第六話
夜は涼しい。
昼とはちがい、ただ、ひっそりと大気の流れを感じるばかりだ。
この土地は他とくらべて緑が多い。そのため、風が吹いたとしてもほこりっぽくはならないのだ。
ガルーダは部屋の窓から、夜空を見ていた。
ナーガ―――
その名を思うと胸が痛い。
この想いはカーマを裏切ることと直結しているのだろうか。
彼は恩人だ。すべてにおいて。
「カーマ、好き・・・」
つぶやいたとき、あきらかに外気ではない風が流れこんできた。
ガルーダはふり向いた。
ナーガ・・・。
射し込む月明かりだけで、入ってきた人物がナーガだとわかった。
ガルーダは怪訝な顔をした。
「あ・・・」
ナーガは無言で近寄ると、ガルーダを抱きすくめ首筋に接吻した。
ガルーダは動転した。
その接吻が柔らかなものであったなら、昼間のこともあり、それなりの対応ができたかもしれない。
しかし、これは―――
彼はガルーダを荒々しい所作で寝台に押さえつけた。
「おじさんっ!」
ガルーダは叫んだ。
なぜ、なぜ。やはり魔性のちからにはあらがえぬのか。
「いやっ、いやっ!助けて・・・だれか、助けて!!」
敵地のどまん中で助けを呼んだとて、誰も来はしない。
しかし、平静さを失わないためにも、叫ばずにはいられなかった。
シャン、シャンと腕輪が音をたてる。
頭を動かすたびに、耳環が鳴る。
ナーガは装飾の類はなにひとつ身につけていない。すべて、ガルーダのものだ。
だが、ガルーダはそんな音など耳に入らなかった。
動転しきっていた。
ナーガはおそろしいほどに男であった。
押さえられた腕が痛い。
その痛さが、さらなる恐怖をあおった。
どうしたらよいのだ。
重い。
痛い。
助けて、助けて、助けて―――
ナーガはガルーダの動きを封じながら、不思議な感覚にとらわれていた。
無垢なのだ。
なぜ、こんなにも清い体をしているのだ。
腰から太腿にかけての美しいライン。
ナーガはガルーダの膝に手をかけ、押しひろげた。
「・・・おまえ―――!」
彼はガルーダを見やり、はっとなった。