続・姫騎士の鎧
おや、もう夕方ですか。そろそろ今日は店じまいの時間ですね。おや、お客様が来たようです。こんな時間にお客様とは、多くはないですが、当店では珍しいですね。
そういえば、以前「あるばいと」とやらで雇ってくれ、と言ってきた自称異世界転生者には困ったモノでしたね。閉店予定時間を過ぎても働いてもらった時は、「残業代を出せ」だとか、「契約時間外に無給で働かせるなど、ブラック企業か」とか、やたらと難癖をつけてきたものでした。試用期間のうちにクビにしましたがね。
おっと、昔の事を思い出してもロクな事がないですな。
さて、お客様に対応をするとしますかね。
おや、先週当店で防具の一式を購入された騎士様ではないですか。ああ、今日は非番でしたか。という事は、今日は冒険者稼業をなされたのですかな、フランツ様と一緒に。
どうなされました、そんな嫌そうな顔をなさって。せっかくの美人が台無しになってしまいますよ。ほら、眉間に皺を寄せるのはおやめください。
しかし、こんな時間にわざわざ一人でやって来たという事は、何かあったのですな。フランツ様の姿は……、ないようですな。
ん、話を聞いて欲しい、ですか? 構いませんよ。ええ、もうすぐ閉店時間ですが、多少ずれるくらいはどうという事はありません。何せわざわざこんな時間に訪ねてくださったのです。あまり話自体はよろしくなさそうですが、話を聞くくらいなら、いくらでもお付き合いしましょう。
おや、ほっとなされたようですな。貴女ほどの美人であれば、やはり怒っているより、笑っている方がだんぜん魅力的です。え? いやいや、口説いているワケではありません。何せ、私は帝都でも一、二を争う恐妻家ですからな。愛妻家の間違いではないか、ですと? 「帝都でも一、二を争う程の愛妻家です」と、本当は私も言いたいのですがね、私と妻を知る人間は誰もが口をそろえて、「恐妻家だろう」と言うのですよ。私は自分の事を愛妻家だと自信を持って言う事はもう、出来ませんな。
いやはや、そんな事はどうでもいいのです。今日の話ですな。
ほう、冒険者初日であるにも関わらず、上級者向けのダンジョンへ連れて行かれた、と。いったい何の目的があってあの屑は貴女を上級者向けのダンジョンに連れて行ったのでしょうな? あの屑は帝国騎士であるにも関わらず、初心者向けダンジョンをようやくクリアー出来るかどうか程度の実力しかありません。今まで冒険者として生き延びてこれたのも、ただ単にあの屑の親が有力貴族であるからです。陰ながらあの屑をサポートしてくれていた人がいるのですよ。
そんな人はいなかった……? ふむ、冒険者ギルドも諦めたのかもしれませんな。貴女が一緒だという事もあり、遠慮をしたのかもしれません。きっと、あのゴミはデート気分で出かけたのでしょうからな。
自分のような武骨者をデートに誘う人間がいるとは思えない……? いやはや、何をご冗談を。私もあと二、三十歳若ければ、貴女をデートに誘いますよ。貴女ほどの美人とお付き合い出来れば、私は天にも昇る気持ちになれるでしょうな。おや、どうなさいました、顔を赤くされて。何でもない……、そうでございますか。おっと、これはここだけの話ですよ。妻以外の、しかも若くて美しい女性にこんな事を言っているのがバレたら私はどうなる事か。
話を切り替えましょうか。
お二人だけで上級者向けのダンジョンに行かれた、と。ほほう、地下十階までは何とか進む事が出来た、と。貴女の実力を考えれば地下十階くらいまでは何とかなるでしょう。あのダンジョンは地下百階以上あるという話ですが、誰もそこまで辿り着いた事はないそうです。まあ、そんな事は今はどうでもいいでしょうな。
地下十一階で、ゴミがモンスターの攻撃に倒れた、と。どんなモンスターでしたかな? ハイ・オークとオークメイジでしたか。よかったですな、「姫騎士の鎧」など買わずに。「姫騎士の鎧」を装備していたら身動きできないだけでなく、「クッ、殺せ!!」とか言っているところでしたよ。……、死を覚悟したゴミがそのセリフを言ったのですか? 色気もクソもありませんな。
で、そのオーク達はどうなさったのですかな……? 何とか倒した、と。ただ、倒すのに手こずってしまい、ゴミは首から下がなくなってしまった……、そうですか。ま、仕方ないですな。自分の実力を勘違いしたヤツが悪いのです。貴女が気にやむ事はありませんよ。
……私が優しい、ですと? 美人には優しくする、これが防具屋の鉄則です。おっと、妻には内緒ですよ?
で、首から上だけを持って、命からがら帰還された、と。ご家族の所まで首を持って行ったのですか……。ご家族は何と?
「自分の実力を見極めずに上級者向けのダンジョンに潜ったのだ、仕方のない結果だ」と言ってくださったのですか……。傲慢な有力貴族なだけではなかったのですな。それどころか、わざわざ謝罪に来てくださった貴女に感謝して、宝石などくださった、ですと……?
うーむ、悪い噂しか聞いていませんでしたが、ゴミと違ってしっかりとした方々だったのかもしれませんな。
しかし、わざわざそれを私に知らせに来る必要がありましたかな……?
ヤツの悪い噂を教えてくれた事へのお礼、ですか? 違う、と?
おや、いったい先ほどから何をチラチラ見られているのですかな……? ほう、あの「姫騎士の鎧」が気になっていたのですか。アレはモノがモノだけに簡単に売れませんからな。観賞用に買うには、なかなかの値段がしますし。値段? 以前言わなかったですかな? いわくつきで安くなっているとは言え、現代ではもう発掘されなくなった鉱石やらが使われていますからな、値は張りますよ。全部合わせて百五十万Gはします。高い、でございますかな? あれでもいわくつき故、安くなっています。いわくつきでなかったら三百万Gはしますよ。
どうされたのですかな、ホッとした顔をなさって。宝石を換金して、四百万Gある、と。つまり、この「姫騎士の鎧」を買いたい、と。
観賞用に買うのなら、全然構いませんが。分かりました、それならばお売りしましょう。ですが、いいですね? これを装備して冒険者稼業など、しないと約束してくださいよ? 貴女のような美人を失うなど、帝国騎士団にとっても、この帝都の住民にとっても大きな損失でございますからな。
お持ち帰りしますかな……? 配達も承っておりますよ。配達で。分かりました。配達先をこちらの紙に。何時頃お持ちしましょうかな? 明後日の騎士団の昼休みの間で。分かりました。そのように致しましょう。
では、気を付けてお帰りください。夜の女性の一人歩きは危険ですよ。
ふう、今日はこれで店じまいだな。奥の住居に引っ込むとするか。
さて、今日の晩飯は何だろうか? 用意してくれているといいのだが……。
ああ、母さん、わざわざ待っていてくれたのか、先に食べていてもよかったのに……。
え、さっきまで楽しそうに話をしていた女性は誰かって? お客様に決まっているだろう、帝国騎士団の方だよ。え、帝国騎士団にあんな美人がいる筈ないだろう? 本人はそう言っているんだ。嘘を言っているようには見えなかったよ。
いやいや、待ってくれ、鼻の下など伸ばしていないよ。え、正座をしろ? この年になって正座はキツイんだが……、分かったよ、正座をするよ。
いやいや、口説いてなどいない。え? 口説いていないのなら、あんな美人があんなに顔を赤くする筈がない……? 口説いてなどいないよ。私は何と言ってもお前一筋なんだから。信用できない? 信用してくれよ。え、朝まで正座? 勘弁してくれないかね……?
おい、何処へ行くんだ? 晩飯は? 抜き?
娘に近付くゴミがいなくなったと思って安心したのがいけなかったのか……。
一難去ってまた一難、少し違うかもしれないが、偽らざる今の私の心境だ。
早く夜が明けないかな……。足が、足が……………………。
つい、ネタが思い浮かんだので……。




