第十八話
「愚かなやつだ。もうすこし賢い振る舞いをしていれば、おまえの望むものをくれてやったのに」
ガルーダはごぶりと血を吐いた。
しかし、あいかわらずその顔には笑みがある。
「ぼくの望むものがなんなのか、わかるというの、カーマ?宝珠なんてはなからいらない。天下も権力も、富や不死も!ぼくの願いはただひとつ。一生おじさんのそばにいることだ!」
ガルーダは目を見開いた。
射ぬくような鋭い紅の光りが、あふれだした。
「・・・っ!」
カーマはおのれの手のなかの、宝珠を見た。
紅い!
ガルーダの眼と同じ真紅の輝きを、この宝珠ははなっていた。
「あっ」
宝珠が、爆ぜた。
いや。
宝珠の鎖が、装飾が、砕けちったのだ。
あまりのまばゆさに、カーマは目をおさえた。
広場は、紅から白へとかわった。
白光が、ガルーダをつつんだ。
黒く長い髪をなびかせ、瞳は空と河の色を宿し―――
背には金に輝く広大な両翼!
「聞け、皆の者!われは釈尊の天部、八部衆が一、迦楼羅。尊者シッダールタ様の御名のもとに、汝等を救わん!」
民衆から歓声があがった。
この苦しき憂き世。人は気づかずにはいられないのだ。
無常―――
生きるつらさ。老いる恐怖。病への不浄感。そして、死という終焉のむなしさ。
万人に課せられた理法。
そこには血による差別も、支配もない。
なぜ、われらはわからぬのか。わかろうとしないのか。
カーマ。あなたをみていると、心が苦しい。
愛する。愛するよ。そんなあなたを、われは愛している。