第零話『こんなにも月は綺麗なのに』
私は、眠りにつくと必ずと言ってもいいほどに、夢を見る。
その夢はとても現実味を帯びていて、とても恐ろしかった。
だから私は夜、部屋で一人になると、窓から見える月を眺める。
本当は外に出て、夜の冷たい空気を感じながら夜空を眺めたりもしたいけれど、それは許されない。
私自身は元気で、むしろ目一杯外を感じてみたいと思っているのだけれど、一度も許された事は無い。
私のことを普段からお世話してくれている人達に、理由を聞いてみても誰も何も答えてはくれなかった。
いつも私が話しかけると嫌そうな顔をしてくるけれど、その時はどうしても気になって勇気を出して話しかけたんだけどなぁ。
私の世話をしてくれている人は合わせて三人いる、全員女性だ。
二人は明らかに私に対して嫌悪感を持っているように見えるけれど、一人だけ、他の二人が居ない場所では私に優しくしてくれる。
何故、私に優しくしてくれるのか、聞いてみても彼女は何も教えてくれなかったけれど、この毎日代わり映えのしない場所で少しでもまともでいられるのはきっと、彼女のおかげだと、私は思う。
もちろん、他の二人だって、直接私に危害を加えるような事はしてこない。
そんな事をすればすぐにでもこの場所から居なくなっているだろうから。
……考え事をしていると、いつの間にか月には雲がかかってしまっていた。
どうやら今日はここまでらしい。
本当はもう少し、この場所から月を見て、出来ることなら夢を見ることなく、次の日を迎えたかった。
私の見る夢はいつも、最後には悪い結末を迎えてしまうから。
けれど、唯一私が夜の間、一人で楽しめる時間は、終わってしまった。
だからきっと、私は今日も夢を見る。
救いなんてない、皆が、不幸になっていく、そんな夢を。
無駄に豪華に飾られたベッドに横になり、私は何も答えてくれる事のない天井に向かって。
「おやすみなさい」
そう呟いた。