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第五話

 しかし、彼の表情はどこか寂しげであった。

 宝珠を見なかったら、この人は苦しまずにすんだのかもしれない。

 そう思うと、ガルーダはいたたまれなくなった。

 この珠が、人の内にある欲望をかきたてるのではないかと、薄々感じている。

 すべてを狂わせてしまう、こんな珠など取ってしまいたい。

 しかし、取ることはできないのだ。けして―――。

「それにしても、おまえは美しいな。人の姿のおまえは美しい。それは否めぬ。名は―――?」

 ガルーダは反射的に体を震わせた。

 そう。

 今まで、珠を見た者は珠を欲すると同時に、ガルーダも欲した。

 ガルーダの無垢な身体をも、欲してきたのだ。

「ははは、そう怯えるな。俺はカーマのような趣味はない」

「・・・ガルーダだ」

 ガルーダはぶっきらぼうに言った。

「ガルーダ。よい名だ―――なあ、ガルーダよ。おまえは魔性の珠を有していようとも、けして狂わぬ。それは、その美しさと関係があるのやもしれぬな」

 ナーガは高い背丈をかがめ、ガルーダに視線をあわせた。

「俺には少年を愛でる嗜好はない。だが、たとえば、おまえを側におきたいという者がいるのなら、その者の気持ち、わからぬでもない」

 ナーガはガルーダの頬に触れた。

 ガルーダは顔が上気し、鼓動が速くなるのを感じた。

「大地以上に、おまえの熱い肌を賛美し、夜闇よりも涼しげなその髪を梳き、蒼き瞳にガンガーの流れを垣間見る。そして、どんな楽の音よりも美しく響く声を愛でるのだ。どれほどの金銀珠玉を持っていたとしても、その価値は皆無に等しくなろうな」

 ナーガは立ち上がり、部屋を出た。出ていきざま、

「その子どもの縛めを解け。傷の手当ても忘れるな。ゆっくり休ませてやれ」

 と、言い残した。

 配下の者たちは訝しがらずにはいられなかった。

 ガルーダは、頬に残る熱さと耳朶に響きつづける彼の声に、ただ戸惑うばかりであった。

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