。
桜はそんな私を、泣き止むまでただ優しく、抱きしめてくれていた。