第八話
「つらかろう。だが、生きねばなるまい。それがおまえの宿命ならば・・・な」
ガルーダは大きな目をさらに見開き、ナーガの顔を覗きこんだ。
「似たようなことを言った人が、まえにもいたよ」
「カーマか?」
「ちがう。そのお方はね、尊い教えを説いてまわる人なんだ。何百人ものお弟子さんがいる、すごい人なんだ」
ガルーダの眼は輝いていた。
その「お方」が生きる希望だとでもいうように―――。
ナーガはガルーダの話しのつづきをまった。
しかし、ガルーダはナーガの膝の上に身をまかせ、彼の肩に頬をあずけた姿のまま、安らかに寝入っていた。
月は、いよいよ高くなる。
いにしえの呪われた縁さえも、解かしてしまうほどの情というものがあるのではないかと、ナーガは静かに思った。
風にゆれる白蓮が、美しく池を彩る。
そのほのかな白さは、ナーガの心をおちつかせた。
子供たちは元気に駆けまわり、女たちは川辺で洗濯やおしゃべりに夢中になる。
いつもと変わらぬ朝であった。
「きれい。こんな花、はじめて見た」
ガルーダは無邪気に言った。
ナーガはほほえんだ。
縁とは不思議なものだ。この子どもこそ、一度は蛇族を滅ぼしかけた神鷲族の生きのこりだというのに。
憎むどころか、愛しさが増してくるとさえ感じる。
時とはこういうものなのかもしれぬ。
どんなにつよい憎悪も怨恨も、いつかは消えていってしまうのだ。
ましてや、何千何百年も昔に結ばれた因縁など、今を生きるナーガとガルーダには、まったく無いに等しい。