第四話
ナーガはガルーダの細い頤をつかみ、仰のかせた。
「言え。だれのさしがねだ?ここは見てのとおりの拷問部屋。吐かせる方法はいくらでもある」
ガルーダは、ナーガの紅い縁取りのある目を直視した。
「カーマだ。カーマはアムリタが欲しいと言った。それをほんの少し、分けてもらいに来ただけだ。神鷲族や悪魔なんかじゃない!」
「われらの居場所を正確につきとめたことこそ、おまえに魔鳥の血が流れている証なのだ。そしてその、おぞましい姿。言い訳なぞできまい」
ナーガは乱暴にガルーダを放した。
「ふん、カーマか。聞いたことがないでもない。なかなかの切れ者らしいな・・・ところで」
ナーガはガルーダの胸に目をとめた。
「先ほどから気になっていたのだが、おまえの首からさげている―――それは如意宝珠ではないのか?」
ナーガの眼が不気味に光った。
「し、知らない・・・」
「いいや、それは如意宝珠だ。カーマめ、なぜこれを有していながら、アムリタなど欲しがるのか」
ナーガは宝珠に手を伸ばした。
弾かれるはずだ。ガルーダはそう思った。
しかし。
宝珠は触れられることを拒み、白い光りを発散させた。
ばちばちという音も室内に響きわたっている。
「!」
しかし、ナーガは宝珠に触れていた。
宝珠の張りめぐらす結界をもってしても、ナーガの手は弾けないというのか!
「ああ!天はわれらを憐れんでくださったのだ。宝珠の輝きのもと、われは再び地上を統べる王者となれる!」
宝珠の発する光りは、ナーガの顔をくっきりと浮きあがらせた。
ガルーダは目を逸らしかけた。
口は耳まで裂け赤い粘膜が露わになり、二股の舌がちろちろと見える。瞳は蛇のそれのように生気がなく、目の紅い縁取りはコブラの紋様そのもの!
だが―――
ナーガははっ、となり宝珠から手を放すと、ガルーダから離れ立ち上がった。
「ふっ・・・愚かな。過ちは一度でよいものを・・・」
そう言った彼の顔は、もとの精悍な顔立ちにもどっていた。