第十四話
雲がおそろしいはやさで空を横ぎっていく。
どんよりとしたそれは、暗く重い。
もうじき降りだそうかというのに、広場には人だかりができていた。
ナーガ―――悪しき蛇の長が、ここで処刑されるのだ。
民衆の記憶には蛇族は、すでに滅びさった部族としてきざまれているが、蛇神としての恐ろしさは、彼らの生活のなかにいきつづけていた。
蛇神は水をつかさどる。
河の流れ。降りそそぐ雨。これらはすべて、水神による天与であり厄災である。
ここ一帯は比較的低く平坦な土地なので、雨季による河の増水時は被害がおおきいのだ。
神は絶対のものでありながら、うとまれ、忌み嫌われているものも確実にある。蛇神もそれらのなかに悪しき神としていれられていた。
おのが意思ひとつで人命をも奪う蛇。
おぞましき蛇王が殺されるということで、民は墨にひたしたかのような空であるのもかまわず、あつまってきたのだった。
常ならば、陽が天頂にさしかかるころだ。
だが、曇天では陽がいまどこにあるのか、わからなかった。
いや。ナーガは空が曇っていることさえわからぬのだ。
砕かれた脚は青く腫れあがり、ずきずきと痛んだ。
いま、彼は湿った石の床に寝そべっていた。
完膚無きまでに傷つけられ脚を砕かれた彼は、もはや鎖でつなぐことも無用な状態だったのだ。
否。
虐げられ脚を砕かれ、目を潰されただけならば、彼ははいつくばってでもこの場から逃れようとしたであろう。
おのれの不甲斐なさのために散った何百人もの民の命を、自分ひとりの死で終わらせるわけにはいかなかった。
だが、彼は動かなかった。動けなかったのだ。
もうすぐ刑が執行されるというのに、ナーガは、なにかとてつもなく大きなものを失ってしまったという思いに、とらわれていた。