表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

昨日見た夢

作者: うみうし

夢の中で、私は本屋を営んでいた。

そこではいつの時代からあるのか

わからないような本から、

こんな言語がこの世界に存在するのか

というような文字で綴られた本など、

溢れそうなほどの本が売られていた。

私は、一人で本屋を営んでいたのではない。

髭を生やした不精な男。

ショートカットの世話好きな女。

そして空を飛び、会話をする、紅い目のウサギ。

その2人と1羽とで働いていた。

あくまで夢なので、曖昧なのだが、

その夢の中では様々なことが起きた。

毎日、毎日、何かしら問題が起きた。

その度に私たちは本の力を使って

それらを解決した。

街の人々は、私たちに感謝し、慕っていた。

夢としては、本当に平和だった。

夜になるまでは…。


夜になると、closedの看板を下げ、男と女は

その日に売れた本を調べ、本棚に空いた隙間に

新しい本を入れた。

私とウサギは4階の私の部屋へ行き、

(ウサギは私の部屋で寝起きしていた。)

事務のようなことをしていた。

私は、自分の部屋に入り、机の前に座った。

そうすると、いつも、必ず辛くなる。

何故かはわからない。 先ほども書いたように、

あくまで夢なので、わからないこともある。

とにかく、理由はどうあれ、

私は自分の部屋の椅子に座ると辛くなるのだ。

辛くなって、そして、ああ、死ぬしかないな

と、何故か思ってしまう。

毎日、必ずだ。

ウサギは私の顔を覗き見て、

「大丈夫?」と尋ねる。

大丈夫なんかじゃない。そんなことは

ウサギもわかっているはずだった。

ウサギは私のことを本気で心配していない。

形だけ心配するフリをして、

あとは知らん顔だ。ウサギはそういう奴だった。

私はウサギを横目で見て、

軽い憎しみの目で睨む。

するとウサギは、真顔になり、

まるで「死ぬなら死ねよ。」とでも

言いたげに窓を見る。

私の部屋には窓があった。

開けようとする度に軋む古い窓。

死にたくないのに、死ぬしかないと

考えてしまう私は、窓に近づき、

窓が鳴くのを聞きながら下を見る。

黒い地面。息を吸って、身を乗り出す。

そして、そして、そして。

息を吐いて足を蹴り、手を離す。

目は瞑らなかった。

じっと自分がぶつかるであろう黒い地面を

ただひたすら見つめていた。

やがて、ゴッという鈍い音と共に

ぐしゃりという自分の頭が砕ける音を聞きながら

意識が遠ざかっていった。


目が覚めると傷は何もなく、

自分が落ちたはずのところに立っていた。

ため息をつく。

何が起きたかはわからないけれど

確かなことは私は死ねなかったのだ。

私は自分の服の砂埃を払い、

closedの看板が下げられた扉を開けた。

そこではまだ、男と女が仕事をしていた。

2人は驚いたようにこちらを見て、

しばらくの間沈黙が続いた。

「あれ?さっき自分の部屋に行かなかった?」

沈黙を破ったのは女だった。

私は必死に言い訳を考え、

「ああ、散歩に行ってたんだ。星が見たかった。」

と女の方を見ずに言った。

声がうわずった。自分はこんな声だったろうかと

不思議な気持ちになった。

その間男はこちらをずっと見ていたが

やがて、作業をしていた手元に目を移し、

「今夜は星が綺麗だったろう。雲一つ無い。」

と呟いた。

私が彼に答えようとしたとき

奥からウサギが出てきた。

「急に散歩に行くなんて言うから驚いたよ。

君がいない間に仕事は全部終わらせちゃった。」

と呆れたように言った。

先ほどのことを思い出し、

一瞬ウサギを思い切り殴ってやりたかったが、

そんなことが出来るわけがない。

私は、男と女からは一応信頼されているし、

ウサギも大事な仕事仲間であり、

家族のような扱いを受けていた。

「ごめんね。どうしても星が見たくて。」

私は困ったように答えた。

女は私に近づくと私の頬に手を当て、

優しく撫でてから言った。

「なんだか疲れてる?仕事終わったんなら

早く寝なさいな。私たちもそろそろ寝るから。」

男も、髭をさすりながらこちらを見て、

「さっさと寝ちまいな。疲れは早いうちに

取ったほうがいい。あんたは頑張りすぎだ。」

と、ぶっきらぼうに言った。

ああ、男と女は、何故こんなにも優しいのか。

涙が出そうになるのを懸命に堪えて私は言う。

「うん。わかった。もう寝るよ。おやすみ。」

にっこりと、自分が出来る限りの笑みを浮かべて。

階段の横で、ウサギと目が合った。

これで何回目だ。何度同じことを繰り返す。

もう、いい加減覚めろよ。

そんな冷たい目で私を見た。

そうだ。ウサギはそういう奴だったっけ。

私はウサギを無視して自分の部屋へ戻って行った。


自分の部屋の、自分のベッド。

すっぽりと頭まで潜り込み、考える。

ウサギの目は言っていた。

これで何回目だ。何度同じことを繰り返す。と。

そう。私は同じ夢の中で、

同じことを繰り返していた。

毎日何かしら問題が起きて、

それを私たちが解決して、

1日の終わりに必ず死にたくなって、

ウサギの形だけの心配を受け、

窓を開け、黒を見つめ、落ち、砕け、

目が覚めればピンピンしている。

男と女に早く寝ろと言われ、

ウサギの冷たい目を見て、

ベッドに入り、そしてまた、

これで何回目だろうかと考える。

夢から覚めてしまいたい。心からそう思った。

ベッドから出て、窓を開けた。

身を乗り出して下を見ると、

2階の窓で少女が宙吊りになっていた。

こちらをじっと見つめていた。

不思議と怖さは感じなかった。

しかし、少女の目が急に真っ黒になった。

そして、ヒヒヒッと笑った。

その瞬間、恐怖を感じたが

どうせ死ぬのだから怖くてもなんでもいい。

何故かそう思った。

私はまた手を離し、足を蹴り、目を開けたまま

地面へと吸い込まれていった。

頭が砕ける音がいつもより、大きく聞こえた。

ゴッ。ぐしゃり。





次に目が覚めたとき、

私は本当に夢から覚め、

現実世界に戻っていた。朝だった。

妙な夢を見たと思ったけれど、

誰かにこの夢の話をしたくなった。

とにかく、文字にしてみようと思い、

文字に起こしてみたのだが、随分とわかりずらい。

誰かに読んでもらえたら幸いだが、

読まれたところで何も変わらない。

そう思う。


私は、寝るのが怖い。

またこの夢を見そうで怖い。

ウサギの冷たい目は私の目に焼き付いた。

あの音は未だに私の耳元で鳴り続ける。

あの夢が私に手招きしているような感じがして

私は怖いのだ。

ああ、また、音が鳴る。

ゴッ。ぐしゃり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ