第三話
「う・・・」
目を開けると、そこは冷えた石の部屋であった。
明かりは天井に穿たれた小さな窓からしか、射し込んでこない。
体を動かそうとして、ガルーダは両手を鎖に繋がれていることに気づいた。
「目が覚めたようだな」
声をかけられ、ガルーダはそちらを向いた。
三人の男が、入り口のところに立っている。皆、いやに細い目とひょろ長い体躯をしている。
ガルーダは身震いした。
蛇族には、こんな陰気な顔をした者がうじゃうじゃいると思うと、ガルーダはあらためて独りぼっちだということを実感し、泣きたくなった。
「さっきはよくも、やってくれたな。見ろ。オレの顔をこんなにしやがって」
そう言う男の顔には、無残にも五本の爪痕がついている。もっとも、傷のあるなしに関係なく、見映えのよい顔ではないのだが。
「くそっ。なんだ、そのツラは。べそなんかかきやがって。さあ、どこに傷をつけてほしい?」
短剣をつきつけられ、ガルーダは本当に涙をこぼした。
「子ども相手に大人気ないとは思わないか、カーリヤよ」
重みのある声であった。
三人のうしろから、数人の配下をつれ現れた男は、ひと目で、一族の長なのだとわかった。
威厳がある。
なにより、日に焼けた肌におおわれた隆々とした筋肉。すらりと伸びた背。精気あふれる両眼。
その男の風格が、ただ者ではないと告げている。
「ナーガ様・・・」
三人の男は畏れおののき、うしろにさがった。
ナーガはガルーダを見つめた。
ガルーダは、ある衝動を必死に抑えていた。
―――変身してしまう。
今ガルーダの体は、いつもの人間の姿であった。だが、肩のあたりが熱い。そこから、ざわざわと羽毛が広がりつつある。
ナーガはガルーダの肩にすっと触れた。
ガルーダはあっ、と叫ぶと体を前に曲げようとした。
しかし、頭上で腕をひとまとめにされ鎖を巻かれているため、首を垂れることしかできなかった。
「おお」
数人が驚きの呻きをあげた。
ガルーダは変身した。
黒い翼と鋭い爪をもつ、半人半鳥の姿に―――。
「見よ。これがわれらをかくのごとき身の上に落としめた怪鳥の姿だ。われらの安穏な日々を、再び奪いにきた悪魔の姿だ」
ガルーダは荒い息をついた。
変身するのはこれで三度目だ。一度目は、もっと幼かったとき。二度目は先ほど、そして今。
慣れない負担に体は悲鳴をあげている。背中がずきずきと痛んだ。