第九話
「おまえの瞳は澄んだ河の色をしている。北方の血が混じっているのだな」
「わからない。自分の顔なんて、見たことないもの。ましてや、なんの血が流れているかだなんて・・・」
ガルーダは下を向いた。
「ガルーダ」
ナーガはガルーダの肩を抱いた。
そうであった。この子どもは親を知らぬ。どこの生まれなのかも知らぬ。ここに辿りついたのだとて、うすまらずに保たれていた「血」ゆえなのだ。
「やっぱり、おじさんは優しいね」
ガルーダはぱっと上を向き、笑った。
「ここは豊かだ。おまえの傷も、少しは癒えよう。他の地のように、この土地を荒れさせはしない。それが俺の義務だ」
ガルーダは、胸がいっぱいになるのを感じながら、ナーガの話しを聞いた。
「ナーガ様!」
配下のひとりが、大慌てで駆けてきた。
「大変でございますっ。何百という軍隊が、攻めてきております!」
ナーガは驚いた。ここを見つけ出すなど、不可能のはずだ。それほどまでに、ナーガの張った結界はつよい。
ナーガは急ぎ、城中へひき返した。
開かれた窓より展望すれば、眼下に広がるは阿鼻叫喚の地獄絵図!
「なんという・・・」
ナーガは呻いた。
見る間に髪が逆立ち、金光発する眼を見開き、紅の紋様が燃えあがる。
「これは、これは。お初にお目にかかります―――」
銀の鈴をころがすかのような、瑯瑯とした美声。
抵抗する蛇の民を蹴散らし、城内深くまで侵入してきた者―――。
「カーマにございます。以後、お見知りおきを」
「なんのまねだ」
「見てわかりませぬか?ほんの、ごあいさつでございますよ」
ナーガは手にもっていた剣を抜き、カーマに向けた。
「ふざけた奴。何のゆえあっての狼藉か」
「ゆえ、と申されましても。あると言えばある、ないと言えばないといった程度のもの」
カーマは依然として微笑みをたやさない。
「おじさんっ!」
ガルーダはナーガとカーマのあいだに割って入った。