ダウトワード
エイプリルフール。
友人同士でたわいない嘘を繰り返し付き、お互いを小馬鹿にすることで互いの馬鹿さ加減を笑い合うみっともない行事。
「それ大分偏見混じってるが大丈夫か」
「大丈夫だ。問題無い」
「それ大丈夫じゃない時に使う言葉だぞ」
はぁ、と溜め息をつくぐらいなら私なんかと喋らなきゃいいのに。
「声に出てるぞ」
「え、マジで」
「というか、ここ俺の家」
「ふむ。……で?」
「で? じゃねえ! 「私なんかと喋らなきゃいいのに」なんて言うぐらいなら帰れ!」
「ひ、酷い! いたいけな女子高生を捕まえて!」
「お前の思考は女子高生と言うより男子高生だよ!」
「うぐっ」
全く否定出来ない。
昔から髪も短い方が楽でサッパリしてていいと理由で短いまんまだし、オシャレとか最近の流行とかわかんないし、漫画とか読んでてても「あ、この女の子可愛い」とか思って好きになるキャラは圧倒的女子率を記録してるし。
「でも! だったら少しくらい察しろ! 女子の輪の中に入れず男子の輪の中にも入れず、そんな中私が唯一無遠慮に押しかけれるのはお前しかいないんだ!」
「じゃあお前も、俺はお前のせいで男子からはぶられてる事を察してくれ!」
「ざまぁ」
「出ていけー!!!」
「だが断る! お前の母さんからすでに許可はもらっている!」
「なんの!?」
「え? 泊り込み」
「え? マジで?」
「嘘に決まってんじゃん」
メリィ……、と私の頭蓋が悲鳴をあげる。
「いだだだだだ!!! ごめんなさいマジでごめんなさい自分調子乗ってましたー!!!」
「わかればいい」
うぅ……頭が痛い。
「というか、何で私が原因ではぶられてるのさ。今時の男子だったら女子との交友関係の一つや二つ持ってて不思議でも無いだろうに」
「よっしゃ鏡見て来い」
こいつの家の構造は把握しているため、立ち上がりこいつの部屋を出たあと洗面台にある鏡を見て、部屋に戻ってくる。
「どうだった」
「いつも通りの私が写っていた」
「理由はわかったか?」
「何一つわからん」
「…………」
こいつはわざちらしくこめかみを抑え、「ダメだこいつ。早く何とかしないと」という意思を全身から溢れ出させる。失礼な。まるで私が悪いみたいに。
……あ。
「もしかしてあれだろ。お前今女子と一緒に居てドキドキしてるだろ」
「はぁ? お前でドキドキするわけねえだろ」
「釣れないの〜」
そして何で今度は睨むかね。「気付け!」みたいな強い意思を感じるけど。いや、ちゃんと言葉で現そうぜ?
「……エイプリルフールっていいよな」
「何を唐突に」
「いんや。ほら、ツンデレの独壇場っていうかさ。言ったこと全部あべこべにすればそいつの本音はすぐにわかるし」
「そうだねー。漫画とかでツンデレちゃん見てると見てるこっちが悶えて……何であんたが恥ずかしがってんの?」
「いや、自分で何を言ってるんだと思ってな」
「あっそ」
変な奴だなー。
鏡見て来いって言ったり、ドキドキしてるわけでも無いらしいし、今度は急にツンデレの話なるし。
……うむ。ここはアドバイスしてやるか。しょうがないなー。
「なあ」
「……んだよ」
「考えは纏めてから喋った方がいいよ。聞き手がわかるように」
「何でこうも見当違いの方向に勘違い出来るんだろうなお前は!」
わけがわからない。
誰かほんやくこん◯ゃくください。
「なにこいつめんどくさい! というか何でうちなの!?」
「愚問だな。お前しか友達いない。あ、これマジな」
「え? お前リアルぼっち?」
「うん。リアルぼっち。なんか私が話しかけようとすると男子は急に沸いて離れてくし、女子はなんか遠慮気味に距離とるし、ホント何なんだろうね」
泣きたくなってくるぜ。
ついでに小学校の時は露骨に男女問わず虐められ、中学校は現状と似たような状況だ。さらに言うなら露骨に嫌がらせする女子もいる。
「何で私がラブコメのヒロインみたいな人生を送らなあかんのですか……。絶対間違えてるよラブコメの神様」
「……合ってると思うぞ」
「なんか言ったー?」
「何もー」
全く、私が何をやったんだ。
「……どう伝えたもんか」
「何を」
「待て。今考えてる」
「じゃあ私はエロ本探すか」
「おいやめろ」
「あ、あった」
「何で簡単に見つけられんだよ!?」
こいつはエロ本を大量に積まれた教科書やらワーク、ファイル類の中に歴史物の表紙を装備させた状態でエロ本を隠していた。
「嫌だって、ここって使わなくなった学校のもの片付けるの面倒だから積んでる場所でしょ? そんな今時の学校の教科書には表紙なんかなかなか着いてないし、そん中から唯一表紙が着いてるものがあったら怪しいと思うのが人の性ってもんよ。どうせあんたも表紙で見つけて引っ張り出してんでしょ」
「一瞬で見抜き過ぎだろ!」
「うっわー、エロ本かと思ったら同人誌だ。これ、あんたがこの前私に可愛い可愛いって言ってたキャラじゃない。……洗脳ものか。なに? あんた洗脳して可愛い女の子が凄く泣きそうになりながらも抵抗出来ない様を見るのが好きなの?」
「なに冷静に分析してんの!?」
「私はもっとハードなのがいいわ」
「テメエの趣味趣向なぞ知るかーーーーーー!!!」
ぜぇ、ぜぇ、と荒い息をするほどに披露の様子を見せる。
「もうなんなの!? 本気でお前は何しに来たの!?」
「……初めての友達だから」
「……は?」
「なんか今までの人生で深く関わった仲ってこれまで無いもの。あんたが初めてなのよ正真正銘。趣味も合うし、話してて面白いし。そんで春休み? 一日中ぐーたらぐーたら。飽きるっつーの! だから友達と遊ぼうって思っても……あんたしかいなかったのよ」
情けない話ではあるんだけどね。
学校じゃずーっと口結んで、無言で、無表情で、誰かと話そうとしても相手から離れる。「次の時間何だっけー?」みたいな簡単な会話も、私が振るとちぐはぐな返しばかり。
笑ってテンション上がって素が出せる相手、友達の存在は私にはいなかった。唯一、目の前のこいつを除いて。
「だからこうして遊びに来たの! 悪い!?」
「……お前はバカっつーか何つーか」
「何だとー!?」
こいつ……私の真面目な答えを!
許さん!
「ほら一回廊下出ろ」
「うわー! 何をするだー!」
「うっさい。いいから出ろ」
反撃する前に締め出された。泣きそう。
「扉越しに話すから座れ」
「意味あんの? それ」
「いいから」
「……? わかった」
急に締め出されたと思ったらドア越しの会話。
何だろう。
「今から俺の知るお前の全てを語ってやろう」
「むー、何よ私の全てって」
何かと思えば……。
勿体ぶってないでさっさと言えよ。
「お前はクラスじゃ嫌われ者」
ぐさっと刺さるものがあるが、その程度で砕ける私のメンタルではない。薄々そう思ってたし。
「男子からは笑われ者で女子からは気持ち悪がられてる。俺がはぶられてる理由もお前の不評のせい」
最後のは少しきた。
私の身勝手のせいで友達を孤立させている。その事実は痛い。
「そして__俺はお前が迷惑」
そして、予感してたとは言え、その一言は私の心の大ダメージを与え
「というのは嘘」
る前に、なんか変な流れになる。
「……え?」
「今言ったのも全部嘘だ。どうだ騙されたか」
「え? 何言って」
「まさかこの程度の嘘もわからんとはな」
「いや、それ嘘でしょ。気遣わなくていいから」
「いやいや、ダウトの使用制限は一回のみ。正真正銘嘘だ」
「ごめんなに言ってるかわからない」
脳内がぷすぷすと煙をあげる。
「つまり、だ。お前はクラスから好かれていて男子からはモテモテ、女子からはアイドル扱い……あー、一部お前に嫉妬して圧力かけてる奴もいるなそーいや」
「何それ暗号?」
「失礼な。最近習得した落として上げるモテ男テクニックだ」
自信満々に答えてきた。
だが、そいつが示した答えはあまりにも自分が思ってたのとは違って……。
「だって私こんなんだよ!?」
「知ってるか? 世間一般ではお前を残念美人と言うんだ」
「あんただって意識してないみたいなこと言ってたじゃん!」
あれはどうなんだ!
「あ、いやそれは……」
「うん?」
「…………」
「……やっぱ私に気を遣って」
「ち、ちげえよ! ……ああもう! あれは嘘なんだよ! 言わせんな恥ずかしい!」
「自然に取り入れてきたな」
「食いつくのそこ!?」
「じゃあ過去虐められたのは」
「好きな子は虐めたくなる男心&嫉妬」
な、なんだってー!!!
その発想は無かった!
「で、でも私の笑顔とか綾◯レイちゃんのエンジェルスマイルに比べたら天地だよ?」
「知ってるか? 最近の若者ってワンクールとかツークールとか今季とか来季とか言っても伝わらない奴が多いんだぜ? ノイタミナなんて単語すら知らないだろうし、その単語がアニメーションの英単語、animationを逆から読んだものだなんて気付きすらしないだろうな」
「えーと、急になに?」
「つまり、アニメ基準のお前の感覚はおかしいの。お前はその……世間一般からじゃかなり可愛いわけで、ついでに俺がはぶくらってる理由もそんな美少女とベタベタ関わっているからであって」
「…………」
聞けば聞くほどに恥ずかしくなってきた。
「ちょ、ちょっと! 急にそんなこと言われても……」
そこで、私はふとした疑問に行き着く。
「そういえば何で私を部屋から出したの?」
「っ!!!」
ドア越しに動揺が伺えた。
……あいつの部屋のドアには鍵がついていないはず。
「てい!」
全力で蹴る!
「のわ!」
「よし開いた!」
「おいこら! 入ってくんな!」
「出て欲しく場理由を言え理由を!」
そこで、ドアに背中をつけてたのかドアの裏に見つける。
……何故か両手で顔を隠していた。
「えーい! 大人しくお縄につかんかー!」
「おい! 無理矢理剥がすな! さっきまでの雰囲気どこ行った!」
「こ、こうしてないと恥ずかしい!」
「だからって暴れるな!」
「取ったりー!」
両手を力付くで剥がし、そのツラを拝む。
……その顔は、真っ赤だった。
「へ?」
「お、俺だって恥ずかしいんだよ! 異性に対してこういうこと言うの! 迷惑だとは実は思ってませんとか、美人とか美少女だとか!」
真っ赤になって叫んでくる。そして、そんな状態のこいつを見て、私も何故か急に恥ずかしくなって、ぼふん、と爆発したかのように顔に熱が帯びる。
「あああ、あんた何言って」
「お前が言わせたんだろ!」
「う、うぅ〜〜〜〜!」
「唸るな!」
「き、嫌いだーーーーーー!!!」
「何故!?」
私は恥ずかしさのあまり、気持ちとは裏腹にそんな事を叫んでそいつの家を飛び出した。
「あ〜う〜」
「もう、どうしたのよ」
家。
私は恥ずかしさのあまりクッションに顔を埋めて唸っていた。
「か、母さん」
「友達と何かあったの?」
「な、何も……」
ありました。超ありました。
愚痴って衝撃の真実知らされて蹴り入れて手を剥いでお互い真っ赤になって挙句私はよくもわからず唯一の友達に対し嫌いだと叫んで帰ってきました。
「失礼なことしたでしょ」
「う〜う〜」
「全く……。謝罪の一つでも入れなさい」
「恥かしい……」
あんなことやっておいて、こっちから何事も無かったかのように謝るのはちょっと抵抗がある。
「……あんたは、もう。よく聞きなさい」
「なに?」
「いい? 一度出来た溝はすぐに治さなきゃ広がってくわよ? そうなれば関係の修復は難しくなるわよ」
「わかってるけど〜!」
「唯一の友達なんでしょ?」
「う」
「初めての友達なんでしょ?」
「うぅ」
「失っていいの?」
「そ、それは困る!」
共通の趣味を持って、素の私で喋れて、一緒にいて楽しい理想の友達なのだ。
それだけは嫌だ。
「なら謝ってきなさい」
「うぅ〜」
でもどうしよう。
今更家に押しかけるにも……。
「しょうがないわね」
「え? 何かいい方法でも?」
「いい? 今日はね__エイプリルフールなのよ」
『こんばんは。えっと、夜分遅くにすみません。今日はその、嫌いだー! なんて言っちゃったけど、その、あれ嘘だから。
いつも私なんかと話してくれて、楽しいし、その、だから、どっちかっていうと好きな方だから。その、嫌いじゃないです、はい。』
『知ってた。あと俺も好きな方。』
その日、家の中で顔を真っ赤にしながら悶える女子と男子がいた。
後日談
「お、おはよ」
「……おう」
「えと……」
「…………」
「ま、また後で」
「……また後で」
(((((あの二人顔を赤らめながら会話してるけど春休み中に何があった!?)))))